旧作:色彩のせいで、死にたいのに死ねなくなりました   作:蒼雲しろ

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昨日投稿した「再び」についてなのですが、私自身が凄く気持ち悪い文章に感じたので、文を色々と変更しました。

内容に関しては変更点はありません。
という訳ですので、本日もよろしくお願いいたします。


砂中

 夜の月に照らされ、輝く少女。

 彼女は俺のほうを見ながら、眉を顰め首を傾げた。

 

「……大丈夫ですか」

 

 返事が返ってこないことに違和感を覚えたのか。

 銃をいじる手を止め、こちらを直視する。

 

 申し訳なさを覚えつつ、返事を返す。

 

「素直には頷けないですね……」

 

 目眩は止まらないし、身体を起こすことも……ちょっと苦しい。

 砂がいい感じの温度になってきて、このまま眠れそうだ。

 

 流石に寝るのはまずいので、一息ついて体を起こす。

 

「一応、応急処置はしました。これ以上どうしようもありません」

 

 自身の体をよく見ても、特に変化はない。

 

 飛び降りたことで体にできた傷は……なかった。

 骨が折れている気配がないのも確認済みだ。

 

 つまりは、だ。

 応急手当ってなんだろうか。

 

「応急手当って――」

 

 おずおずと尋ねると。

 

「血まみれなのに傷が1つもなかったので、砂から引っ張り出しただけです」

 

 そりゃそうか。

 砂から出してくれただけでもありがたいのは事実なので、感謝の言葉を口にするしかなかった。

 応急処置なんて大袈裟な言い方する必要なかったと思うが。

 

「……ありがとうございます」

 

 渋い顔で俺の言葉を聞き届けた少女。

 その原因は、俺の声がありがたそうに思っていないように聞こえたからに違いないが……。

 

 そう聞こえるように言ったんですよ。

 

 会話に一区切りつくと、少女の様子が変わった。

 そわそわとした様子で、しきりにあたりを見回している。

 

「問題がなければ、これで」

 

 少女はぶっきらぼうに、そう告げる。

 

 砂の上に置いていた荷物を持ち上げた。

 どこかへ行く途中だった様だ。

 

 

 いや。

 自分で言っといてだが、多分違う気がしてきた。

 日は既に沈んだ。

 多分、帰宅途中にたまたま俺を見つけたとか。

 偶然見つけたのだろう。

 

「すみません……ありがとうございました」

 

 改めて感謝を伝えると、少女は足早に去っていく。

 

 その後ろ姿は、どこか寂しげに見えた。

 

 

 ――――――――

 

 

 砂漠を歩く。

 

 ――探さないと。

 

 砂漠を駆ける。

 

 ――――探さないと。

 

 謝らないと。

 

 

 先輩は……どこに。

 

 

 ひたすら、探し続ける。

 

 帰ってこなくなった、先輩を。

 

 私のせいで、いなくなった先輩を。

 

 

 ――先輩を。

 

 

 探さないと。

 

 

 足が止まる。

 周りを見渡す。

 

 気がつくと、街から大分離れていた。

 

 時刻は――20時を過ぎた。

 

 これ以上は……

 

 水も、食べ物も。

 

 なくなってしまった。

 

 ここが潮時だった。

 

 その場で何度か蹈鞴を踏みながら、街へと視線を向ける。

 

 ――帰ろう。

 

 

 道すがら、何故か頭に浮かんできたのはあの人だった。

 

 なぜか、記憶に残っていた。

 

 あの銃を持たない、血に濡れた人。

 一体なんだったのか。

 

 あんな所で、寝ていた。

 寝ていたわけではないかもしれないが、見たところ何も外傷がなかった。

 戦闘で負けて銃を奪われた、みたいな線はないはずだ。

 

 ……

 

 そうか。

 

 わかった。

 

 どうせあの人もアビドスに、見切りをつけたんだろう。

 

 だからあんな、銃を持たずに砂漠に行く。

 そんな、自殺まがいなことを。

 

 砂に塗れ、人が減っていく。

 砂嵐が来るたび。

 活気も、色も、希望も失われていく。

 

 誰もが、諦める。

 

 

 目を瞑る。

 

 考えれば考えるほど、深いところに堕ちていく気がする。

 

 誰1人として……この街で――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『疑念、不信、暴力、嘘……』

 

『そういうものを当たり前だと思うようになったら、』

 

『私たちもいつか、自分を見失っちゃうよ。』

 

『そうやってアビドスを取り戻しても、』

 

『それは私たちが思い描いたアビドスにはならない。』

 

 

 声がした。

 

 反射的に、目を開き振り返る。

 

 

 そこには誰もいなかった。

 求めていた探し人は、いなかった。

 

 見えるのは、遠くで光を発散する街だけだ。

 

 しかし。

 

 自分でもわからないほど、視界がクリアになった気がした。

 

 冷静になった。

 

 焦りが、思考をロックしていたことに気がついた。

 

 今になって思ったのだ。

 あんな傷だらけの人を一人にしてよかったのだろうか。

 

 ここ最近は治安も悪い。

 

 

 ――先輩もよく絡まれていた。

 

 

 それに。

 

 銃を持っていなかったような……?

