旧作:色彩のせいで、死にたいのに死ねなくなりました 作:蒼雲しろ
本作を開いていただきありがとうございます。
現在、本作は設定の再構築およびクオリティアップのため、リメイク版を公開しております。
物語の流れや設定をより考えた内容にしておりますので、これからお読みになる方は、ぜひ以下のリメイク版からお楽しみください。
リメイク:銃を持つ少女たちと死に損ないのブルーアーカイブ
https://syosetu.org/novel/406745/
目の前に広がったのは灰色の空と地面。
そして地面に広がる赤々とした水たまり。
生暖かい赤が顔に張り付いて離れない。
体が重い。
ついでに、頭がやけに痛む。
何度か動かそうとしている腕は動かない。
顔を顰める。
かろうじて目を開けることができた。
視界ははっきりしない。
何かと不便な身体に嫌気がさす。
落ち着いた視界。
嫌悪感から、血を手で払おうとする。
動かない手。
足でもいいから動かしてみようとする。
やけに軽く動く。
足を起点に立ち上がろうとする。
動くだけで、力は入らない。
むしろ、何かが抜けていく感覚。
次第に冷たく、黒く濁っていく。
液体は、自分がいる下の方にも跡を残す。
鳴り響いていた車のクラクション。
それが、今になって脳を揺らす。
頭が、痛い。
朦朧としていた意識が途切れた。
足掻くことすらできないまま、呼吸活動は緩やかに終わりへと向かっていく。
そして、ついに命は終わりを迎えた。
――――――
目を覚ました。
短時間で2回も目を覚ましたのだ。
寝たり起きたりせわしないな。
先ほど感じた痛みは、大方和らいだ。
しいて言えば、地面の石が突き刺さって背中が痛い。
1度身体を起こし腕を動かしてみれば、問題なく動いた。
身体を見ても、特に異常はない。
辺りを見渡してみると、左右はコンクリートの壁で囲われている。
前後は道が続いていることから、どこかの建物の隙間――路地裏だと思う。
地面は灰色のアスファルト。
しかし、赤に濡れていない。
空は透き通るような青。
ここで一息ついた。
どうやら、先ほどまでのことは夢みたいだ。
やけにリアルな夢だったが、こんなところで寝ていれば悪夢くらい見てもおかしくない。
夢といったが、こんなところで寝た記憶が微塵もない。
学校の帰宅途中に路地裏で寝ることなんかあるのか?
そもそも、ここがどこの路地裏なのかすらわからない。
下校中にこんなとこ見た覚えもないし、路地裏なんか基本通らないのだ。
現状把握を進めることを第一目標。
ついでに喉が渇いたから水も買いたい。
そばにあった登校バッグを肩にかけ、路地裏へ差し込む光に向かって歩き始める。
「ぎゃはは!まじかよ!」
「そんでよお!」
背後から聞こえてきた声に足が止まった。
人だ。
ここが路地裏でなければ、話しかけにいっていた。
しかし、こんな場所にいながら、あんな話し方をする人など大抵ろくな人ではない気がする。
妥当な偏見だろう。
とりあえず様子をうかがうことにした。
やばい人だったら全力で逃げる。
差し込む光に背を向け、速足で後ずさる。
音を出さないように気を付けながら下がっていく。
すると、二人組の影が曲がり角から見えた。
赤いヘルメットをかぶっていた。こんな場所でヘルメットをかぶっていること自体おかしなことだが、それよりも気になる点がある。
手に持っているのは……
「銃?」
カラン
足元にあった空き缶が転がった。
全身から汗が噴き出る。
頭が真っ白になる。
手と足から力が抜け、今にも尻をつきそうになるのをかろうじて耐える。
本能的に、危険を感じた。
いくらなんでも、銃は想定外だ。
ヘルメットの二人組がこちらを向いた。先ほどまで楽しそうに話していた二人は会話をやめ、黙ったこちらを見ている。
逃げなきゃいけないことは理解している。しかし、どうにも足が動かない。
そうこうしているうちに、二人は俺の目の前までやってきていた。
身長こそ俺より低いが、それがなんだといった具合だ。
手にもつ黒の凶器はこの国では見ることのないものだ。
とはいえ、それはモデル銃や、ソフトエアガンの可能性が高いだろう。
いくら路地裏でも銃を持ってうろつくような輩がいるような国ではない。
気持ちを落ち着かせ、冷静に対応する。
最悪、持ち物くらいなら差し出そう。
「どうか、しましたか?」
声を絞りだした。相手の反応はヘルメットのせいで表情が読めず、わからない。
「お前、どこのやつだ?」
「どこのやつ、というのは……」
要領を得ない質問に戸惑う。
しかし、質問したことが間違いだったようで、俺の質問が気に障ったのか、雰囲気は一段とかたくなった気がした。
「はぁ?どこの所属だよってことに決まってんだろ?」
「この辺じゃ見ねぇと思ったが、こんなこともわからねぇとはな」
どこの所属?
意味がわからない。
いや……そうか。
スカート。
ヘルメット。
そして銃。
いわゆるスケバンか?
この二人は俺のこともヤンキーだと思っているのか。
一旦、機嫌を損ねないよ鵜にしなければいけない。
「
俺の回答を聞いた二人は顔を見合わせて首を傾げた。
知らない……?
このあたりじゃまあ有名な進学校なはずなんだけど。
――この辺じゃ見ないって言ってたか。
俺の制服見れば学校くらいわかるはずだよな。
前提として、この人たちはこのあたりにいるといっていたが、俺もこの二人の制服に心当たりがない。
知らない路地裏。
知らない制服の生徒。
下校中。
――変な夢。
灰色と赤の世界に鳴り響き続ける、クラクション。
車、事故?
死んだ?
