旧作:色彩のせいで、死にたいのに死ねなくなりました 作:蒼雲しろ
内容が薄く感じたので少し追加し、タイトルを変更しました。
改定にお時間をいただきたかったので、削除しました。
読んでいただいた方、申し訳ありません。
「おはようございます」
声が聞こえてくる。
「いつまで寝てるんですか」
背中と、尻が痛い。
周りを見渡せば、廊下だった。
どうやら、教室の壁にもたれかかって寝ていたようだ。
ホシノを見る。
ひどい隈だ。
ぼさぼさの髪。
疲れの取れていない目。
「ちゃんと、寝れてる?」
「はい」
俯きがちのホシノは、元気のない返事をする。
「それより」
疲れ切った目がこちらを見つめる。
座った俺をホシノが見下ろす。
一拍を置いて、告げた。
「昨日は……ありがとうございました」
頭を下げられる。
息が詰まる。
「あ……」
声にならない。
「感謝なんて、しないでほしい」
やけに近い廊下の床には、砂が見える。
砂を、見つめていた。
「俺は……何もできてないから」
「責めてくれてたって……」
その言葉は、言い切れなかった。
「カナメさん」
ホシノは、至っていつも通りの声色で告げる。
いつの間にか、視界にはピンクが映っていた。
視界に映る小さな手が、俺に差し伸べられていた。
「これ以上は望めません」
「ここまでしてもらって、責めるなんてことはできません」
咎められないことこそ――
一番の苦痛だった。
「ホシノの方が、辛いのに――」
「本当ですよ」
体が固まる。
「なんで、苦しんでるんですか」
「私が苦しみたいのに」
「なんで、貴方が……」
声が、震えていた。
「私のせいで……死んだのに」
「私が見つけなきゃいけなかったのに」
唇を噛む。
「カナメさんが、ユメ先輩のことを見つけたとき」
「もっと早く見つけてくれたらって」
ホシノを、見た。
揺れる蒼と黄金が、眼前に来る。
雫が、こぼれる。
「なんで」
「もっと早く」
前に倒れてきたホシノを、支える。
「こんなこと……」
「ごめんなさい」
腹部に熱を感じる。
涙が、シャツに染みて。
「俺は」
「ホシノを救えなかった」
「何もできない」
「足手纏いだった」
「自分が嫌だよ」
喉が、詰まる。
二人しかいない学校には、押し殺した泣き声だけが響いていた。
しばらくの間、どちらも口を開かなかった。
しかし、泣き声は次第に小さくなっていく。
身体にかかる圧も小さくなった。
ホシノの肩の震えが止まると同時に、後ろに飛びのいた。
赤に染まった目元が目立つ。
「落ち着きましたか」
「こっちのセリフな」
俺の横にホシノが腰を下ろす。
膝を抱え、身体を丸める。
顔を膝に埋めたまま、言葉を発した。
「カナメさんが、私にどんなことをしてくれても」
「私はユメ先輩のことを乗り越えられないと思います」
小さな呟きだった。
窓ガラスから覗く空は、やけに青い気がする。
「こんなこと言っていいのかわからないけど」
「それでいいと思う」
そんなことは、最初からわかっていた。
俺が何をしても、ホシノがユメ先輩のことを振り切ることはない。
それができる存在なら、ここまで苦しむはずがない。
だからこそ、俺にできることを考えたとき――
「自分が納得するまで、悩んで。悩んで苦しんで、その先にいい落としどころがあればそこで乗り越えたらいい」
「それか、一生背負うのも1つの選択だと思う」
君に。
その苦しみを背負うことを、勧めることだった。
それでも、と思ってしまう自分がいる。
助けたい。
ヒーローに、なりたい。
でも俺の役割は、きっとそうじゃない。
それに――
「カナメさんは……」
「忘れないよ」
俺自身が、引きずると決めたのだ。
ホシノのことを、否定できるわけがなかった。
「俺の力不足が招いた結末を、仕方なかったで済ませたくない」
自分の罪を、忘れない。
逃げるはもうやめよう。
ホシノが立ち向かうなら。
「大丈夫だよ」
「強くなるから。この世界で生きれるように」
「ビナーにも負けないくらい、さ」
「まずは、ホシノに担がれなくても走れることが目標かな」
俺も、頑張るから。
だから――
隣にいることくらいは、許されるだろうか。
「手伝いますよ」
隣から、手が差し伸べられる。
「いいの?」
「ホシノの……近くにいて」
取れずにいた手は、俺の前から動くことはなかった。
「私は。逆にいいんですか?」
「私、ユメ先輩のこといつまでも引きずるつもりですけど」
少しだけ、口元が緩む。