 

 

 「……っ」

 

 

 こんな治安で、銃を持たずに歩くのは危険すぎる。

 

 攫われたりしたら……

 

 

『ホシノちゃん!見てみて!』

 

 

 先輩の声が、頭の中に響く。 

 

 さっきより、はっきりと聞こえた。

 

 息が、詰まる。

 周りから聞こえる音が、ぐもったようになる。

 

 ――先輩を……探さないと。

 ――謝らないと。

 

 

『死ねませんよ、俺は』

 

 

 さっきの男の人の声が、頭の中で響く。

 

 視界はぼやけ、揺れ動く。

 足が縺れ、その場にへたりと座り込むことしか出来なかった。

 

 ――銃を持っていない人だから、からまれたら危ない。

 ――見捨てる……訳には……

 

 

 何も見えない。

 

 暗い――

 

 暗い―― 

 

 誰もいない世界で、1人呟く。

 

「先輩……」

 

 どうにかなりそうだった。

 今すぐにでも、こんな場所から逃げ出したい。

 こんな苦しい思い、したくない。

 

 あの頃に――戻りたい。

 

 優しい声を聞きたい。

 

 人の温もりを……感じたい。

 

 

 独りは……寂しい。

 

 

 私は、どうすれば――

 

 

 ――――――――

 

 

 月が丁度頭上で輝き続けている。

 夜も更けてきた。

 

 桃色髪の少女と別れてから、暫くは動けずにいた。

 このままでは、砂の上で夜を過ごすことになりそうだったので、瞬間的に覚悟を決めて立ち上がった。

 

 結果的に、歩み始めてからは足を止めていない。

 中心部の方めがけて歩いてるので、少しずつ街の明かりが見えてきている。

 

 一人で歩いていると、考えなくてもいいことがふつふつと湧き出てくる。

 

 初めに湧き出してきたのは、結局死ねずにいたことだ。

 

 桃色髪の少女と別れてから、身体を確認したが、どこも異変がなかった。

 

 血まみれなのはもともと。

 体がだるいのは……貧血か黒服のせいだろう。

 

 そもそも、用が済んだからと言って何も言わずに出ていく黒服はなんなのだろうか。

 そっちが契約とか言って、書類まで出してきちっとやったのに、最後はあんな終わり方で。

 

 なんだか中途半端な奴である。

 

 湧き出る感情を砂の上に吐き出しながら、歩いていく。

 

 次第に砂の層は薄くなっていき、少し舗装された道に変わった。

 

 その道は歩きやすく、世界各国で道路を作っていた理由を身をもって体感した。

 舗装というものに感動を覚えるのも無理はない。

 

 

 アスファルトの道路を歩いていて、思う。

 

 少し元の世界が、恋しくなる。

 

 でもあっちでは、俺は完全に死んでしまった。

 

 

 きっと、戻れることはない。

 

 直感が告げていた。

 

 

 どこまでもついてくる月と共に、歩いてく。

 

 いつの間にか、あたりは住宅街のような場所になっていた。

 その中に、一際大きな建物が見える。

 

 あれは……

 

「学校だ」

 

 つい、言葉が漏れた。

 

 新しく見えるそれは、閑散としたこの地域に建っていた。

 3階建ての校舎は、正面と右側がつながっているような構造だ。

 

 校門は、空いている。

 校舎の大きな時計を見上げる。

 時刻は10時を回っていた。

 

 ……これがアビドス高校か?

