魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~ 作:Yuino
大変お待たせしました。ずいぶんと時間がかかったというか、あまり各時間が取れなかったというか、何というかですが。
とにもかくにも、13話、どうぞ!
「・・・・・・?」
不意に背筋を走る、ぴりぴりとした感覚。思わず足を止めてしまい、辺りを見回す。
しかし、なにもいない。
そんな彼を不思議に思ったのか、沙希は足を止めて不思議そうな表情を浮かべる。
「先輩? どうしたんですか?」
「あ、あぁ。ちょっとな」
気のせいか?そんな風に聖は思う。
しかし、確かに感じた、首元を何かでこすられたような、そんな違和感。それは、確かに感じた不審な感覚。
(何か、いるのか?)
そんなことを心に中でつぶやきながら、沙希に「行こうか」と告げ、一歩踏み出したとき・・・・・・
「――!?」
「え――?」
風景が変わっていた。
まるで、二人のいる空間だけ、時間が異様なほどゆっくり進んでいるかのような、不思議な感覚。
舞い降りてくる木の葉も、木枯らしに巻き上げられる埃っぽい何かも、すべてがゆっくりに進んでいる。そんな、異質な空間に、二人は閉じこめられていた。
「え、これ、なに・・・・・・?」
「沙希、俺から離れるなよ」
「は、はいっ」
それが、”誰かが張った結界で、閉じこめた対象が自分たち”であると察した聖はすぐさま警戒態勢に入る。沙希はきゅっと聖の制服の袖をつかみ、ゆっくりと歩みを進める。その間も、聖は警戒を怠らず、さらにはぎりぎり起動できる雪風を起動させ、救難信号を出しっぱなしにする。
そして、それから数分経ったとき、聖の表情が明らかに変化した。
「・・・・・・!?」
向けられた敵意。その方向へ振り返る。
そこには、ローブを纏い、フードをかぶった人物が聖たちのことをじっと見つめていた。
彼を見て、聖は沙希のことを背中に隠すようにして移動させると、そのまま構える。
フードの人物は全く動きを見せずに、そのままゆっくりと手を突き出す。すると、その手のひらから青色の光がぼうっと揺らぎ、それは一つの球体を生み出した。
(まさか、魔力!?)
聖の予測は的中し、フードの人物が形成した青い魔力は、一瞬だけ肥大するとそのまま超速で聖たちへ迫る!
しかし、聖はそれを自分の右手に込めた魔力でもって吹き飛ばす。
「沙希! 俺の後ろから出てくるなよ!」
「は、はい!」
沙希は頭を抱えたまま小さくうずくまり、それを確認した聖は両手を低く下げて広げ、そして首に提げてある雪風に一言告げる。
「雪風、コンタクトモード、いけるか?」
-それなら何とかいけます!-
キィィ、という高音が響き、聖の両手両足が一瞬だけ青白く輝く。それを見てなのか、フードの人物は少しだけ体を前へ屈め、両手を広げた。
瞬間、背後に広がるのは青い魔力球。その総数は三十以上。
それをみた聖は、一瞬だけ動揺するもすぐに気を取り直したかのように構える。両腕の青白い光がわずかに強く光り、臨戦態勢へと移行し――
「 」
その瞬間、無言のままフードの人物は背中に配した魔力球を一斉に撃ち出す。
それぞれの速度は速いとはいえず、むしろ普通の方。聖にとって、回避することは容易だ。しかし、それを今の状況が許さない。
彼の後ろには今、沙希がいる。下手に回避運動をとって、彼女が被弾してしまったら、何が起こるか分からない。
故に、今の聖に回避するという選択肢そのものが存在しない!
