魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~ 作:Yuino
では、どうぞ!
――???
ふと、目が覚めるとそこは真っ白な世界だった。
今、俺は立っている。上下感覚は消えていない。重力はあるのだろう。
跳んだり、少し走ったりしてみる。運動した後に来る疲労感もある。つまり、ここはれっきとした”空間”だ。
「でも、ここはいったい・・・・・・?」
「目が醒めたか。少年よ」
ふと響いた声。俺はその声に反応するように振り返る。
するとそこには、先程戦っていた、しかし、そのときの彼とは明らかに雰囲気が異なる青年が居た。茶色の陸士部隊の制服を身に纏い、彼の背中には大きな朱色の槍。確か名前は――
「ジェイソン=バラク=フリーガー。アンタなんだな」
「あぁ。確かに俺は、ジェイソン=バラク=フリーガーだ。そして、先ほどまで戦っていた、ジェイソンだ」
こつこつとシューズを鳴らしながら歩く彼。彼は俺の隣までたどり着いてからそのまま通り過ぎ、再び振り向く。
「少し、歩こうか」
「……」
コツコツ、コツコツと音を響かせながら二人は歩みを進める。足音はまるで大理石を踏んでいるよう。ここが一体どのような空間にあるのか、聖にはついぞ理解出来なかった。
そんなとき、不意にジェイソンが向かい合う。それに伴って聖は足を止める。
互いの距離、約二メートル。会話するには近くも遠くもない、そんな距離。聖も、ジェイソンも、全く身構えずにただ立っている。
そんなとき、不意にジェイソンが口を開いた。
「何かと、迷惑をかけたようだな」
「迷惑ってモンじゃない。そう言っとく」
こっちがどれだけダメージ受けたと思ってやがる。そう俺は次いで言うと、ジェイソンはのどを鳴らしながらくくっと笑った。
俺は思わずハッとした。その表情は、どこか安らいでいるような、そんな感じ。
このとき、俺は察した。彼はあの鎌から解放された、そういうことなのだろう。
ジェイソンはのどを鳴らすようにくくっと笑い「まさにその通りだ」と一言。こいつ、今俺のこと思考を読んだ?
「アンタ、今のは読心術か?」
「表情から相手の思考を読む、というのは俺の得意技でな。これで何個かの事件を無血解決してきたんだぜ?」
はっはっはっと高笑い。まるで誇るかのようなそんな笑い方。そんな彼をみながら、俺は追求するように問いかける。
「一つ、聞かせろ。アンタ、あの鎌をどこで、誰から受け取った?」
「それがなぁ、申し訳ないことに思い出せないんだ」
「は・・・・・・?」
俺の問いかけに思い出せないと返され、きょとんをした表情をしてしまう。そして、俺は思考を巡らす。
すると、ついでジェイソンは「情けないがな」と言いながら頬を掻く。
「あの鎌について覚えていることは少ない。鎌はロストデバイス、名前は
「・・・・・・問題ない。それについては、見せてもらったからな」
そう言いながら、俺は左手に魔力を灯してみせる。
ジェイソンとの死闘の際、使用した禁呪。”フラッシュバック・インポート”。それで見えたのは、その大鎌を手渡す白衣の男性。それが解れば、小さな手がかりではあるが、それが解っているだけマシである。
それをみて、彼は「なるほど」と一言。理解してもらえて結構。読心術というのはやっかいなものだ。
魔力光を消してからもう一度向き直る。すると、ジェイソンは一度瞳を閉じてからちいさく、しかしはっきりと聞き取れる声で告げた。
「助けてくれて、ありがとう」
「はっ。別にアンタの為じゃない。俺は、俺のために、俺がやりたかったからやったことだ。気にするな。本当は――いや、なんでもない」
本当は、殺したくなんて無かったのに。別の方法があったんじゃないか、そんなことを考えていた。そう言い掛けた言葉を全て心の中に押し込める。
すると、ジェイソンは俺の声が聞こえているかのように笑う。そして「別の方法なんて無かったさ。あれが、最適解だったんだ」と言った。本当に、いけ好かない奴。思いながらも、俺は笑う。
再び俺たちは歩き続ける。コツコツ、コツコツと足音を鳴らしながら。
すると、数穂先を歩いていたジェイソンが不意に足を止める。思わず声をかけようと思ったが、視線を僅かにしたに下げると足を止めた理由が解った。
足が、消えていた。ゆっくり、ゆっくり。まるで霧が掻き消えるかのように、ゆっくり、消滅していた。
「おっと、もう時間か」
「時間?」
「この空間に、俺とキミの精神をつなぎ止めておくにはある程度の制限時間があってな。それが、もう限界というわけだ」
精神と精神と、つなぎ止める。それを聞いて、俺は手を伸ばしながら言う。
