兎の群れ√ 出会いの果ての未来   作:サイセンサイ

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時を渡る英雄
新ネームド『狼血』


 

 ポタリ、ポタリと落ちるのは涙。それもただの涙ではない、血が滲んで少しだけ色がついた苦しみの涙、それは地面に落ちるか、口が裂けるほど強く締められた口布に吸収されるかの2パターン。

 そこはとある地下室だった。そこそこの広さで人が3桁ほど入るであろう面積と部屋中に施された『防音』加工の黒い壁が最低限設置された明かりに照らされてまるで鏡のようにその者たちを映し出す。

 

 ズタボロの集団が、拘束されて正座させられていた。人数は約30人ほどで全員がこの地下室に運び込まれる前に何らかの暴力を受けたようで、身体中アザだらけ、ところどころ赤黒く染まり、大雑把に坊主頭にされ短くなった髪が身体と共に震えていた。

 喉元から発せられるのは『う〜!』や『ん〜!』の言語ではない唸り声、涙と鼻血でぐちゃぐちゃになった顔からは絶望をこれでもかというほど醸し出していた。 

 このズタボロの集団は下着以外何も着ていない、正確には許されていない、『豚の餌以下』に着せてやる服も恵んでやる慈悲もありはしないのだと、【彼ら】の一人がそう呟いていたらしい。男女・種族・年齢関係なくその扱いだった。端のほうにそこそこ容姿が整った女がいるが今はその美貌も顔の腫れと暴力による血化粧と恐怖による涙と鼻水でまるで意味をなしていない、下着だけの姿に誰も欲情などしていない、集団の男どもはそれどころではない恐怖の真ん中にいて、その現状を現在進行系で作り出している【彼ら】はそもそも魅力に対する認識が別次元なのでそんな風に見る思考回路すら存在しない。

 

 

「よく聞け醜悪の罪人ども〜」

 

【彼ら】の一人であるハーフ・エルフの青年が口を開いた。その目はひたすら冷たく集団を見る目は人が人を見る目ではない、正真正銘『醜い』物を見る目だった。

 

「お前たちはヤッてはいけないことをヤッてしまった。まさか本物の『妊婦』を金で雇って父様に近づけさせるとは、何たる醜悪で汚らわしい所業、言葉にするのも悍ましい犯罪行為だ」

 

 ズタボロの集団はオラリオ外の者たちで目的は『英雄ベル・クラネルに近づいて何らかの成果を持ち帰ること』

 しかし、情報収集が不十分だった。その集団はベルがたくさんの妻を娶っている事実ゆえに『見境の無い好色』と認識を間違えてしまった。実際は一人一人しっかり愛して愛されている関係なのだが、よく知らないものからすればそう見えるのも仕方ないだろう。だから集団はベルに近づく為に金に困っていた妊婦を雇って英雄の子供と偽って近づけさせようとしたのだ。無論、そんな事あるわけがないのだが、もしかしたら何らかの弱みを握れるかもしれないと考え無しにそのような醜悪な所業をやろうとしたのだ。

 

 しかし、それはやる前に阻止された。そしてその所業に関わった全員が現在、痛めつけられてこの音が外に漏れない地下室に拘束されている。

 

金で雇われた妊婦だけは妊婦という理由で見逃されたが、恐らく【彼ら】のつけている危険人物記録帳には名前が残ってしまうだろう

 

「痛いか?苦しいか?怖いか?時折『ここまでする必要ないだろう』という目を向けている者がいるがまだまだ足りないぞ罪人ども」

 

 ハーフ・エルフの言葉に身体をビクリと震わせて、まだ続くであろう地獄を想像しては唸り声を上げて身体を震わせることしかできない現実に打ちのめされる

 

 

【彼ら】の人数は『八人』

 

エルフが一人

 

ハーフ・エルフが二人

 

ヒューマンが四人

 

ハーフ・パルゥムが一人

 

 全員が濁ってすらいない獣の目をしていた。約30人のズタボロの集団はこれからこの【狂信者】達にさらにズタボロにされるのだととっくに理解している。だがここまでの言動から彼らは異常者であり、自分たちはアンタッチャブルに触れてしまったのだと言うことを心の底では理解していない、何故なら、『誰か』に対してここまで怒り狂い冷たくなれる存在を今まで知らなかったから

 

「ひとーつ 人が犬猫に見えるほど父様は『最上』」

 

まるで意味がわからない呪詛のような物をハーフ・エルフの青年が言葉にした

 