「雪風、コンタクトモードで絶対守護障壁はどれくらい展開できる?」
-せいぜい、二、三回が限界と言ったところでしょうか?-
「なら、十分だ」
彼はきゅっと拳を握りしめ、そのまま自分に向けて放たれる魔力弾丸をすべて両の手両の足でたたき落とし、逸らし、両断し、弾き飛ばしていく
。
「うおぉぉぉぉ!!!」
そして最後の一発を弾き飛ばし、聖は再びまっすぐフードの人物を見据える。
フードの人物は、すっと両腕をおろし、立ちこめていた敵意を霧散させた。そして、変声機でも使っているような、機械音と肉声が混じったようなくぐもった声を発する。
「まだ、目覚めていない、のか」
「何、どういう事だ……?」
警戒も構えも解かずにそのまま問いかける聖。そんな彼をあざ笑うかのように、フードの人物は右手を振るい、液体のようなものを周囲に落とす。
その液体は、コンクリートの上で僅かに蠢いたかと思うと、そのまま大きくふくれあがり、その一つ一つが人の形を造り上げていく。
そして、そのヒトガタはまるで聖たちに狙いを定めたようにぎゅるんと顔らしき部位を向けると、そのまま全速力で駆け出し、聖たちとの距離を詰め始めた。
「おいおい、なんだよコレはぁ!」
沙希を立たせ、そのまま手を掴んで走り出す。沙希はどうやら状況が把握出来ていないようで「え、え、ちょっとぉ!?」と慌てている。しかし、今の現状そんなことを気に留めてはいられない。
聖は耳に空いている手でイヤホンマイクをつけながらワイヤレスでケータイを通話モードへ移行。そのまま龍吉へと繋ぐ。
数秒後、ブツンという音をたてながら龍吉へと通話がつながった。
「おい龍吉!」
『言いたいことはよぉっく解るぜ相棒。もうちょっと待ってな? リイン嬢ちゃんお得意の探査魔法で……ほら出た!』
通話越しに響くポォンという音。おそらく、通話越しに聞こえたそれを聞いてから、聖は一瞬だけちらりと後ろを振り返る。後ろから猛烈な勢いで追いかけてくる黒いヒトガタ。
このまま走っていたら追いつかれる。そう思った彼は、頭を振って羞恥を振り飛ばすと一度足を止める。
急ブレーキをかけたせいで手を引いていた沙希は前へつんのめりそうになるが、それを支えて聖は少しかがみ「ちょっと失礼」といって彼女を抱き上げる。
この態勢は――
「はひゃぅ!?」
「しっかり掴まってろよ!」
俗に言う、お姫様だっこである。
その状況のまま、聖は全力で駆け出す。もちろん、彼女を抱えているため本当の”全力”ではないが、出せるだけの全力を出して一気に再加速していく。
とっさのことだったので、この状況、つまりお姫様だっこについて、今は意識するしない関係なく、聖は全く気にしていない。
しかし、する側の聖が気にしていなくても、される側の沙希は気にしていないわけではなくて。
(あわわわっ、お、お、お姫様だっ・・・・・・)
この絶賛非常事態にも関わらず、意識しっぱなしで顔を真っ赤に染めていた。しかし、それでも彼から振り落とされないように首に腕を回してぎゅっと掴まり、ついでに顔を赤くしているのも隠すため、顔を彼の胸に埋めているが、これがよけいに彼女の心拍数をあげる要因にもなっているかもしれない。
正直に言ってしまえば、死にそう。悶え死にそう。そんな風に思っている沙希だった。
「あー、もうっ、しつっこいなぁ!!」
しかし、彼女がそんな状況になっているとつゆ知らず、聖は後ろから全力で追走してくるヒトガタの方を向いて悪態をつく。
そして、一度ブレーキをかけてからヒトガタの方を振り向き、魔力を自分の前面に集中させ、言の葉を紡ぐ。
「――展開!」
パッ、パパッ、と光がはじけ、聖の前面に十の魔力球が展開される。
「――
展開された魔力球は十。それら全てに、均等に魔力を流し込んでいく。
もともと、近接戦闘と自己強化の魔法にしか才のなかった聖は、なのはとの訓練を行うことで、彼の固有魔法式であるカスミ式に新しく射撃魔法を追加することができた。
「――
彼の一言とともに、魔力球の光がよりいっそう輝きを増した。
そして――
「――
ガツン、という音が脳内で響きながら、身体の中の魔術回路が切り替わる。
近接戦闘及び自己強化主体の魔力回路から、新しく形成された中距離戦闘主体の魔力回路への、切り替え。
「――
正面に展開された魔力球が、ゆっくりと収縮しながら姿を変えていく。
幾つかの工程を経て完成するその魔法は、今現在彼の主武装である「刀」が使用不可能である、ということを前提において完成されたもの。
――君は今、刀が使えない状態。その状態で、格闘戦以外を強いられたとき、今は簡単な射撃魔法は会得できたけれど、その先はどうするか考えてる?
――そうだな。どうせだったら射撃魔法の威力より弾速をあげたいけれど。あ、そうか
本来なら射撃魔法に分類されないはずのそれは、彼女との訓練中、聖が思いつきで言い放ったとある言葉をベースに生み出された。
――いっそのこと、刀を魔力で作って飛ばしてみるか。
「
はじけた光から生み出されるのは、その数と同等の光の刀。彼の魔力光。
ヒトガタと聖たちの距離は、約十メートルを切っている。
「
パパッと弾けた光球すべてが光の刃となり、その切っ先がヒトガタへと向けられる。
距離はすでに必中距離。威力よりも速度と貫通力を重視したこれなら、いくらこのヒトガタの耐久力が高くても、数撃ち抜けば問題ない。
――ならば、放つべき時は、ここだ。
放たれる光の刃。その名は!