「そう、か。なら、ここでお別れだな」
「あぁ。いろいろ、すまなかったな」
「別に、気にしてない。だけどな――」
お前との戦い、心躍るものだった。そう一言告げると、彼ははっと驚いた表情を見せてから笑顔を見せ、そして真剣な表情へと戻る。
「お前はお前の信念を持って進め、佐々木聖。その信念が折れぬよう、上で見守っている」
ごうっ、と吹きすさぶ暴風。身体ごと後ろに吹っ飛ばされそうな風が空間を吹き抜ける。
必死に耐える。しかし、突如身体のふんばりが利かなくなったように上に持ち上げられる。それとほぼ同時に、ジェイソンの消えかけていた身体は全て掻き消え、光の粒子となって消えていった。
上へ上へ、吹き上げられていく間、俺の脳裏には消えていく最後のジェイソンの笑顔がしっかりと焼き付いていた。
――十一月。
あの事件から、数週間がすぎた。
とりあえず、俺は一度かかりつけの総合病院へ訪れ、負傷した目をどうにかしてもらいに行った。
まぁ、鋭利な鎌の先端が眼球に突き刺さった時点でどうにもならないだろうなとは思っていたが、まさにどうにもならなかった。
つまりは、失明。その結果、視界の半分を失う結果になってしまった。
本来なら、俺としてはこの時点で左目の瞼を縫いつけてしまいたかったのだが、後にこの目のことを美月や葵に話した結果、両者そろって「形だけでも義眼を付けておけば?」ということで、ぶすっとやっちまった目は手術で摘出し、今は形だけということでプラスチック製の義眼をはめている。
もちろん、左側の視界が完全に潰れている、というのはなかなかに厳しいことだが、日常生活に支障がない程度には慣れてきている。
しかし、この状態で剣を振るう、というのは俺自身拙いと解っているし、何せ雪風が現在使用できない状態にある。
雪風は、ジェイソンとの戦いの後、個人的にメンテナンスをかけてみたのだが、コアを覆っているフレーム部分もそうだが、コアの部分も破損ギリギリの状態だった。フレームの方は所々に亀裂が走っており、コアの方もこのまま戦えばすぐに破損してしまう、という状態にあった。
そのため、俺は雪風をコアである青い水晶のみを取り出し、ペンダントヘッドに取り付けて今持ち歩いている。フレームである刀へと変換しなくても自己強化魔法は使えるから問題はない。
結果、今はとりあえずこの案件は保留しておこうということになった。
そして今、俺は龍吉の家に来ている。ここにいるのは、俺を含め、龍吉、なのは、フェイト、はやて、そしてはやての守護騎士であるヴォルケンリッターの四人、合計九名である。
先ほど俺が到着し、龍吉がお茶を出してから数分ダベり、一息付いたところではやてが「さて、と」と切り出す。
「ものは相談なんやけど、二人とも、管理局に興味あらへん?」
「なんだろう、この後言われることが想像できたぞ龍吉」
「俺もだ聖」
はやてが驚きの表情を見せながら「想像できたんかーいっ」とキレの良いつっこみ。それを見せられて、なのはとフェイトは苦笑。ヴォルケンリッターの四人は「相変わらずだなぁ」というような表情。
こほん、と気を取り直すように咳払いをして、はやては表情をおちゃらけた先ほどのものからいっぺん、真剣きわまりない表情を見せる。それにつられるように、俺たちもまたきゅっと気を引き締め直す。
「聖君と龍吉君、二人とも持ってる力・・・・・・聖君はその魔力、龍吉君は異能、っていえばいいんかな? それを変に悪用したりしてなかったし、これからもそのつもりはないと思うんやけど」
「この先、何が起きるか解らないし、二人はまだまだ成長期。これから、魔力量も質も上がっていく中で、制御しきれなかったら大変でしょう?」
「「うぐっ」」
なのはの言葉を受け、俺と龍吉は同時に言葉を詰まらせた。確かに一理ある。俺の魔力量は、母親曰くこれ以上伸びは見込めないらしいが質は良くなるし、龍吉には
それを見て、フェイトはにこりと微笑んで話を戻す。
「だから、それを制御できるようにっていうのもかねて、管理局に入ってみない?っていうお誘いなんだけど」
「んー、確かにそれは」
「興味深い案件だけど、なぁ?」
龍吉が「どうするよ?」と言いたげな表情で見てくる。
まぁ、俺の答えは決まっているんだが、とりあえず聞いておこうか。
「管理局の医療施設だったら、俺のこの目、どうにか出来っか?」
「え、えっと・・・・・・シャマル先生?」
「ん~、ちょっと難しいかも。出来なくはないんだろうけど」
彼女曰く、目の修復は出来なくもない。しかし、その後永久に目が見えるようになっているかはわからない、だそうで。
それを聞いた俺は、光の失った左目に手を当てて思案する。