泣き腫らした目は、朝日を反射していた。
「そのくらいで投げ出すようなら、ここにいないでしょ。それに――」
こちらを横目で見るホシノに、苦笑する。
何度も口にした言葉を、改めて告げる。
「「俺は君を助けたい」」
ホシノは息を漏らした。
泣きながら、笑っていた。
「ですよね?」
頬を伝う涙が、頬に線を引く。
「なんでわかったのさ」
「何回も聞きましたし」
涙は止まらない。
でも。
穏やかな笑顔だった。
「救われた言葉なんですよ」
朝日に照らされた温かい笑顔が、心に熱を持たせる。
涙が止まらないのは、俺もだったみたいだ。
「それは――」
君に救われた身からすれば。
「うれしいね」
差し出された手を握る。
廊下に風が吹き込んだ。
――お前は、許されていいのか?
許されるつもりはない。
――何も解決していないのに、前に進むのか?
止まることだけが一番の罪だ。
――ホシノに踏み込むことから、逃げているだけだ。
今は逃げても、逃げっぱなしにはしてやらない。
――いい顔をしているだけだ。
嫌われるよりかは、よっぽどいい。
――できた男じゃないと、言ったはずだ。
できた男じゃなくても、できることはある。
できることをやらないのだけは、止めにしたいんだ。
――諦めるんだろ。
ホシノの為になるなら、諦めないよ。
命に代えてもやってやるさ。
――逃げるんだろ。
もう、逃げない。
これ以上逃げたら、いい顔もできないし、前にも進めない。
――まだ、ヒーローでいる気か。
ヒーローより気に入った場所を見つけたんだ。
俺は、ホシノの横で寄り添ってあげたい。
苦しみを、共に背負いたい。
――ロクでなしに、何ができるんだ。
今できることは少ないかもしれない。
でも、必ず成し遂げるさ。
それに……
武器ならある。
俺には色彩にもらった
これを使えば、この世界で戦えるはずだ。
折角もらったんだから、有効活用しないと損だろ?
――何もかも……開き直っただけじゃないか。
そうさ。
所詮は、俺。
何処まで行っても、
何1つ解決などしていない。
先送りにしただけ。
開き直って、諦めただけかもしれない。
それでも、前に進むことだけはやめないと誓った。
どんなに後ろを向いていても。
苦しみながら進んでいく。
――――――――
「おはよ。」
「おはようございます。」
「お願いがあるんですけど」
「何でも言って!!」
「えっと……」
「ユメ先輩のことを、調べたくて」
――――――――
「これ、お金になるかな」
「……ならなかったら、学校で使いましょう」
「というか、運べるのか?」
「力仕事なら……」
「俺がやるからね?」
――――――――
「誰?私に何か用?」
「わ、私は……」
「どこの生徒?所属と学年は?」
「別に年上だったところで容赦しないけど。」
「それくらい知ってるでしょ。私のことを、調べてたなら」
「そ、そういう目的で来たわけでは……」
「あれ、その校章……」
――――――――
「いやぁ、ちょっと乱暴だったかなぁ……」
「ホシノ先輩……」
「でも、下手に加減したらこっちがやられる可能性だってあったからねぇ~」
「この子、かなり強かったし」
「でもおかしいなぁ。こんな子がいたなんで……おじさん全然知らなかったよ」
「お名前は?」
「……シロコ。
――――――――
「ほらほら、シロコちゃんノノミちゃん!笑って~」
「ん」
「わ、わざわざ撮る必要、ありますか……?」
「なに言ってるのさ、当たり前でしょ!」
「お祝いの時は、記念に写真を撮るものだから!」
――――――――
「あ、あの失礼します!皆さんがアビドス高校の生徒で合っていますか?」
「私たちも、ここに入学したいの」
「アビドスのために、何かしたいんです……!」
「たしか、復旧委員会よね?」
「対策委員会だよ、セリカちゃん」
「そう、それ!」
「とにかく、これからよろしくね、先輩!」
「よろしくお願いします!」
――――――――
砂漠探索から帰ってきたので、アビドス高校に寄った。
今や生徒は一人だけではなく、五人となった。
部外者が出入りしているのがばれると、良い印象を生徒に与えないので、いつも通り裏口から入り込む。
「カナメさん~」
耳を澄ませば、屋上から声が聞こえる。
「ここは定位置なのね?」
「後輩たちが学校にいるからね~」
寝ころんだままふにゃけた返事をしていた。
「それなら、夜に持ってくるって言ったじゃん」
「んー……」
何か悩むような声を出してから言葉がない。
寝たのか?
