旧作:色彩のせいで、死にたいのに死ねなくなりました 作:蒼雲しろ
砂を蹴り、地を進む。
周囲は徐々に明るさを増して来ている。
ちなみに。
俺は今、ホシノの肩に担がれている。
結局はこれが一番早い方法だと納得し、学校まで帰ることになった。
申し訳なさと、力不足を強く実感している。
「それでなんですけど」
新たにできたガラスの道が離れていく様子を見ていたとき。
ホシノから声がかかる。
「その力はなんなんですか」
ビナーとの戦闘時にも聞いた言葉。
いずれは説明しなければいけないと思っていた。
しかし、いざそんな場面になると、何から話せばいいのかわからなくなる。
眉が下がるのを感じながら、こう答えた。
「ビナーと戦ってた時に手に入れたもので」
「ビナーと戦うって、銃も持ってないのにですか?」
苦笑いが出かける。
キヴォトスではありえない状況だろうな。
「初めに会った時」
声しか聞こえなかったが、いつもより少し柔らかい声だった。
「ヘイローの無事は保証しません、って言ったじゃないですか」
そういえばそんなこともあった。
今よりも随分とトゲトゲしかった。
といっても、まだ2日しかたっていない。
遠い昔のように感じるのは、それだけ濃い生活を送っているからに違いない。
「あの時のカナメさんの顔、ひどかったですよ」
「何言ってんだこいつ、みたいな。そんな顔でしたよ」
自分の顔は見えないが、本当にそんな顔をしていたか?
流石にホシノの誇張表現な気がしている。
そこまでわかりやすいことはない。
「そんな顔してたかな……」
「だってカナメさん、ヘイローないですもんね」
会話の中で告げられた言葉。
それに、虚をつかれた。
身体に力が入り、鼓動が少し早くなった。
始めから、俺が異常なのをわかっていた?
だからあんなに警戒していたのだろうか。
「――知ってたの?」
「最初は気づきませんでした」
そう告げられ、さらに困惑する。
初めて出会ったときは、銃を持っていない血まみれの人を助けたってことになるが……。
こんな治安のアビドスで、よく助けようと思ったな。
もしかしたら、罠だったかもしれないのに。
それに、学校にも迎え入れるにはリスクが高すぎる。
俺の表情が見えないせいで、困惑を置き去りにしたまま話が進む。
「今になってようやくわかったんです。心に余裕ができたようなので」
ホシノの表情が明らかに変わった、昨日の夜。
きっと、闇を問い除いたからだろう。
その言葉が聞けただけでも良かったが。
それに、ずっと気になっていたことを聞く機会だと思った。
目の前の砂の世界を見ながらつぶやく。
「……怪しいって思わなかったのか」
その呟きはすぐさま拾われ、考える間もなく返事がくる。
「思いましたよ」
「銃も持ってませんし、優しくして来ますし」
「家もない、お金もなかったですし」
「私か、アビドスを狙ってるのかと思いました」
でも、そうホシノは付け加えた。
「血だらけで」
「やけに諦めたような雰囲気で」
「何かに取り憑かれてるような」
その言葉を聞いて、眉が下がった。
あの時。
俺たちは同じようなことを考えていたのかもしれない。
余裕のない俺たちは何かに取り憑かれ、希望を求め続けた。
砂漠を彷徨っていた。
目を伏せる。
そう考えれば、この出会いは運命を感じる。
「怪しい人でしたけど」
「見捨てられませんでした」
二人して、ほっとけないって。
どっちも、自分のことに精一杯だったはずなのに。
馬鹿な、二人だ。
「それに救われたんだから感謝しかないな」
「あと」
「外の人なら、銃ですぐ倒せるので何かあっても大丈夫だと思ってました」
「違いない」
思わず顔が緩む。
ホシノなら、何かあっても問題なんてないだろう。
あのビナーも、尻尾を巻いて逃げるくらいだし。
キヴォトスの人たちがホシノと変わらないくらい強いってなると、話は変わってくるが。
ここで本題に戻る。
「倒せるって思ってたんですけど」
声がワントーン下がった。
表情は見えないがわかる。
不満げな目をしている様子が勝手に思い浮かんでくる。
「あの光線が効かないのに、銃なんて効くんですか」
「時と場合によるな。長時間戦えば、勝てると思うよ」
はあ、と。
こちらにも聞こえるようにため息をついていた。
「それで、カナメさんはどうやってビナーの攻撃を受け止めたんですか?」
本題に戻る。
結局は、
「あの力……
「どうやって攻撃を消してるかは分からないんだよな」
「よく分からない力を使ってるってことですか」
返事をした。
勿論、納得しているわけなどなく。怪訝そうな声だった。
「嫌な感じがします」
そういえば、さっきも俺がテラーを使ったときに変な感じがするって言ってたのを思い出した。
あながち、ビナーの言ってたことも間違いじゃない可能性が出てきた。
人の近くで使うのはやめよう。
影響が出るとしたら……ホシノが
危険があるうちは、使わない方がいいだろう。
それこそ、今度ホシノに銃の使い方を教えてもらおうかな。
「まあ、
「色彩」と、口に出すことができなかった。
喉が詰まる。
空気が肺に通ってこなかった。
色彩?