「ふたーつ 不動の聖域とは父さんが作り出す『最高』」

 

メガネをかけたヒューマンの青年がそれに続く

 

「「みーつ 醜さを良さに変える父さんは『最強』」」

 

二人の姉妹の声が重なった

 

「よーつ 淀んだ汚水も蜜の味に変えるパパは『至高』」

 

ハーフ・パルゥムの少女が中身が不明の注射器を手に構えた

 

「いつーつ 時に優しく時に厳しく接して続けてくれる父さんは『天上』」

 

背が高くガタイがいいヒューマンの青年が『大剣』の切っ先を集団に向けた

 

「今の言葉は正真正銘の真実で本物の崇高の域にある父さんの一部を言語化したものだ塵芥ども」

 

薄紅髪のヒューマンがナイフをくるくると指で回しながらそういった

 

「貴様ら罪人はその英雄を汚そうとしたのだ。まだ未遂?考えていただけ?ふざけるな思考を回すことすら罪だ」

 

その場の唯一の大人であるエルフが青筋を立てめちゃくちゃな事を言いながらこちらに近づいてきた

 

「これは世界の善を集めて生まれた美醜超越のわが夫を、、そう、我・が・オ・ッ・トの優しさに付け込もうとした当然の報い、因果すら必要としない絶対的な裁きだ」

 

『我が夫』の部分をものすごく強調しながらその事を全く隠すことも恥ずかしがることもせずエルフは魔力を高める

 

そして

 

 

「「「「「死ね」」」」」

 

「「「「「「「「ゔー!(涙)」」」」」」」」

 

その憎たらしい顔の肉と存在するに値しない魂を一欠片も残さず抉りつくし磨り潰そうと全員が動き出した瞬間

 

 

 

 

 

「やりすぎ」

 

ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!

 

「「「「「「「「痛い!?」」」」」」」」

 

ゲキヤバ狂信者に英雄の拳骨が振り落とされた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大雑把に説明しよう

 

ベルが駆けつけた

 

『八人』に拳骨を落とした

 

ズタボロの集団はガネーシャ・ファミリアに引き渡された

 

過剰防衛に厳重注意を受けた

 

そして現在

 

 

 

 

 

 

ベルを入れた九人が色々収拾がついた後、喫茶店の外の席でアフタヌーンティーをしていた

 

周りにいる他の客たちは【英雄】と【その妻】と【子供達】に興味津々で盗み見たり盗み聞きする気満々だったが、残念ながらそれは出来ない

 

彼らは【狼血】

 

 ベルを狂信するゲキヤバグループであるがため、必然的に鋭くなった眼光のひと睨みが【この人との時間に踏み込むな】と言葉にせずとも宣告されたようで即刻、意識を引かせた。ベルは他の客に申し訳ないと心のなかで謝りながら、せめて売り上げに貢献しようと高いメニューを頼んでいった。

 

 

「最近、塩気のある喫茶店のメニューが増えた気がする」

ベルがメニューを見ながらそう答えた

 

「父様の甘い物が苦手という情報は既に世界に広がっていますからね、英雄が御来店してくれる可能性を本の一筋でも上げておきたいのでしょう。そして私はこういう時に実感します。父様の味覚を受け継げて光栄の至りだと」

父親と同じく甘い物が苦手なハーフ・エルフの青年が答えた

 

「正直助かってはいるかな、僕達みたいに甘い物が苦手な人がこうやって普通にアフタヌーンティーに混ざれるんだから」

同じく父親の味覚を受け継いだヒューマンの青年が話に入る

 

「季節の限定フルーツソースレッドスライエレガントキューティーハイジャムユートピアチーズケーキ」

双子の姉が名前の長いチーズケーキを頼んだ

 

「クリームマシマシホワイトチョコレートシルバーフローラアイリッシュサンデーレジェンドショートケーキ」

双子の妹が名前の長いショートケーキを頼んだ

 

 それはなんてことのない親子の光景、とは言い難い正直異様な光景、なんせ一人一人が胸焼けするほどディープすぎてもはや見ているだけでお腹いっぱいなインパクトだった。

 

 

「オルガの店の地下室であんなことしないの!」

 

「はぁ~い☆ごめんなさ〜い♡」

 

父親であるベルの現在お叱りを受けているのは【狼血】の中で年長そしてリーダー格のフルト

 

〘狼血・筆頭〙

 

そして

 

 

 

「アニカ、君は力が強いんだから激情で大剣を振るうのはだめだって言ってるでしょ?」

 

