「ハイお邪魔します絶賛硬直中の生娘ども〜」
「品のなさが過ぎるぞアホ」
「「「「「「ウォウ!?」」」」」」
眼晶から発信されたベルの『押し倒した』発言により思考を停止させていた女たちが集まっている個室、正確に言えばヘルンやヘイズがいる部屋にその二人は突然やってきた。
一人は薄紅色の髪をして憎たらしい笑みを浮かべている青年、もう一人は白髪でオッドアイで呆れ顔をしている青年
正体はもう分かっている。だがそれでも動揺せずにはいられない、なんせその正体が未来のベルの子供なのだから
「改めて自己紹介、そこにいるヘイズの長男のフルトです☆」
「この前来たときは誤魔化して悪かった。ヘルンの弟ではなく、長男のメロだ」
「オォう、改めるとすごい変な感じですねー」
「、、、、、、、、、」
ヘイズは余裕のある間延びした声をしようとしたが少しうわずっている。ヘルンは何も言えなかった。その様子にフルトとメロは想定内と言わんばかりに2人の前に立った。
「これからの説明に必要なものを持ってきたんでどうぞ〜」
「落ち着いてみてくれ」
「「え?」」
二人から渡されたのは用紙だった。それもそこそこの枚数があり、その一枚一枚にびっしりと何かが書かれている。それはすべて『文字』だった
「これは、、、、カルテ?」
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ベルの衝撃発言がぶちかまされて少し間をおいて話し合いに移った。自分たちを連れてきた天授物、繭のモンスターの情報、そして黒竜討伐の情報、正直この時代にいるみんながが一番知りたかった情報がそれだった。ほかの部屋にいる者たちも真剣にその話を聞いていた。
ヘスティアとリリルカはベルの発言で虚無の目をしながら、ヘグニはヘディンに冷たい目を向けられて未だに号泣しながらだが
ベルの口頭からはベル自身の経験を、子供たちは未来に記載された黒竜討伐の資料を可能な限り用紙に写してそれを配った。
ベルの子供たちが黒竜との戦いに興味を持たないはずもなく、子供たちは取材と称して共に戦った先人たちに聞きまくった。狼血のメンバーは徹底的にまで調べ上げてなんなら本にしているくらいだ。
「なら次は黒竜討伐後の情勢かな」
「そうだな。色々起こったろうし」
下界の悲願である黒竜の討伐は世界にあらゆる影響をもたらしただろう。倒したからといって終わりではない、世界の変化、諸外国の行動、世界金融の流れ、オラリオに君臨するものとしてその後の情勢も知らなければならないのだが
「あぁ~多分それは子供たちの方が詳しく調べてて詳しいかな?」
「「「ん?」」」
「貴様が一番の当事者だろう。貴様の雑な頭でも覚えている事を話せ」
英雄であるベルがその中心にいないはずがないとヘディンが睨見つけるが、ベルは困ったような表情を浮かべた
なんせベルは『眠っていたのだから』
「実は、、、半年くらい昏睡状態で」
「「「「何?」」」」
「「「「「「「!」」」」」」」
ベルの発言に眼晶で見ている皆も各々の反応をした。
「黒竜との戦いの後に半年寝てたってことかい!?」
ヘスティアが椅子から立ち上がりベルに詰め寄る。その目にはひたすらに心配の感情が浮き出ておりリリルカも同じような顔をしている。きっと他の部屋にいる者たちも似たような反応をしてるんだろうな〜とベルは思った。
「ハイ、たくさんの人達に迷惑をかけちゃいました」
「、、、、そうかい、でもまぁ命があるだけいい方だね」
「ハイ」
「きっとその半年間、僕たちは、、、みんなは心配でたまらなかったんだろうね」
「ハイ」
「後遺症はないのかい?」
「ハイ、とっても元気ですよ。皆さんのおかげで」
「そうかい、、、、皆さんのおかげで?」
ベルの発言にヘスティアは首を傾げた
「まさか無茶をして今までにないくらいボコボコのぐちゃぐちゃにされて死にかけてたんですか!ていうかめちゃくちゃ予想できるんですけどそういう未来!」
リリルカがベルがまた無茶をして半年間寝ることになったとすぐに理解した。そして今までにないくらい死にかけた光景がものすごくイメージできてしまうのは、ベルの日頃の行いなのだろう。それにほかの皆もすぐにそのイメージをできてしまう。そりゃそうだ、ボロボロ≒ベルなのはもはやみんなの間ではマストなのだから