 

 そう思い、校門をもう一度よくみて見る。

 すると、プレートが着いていた。

 そこにははっきりと記された「アビドス高等学校」の文字。

 

 校舎の上部には、校章と思しきものが付けられている。

 ピラミッドのような三角の中に、太陽が浮かんでいた。

 

 これが。

 この自治区を治める学校。

 

 この時間だからかと思いもしたが、それにしても人の気配を感じない。

 

 今はいない、ではないのだ。

 

 砂にまみれた道、校舎の入口は全てが閉まり切っている。

 誰かが通っていれば、こんなにも砂で汚れていることもない筈だ。

 掃除だってできる。

 自分たちの学校だ。

 こんなに砂で汚れていたら掃除したくなるだろう。

 

 誰も通らず、掃除している人もいない。

 

 それはまるで、廃校のような状態だ。

 

 

 ふと。

 足音が聞こえた。

 

 右側から接近してくる小柄な影。

 

 そして、街灯の明かりで徐々に露になるその姿は。

 

「貴方は――」

 

 桃色髪の少女は言葉をこぼした。

 目は見開かれ、よく見ていれば、銃を持つ手が少し震えている。

 

 白と黒のツートンカラーに桃の差し色が入った外観のショットガンを持ち変え、地面に銃口を向ける。

 

「奇遇ですね……先程助けていただいたばかりなのに」

 

 そう、声をかけた。

 先ほど会った時よりも、憔悴した様子だった。

 

 対面となって、はじめてわかった。

 

 ひどい隈だ。

 目から覗く闇のような色は、濁った泥のようだ。

 黒く渦巻くその目は、危うさを孕んでいる。

 

 そして、少女は口を開いた。

 

「そうですね」

 

 短い返答だった。

 

 暗くなった青と橙の瞳がこちらを見据える。

 口が開いて、閉じる。

 言葉にならない空気が何度か漏れた後。

 

「――どうして、ここに?」

 

 やっと、問いかけが飛んでくる。

 

 視線が揺れている。

 銃を持つ手も落ち着かない様子で動いていた。

 どうやら、相当困惑している。

 

 少女からの質問に答えるべく、言葉を発する。

 

「迷いました」

 

 自分の置かれた状況について説明した。

 砂漠を歩いて、ここまで来たと伝えた時は、呆れられたようなため息が出ていた。

 

「……わかりました、取り敢えず中心部まで送りますから、そこから家まで帰ってください」

 

 少女はそう告げると、そそくさと

 

「送っていただけるのはありがたいのですが」

 

「家、ないですね」

 

「は?」

 

 端的に。

 それでいて、避難の色が滲み出た声が飛んできた。

 

「……貴方、学生ですよね」

 

 首肯する。

 こんな成りだが、高校生だ。

 銃を持っている貴方なら理解してくれるだろう。

 

「その制服、見たことない……どこの所属ですか」

 

 今のところ、会う人会う人皆制服について言及してくる。

 それほど、制服というものは人を判断するのにいい物差しなのだ。

 

「所属は……なんと言ったらいいか。亜麻(ああさ)高校ってところなんですけど」

 

 きっと伝わらないだろうという思いが心を満たす。

 予想は的中し、少女は驚いた顔をした。

 

「この自治区の生徒じゃないんですか?」

 

 他自治区の生徒がいるのは珍しいのだろう。

 そう思えるほど、少女の声色が変わった。

 

 そんな少女に返事をする。

 

「そう、みたいです」

 

 苦笑。

 漏れ出たそれは拾われることなく、少女は表情を曇らせる一方だ。

 

 珍しいから良いというわけではなさそうだ。

 

 面倒ごとを増やしてしまっているのだろう、心苦しい限りです。

 

「……」

 

 暫く、少女は考え込んでいた。

 

 ずっとそうしていたような、一瞬だったような気もする。

 

 ある時、少女は口を開いた。

 

「帰る場所がないんですよね」

「はい」

 

「これから、どうするつもりなんですか」

「適当に、寝られる場所でも探そうかなと」

 

「食事は」

「最悪一週間くらい」

 

「……お金は」

「あるわけないじゃないですか」

 

「…………そもそも、なんで銃を持ってないんですか」

「ないからですね。銃」

 

 呆れたような、ドン引きするような表情。

 聞いといてそれですか。

 

「まあ、これ以上迷惑かけてもアレなんで、俺は適当に歩いていきますよ」

 

 そう言ってみるも。

 

「……今のアビドスは危険です。歩いていたら襲われますよ。特に銃のない貴方はどう抵抗するんですか」

「抵抗できませんよ。そのまま襲われて終わりです」

 

 意味がわからないと言った表情で見つめてくる。

 

「なんで、そんなに落ち着いてるんですか?怖くないんですか」

 

 先ほどよりも、少し小さな声で聞いてくる。

 

「貴方にこれ以上迷惑をかける方が、俺は嫌なだけですよ。なので大丈夫です」

 

 俺の言葉を聞いた少女は、何かを考えるかのように俯く。

 なぜだか、そんな少女の様子から目が離せなかった。

 

