「ふぅ、、、、やっぱり暗いな、、、」
そこはバベルの頂上、人が作り出した建造物のなかでも間違いなく最上に高いと言えるその場所で、この時代の人間ではない存在、未来の英雄ベル・クラネルが街並みを見つめていた。
「『暗い』っていうのはどういうことか聞いてもいいかい」
そこにベル以外の声が響いた。幼い声質ながらも落ち着いた大人のトーンをしているその声は勇者と呼ばれるパルゥムの英傑フィン・ディムナのもので、その手には『酒瓶』が握られていた。
「未来の街並みは灯りが十倍くらい多くなって人の行き来も多くなっているんです。」
ベルはフィンに背中を向けたまま言葉をかけた。フィンは気配を消して近づいていたのだが、あっさりと見抜かれてしまい少しだけフィンの口元が揺れた。元々視線に敏感なのもあるが、何よりも『経験』がその察知力に拍車をかけていた。
「ハハッ今の君にとって僕の隠密技術は遊びの範疇みたいだね」
「そんなことは」
「僕『以外』の存在にも気づいているんだろう?」
その言葉を皮切りに頂上の端でひっそり隠れていた大人たちがフィンに向かって批難の殺気を放つ、ロキ・ファミリアと仲の悪いフレイヤ・ファミリアの者たちがいろいろな理由からずっとベルをつけていたのだ。
「酒は飲めるかい?」
「せっかくなのでいただきます」
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「バベルから降りてよかったのかい?」
「あそこで酒盛りは寒すぎますから」
「まぁそうじゃのう」
「気を使わせてしまったな」
竈火の館の中庭にテーブルが置かれて未来のベルと三首領が席に着き、残りは少し離れた位置から会話を聞いている状況。彼らの知るベルなら縮こまって緊張を顔に出す場面だが、未来のベルはひたすらと堂々としておりそんな気配は全くない。
だからこそ胸に引っかかりを覚える感覚を多くが感じていた
「なんというか、、、、ホームでの会話の時からすでに分かってたけど、君は大人になってしまったんだね」
そしてその疑問をフィンは直接口にした。一人一人違う思いがあるだろうが、皆が普遍的に感じているのは言うなれば『寂しさ』
子供が大人になってしまったそこはかとない喪失感、否定する者のほうが多いだろうが、彼らにとっては14歳のベルのイメージが強すぎるため、何かを感じてしまうのはある意味必定の事実
「確かに僕は年齢的にはとっくに大人ですし、前の僕から随分変わったなと自分でも思います」
「、、、そうかい」
話をしながらグラスで酒を呑む姿は品を感じさせて何処か『作った感』のある仕草、それなりの場所で経験したゆえの所作なのだろう。
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「黒竜という人類共通の敵がいなくなって、世界中の国々は『技術』の『先進』に力を入れています」
「まぁそうだろうね」
「『力』を求めるよりも『未知』を求める時代と神様たちは言ってました。娯楽好きの神様たちは元々『未知』を求めて下界に降りてきたので、積極的に文化の水準を上げる手伝いをしてくれています、、、、そのついでのように国同士の抗争を起こしてしまってますが」
「はぁ、黒竜が討伐されたと思えば今度は人間同士か、、、、」
「でも未来では毎日のように『未知の技術』が生まれていて、正直僕も楽しんでるんです。アスフィさんが技術を公表してくれたおかげで世界中の文明が一歩進んだって」
「ほぅヘルメス・ファミリアがそんな事をしたのか?」
「僕が頼みました」
「「なに?」」
「子供達に出来る限りの選択肢を示しておきたかったので」
「それで万能者は了承したのかい?」
「はい、、、、、ちょっと子供達が何かしてたみたいですが」
「そ、そうか、、、」
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「、、、、子を持つってのはどういう感覚なんだい?」
「フィン」
「ほぅ」
フィンの思いがけない質問にリヴェリアとガレスはそれぞれの反応を示す。フィンはパルゥムの希望となるためにこれまで命を懸けた努力も魂を賭けた選択もしてきたことを2人はよく知っている。そして未来のためにパルゥムの子供を欲しがっていることも
