その名はエイナ・チュール
彼女の名を知らないギルド職員はいない、圧倒的な対応力、処理能力の高さ、紙面の全てを記憶する知能、大人の理想像、たった一人で仕事を回すことさえできる救世主のような御方、いざとなればギルド長すら一喝する胆力、まだ英雄の片鱗がなかった頃から既に若い燕でしかなかった彼をちゃっかり頂いた強かさ、好きになった男のためならギルドの情報すら横流す尽くす系の極み、気に入られるために妹と共に一線を越えた狂信ぶり
それがギルド職員の間で語り継がれるエイナ・チュールという伝説の受付嬢だった。
何よりもあの『ベル・クラネル』を担当し、英雄を誕生させた立役者の一人としてその影響は凄まじかった。
挙句の果てには『英雄の妻』になるという玉の輿を超えた英雄の輿に乗った彼女は世の女性が羨む存在として嫉妬と畏怖を向けられながらも確かに存在しているのだ。
彼女は『英雄の女』になる際ギルド職員を辞めた
実質的に寿退職とも取れるものだったが一番の理由は『妻として身内としてどうしても冒険者の彼を贔屓してしまうのでフェアであるために受付嬢を辞める』という事だった。実に彼女らしい生真面目な理由だと彼女の親友は思った。
前々から贔屓してなかったか?という質問はガン無視した
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「渡してくれた予算がかなり余ったから返金しとく」
「あれは開発のための資金だから別にいいよ」
「そうか」
「あと近いうちに別の商会から接触があると思うから他の子たちにも伝えといて」
「あぁ」
「本当にいいの?『カイオス砂漠への遠出』なんて?」
「正直気は進まねぇよ。熱いの嫌いだし、だが俺の作ったもんが『商品』である以上、環境の変化でどうなるのか調べねぇと俺が気持ち悪い」
「ありがとね」
「シャルザードの王は聴いた限りまともそうだが、あの人の言うことだからな、そもそも性別隠して王をやれている時点でだいぶ普通じゃない可能性の方が高い」
「アハハ」
そこはヘスティア・ファミリアホームのエイナの仕事部屋
そして『チュール商会』の社長室だった
エイナは受付嬢を辞めたあとに始めたのは『商会』だった。エイナのこれまでの人生経験と数多の修羅場(ベル関係)で意図せず広がったコネクションは大いに役に立ち、更には『英雄の妻』の一人ということなので面会したい顔を合わせたいと思う者たちは星の数ほどいるので商売が軌道に乗るのも早かった。
元々学区でも飛び抜けた成績を持っていた彼女はその優れた頭脳で色々な分野に手を出しており特に冒険者関連の商品が多かった『自分たちの商品で冒険者を助けたい』という思いが透けて見えるほどに充実しており、エイナはどこまでも人の事を考えてしまうらしい。
今部屋にいるのは2人、社長であるエイナ本人と、『ベルの子供の一人』
彼は冒険者であり職人でもあった。アスフィやフェルズの教えを受けており、今回のシャルザードとの取引も彼が開発した魔導具が中心だった。
ちなみにシャルザードの王が女なのは本来国家レベルの機密のはずだが、『女神兼母』がいたずらっ子の笑みでペラペラと喋ってくれた。
「国家機密を娯楽同然に話しやがって、暗殺者が差し向けられるレベルだろこんな秘密」
「うん、私も硬直したよ」
「だからこその武闘派なアイツラも同行させる」
「、、、、、、、、うん、そうだね」
そしてその場の空気が変わった。エイナが深呼吸をして心を整える。そして引き出しに入ってある『胃薬』を机の上に出して祈るように両手を握りしめ覚悟を決めた顔でキッ!と前を向いた
「それで!!今月くらいはあの子たちもおとなしく」
「するわけないだろ好きに暴れてる」
「でしょうね!!わかってたよもうぅ!!!!」
両手と頭で机をバーーーンしてうずくまるエイナ
それは『問題児たちの報告会』
ベルの子供たちの中で特にヤッバヤバな行動をしている者たちの胃が痛くなる所業を報告する時間だった。
同じ家族であるので商会の社長であるエイナはどうしても把握して置かなければならず、人知れず苦労していた。
