旧作:色彩のせいで、死にたいのに死ねなくなりました 作:蒼雲しろ
パワーがみなぎっておるのだ。
ひとまず、この砂漠から抜け出すことが大事だ。
もう既に暑さを感じなくなっていたこの体なら、余裕で街まで戻れる。
だいぶ遠くに見えるビル群へ、足早に向かっていく。
こんなに遠くに来ていたとは気づきもしなかった。
暑さを視界から感じながらも、身体が暑さを感じることはなかった。
聞こえだけはいいが、先ほどの話から考えるとあまりいいものではない気がしてならない。
「色彩」。
さっきの説明的には、俺を気に入った虹色の光のことらしい。
絶対碌な存在ではない。
……まあ、その影響で手に入れた恐怖から、影響を受けているっぽいけど。
ビナーの力が白っぽい神秘的なものだとしたら、俺が恐怖。
神秘の反転が恐怖、とか言ってたよな。
対極的な力だから無効化したとか。
……どうなんだろ。
つまり、ビナーの言い分的には、この世界の住人もビナーみたいな力を持ってるってことか。
足元の砂が少しずつアスファルトへと変わり始めた。
砂もアスファルトも変わらず暑そうに見える。
すると、向こう側に。
見たことのある2人がいた。
「……!」
「……!」
……何言ってるかよく聞こえない。
絶対聞こえない距離で怒鳴り散らしていそうなので、近付いていく。
「……たい……す!」
「よく……もど……な!」
まだ随分と怒っているらしい。流石にこれに関しては俺の方に非があるから何も文句が言えない。
……でも今思い返せば、あのままいっても撃たれそうだったけどなぁ。
まだまだ青い空のもとに晒された状態でも、銃を持ち歩いている2人。
この世界は……なんなんだろうか。
外にいても銃を堂々と持ち歩ける。
人に向かって撃つことへの容赦がない。
動く巨大な蛇ロボット、ついでに意思疎通可。
恐怖だとか色彩だとかの意味のわからない設定。
「俺はどこに迷い込んだんだろうなぁ」
「こんのぉクソ野郎ぉ‼︎」
「殺す!」
厭悪の声が耳を打つ。
ビナーの回答のおかげで決心がついていたことを早めに実行する。
2人の銃身がこちらを捉える。
2人が引き金を引くと、乾いた音と共に鉛玉が飛んでくる。
それを――
ヒュッと。風切り音がした。
どうやら横を通り過ぎたらしい。
「は?外した?」
「たまたまずれただけだろ?もっと撃つぞ!」
更に飛来する玉は俺に当たることがない。
この距離では外しようがないはずなのに、当たらない。
当ててくれない。
「なんかっ⁉︎当たんねえぞ‼︎」
「なんでだよっ⁉︎」
もう、外すことのない至近距離なのに。
玉は弾かれたように俺を避けて行く。
「コイツ……バケモノだ⁉︎さっきと何かちげぇぞ!?」
「クッソォォ‼︎」
1人が突撃してきた。銃身を俺の脇腹に押し当て、引き金を引く。
乾いた音が途切れることなく耳に届く。
しかし、体は無傷だ。
フルオートであったからか、いつのまにか、玉はなくなっていた。
2人して後ずさっていく。
恐怖に染まった眼は、俺をまっすぐ見据えていた。
前に進む。
足に吐瀉物がかかってしまった子の銃を掴む。
「ヒッ⁉︎」
驚きと恐怖の入り混じった音が聞こえた。
申し訳ないとは思いながら、銃を奪い取る。
「すみません、少し貸してください」
返事はなく、更に青くなった表情は今すぐにでも逃げ出しそうだった。
すぐ終わらせることを決意し、銃を鳩尾に押し当てる。
躊躇はない。
引き金を引いた。
どうやら自分の考察は正解だったようだ。
破裂音と身体を駆ける衝撃は、俺の望んだ結末を引き起こした。
無事に、鳩尾あたりに綺麗な穴が開いた。
生憎、もう痛みを感じない。
銃の柄を相手に向け、返す。
「ありがとうございます」
「なんなんだよ……お前」
なんなんだろうかね。
俺のほうが聞きたい気分なのに。
ここはどこなんですか?って。
「これでさっきの無礼をチャラにしてくれればいいなって思ってるんですけど……」
その言葉を聞いた途端、2人の表情は恐怖から圧倒的嫌悪に変わった。
内臓の飛び出た虫を見るような、そんな目に変わった。
「もう、いい、やめてくれ」
「お前みたいなバケモノとは二度と関わりたくねぇ」
急激に冷めたような態度に怖さを感じる。
人をバケモノと言ってくる2人は、俺のことを許してくれたようだ。
というかさ。
「人のことバケモノバケモノ言ってくるけどさ」
街に向かって歩き出す。
知りたいことがわかったので、あとは最後の目的を終わらせる。
その前に2人へ向かって一番言いたかった言葉を送った。