今になって思う。
そういえば、色彩ってどんなのだっただろうか。
記憶に空洞ができたように、思い出せない。
名前や、どうやって出会ったかは覚えている。
だが、何かを忘れている。
気持ちが悪い。
自分の記憶じゃないみたいだ。
何か、自分以外の存在に記憶を抜かれたようにしか思えない。
黒服が……いや。
色彩が――消した?
「カナメさん?どうしました?」
「なんか、忘れちゃったみたいだ。ごめんね」
「そうですか、そろそろ着きますよ」
肩の上で揺られていたら、いつの間にか学校までついていたらしい。
本当に何もしていないことが、申し訳なさを募らせる。
学校に着いた。
長い肩の上の旅は終わり、久方ぶりの地面だ。
地面に置かれた瞬間は少しよろめいてしまった。
校舎へと入り、学校においてある水分や食料をリュックに詰め、準備を進める。
その途中、俺はホシノに話しかけた。
「これからユメ先輩を探しにいくんだけど」
「何かヒントになることとかないのかなって思ってさ」
視線が合う。
窓から差し込む光を受けた蒼と黄金の眼は、今まで見た中で一番の輝きを持っていた。
そうして。
「教えてくれないかな」
「ユメ先輩のこと」
ホシノ曰く。
彼女は、アビドス高校三年生であり、生徒会長である。
身長は女性にしては高く、浅葱色の長い髪を持っている。
入学したてのホシノを生徒会に誘い、共に過ごすことになる。
そして、すれ違いが起き。
行方不明となった。
最後に会ったのは今日から4日前。
「ユメ先輩を探す手がかりはこれです」
そう言って、スマホの画面を見せつけてくる。
そこに映っているのは、数件のボイスメッセージだ。
『ごめんね、ホシノちゃん』
『電波がうまく@#$%』
『砂漠にいたら@#$%砂嵐に遭って&#@』
二件のボイスメッセージだった。
砂嵐という、アビドスで起こる自然災害に巻き込まれてしまった。
それも、4日前に。
「このボイスメッセージ的には、砂漠に入るっぽいけど」
ホシノにそう投げかける。
表情が暗い。
ホシノのことだ、大方の場所は捜索しているのだろう。
「郊外とこの付近の砂漠は大方捜索しました」
それも、砂漠も探しているとのことだった。
だが、奥までは行っていないという予想で、近場しか探していないとのことだった。
「あとは、砂漠の奥に進むしか」
残るのは、まだ調査していない砂漠の奥地。
4日間でそこまで遠くに行っているのかは疑問だが、この辺にいないとなれば、その選択肢しかないだろう。
「早いうちに行こう。もう一度戻ることにはなるけど……」
後悔が滲む。
惜しいことをしてしまった。
「戻ってきたのは正解だと思うので」
ホシノは、そう告げた。
何の準備もなしに砂漠へ行くのは危険。
ホシノはアビドスに住まうものとして、誰よりもそのことを理解していた。
肩の力を抜き、深呼吸する。
脳に酸素を送り、落ち着きを取り戻す。
焦ってはいけない。
冷静にならなければ、結果的にどこかでつけが回ってくる。
ホシノに返事をしつつ、足早に準備を終える。
再度、高校を旅立つ。
日は先ほどよりも天に昇っている。
日差しも強まり、暑さが視界と感覚に直接訴えかけてくる。
この移動も、またもや肩に担がれている。
俺は、周囲を見渡す係として、砂の地に目線を凝らしていた。
何処を見ても、砂、砂、砂。
起伏のある場所であり、見えないところもあるが。
それでも、様々な場所を巡った。
アビドス高校から円状に捜査範囲を広げている。
ホシノに掛かる負担は大きいもので、何時間も動き回っていれば徐々に息が乱れてきた。