すると、子供の一人である『コントラス』が椅子から立ち上がった。眼晶で見ていたエイナは肩を震わせた
「実際はそれどころではありませんよ。」
「ん?」
「こちら、当時の父さんのカルテを書き写したものとなります」
コントラスはいつの間にか用意していた大量の用紙をその場のみんなに配っていく。ちなみにフルトとメロにもそのカルテを持たせてヘイズのところに向かわせたのも彼だ
「はぁ~正直見たくない〜絶対心臓に悪いやつだよ〜」
「でもこの量のカルテを書き写したとは、、すべて貴方たちが?」
シルが子供たちに目を向ける。なにげにこの量のカルテに間違ったところはないのか?と聞くような感じで
「ハイ、父さんのカルテは我々が自費出版する予定の『ベル・クラネル英雄聖書』の一部として載せる予定なので一部の間違いもありません」
「わぁ~♡みたいな〜♡試作品でもいいから私に描いてくれない♡」
「制作費をいただければ」
「ワオ、ベルさんの子供にしてはちゃっかりしてますね〜」
シルは目に見えてテンションが高かった。ベルに似た魂が更に六人分追加されたのだ。シルにとっては極上の奇跡に更に極上が追加されたようなもの。本当は今にもでも彼らの抱きつきたいのをこらえている
「そうは思いませんか、ヘスティア様!」
「、、、、、、、、、、、、」
「ヘスティア様?」
ヘスティアの反応が妙だ。配られたカルテを見て真顔で固まっている。周りを見渡すとカルテを目にしたほかの者たちも硬直している。シルはすぐに自分に配られたカルテに目を向けた。
「まぁ本当に危なかったみたいで、、、僕自身は寝てたからよくわからないんですけど、なんか、、、、、」
頭の骨まで黒焦げで空いた穴から脳みそがちょっと焼け落ちたみたいで
ベルはあははと苦笑いを浮かべるがほかの者たちはそれどころではなかった。
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ヘイズが、ロナが、イルデが、アンドフリームニルが、そのカルテを手にした指をプルプルと震わせている。ヘルンはそこまで詳しい方ではないが、治療に精通した彼女達が顔を青ざめさせているのを見て大方の状況を察した
察した気になっていた
「内側まで焼けて脳みそ以外は全部黒焦げ、そんでその脳みそすら表面部分が少し焼けて剥がれ落ちるように焼け落ちたらしい」
「は?」
未来の息子であるメロが言い放った言葉にヘルンは本当の意味で硬直した。だってそうだろう。それで死なない人間なんぞいないのだから。それで生きてると豪語できるのは現実を知らない無知な者のみなのだから
そうつまり
「、、、、、、いや、いやいやいや生きてるはずないでしょうこれ?」
「生きてる」
「何を、、は?え?なんで?なんでこれで生きてられたの?」
「父さんだからとしか言えん」
「戦場の聖女が見たら阿鼻叫喚ですよ」
「実際そうだったらしいぞ、未来の本人から聞いた」
うわずった声で言葉をつづるヘイズにメロは淡々と応える。隣でフルトが『これが見たかった』と言わんばかりに口元をニヤけさせていた。
眼晶越しでヘスティアとリリルカの騒がしい声が聞こえてきた。青ざめた顔でベルに詰め寄ってワーワーと何かを言っている。
みんながカルテをババッ!とめくり神々たちの主導で『移植』という行為が試されてベルはようやく一名を取り留めたと
そしてヘイズは想像するのだ。黒竜討伐の英雄であるベルがこの状態になったとしてまず先に治癒するのは共に戦地に向かっているであろう自分たち、そしてヘイズはすぐに理解するだろう。これは手遅れだと
そしてその後の半年間を想像する
それを想像もしたくない地獄の期間だったのだろう
「その時のあんたは、泣きながらカルテを書き上げてたらしい」
メロがヘイズに向かってそういった
「だが最後は神々の主導により父さんは助かった」
「、、、、、、、、、」
「つまり、、、人の領域では不可能なことだった」
「、、、、ははっプライドがズタボロになった自分が想像できますね」