「じゃあ報告すんぞ、先ずは『アホ兄貴』からだ」
最初は『ヘイズの長男』
冒険者の前衛の才能に恵まれ父親と同じナイフと短剣を使うスタイルで頼りになるお兄さんな冒険者と言えるのだが、『怒ると』母親と同じようにめっちゃ怖い、しかし普段は弟妹の面倒見がいい真面目なところも受け継いでいるので幼い子たちからは好かれている。
「あの子かぁ~、うん、アホはそろそろ辞めてあげても」
「あの野郎何年も何年も同じ腹から産まれたわけでもないのに一日違いで産まれただけの俺を同じ腹から産まれた弟妹と同じにしやがって」
「まぁ、うん」
「お互い思春期の年齢なのに『俺たちは同じ夜に可愛がられた奴で宿ったんだぜきっと』なんてはっきり言いやがって団長と自分の母と俺の母が三人でしたことを想像させて何が楽しいんだか」
「、、、、、、、、、、、」
「あぁアンタも妹と」
「それ以上は行けない!!!」
「わりぃ」
「それで何やらかしたの!!?」
「あいつの母と撲殺合戦」
「なんて!!?」
「実の母とやり合ったんだよ。何か知らんけどアホ兄貴が母の劣等感を煽る事を言ってそのまま撲殺と撲殺の応酬になった。そんで周りに被害が出た。被害は主に器物損壊だから人は傷ついちゃいねぇ。まぁ片目がプラりとまろび出てたから見たパンピーが精神的苦痛を受けたかもしれねぇが」
「エインヘリアルの血筋ぃ!」
「次はあいつだ。ていうかあいつの『メイドたち』も含めてだが」
「あの子かぁ〜、なんでベルくんの似て欲しくないところがガッツリ受け継がれたんだろう、リューさんの胃が心配だよぉ」
次は『リューの長男』
ベルの人たらしなところを受け継いだばかりかハーレムの主の才能を持って生まれたハーフ・エルフ、本人的には困っている女の子を放っておけなかっただけなのだが、救われた側が落ちてしまえばもう止まらない。
彼が助けた女の子のうち2人、【忠誠を誓う系金髪隠れ巨乳ヒューマン】と【一緒にご飯を食べよう僕っ娘美乳アマゾネス】は身寄りがないのでホームのメイドとして引き取られた。ちなみに言ってはなんだがここにはハーレムの主であるベルとその妻たちがいるので2人は【効率よく気持ちのいい夜伽のやり方】を周囲に聞きまくっていた。数人の目が死んだ
彼自体は問題を起こさないのだがとにかく【巻き込まれて体質】なのだ、事件に首を突っ込むのではなく向こうから世界の強制力のようにやってくるのだ。
「この前の事件で今度は【ラキア貴族清楚系のハーフ・エルフ】がほぼ間違いなくあいつに惚れてたな」
「また増えたぁぁぁぁぁぁ!」
「身の丈に合わない戦争を仕掛けるラキアがバカなんだよ。大使として寄こしたはいいがスパイ丸出しでなんやかんやあってあいつに解放されてここのメイド就職希望だとよ」
「そのなんやかんやはなに!?」
「わかりやすく言えばヘディンやヘグニのような境遇で国に都合よく使われてたんだが、あいつが解き放ってくれたらしい、、、母親も含めてな」
「ねぇ!もしかして内密でラキアに乗り込んだりしてないよね!!?」
「安心しろ、ちょっと戸籍とクズと城に火をつけて来ただけだ」
「実害!!!ていうかもしかして君も言ったの!!?止めてよ!!?」
「ラキア特産の素材がないか観光を、、、いやそれよりも更にヤバいことに」
「これ以上何があるの!!?」
「さっき説明したハーフ・エルフの女の母親もここのメイドに就職希望らしい」
「え?、、、、、まぁ慣れない土地で娘を近くに置いときたいのは仕方ないことじゃ?」
「何かその母親のエルフもあいつを見る目が怪しかった」
「ハァイ!!?」
「夫とは家が勝手に決めた結婚で愛はなかったらしい、娘にも関心がなく金で若い女と遊ぶクズだったようでな、ちなみにさっき言った火をつけたクズがそいつ、しかし、娘が産まれてから初恋を経験するとはなんとも奇天烈な人生送ってんなぁ、しかも純潔ではない拗らせエルフだからぶっちゃけ俺にもどうなるか想像がつかん」
「待って!ほんとに待って!」
「団長ですらなし得なかった偉業をあいつは達成するかもしれない」
「考えたくない!考えたくない!」