「ついてきてください」

 

 大丈夫、と言ったにも関わらず、一蹴されてしまった。

 砂に埋もれていたところを助けてもらったりと、困っている人を見過ごせないタイプらしい。

 

「教室を1つ貸します、そこで寝てください」

「え?」

 

 少女の提案は、予想だにしないことだった。

 あまりの出来事に、素っ頓狂な声しか出せず。

 しばらく硬直していたら、早くしろと催促された。

 

 ――スケバンの子に見習ってほしい慈悲の見せ方である。

 

 

 ――――――――

 

 

「ここを使ってください」

 

 少女に校舎へと招き入れられた。

 

 驚いたことがある。

 

 俺は、この少女は中学生かそこらだと思っていたのだ。

 しかし、蓋を開けてみれば。

 こうして校舎の鍵を開け、案内している。

 

 つまりは。

 

 この少女は高校生であった。

 ……下手なこと言わなくてよかった、とひたすらに思った。

 

 よくよく服装を見れば、左腕についた腕章には、校舎に記された章と同じものが書かれていた。

 

 肝が冷えた。

 何か無礼を働いていたら、こんなにも好待遇ではなかったと思う。

 それだけで自分の過去の行動に感謝したい。

 

 ありがとう……。

 

 案内されながら、手を合わせ過去の自分にお礼をする。

 

 そしてだ。

 

 やはり、といったところか。

 校舎に入って初めに気が向いたのは、廊下の状態だった。

 

 砂が床に広がっていて、外と変わりない惨状である。

 

 

 つまりは、この学校にはそこまで人数がいない、または彼女以外の人がいない、という可能性が高い。

 

 中々に広い学校に、少人数。

 もしくは1人。

 

 こんなにも校舎を作る必要があったのか。

 そんな疑問が頭を過った。

 

「……本当にいいんですか?」

 

「一階に立ち入らないならいいです」

 

 言葉を言い終えると同時に、彼女は銃を握り直した。

 

「もし、一階に入ったら」

 

 手に持っている銃を持ち上げ、一言告げた。

 

ヘイローの無事は保証しない

 

 睨みつけられる。

 ――地雷、ということか。

 

 しかし、ヘイローというのは?

 

 聞くには。

 

 適した雰囲気ではなかった。

 

 何かは分からないが、とにかく危険なのは間違いない。

 

 恩を仇で返すようなことは流石にしない。

 

「わかりました」

 

 素直にうなずく。

 いわれなくても、勝手に動き回るようなことはしないつもりだったため、だいじょうぶだろう。

 

「あの」

 

 立ち去ろうとする彼女に声をかけた。

 

「お名前、なんて言うんですか」

 

 やはり暫し悩んだ末に、こう答えた。

 

小鳥遊(たかなし)――ホシノ」

 

 そう告げた桃色髪の少女は俺を見る。

 その目は、先ほどより濁りが減っていた。

 

「ありがとう、小鳥遊さん」

 

 彼女は俺の言葉を聞くと同時に、顔色が変わった。

 何かを話したそうにしているが、何も言わない。

 

 そのまま、教室を去っていく。

 きっと家に帰るのだろう。

 

 

 

 

 漸く、安息を手に入れた。

 

 ここまで安心して落ち着ける時間は相当久しぶりのように感じる。

 

 ふと。

 

 思い返すのは、ビナーとの会話。

 

『貴方の力はこの世界の住人と対照的な性質を持ちます。世界の理に属さない力が危害を与える可能性は極めて高いと判断します』

 

 そう、告げられていたと思い出す。

 

 しかし、今のところ小鳥遊さんと会話していても特に問題はなさそうだ。

 

 この力は、今の所人に危害を与えることはないのではないか。

 直感的にそう思えた。

 

 

 それに。

 

 更に不可解な現象が起こった。

 

 

 彼女といると、()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 不思議だが、何か彼女の力だろうか。

 

 いい対応をされたかと言えば、そうではない。

 

 理由は、わからない。

 

 適当に教室の後ろの方の床に寝そべる。

 

 教室の窓から見える星は、輝いていた。

 

 もう少しだけ、生きてみてもいいと。

 

 そう思えた。

 




 閲覧ありがとうございます~

 人の心はそう簡単に変わりません。
 こんな簡単に変わったら誰も苦労しませんよ。
 特にホシノが。

 ちなみになんですが、枢くんの名前にもいろいろと仕込んであります。
 彩依の方はわかりやすいのでぜひ考えてみてください!
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