ヘイズが何かを誤魔化すように茶化した声を上げるが、ほかの者は心配のまなざしでヘイズを見つめた
「だが、母さんの治癒がなかったら試す前に父さんは終わってた」
「!」
いつの間にかフルトがヘイズの、母の前に立っていた
「間違いなく父さんの命をつないだよ。母さんは」
「、、、、、、、そうですか」
「ちなみに、【それ】だけじゃなかったらしいぜ」
「? それだけじゃない?」
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「つまり、君の身体の骨や筋繊維や内臓はほぼ他人の物だと?」
「そういうことです」
フィンが確認を求めてベルは首を縦に振った。しかしモヤモヤは晴れない、本当に大丈夫なのか?実は無理をしているだけではとカルテを見ながらみんながそう思う。
ベルはこの反応を予想していた。だからこそ決めていたことがあった。椅子から立ち上がり眼晶に顔を近づける。みんながその時行動に息を呑むなか、ベルは言葉を口にした
「どこかで見てるんでしょ、オッタルさん」
「!」
ホームの個室に皆と同じように待機していたオッタルは自分の名前を呼ばれたことに反応を示す
そして
「僕と『1分』だけ手合わせしましょう」
「!!!」
「「「「「「「「な!?」」」」」」」」
全員が驚愕の表情を浮かべた
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ホームに居る全員が中庭に出てきた
そしてその中央に2人の男が向き合う
みんなが様々な感情を胸に抱きながらこれから起こる『1分』に思いを馳せていた
そしてオッタルは大剣を少し調節すると身体をほぐしていたベルに話しかけた
「いくつか聞くぞ」
「はい」
「お前は俺が手合わせを願うことを予想していたのか」
「オッタルさんがこの機会を逃すはずありませんから」
「、、、、何故『1分』だ?やはりその身体には後遺症があるのか?」
「それはありませんよ、ただ『1分』以上だと確実にここらへん一帯が瓦礫の山になっちゃうので、オッタルさんからすれば物足りないかもしれませんけど」
「、、、、、この後に縛りのない手合わせは可能か?」
「可能です、だけど用事がいろいろ済んで後回しになりますが」
「ならばそれで構わん」
そしてオッタルは大剣を構えた
ベルは片手にこの時代のベルから拝借したヘスティア・ナイフを、もう片方の手に『愛用の黒いメリケンサック』を装着した
「メリケンサック!?」
「ベルが!?」
「なんでメリケンサックなんだ?」
「正直似合わねないぞ」
周囲がメリケンサックに反応を示す中、アコーディオが口を開いた
「あれ、元は『ヘスティア・ナイフ』だぞ」
「「「「「「「「は!!?」」」」」」」」
「ちょっとどういうことよ!!?」
皆が反応をする中、一番大きな反応をしたのはヘスティア・ナイフを打ったヘファイストス、意味がわからなかった。本気で打った武器が何を通したらメリケンサックになるのか
「黒竜との戦いで溶けてしまってそれを回収して溶かし直して固め直したのがあのメリケンサックだ」
「意味が分からないわ!なんで数ある選択肢の中からメリケンサックなの!?」
そうこう言っている間に
「行くぞ」
オッタルが急かすように手合わせを始めてしまった
そして
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「すいません、ヘスティア・ナイフだったこれをメリケンサックに作り直してもらうことってできますか?」
「ちょっと何言ってるかわんないんだけど」
それは未来のとある日
ベルが黒竜との戦いで溶けてしまったヘスティア・ナイフをヘファイストスの元に持ってきて意味のわからない事を言ってきた。
「なんで数ある選択肢の中からメリケンサックを選ぶのよ?」
当然の疑問だった。溶けてもなお大事に取っておかれたことは嬉しいがさすがに意味が分からなすぎて説明を求めた
「僕が『唯一』握れる武器だからです」
「?」
ベルには後遺症などありはしない、しかし『唯一』とはどういう意味なのか?