その後も色々我の強い子供達のやらかしを説明されてエイナは胃をキリキリと痛めた。子供たちはみんな優しい心を持ってはいるんだけどね、でもね、みんなもれなくボマーなの☆
そして
「最後になるがこいつが一番厄介だな」
「あぁあの子かぁ〜もう限界なんだけど」
「ここまで頑張れんのもアンタだからだ他のやつだったらとっくにおかしくなってる」
「優しい〜〜(泣)」
「さすが伝説の受付嬢だな」
「それはやめてよぉ!!!!」
エイナ的に伝説の受付嬢などという肩書は恥ずかしいもので厨二を気にする心理に近く、言われる度に羞恥心で死にたくなるものだった。おまけに【強か女の鏡】【仕事だけでなく淫もできる女】【年下暴食完遂者】などの異名もある
「あのアイシャ母の【長女】の方がやべぇよ」
アイシャが生んだ女の子
アマゾネスらしい豪胆で精力的で堂々とした姉御肌で彼女に憧れを抱く弟妹は多い。ただし堂々としすぎであり、父親や男連中の前を風呂上がりという理由で裸で通ることもある。そして父親のベルにデコピンを食らうという軽くでもベルが叩いて注意するレベルの問題児。自律性も高く13歳の頃には既に家を出て一人暮らしをしていた自由人でもある。
母親似の生粋のアマゾネス体質
これだけで既に何がどうなるのか想像できるだろうがこの娘はその更に上をいく
「あの色欲姉は男より女にモテる」
「ああああああ!この前なんて取引先の娘さんに手を出してぇぇぇぇ!!!」
「女同士だから純潔の心配はないがあいつは節操が無さすぎる」
とんでもないことに【ベルのハーレムの才能】まで受け継いでいた
本人的には男女のこだわりなどないのだがとにかく同性にモテた、そして食べた、何の節操もなく色欲に忠実に行動していた。アイシャのアマゾネス体質とベルのハーレムの才能が奇跡的なミックスを起こして百合ハーレムが築かれていた。
「あの色ボケ姉がこの前なんて二桁の女集めてやったなんて堂々と自慢してきやがって、こっちは思春期だっつってんのに」
「ダメだ私には無理だあの娘が理解できない家族なのに」
「あ、ちなみにシャルザードにはあいつも連れて行く、母の出身のカイオス砂漠を観てみたいらしいしな」
「そう、、、、、理解できるところもあるんだけどなぁ」
そしてエイナ目の前の【オッドアイの子供】に目を向ける
片目は闇のように黒く
片目は愛しいあの人の赤色
彼は【ヘルンの長男】だった
そして『一万年に一人の【呪詛】の天才』とも言われている
その才能は【子供の時にヘグニが使うカース・ウェポンのヴィクティム・アビス、その《コピー》を作り出したほどだった】これにはアスフィもフェルズも度肝を剥かれた。
今回のシャルザードへ紹介する商品も【呪詛】の研究をしていたら出来たものだった。
普段は『口が悪くても真面目ないい子』なのだが、時折問題児達と同等、もしくはそれ以上の問題を起こすことがある。
例としては
商会にイチャモンを付けた商売敵を呪詛で洗脳したり
妻子のいるクレーマーを呪詛で理性を無くして強制的に不倫させたり
家族をスパイしようとしたファミリアに【生きたまま皮膚が溶ける】呪詛をかけたり
弟の誕生会をラキアの戦争で邪魔された腹いせに兵士全員に子供を作れなくなる呪詛をかけたり
それでその呪詛の解除を条件に国家予算レベルの迷惑料を請求したり
うん、人類史に残るテロを一人で実行できる彼が優しさを持ってて本当に良かった
ていうか父親がベルで本当に良かったと、彼を知るものはよく言っている
「最後にこれは俺の見間違いの可能性があるんだが」
「え、何、これ以上の問題はさすがに脳の処理が」
「アラム王が女だと聴いた瞬間、色欲姉が舌なめずりをしていたような気が」
「やめてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!国際問題どころかそのままシャルザードと大戦争になっちゃうじゃん!!!」
そして伝説の受付嬢は受付嬢を止めようとも人知れず伝説を作り続けている
頑張れエイナ・チュール!!
いや!頑張れエイナ・クラネル!!!