 

「ん、、、ごめんなさい、でも父さんの敵は俺の敵」

 

 それはヒューマンの青年だった。身体が大きく大柄で身長も高く、父親であるベルの身長をとっくに追い抜いているほどなのだが、表情はあまりなく物静かな青年の印象を受ける。今もそこそこ大きいシュークリームを一口でモサモサと食べている。【人形姫】などと呼ばれていた母親の雰囲気に近かった。背中に装備しているのは人を圧死させるほどの重量を持つ大剣であり、それに適した肉体をしていると言ってもよかった。なんせ彼は父親の純粋な強さに憧れた男の子なのだから

 

 

 

 

アニカ・クラネル 16歳 レベル4

 

髪は金髪 瞳は赤 顔立ちは母親似

 

自己主張少なめの肉体派

 

アイズ・クラネルの長男

 

〘狼血・雑務担当〙

力仕事、運搬、人車、ベルグッズの店頭配置、ベルグッズの清拭、死にかけの罪人を麻袋に入れて引きずる、心優しき暴力装置

 

 

 

 

「「あんまりアニカを怒らないであげて〜」」

 

その隣から会話に入り込んできたのは、【双子の姉妹】それもかなり特殊な存在だった。

 

「父さんにほんの少しでも汚れた廃棄物を見せたくなかったの〜」

「父さんの拳を血で汚すくらいなら私たちの拳を血で染めるのが普通だから〜」

 

その双子は【種族】が違っていた。

姉のほうが『ハーフ・エルフ』

妹のほうが『ヒューマン』

顔は同じなのに耳だけが違う異種の双子、二卵性の姉妹だった

 

かつて彼女たちの母親はヒューマンとハーフ・エルフの間にどんな子供が生まれるかの確率を説いたことがあったが、恐るべき確率で異種の双子が生まれるのはさすがに想定外だった。しかし姉妹仲は良好で今も頼んだケーキを半分個にして交換し合っている。

 

「「はぁ~もっと殴っとけばよかった」」

 

ちなみに【父親が好きな反抗期】という固定概念が成立していない未知の存在でもある

 

 

 

 

チェロナ・クラネル(姉)

            17才 レベル4

セロナ・クラネル(妹)

 

髪は白髪 瞳は翡翠 顔立ちは母親似

 

憧れが強いあまり暴力沙汰すら起こす双子の姉妹

 

ニイナ・クラネルの長女と次女

 

〘狼血・書記と庶務担当〙

活動内容と注意事項をメモ用紙に記録、情報整理、ベルグッズの内容検分、ベルグッズの在庫整理、誰が誰をブチのめしたかも記録する

 

 

 

 

「ところで今月の上納金なのですが?」

 

「コントラス!外でその言葉は!?」

 

【上納金】という言葉に周りの者たちがビクリと肩を震わせる。当たり前だ、【上納金】なんて言葉とシステムを使っている組織は碌なのがいないのがほとんどなのだから

 

「上納金じゃなくて【貯金!】なんでいちいち物騒な言葉を使うの!?」

 

 父親のベルが言っているのは家族間共有の貯金のことなのだが、そのメガネをかけた青年はそれを【上納金】と言っている。何でも威厳を出すためだとか

 

「我々は父さんの子供、そして父さんは英雄です。多少怖がられたほうがあぁいうズタボロの輩も減るかと、それと新商品の売り上げがいいので今月の上納金は多めです」

 

「だから上納金じゃなくて貯金でいいんだって〜」

 

そのメガネをかけた青年は品を感じさせるヒューマンだった。コーヒーを飲む姿だけでもその礼節の良さを感じ取れる。母親はハーフ・エルフなのだが、なんてことない確率で生まれたヒューマンの男の子、彼は6年間【学区】に通っていたのであらゆる知識に博識でそれを一家の為に役立ててくれるのだが、時折その優秀な頭脳で怖いことをやらかす。

※情報操作でチュール商会の商売敵を内部崩壊させた前科がある。ちなみにその商売敵は影でベルを馬鹿にしていた。

 

 

 

 

コントラス・クラネル 18歳

 

レベル1※非冒険者

 

髪は白髪 瞳は翡翠 顔立ちは母親似

 

理知的でいざとなったら容赦ない、甘い物が苦手

 

エイナ・クラネルの長男

 

〘狼血・総務担当〙

商会を通じた業務の中心、方針の決定、ベルグッズの商売、危険人物のプロファイリング

 

 