それは
「子供たちに向けられる『唯一の武器』がメリケンサックなんで」
「!」
ベルの子供たちはある程度成長して武器を震えるようになってきた。当然訓練はベルも手伝うのだが、ここで問題が生じた
ベルは子供たちに刃を向けることが出来なかった
本気の訓練をするのなら当然子供たちに反撃をしなければならい、しかし無理だった。訓練として刃を持つことはできる、だが当てることが絶対に無理だった
「あの子達に刃を向ける度に、赤ちゃんだった時の感触を思い出してしまって」
それは過酷が無ければ強くなれないという現実を知っているお人好しのベル故に生じた仕方の無い事例だった
「だからこそ、『妥協』はこれっきりにすると決めました」
「!」
「メリケンサックであの子達に全力で殴って反撃します。それが本気で強くなろうとするあの子たちへのせめてもの礼儀ですから」
だから訓練で一切の妥協はしません
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「1分」
ベルがそう口にした瞬間、手合わせは終わった
両者がピタリと動きを止めた
そして
「グッ!」
ガクッとオッタルが『膝をついた』
「「「「「「「「な!?」」」」」」」」
それを見ていた全員が信じられないものを見る目をした
あのオッタルが膝をついた。戦争遊戯でも圧倒的なフィジカルをしていたあのオッタルがたったの一分の手合わせで膝をついたのだ
一分間の間に行われたのは単純な応酬
ベルのラッシュとオッタルの絶対防御のぶつかり合い
ベルは無傷だった
オッタルは絶対防御をすり抜けた何発かをもらった
だが何より衝撃的だったのはオッタルの『負傷』が驚くほど少ないこと、口元から血は出ているが出血はそれしか確認できない、腕が折れ曲がってもいない、腕が吹き飛ぶのが日常のフォールクヴァング経験者であるオッタルなら四肢を失っても膝をつかないだろう。だがその最小限の負傷で膝をついた
そう、傷があまりなかったのだ
表面上は
オッタルの元に最初に駆けつけたのは意外なことにフィンだった
フィンはその優れた目と経験でオッタルの身に何が起こったのか察したが、どうしても確認しておきたく近づいたのだ。
「オッタル!、、、、、、、、やはりか」
「どういうことじゃ?」
ほかの実力者達も近づいてきた
「おい何が起きた!」
「お前が膝をつくほどの何かは何だ!?」
「どういうからくりだ!」
「それすらわからない次元だというのか!」
「なんでその程度で膝をついた!答えろ!」
ガリバー兄弟やアレンが詰め寄るなか
「耳が聞こえていないのか?」
「「「「!?」」」」
ヘディンがオッタルの身に起きたことを理解した
「頭に当たった打撃が鼓膜を破いた、それも両耳とも、、、狙ってやったな」
「はい」
オッタルに何が起きたのか
それは『すり抜けた一発一発が意味を待つ攻撃』だったからだ
頭への打撃は鼓膜に衝撃が届いて破れるように当て方を調節した
胸への打撃は心臓に衝撃が響くように調節して全身を少しずつ麻痺させた
膝への打撃はそのままミリ単位で同じ場所を狙い膝の皿を割った
腕への打撃は指の関節部分に狙いを絞り十本あるうちの七本の指を打撃で砕いた
顎への打撃はその一発一発が脳を揺らす当て方をして平衡感覚を奪って最終的にオッタルに膝をつかせた
必要最低限の攻撃で最大の成果を上げる
驚くほど正確で精密で熟練された技だった
その事実に皆が衝撃を受ける中、ベルが口を開いた
「父親になって子供の繊細さを知って精密を心がけるようになりました。子供たちの訓練をするなかで僕も正確さを身につけました。そして熟した技は今も磨き続けています」
子供たちがベルという圧倒的な相手と手合わせをして強さを得るように、ベルもまた子供たちから強さ以外の得るものを得ていたのだ
「今なら胸を張って言えます。人との相手、対人戦なら今の僕は『英雄以上』です」