「あ?」
何かがパズルのようにはまっていく。
気づかなくていいことに気づいた気がする。
もしくは、はじめから気付いていたのかもしれないと思うほどにすんなりと出てきた答えだった。
夢じゃない。
俺は一度、死んだ。
視界の半分が地面に覆われ、温かいのか寒いのかよくわからない感覚に襲われたあの時。
動かそうにも言うことを聞いてくれない体から溢れる、ドロリとした液体。
その事実が、急激に襲い掛かってくる。
画面越しのように感じられた映像は、一気に現実味を帯び。
駆け巡る嫌悪。
腹の底から不快感がせり上がってくるのを実感した。
視界がゆがみ、平衡感覚を喪失する。
忍耐の緒が切れると同時に、喉の奥に現れた酸味をぶちまけた。
ドシャリ
地面にこぼれたそれは、地面へ衝突し、に弾けた。
はじけたそれは、目の前にいた二人のうち、右のスケバンの足に付着した。
よくわからないままその状況を見ていた。
両者の動きが止まる。
右のスケバンは銃を持ち上げ、俺の右太ももに銃を合わせ――
引き金を引いた。
空気の破裂する軽い音が響いた。
ただでさえ力が入らなくなった足は、もう言うことを聞いてくれない。
崩れ落ち、しりもちをつく。
二人を見上げる形だ。
そのまま、銃の柄が俺の頬を襲った。
「がぁ”っ!」
口から空気と鉄臭い赤がこぼれ散る。
痛みで身をよじると、先ほどまで身体があった場所に鉛玉が沈み込んだ。
言葉にならない痛みと恐怖でパニックになるほかなかった。
自身の身体から流れる赤は、一度目の死を呼び起こす。
痛い。
銃で撃たれていない場所、事故で負傷したであろう部位まで痛い。
「殺す」
俺に向けられたのはただ純粋なまでの殺意。
会話の余地なんかない。
死がただ目の前からやってきた。
逃げなきゃいけない。
痛い。
逃げなきゃ死ぬ。
痛くて死ぬ。
全身を支配した脳の命令に考える間もなく反応した。
近くにあった荷物を銃を撃ってきたスケバンに投げつけ、二人の間を押し入るように割って進む。
若干体勢を崩された二人を他所に、路地の奥へとひたすらに進み続ける。
脚の付け根が痛むが、脚は止まらない。
後ろから怒号が聞こえるようで聞こえない。
痛みは感じるくせに、考える余裕すらない頭が、自動的に体を動かしながら迷路を進む。
走る。
駆ける。
早く。
痛い。
速く。
痛い。
疾く。
何度も背後からなる銃声が次第に鮮明に聞こえる。
1発、2発、3発。
それは、壁にめり込み、地面に埋まり、腕や足にかすりながら突き進んでくる。
そして、腹に熱が走る。
焼けるような痛みと共にまたもや体を支配する嫌悪感。
しかし、今度はきだしてしまえば、俺は必ず死ぬ。
血の匂いで居場所がばれ、銃でお陀仏だ。
吐き出しそうな血を必死に両手で抑え、口の中の温かい鉄への嫌悪感をなくすよう意識する。
体中が悲鳴を上げ、不快感があふれそうになりながら脚が動いていく。
そうしてたどり着いた先は――
――――――――
「あんの野郎!どこ行きやがったぁ!!」
荒れ狂う相方を宥めながら、あのクソガキに一発鉛玉をぶち込まなければと考え走る。
異様に足が速いせいで、差が縮まらなかったが、相方が一発腹にぶっぱしたおかげで、決着がつきそうだった。
たどり着いたのはT字路。
地面に滴る血の跡は。
「右だな」
「あぁ。観念しやがれクズ!ズタズタにしてやんぜぇ!?」
右は行き止まりだった。壁際に佇む朽ちたゴミ箱があるのみ。
しかし、ゴミ箱ははたから見てもわかるほどゴミであふれていた。
「あれに入んのは厳しくねぇか?」
そのような言葉を発した直後。
ゴミ箱の下から溢れる赤黒い液体。
鉄の匂いが鼻腔をくすぐる。
「みぃつけたぜぇ!」
相方が喜々と顔を歪ませながら、ゴミ箱に向かって歩いていく。
そして。
全力で蹴り飛ばし、中身をぶちまけた。
「さあ!これで逃げ場は――」
中から出てきたのは、ただのゴミと、赤黒い液体だけだった。
――――――――
先ほどまで口を押えていた両手は今や腹から湧き出る血であふれている。
口の中の血は先ほど、T字路の朽ちたゴミ箱で吐きつけてきた。
これがゴミ箱から漏れて、ブラフになればいいんだけど。
ただ、さっきの二人の追ってきてる気配がない感じ、成功していると思いたい。
いつの間にか、走っている地面はアスファルトから砂に代わっていた。
走りずらい砂のせいで、体力が奪われていくのをひどく実感する。
いつの間にか足を見つめていた顔をあげると、一面は砂に覆われた平地だった。
代り映えしない景色と、砂の地にふさわしい焼けるような暑さ。
場所が変わっても痛みと苦しみからはのがれられないようだ。
街を外れた先にあるのは砂漠だった。
……ここは本当にどこなんだ。
というか、スケバンから逃げられたことに安堵していることで、徐々に体の痛みが増してきている。
アドレナリンが切れてきてしまった。
脚は震え、すでに体重を支えられそうにない。
腹からはとどまることを知らない血液たちが滝のように逃げていく。
手はもう血を受け止められなくなっていたので、手の上の血を砂に落とした。
走りをやめて歩いていた体が、急にフラっと。
ついに限界を迎えた。
その場に仰向けで倒れた。
どこまでも透き通る蒼い空を見て思う。
うっとおしい。
閲覧ありがとうございました〜