「眼晶でティオネも話を聞いていたからね、君もそれを察してこういう話題を振らなかったんだろう?」
「はい」
「それで、どういう感覚なんだい?」
「正直この感覚を言葉にするのは難しいですね、良いも悪いもあって、嬉しさも不安もあって、僕の語彙力では『すごく楽しい』とか『すごく大変』とかしか言えません」
ベルは少し気まずそうにフィンに向かって言葉を綴った
「それじゃ別の質問を、、、、未来の僕はどうなってる?」
「「「!」」」
ストレートな質問にリヴェリアもガレスもそれを聞くフレイヤ・ファミリア達も耳を傾ける。ベルの子供達の年齢を鑑みてもそれなりの年月が経っていて、フィンは老兵に片足を踏み入れてる可能性もあり、長年の夢が果たせていない可能性もあると思っている。
そしてその質問にベルは割とすぐに応えた
「パルゥムの弟子をたくさん取っています。未来のロキ・ファミリアは人数の規模が三倍に膨れ上がってその多くがフィンさんに憧れて入ったパルゥムさん達です」
「!」
その言葉に少なからず衝撃を受けた。確かにパルゥムの英傑であるフィンのファミリアにパルゥムが入団するのは自然ともいえるが、過去に問題が起きてファミリアへの入団は慎重になったのが今のロキ・ファミリアのシステム。つまりそのシステムをもとに戻したと言うこと
「未来のフィンさんは言ってましたよ『僕が守り導く』って」
「、、、、、そうか」
おそらく黒竜との戦いを終えた自分は今の自分よりも自らを高く見積もることのできる自分なのだろう。黒竜との戦いに生き残ったのならランクアップしているのは確定とも言ってもいい
だがそれでも気になることがあった、それはある意味フィンが前々から決めていた野望のための絶対条件
「僕にパルゥムの子供はいるかい?」
「「っ!」」
聞いてしまった。長年の連れである2人はおろか、聞き耳を立てていたフレイヤ・ファミリアも固唾を飲んでベルの返答を待つ
そして
「フィンさんにはアマゾネスの娘さんしかいません」
未来のベルはバッサリとフィンの願望を叩き切った。そう言われたフィンは『そうか』と残念そうな、それでいて肩の荷が降りたような顔をしていた。
たがこれには続きがあった
「そしてそれは僕のせいかもしれません」
「何?」
ベルの予想外の言葉にフィンは目を見開いてベルの次の言葉を待つ。どういう意味なのかさすがに分からないからだ
「僕の二番煎じになってしまうと言ってました」
ベルは気まずそうにフィンに話した
「、、、、あぁ、そう言うことか」
二番煎じの意味はすぐに理解できた。あんな強烈を絵に書いたような子供達がオラリオに生まれてしまったのなら例えハーレムを作ったとしてもベルの二番煎じと言われるのは確かに目に見えている。
たが
「だけどそれじゃ僕が諦めるには少し弱いな」
フィンはその答えだけでは納得出来なかった。例えそうだとしても一族の再興の為に全てを捧げる気でいるフィンがそれだけで諦めるとは確かに思えない、そんな事で諦めてしまうならとっくに野望など見てはいない
「他にも、何かあったんだね」
「、、、、、、はい」
「さっき『僕のせいかもしれません』と言ってたけど何があったんだい」
「、、、、、、、その、、、、」
「何かあったんだろう、僕が妥協した理由が」
ベルがめちゃくちゃ気まずそうな顔をして顔をしたに向ける。いったい何があったのか、フィンも真剣な顔はしていても心臓をドキドキさせながらベルの言葉を待った
「訓練された作り笑顔で『会いたかったよお父さん』と嘘を言ってくる子供が毎年恒例100人くらい現れる僕を見たからだと思います」
「「「「「「「ーーーーーーーーっ!!」」」」」」」
ベルの言葉を聞いた全員が口元に掌を当てた。吐き気を催した時に起こす無意識のアクション、仕方なかった、想像してしまった、だってそんなの絶対精神にくるやつだから、気が狂うやつだから
ハーレムを作ったことから好色であることに疑いはないが、不貞はしない、そんな事実を信じてくれる人たちはどれくらいいるのだろうか?