 

 

 

「あ~あ、あの人達で人体実験しまくれば世界の医学が一歩二歩三歩進んだのに〜」

 

「あの人たちもうすでにずいぶんな量の薬を打たれた注射器の跡があったんだけど!?」

 

「そうすればディアンケヒト様からボーナスもらえたのに〜」

 

「聞・き・な・さ・い!」

 

「はぁ~いパパ〜♡」

 

片手でクッキーを食べながらもう片方の手で中身が不明の注射器をくるくると回しているのはハーフ・パルゥムの少女

 

 彼女はディアンケヒト・ファミリア所属の看護師だった。母親譲りの頭脳で自分に冒険者の才能がないのをすぐに理解して、冒険者を支える医療の道こそが自分の頭の良さを活かせると決断してディアンケヒトの眷属となった彼女、しかし彼女もまた父親の狂信者で父親に仇なす者は注射器で薬漬けにすると心に決めている。ちなみに何故関わりのより深いミアハではなくディアンケヒトの方なのかという質問に【安定してる高い給料】と秒で答えてナァーザの心を折ったことがある。守銭奴なのだ

  

 

 

 

アスタネット・クラネル 14歳 レベル1

 

髪は白髪 瞳は栗色 顔立ちは母親似

 

白髪のリリルカ※ハーフなので身長は娘が上

 

リリルカ・クラネルの長女

 

〘狼血・会計担当〙

グループによる資金の管理、出資、ベルのグッズ売り上げの正確な計算、邪魔者排除にかかった経費の確認

 

 

 

 

「例え我々が闇深い所業を侵そうともそれを慈愛の天使よりはるかに神々しい優しさで我々に拳骨という名の神託をくださる父様は相変わらず最高です」

 

「落ち着いて、フリューゲル」

 

「まさに父様!息を吸うだけでこの世に幸福をもたらす幸せの兎様!美醜超越の現人神であります!」

 

「大きな声は他の人に迷惑だよ、フリューゲル」

 

 そしてハイテンションで実父を褒めまくるその青年は金髪のハーフ・エルフだった。ひたすらに父親を狂信するその姿からはエルフの清廉さなど全く感じ取れやしない、母親譲りのパッションを常に発動し続ける彼はまさしく【厄介エルフ】そのものだった。ベルの飲み終わった紅茶のティーカップに執事のごとくおかわりをポットで注いでいる。それはそれは幸せそうな顔で

 

「ではスコーンを食べる父様を30パターンほど描画させていただきます!!」

 

「もう好きにして、、、」

 

そして常日頃から持ち歩いているスケッチブックに物心ついた時から培ってきた描画技術で鏡のような絵を描き殴る(ベル限定)それは毎日起こっている出来事だった。

 

 

 

 

フリューゲル・クラネル レベル3 17才

 

髪は金色 瞳は赤 顔立ちは母親似

 

子供達の中でトップレベルのハイテンション、甘い物が苦手

 

ローリエ・クラネルの長男

 

〘狼血・広報担当〙

ベルグッズの販売、ベルグッズの開発、ベルグッズ顧客へのサービス等、危険人物の情報収集

 

 

 

 

「仕方ないことだ、みんな貴方が好きで好きで仕方ないんだ。斯く言う私もそうだ、君を好きな気持ちは誰にも負けないよ、今でも、そしてこの子たちの暴走を止められない不甲斐なさを償うためにどうぞ好きなように抱いてください」

 

「お外だよローリエ」

 

そしてこの場にいるベル以外の大人の女性がベルの腕に抱きついてその体温を全身全霊で感じ始めた。【狼血】の子達がちょっと睨んでくるがなんのそのだった。取りまとめるはずの大人なのに

 

 

 

ローリエ・クラネル

 

〘狼血・引率〙

 

あらゆる努力と気合と根性でベルのハーレムの一員に滑り込んだ。ある意味尊敬されるべきすごいお方である

 

 

 

引率のローリエ

 

筆頭のフルト 

 

総務のコントラス 広報のフリューゲル

 

書記のチェロナ 庶務のセロナ

 

会計のアスタネット 雑務のアニカ

 

 

ベルを狂信する特にゲキヤバなグループ、それが彼ら狼血である

 

 

 

 

 

 

「そうだ、父さん少しいいですか」

 

「ん?どうしたのコントラス」

 

「実は、商会から少し気になる情報が」

 

「情報?」

 

「はい、とある【天啓物(アーティファクト)】の情報です」

 

 

 

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