剣士としての俺は、おそらくこの左目がどうにかならない限り復活はならないだろう。だからこそ聞いたのだが、これはアテにならなそうだ。
俺は少し考えながら懐に入れていたケータイを取り出して開く。手帳型のケースに入れていたケータイ。ふと、モニターの電源をつけようとしたとき、ずいぶんと前にもらった、名刺大のカードが目に入った。
これなら、ここならもしかしてと思いながら、俺は「それじゃ」と一言呟いて真っ直ぐに正面にいるはやてへ告げた。
「俺、管理局に入るわ」
「ホント!? それじゃあ--」
そう言って、フェイトは俺の目の前にどさどさっと大量の本を積み上げる。だいたい百頁ちょいの薄い本だが、それもつもれば山となるわけで、俺の目の前には恐ろしい高さの本の山が出来上がっていた。
まさか、と思いながら俺は問いかけた。
「これ、管理局入局に必要な、テキストだったりする?」
「「「うん」」」
「まじかよ・・・・・・」
龍吉の絶望とした表情。俺自身、自分の顔を見ていないから解らないけれど、たぶんひどい顔をしているのだろう。
ちらり、と顔を上へ向ける。そこにあったヴォルケンリッターの四人。その四人の表情は、揃いも揃って同じだった。
『残念だが、あきらめろ』という、そんな表情。
「嘘だろ、おい」
「今回ばかりは手伝ってあげれないぜ俺は」
「んなこと分かってらぁ」
龍吉へと文句を言いながら、大きくため息。
「入局試験、といっても最初は嘱託。多少は簡単でも、試験は試験だからね。実施日は一ヶ月後。内容は、筆記、模擬戦、儀式魔法の三つ」
「儀式魔法は私。筆記はフェイトちゃん、模擬戦はなのはちゃんが先生受け持つで。ほな、気張ってこう!」
「あーい・・・・・・」
そんな情けない声を出しながら、俺の管理局入りへの道が始まったのだった。
――二週間後
そしてあっという間に時間は過ぎ、十二月になった。
相変わらず、毎日は過ぎていく。
完璧に冬服へと衣替えを果たした俺と龍吉は、一ヶ月と少し前と変わらない毎日を過ごしつつあった。
いつもと同じように学校へ行き、いつもと同じようにバカ騒ぎを起こし、いつもと変わらないように授業を受け、いつもと変わらないように帰宅する。
そんな日常サイクルに、管理局入局、もとい嘱託魔導師試験への対策授業が追加されたわけだが、それでも変わらない毎日だった。
「お、おい、これって・・・・・・」
「あ、あぁ、間違いない」
あくまでも、今日までは。
つい先ほどまで、いつもと変わらない日常だった。
美月と葵と共に家を出て、龍吉の家の近くで分かれ、入れ替わるように龍吉と合流。バカ騒ぎしながら学校へ向かい、道中の商店街で揚げ物屋のおばちゃんに「余ったから持ってきな!」と景気よくコロッケを三つずつもらい、ならばとばかりに向かいの総菜屋のおじちゃんが弁当一式を渡してきたりと、そんな騒がしくも変わらない日々だった。
「そういえば、”こういうの”もらうの、俺ら初なんじゃね?」
「確かに。校内外問わず大人気の聖龍コンビといわれていても、もらったことはなかったな」
「自分らで大人気って言うところ、龍吉って愛すべきアホだよな」
「何を言うか聖」
俺は、互いの下駄箱の中を凝視する。手に取ることすら緊張しているのか、若干延ばしかけた左手がふるえている。
だが、ここで止まっていては聖龍コンビの片割れの名が廃る!
「えぇい、ままよ!」
小さくつぶやきながら、俺は下駄箱の下半分、革靴を入れておく場所に置かれた横長の封筒を取り出し、音速もかくやな速度で鞄の中にぶち込んだ。龍吉も同様に鞄の中に押し込み、何事もなかったかのように歩き出した。
うむ、周りは気が付いていないが本当に動揺しているみたいだ。右手右足、左手左足が同時に前に出て歩いている。あれほど緊張、もとい動揺しているあいつは久しぶりに見るかもしれない。
まぁ、そんな風に冷静に分析している俺も、内心は冷静ではない。
俺はもう一度、ちらりと鞄の中にぶちこんだ”ブツ”へと視線を向ける。
そこには、女の子らしい丸みを帯びつつも丁寧な筆跡で『佐々木聖君へ』と書かれていた。
(俗に、は言わないが、これはあれだよなぁ)
一言で表すならばラブレター。古風に表現するなら恋文。英文表現するなら、Love letter。
俺は、人生初のそれを受け取り、これの処理に頭を悩ませながら教室へ向かうのだった。
冬が、始まる。
物語を加速させる、冬の恋の季節。
誰も予測していなかった、そんな季節が、誰とも知らずに始まったのだった。
次回から、少し日常回が続きます。
そして、新キャラも多数登場!
感想などもお待ちしております!
では、お楽しみに!