残念なことに『ワンチャンあんじゃね?』と思いついて訓練された子供を送り込んでくる汚い大人がたくさんいる事実が確定されている以上、何らかの偏見を持ってしまうのが人類なのだと証明されているのは確定
フィンは純粋に罪悪感を抱いた。自分は何てことを口にさせてしまったたのだろうと
だがフィンが謝ろうとしたその瞬間
「そして僕の場合問題が二重に起こるんです」
「え?」
ベルの言葉がそれを遮った
「その後100%の確率で子供達による殺人未遂が起こるから」
「「「「「「うぅ!」」」」」」
その光景も簡単に想像できた。自分でもびっくりするくらい鮮明に想像できた。例え最近会ったばかりの者たちでもわかる。彼らがニセの子供に何もしないわけがない
そうだって彼らは、、、、、、、
「いかん!!父様が鬱の顔をしている!」
「抱きしめて癒せ!!」
「楽器を奏でろ!!元気の出る曲!!」
「元気出せ父さーーーーーーん!!」
「あんな奴らの心配までするとか流石父さんだけど!」
「お人好しすぎるよ!!」
「だから私たちも気を使って手加減してるのにそれでも心配しちゃうんだから!!」
「絶対外れない目隠しをつけて!」
「絶対音が入らない耳栓をつけて!」
「爪をバリバリしたくらいで怒る父さんはホントにお人好し!!」
こういう子たちなのだから
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隠れてこっそり話を聞いていた子供達は死んだ魚の目をしたベルをぐるりと囲んでとにかく励まし続けた。
「アレはダメだな、しばらくはもとに戻らない」
アコーディオ
「父親とはいえベル・クラネルに辛辣なのは母親譲りだな」
「ベル・クラネルはどんな時代でも世界でも弄ばれる運命なのか、、、」
「本当に無礼じゃが、なんと憐れな」
ベル・クラネルは確かに大人になったがこういうところは健在らしい、こんなにツワモノ感のある存在になっているのに一番変わっていたほうがいい部分が変わっていないとはなんとも皮肉な話である。
「ほら!勇士の皆さんもお父さんを励ましてーー!」
モニカ
「お父さんを胴上げしよう一緒に」
アニカ
「「「「「「「えぇ」」」」」」」
するとこちらを向いてカモンと腕を振ってきた子供達、しかもよりにもよって険悪なロキ・ファミリアで有りながら今のベルの中心にいる女のアイズの子供達からの誘いに苦い顔をする。
勇士たちは何でよりにもよってこの二人から誘われるんだよという顔をしている
「絶対喜ぶからーーーーー!!」
モニカ
「癒そう一緒に」
アニカ
勇士たちは動かない、呆れやら恥ずかしいやらで参加する気など全くない、ヘグニも人見知りを発動して自分だけ前に出るのが嫌で動かない
すると
「フレイヤ・ファミリアってお父さんにとってナニ?」
ピアノ
「「「「「「え?」」」」」」
表情の読めないピアノが唐突にベルに質問した。全員が一瞬呆けた後、反射的にベルのほうに首を向ける。なんか知んないけどちょっとだけ食い気味に
そして子供達に胴上げされていたベルは降ろされて死んだ魚の目のままではあるが『あぁ~』と喉を鳴らしたあとに
その言葉は発せられた
「たからもの」
「「「「「「「「「「「ぶっ!!」」」」」」」」」」」
「おぉ」
「なるほど」
「はははっ!」
ベルの予想外の発言に勇士たちは男女関わらず吹き出し、三首領はそのストレートな言葉に感心した
「え?この時代だと勇士さん達は知らなかったの?」
モニカ
「お父さんわかりやすいのに?」
アニカ
「おそらく父様は羞恥心から言わなかったのでしょう」
フリューゲル
「あぁ~なるほど」
アスタネット
「もしくはそこまで父さんのことを知らなかったか」
メロ
「てか『たからもの』でもない限り敵だったあんたらとはそこまで深く関わらないだろ」
アコーディオ
今だ落ち込んで負のオーラにトリップしているベルを後目に子供達は好き勝手言っていく、やがてソレは加速していった
「勇士たちよ、父さんは愛する努力を惜しまない想像を超える素晴らしい父さんだぜ♡」
フルト
「親が存命な妻達一人一人に律儀に挨拶に行ったり」
チェロナ
「一人一人違ったラブレターを送ったり」
セロナ
「円満な夫婦生活を送るための知識を収集したり」
シュバル
「毎日誰かしら相手したり」
アスタネット
「おじいちゃんから勧められた実践的なハウツー官能小説に付箋を貼ったり赤いマーカーを引いたりして帝王(カイザー)を少しだけフリーズさせたり」
ピアノ
「お母さんの方から頭を下げて望んだのに身体全部歯型まみれにしたことにやってしまったと落ち込んだり」
アニカ
「アレはお父さん悪くないよ、お母さんがエッチなのが悪い、手首から足首までびっしりとぜn」
モニカ
ゴチン!!!!!!
「あだっ!?」
モニカ
「いらないこと言わないの!!!!」
ベル
「「「あっ復活した」」」
「いえいえ父様!我々は父様の素晴らしさをまだ知らない皆々様に説いているだけでして!」
フリューゲル
「リヴェリアさん石化しちゃってるから!」
「あっ」
フリューゲル
「エルフの血を引いてるならある程度気を使って!」
「いえ私の王族は父様だけです(キリッ!)」
フリューゲル
思わぬ形で義理の娘同然のアレなことを知ってしまい見事に石化したリヴェリアを蘇生させようとまたワチャワチャする子供達
夜が明ければ『決戦』なのに知ったことかと振る舞う彼らはやはり大物なのであろう
余談だが勇士たちは過去のベルとしばらく気まずい空気をまとうことになるのだがソレは別のお話