「ホシノ?」
「まあまあ。細かいことは気にしないで行こうよ」
「……わかりましたよ」
マットの上で寝ころぶホシノの横に腰を下ろして、太陽を浴びる。
「暑くない?」
「これだからカナメさんは。このくらいで暑いなんて言ってたら溶けちゃうよ?」
「俺は暑さを感じないって言ったじゃんか」
「うへ~。そうだったね~」
「どちらかというと、先に溶けるのはホシノじゃないか?」
随分と気持ちよさそうに寝ころんでいる。
両手を広げ、大の字で寝ころぶホシノの横腹を指でつつく。
「うへ!」
「前も言ったけどさ、眠いなら夜のパトロールくらい俺がやるって」
「いやぁ……」
「ホシノは学校あるんだし」
2年前の秋からだった。
アビドスの治安を見かねて、夜間パトロールを行うことにしていた。
その時は俺も学校にいたし、ここの生徒もホシノだけだったから、寝たって良かったのだが。
今は立派な先輩となったホシノに、堂々とさぼりをさせる訳にはいかない。
そんな思いから、何度か夜間パトロールは俺だけでやるといっているのだが、いつも断られるのだ。
その理由が――
「折角、カナメさんと話せる時間だし……」
「……それは昼間のこういう時間とかでさ」
「たった今、学校があるといった人は誰だったかなぁ」
「寝なければいいんだよ」
そういわれてしまえば、断りづらく。
結局はズルズルと先延ばしにしていた。
他愛もない軽口を言い合う。
日常となったこの会話は、今でも心地よさを感じる。
「今日も平和だねぇ……」
「最近体なまってるんじゃない?久しぶりに組手でもやる?」
「私に合法痴漢したいってこと?」
「え?誰が言った?」
この二年間で強くなることを目標に、頑張っていたのだ。
勿論、ホシノは組手やら銃の訓練に付き合ってくれた。
今では銃も体の使い方も随分と慣れてきた。
そこには、
「痴漢の件は考えておくねぇ~」
「痴漢とかしたことあったかい?」
「女子高生の身体を触ったらもう痴漢だよ」
「今からでも間に合うかな、ヴァルキューレ」
「冗談だって~」
非常に心に悪い嘘だ。
高校生ではなくなった俺には、効果抜群の脅しだった。
くだらないことをいつものように話していた。
そんな時。
「ホシノ先輩!またこんな所で――」
「「あ」」
「は?」
屋上の扉を開け放った少女がいた。
いつもなら、扉が開く前には隠れられていた。
だが、今日は気を抜いていた。
その原因のホシノは、真っ青な顔をしている。
口を見ていれば、何やら動いていた。
よく観察すると。
ゆ
だ
ん
し
た
やはり、夜間のパトロールは俺だけでやろう。
寝不足のせいで油断していた、そう思いたい。
俺とホシノが出会ってから二年後。
ホシノと俺の関係がばれたのは、この日だった。
閲覧ありがとうございます~!