「躊躇なく銃を撃ってくる人たちにだけは、バケモノって言われたくないなぁ」
――――――――
彼女達はバケモノの背を見つめていた。
先ほどの言葉を反芻する。
しかし、何度考えたってわからなかった。
「銃を撃つ奴が、おかしい……?」
そうして、口を開いた。
まるで、至極当然であるかのようにそう言った。
「銃を撃つことは当たり前じゃねえのか?」
砂を踏みしめ、彼女たちから彼が離れていく音だけが場を支配していた。
――――――――
しばらく歩いて。
たどり着いたのは少々右に傾いた高いビルであった。
入口は……埋もれていそうだ。
外周を回ってみても、入口が見つからない。
取り敢えず近くの適当な窓をこじ開けようと、隙間に手を入れる。
思い切りスライドすると、棚や物が倒れている部屋が姿を見せた。
物が散乱した部屋を出て、廊下を歩く。
階段を見つけ、上がる。
どこまで上がるかは気分だ。
窓がないので、とにかく暗い。
たまに躓きそうになる。
上って。
上って。
上る。
上階に行くのと同時に、階段に入り込む光はなくなっていった。
闇に、のめりこんでいく。
上へ続く階段が途切れた場所で、扉を開けた。
いつの間にか上りきっていたらしい。
溢れ出した光に、全身が包み込まれる。
思わず目を細めた。
少し痛んだ目を開いてみれば、そこは社長室を彷彿とさせるような場所だった。
正面は全面ガラス張りで、差し込む青の風景が広がっている。
いい景色だ。
この部屋にあったのは大きなデスクと革製の椅子。
そして、向かい合うように置かれたソファーとそれに挟まれた机だ。
この部屋は無人ではなかった。
正面、革の椅子に腰を掛けていたのは一人の人物であった。
いや、人ではないのかもしれない。
整った漆黒のスーツと、黒曜のネクタイ。
そしてそれを着込んだ、影のような人型。
全体的に黒が目立つ中、右目に当たる部位からは光が漏れ出しており、そこから顔全体に罅が入っていた。
その異形は、俺のほうを見つめていた。
敵意は、感じない。
だが、何か異質なものを感じる。
何が正解の行動か悩んでいると、黒スーツの男は口を開いた。
「お待ちしておりましたよ」
歓迎の言葉を告げられ、困惑した。
また、続けて黒スーツは口を開いた。
「私は……黒服と申します。以後お見知りおきを」
その影は、静かに頭を垂れた。
礼節の整った態度であるはずだが、心臓を撫でられるような不快感が拭えなかった。
ずいぶんと穏やかな始まりだ。
物音が聞こえない落ち着いた空間に、些か居心地の悪さを感じるが。
それに、初めてこの世界でまともな会話ができたことにどうも心が落ち着かない。
「申し訳ありません、お名前を存じ上げないため、なんとお呼びすればよいか。よろしければ、お名前をお伺いしても?」
何も言わない俺にさらなる言葉が飛来してきた。
別に……名前くらいは問題ないだろう。
というかそんなに困ることなんか今更ないだろ。
「
そう口にしながら、一歩ずつ歩みを進めていく。
ある程度の距離を持って止まり、対峙する。
「彩依さん……ですか。かしこまりました。よろしくお願いいたします」
ここを気に入ったので、できればここを譲り受けたいのだが。
ちなみに。
気に入った理由は、ただ単に高いビルだったから。
……別の場所にしよう。
「すみません、勝手に侵入してしまい。すぐに出ていきますので」
前に進んだが、結局は後ろへ戻ることになった。
名前を伝える前に気が付けばよかった。
黒服に背を向け、入ってきたドアを目指す。
だというのに、後ろからかかった声に足を止めることとなった。
「いえ。このビルは誰かの所有物ではないので。侵入ということはありませんよ。」
……それなら別の場所を探さなくてもいいか。
「重ねて、彩依さんとの会話が終わり次第私はここを去りますので」
……猶更、去る必要がなくなった。
改めて黒服への接近。
行ったり来たりでよくわからない行動をしているように見えるだろう。
「それに、彩依さんが知りたいこと――例えばこの世界についてなど。良ければお答えいたしますよ」
更なる言葉が飛んでくる。
知りたいこと、か。
微笑むような顔に光が歪む。
純粋な行為からくるように感じるそれが今は不快感を煽る。
黒服の言葉はいい感じがしない。
「俺がこの世界について知りたそうに見えたんですか?」
この黒服は、俺のどんなところがこの世界について知りたそうに見えたのか気になるところだ。
この世界の住人と俺は、どれほど多くの違いがあるのだろうか?