普段の睡眠不足に加え、昨日はひと悶着あったのだ。
逆に、ここまで走り続けられる方が異常であった。
休憩を促しても、まだと断ってくるホシノに、一度は強制的に水を手渡した。
しかし、日が真上に来た頃には、俺にも余裕がなくなってきた。
俺にも、徹夜にこれまでの疲れがたまっていたらしい。
「あ」
そんな時だった。
煌びやかに太陽の光を反射する、ガラスの道を見つけた。
声が出てしまった。
俺が反応したことで、立ち止まったホシノが周囲を見わたした。
「ごめん。ユメさんじゃないんだけど」
そういうと体に籠っていた力が抜けた。
申し訳なさがこみあげてくる。
紛らわしいことをしてしまった。
「何か見つけたんですか?」
ため息の後に、怪訝そうな声が聞こえる。
目印となる場所があれば捜索も少しはやりやすくなると思うので、提案してみることに。
「あそこ、ガラスができてるでしょ?あれを目印にして、捜索す――」
瞬きの後、違和感を感じた。
見る。
目を凝らす。
ガラスに映るのは空の青と砂の黄金。
だけではなかった。
予想外の色が見えた。
その緑は、地面に枝を伸ばすように、広がる。
一切の動きがないそれは、地面に張り付いているようだった。
何かが落ちているのかと思った。
だが、それにしては妙に大きい。
ゆっくりと視線をずらす。
目に入る。
白い布。
黒い布。
人の、腕。
呼吸が浅くなるのを感じた。
吸い込んだ酸素が脳に巡っていない。
見ているはずなのに。
脳が否定していた。
――それじゃあ。
――嘘つきじゃないか。
――助けられずに終わるのか?
「カナメさん、次行きますよ?」
「降ろしてくれ」
俺を下ろしたホシノは、眉を寄せる。
しかし、即座に目の色が変わった。
俺が見ていた方向を見る。
青と黄金の目に映るのは、浅葱色。
その瞬間、ホシノが砂を蹴る。
目の前の砂が舞う。
足を引きずるように、そのあとを追っていく。
走って。
走って。
徐々に近づくガラスの道と、その上に広がる浅葱色。
信じたくない。
まだ、寝ているだけだ。
きっと、疲れているだけなんだ。
たどり着く。
立ち尽くすホシノの背中が見えた。
駆け寄る。
そして、見る。
うつ伏せになって寝ているユメさん。
何かをつかもうと、手を伸ばしている。
それを見つめるホシノは、一切の声を発しない。
ホシノもまた、動くことがなかった。
右を向く。
瞳は光を映し出していない。
見えるのは、闇だ。
何処までも続く、闇。
その深淵に。
黒を、見た。
感覚的に即座に動いた。
ホシノの体を揺さぶり、意識を引く。
内側から湧き出るような闇。
「ホシノッ!ホシノッッ‼」
触れた手から、可能な限り
錆びれた機械のように、ゆっくりと動く首。
そして、その目は俺を見つめた。
「カナメ……さん」
二人で、うつ伏せになる彼女を見つめる。
背中は、上下していない。
腕や足も一切の力が抜けきっている。
やつれた手や足は赤黒く焼け、
ひび割れた土のようだった。
砂が至る所に張り付いている。
風が頬を撫でる。
浅葱色は。
揺れない。
「ユメ…………先輩」
ホシノは膝をつき、触れた。
何度も触れなおし、確認する。
触れて。
触れて。
触れて。
「いつまで寝てるんですか」
叩く。
次は、腕を振り上げて――
止まった。
腕は震え、顔は俯いている。
必死に自分の感情を制御しようとしている。
そうして。
身体を丸めた。
すすり泣くような声。
それ以外。
何も聞こえない。
見ていることしか、できなかった。
閲覧ありがとうございます~
そろそろ投稿頻度落ちそうです。
ゆっくりやっていきます。