「ええ。そうですね」
黒服はわずかに首を傾げ、そう告げた。
知りたくないと言ったら嘘になる。
だが、別にそこまで知りたいほどでもない。
それよりも、ここをどいてほしい感が強すぎる。
自分でもわかるほど表情が歪んでいる。
さすがにまずいかと思い表情を整えると、黒服は眼の光を揺らす。
「クックック……そのような顔をされては困ってしまいますね」
困っているのはこちらも同じである。
正直、こちらから話すことはないので、早めにどいてほしい気持ちが強い。
「――なるほど、私が邪魔なのですね?」
「なんというか、俺から話したいことはないし、聞きたいこともないんで。どうしようかと思って、黙ってしまいました」
俺が言葉を告げると、時間が止まった――
ように感じた。
黒服の動きは止まり、光も一切揺らめくことがなかった。
永遠にも思える時間は、黒服の声によって終了した。
「クックック……嗚呼。やはりあなたは興味深い存在です。彩依さん。」
黒服は立ち上がると、こちらに歩み寄ってくる。
腕を伸ばせば届きそうなほど、距離は縮まり。
面と向かって対峙する。
黒服に見下ろされながら思うことがあった。
この人は何か違う。
先ほど会ったスケバンと何か違う。
「興味深い存在、というのはどのあたりがですかね」
「それは自分自身でお気づきでしょう。あなたはこの世界ではない、外の世界から来たということに」
俺の直感は正解だろう。
「やっぱりわかるんですか」
「ええ。わかりますとも。」
黒服は俺の身体――正確には、制服を指さす。
今や砂にまみれ、汚れた黒の制服。
黒服は多分この世界でも稀な存在だ。
少なくとも、俺の制服を見たスケバンたちにはできなかったことだ。
「おおよそ、高校生といったところでしょうか。しかし、そのような制服はこの『キヴォトス』にある学園では見たことがありません」
「……キヴォトスっていうんですね、この世界は」
「ええ。そうです」
話すつもりがなかったが、やっぱり気になってしまった。
この世界はいったい何なのか。
余計なことは聞かないように気を付けよう。
「俺がこの世界について聞きたいといったら、あなたは教えてくれるんですか」
再度確認する。
俺が黒服との会話に興味を示すと、黒服の反応が変化した。
「もちろんです。しかし、その場合は契約を結んでいただきたい。」
「契約、ですか」
そう言われ、一度考えてみる。
まるでただで教えるような雰囲気で誘ってきたくせに、結果はこうなるのか。
別に黒服は何も言ってないので、ただの俺の思い違いだった。
少しため息が出る。
こっちから提示できるメリットなどほとんどない。
黒服が納得する契約が成立するかが怪しいところではあるが。
……どうせ死ぬから後回しにできる契約とかがいいなぁ。
そう思っているところに、あちらから条件が提案された。
「こちらから求める条件は――あなたです。彩依さん。」
俺?
なんだ?労働か?
「俺ですか?何が目的で」
「そう難しいことではありません。この話の後、少々お時間をいただいて、私の研究に付き合ってもらいたいのです」
「研究ですか」
そう言うと黒服の顔の光が揺れる。
「ええ。これから話す話にも関係してきますので、それは後々説明いたします。簡単に説明すると、あなたはこのキヴォトスにおいて極めて特別な存在です。」
黒服は窓際まで歩いていく。
それに倣い、俺もついていく。
窓の下には黄金の世界が広がっている。
「彩依さん。貴方という存在がどうしてこのキヴォトスに降り立ち、何を目的としているのか」
横並びになっていた俺と黒服。
青が沈み込んだ影の人物は、目と思しき光をこちらにまっすぐ向ける。
光が揺れた。
「――研究したいのです。それが研究者としての性ですので」
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