「――
『光の刃』!!
- 轟ッ! -
瞬間響く轟音。
視界の全てを潰すような光が彼の目の前で放たれる。
光の刃が一斉に掃射され、それがヒトガタに突き刺さり、切り裂き、斬り抉っていく。
現状両腕が使えず、イメージだけで光の刃を制御している聖。そして、彼の耳に再び彼の声が響いた。
『聖、誘導お疲れさま。あとは、彼女たちに任せな』
「・・・・・・おう、そうしてもらうよ」
彼のその言葉を口にした瞬間、ヒトガタへと降り注ぐのは金色の槍。
バチバチと電撃を纏ったそれは、ヒトガタの動きを完全に停止させ、そして彼女の一声で“動きを停止させる足枷”から“目標を殲滅する雷撃”へとその姿を変化させる!
「サンダー・・・・・・レイジ!!」
爆発とともに放たれる超質量の雷撃。
一つが雷撃を放つと、周囲の二つに連鎖し、誘爆。その二つがさらに周囲の四つに連鎖して、と無限に続くような連鎖攻撃がヒトガタを襲う。
その雷撃は一瞬で空間を埋め尽くし、ヒトガタ全てを一瞬で葬り去った。
「うっへぇ・・・・・・」
『おっそろしいな、フェイトさんの広域殲滅魔法は。んで、お前のお姫様は生きてるか?』
「えっと、あー、気絶しちまってる。でも、何か顔赤いんだけど、熱でもあるんか?」
『・・・・・・まぁ、そのことに関してはあとで大丈夫っしょ』
それじゃあな~、と最後の龍吉が言うと、ぶつりと通話が切れる。全く勝手な奴だと思いながら、聖はフェイトの隣へと並ぶ。
「助かりました、フェイトさん」
「無事そうで良かったよ、聖君。それにしても、あの人は一体・・・・・・?」
フェイトがバルディッシュを構えながら、正面のフードの人物を真っ正面に見据える。聖も、沙希を抱えたまま再び光の刃を数個展開して待機する。
そんな警戒態勢に入っている二人を前に、フードの男人物ゆっくりと右手を挙げてすぅっと指で空を切る。
すると、指で空を切ったところからぶわっと魔力があふれ、彼の身体をまるまる飲み込んでいく。
「彼女が目覚めるとき、また来よう」
「何言ってやがる! 待ちやがれてめぇ!!」
ギュンッ、と聖の一声で放たれる光の刃。しかし、それはフードの人物に届くことはなく、カァンという金属が跳ねる音が響くだけ。
目の前から忽然といなくなったその人物に、二人は疑問を浮かべることしかできなかった。
――龍吉宅リビング兼探偵社”花吹雪”事務所
気絶している沙希を送っていった聖を見送り、俺はリビングでむむむっと唸っている姉貴へと声をかけた。
「姉貴、聖帰ったぞ」
「えぇ。もう、これで四件目よ? 一向に減る気配が見えないわ」
バシーンと、聖の書いた簡単な報告書をローテーブルに叩きつけると「あーもーっ、どうなってるのよぉぉ!!」と女性らしからぬ格好――ぐでぇっとソファに寄りかかるような態勢で上を向き、大きくため息をつく。
「確かにこれで四件目。今回はひじりん、ついでに彼のお友達が狙われた。いよいよ、無差別っぽくなってきたなぁ」
「それでも、ある意味筋は通しているのよね」
「まぁな」
そう俺は言いながら、今までの被害報告書をもう一度見直し、その共通点を小さく口にする。
「異能保有者だけを狙ってる、のか・・・・・・」
「そうなのよねぇ。各地域で活動している異能保有者を、二日か三日おきに一人か二人ずつ襲う。これじゃ、何人いても直に全員やられちゃ・・・・・・」
そこまでいって、家のインターホンが鳴った。その瞬間、姉貴はまるで般若が美少女に変わったように表情を変え「はいは~い」と言って玄関の方へいく。
全く、一瞬で表情を変える人だなぁ、とか思っていたところだった。
「あら、あらあらあらっ。貴女達から出向いてくるなんて、久しぶりねぇ」
「――ん?」
そんなとき、玄関で姉貴が驚いたような声を上げた。
俺はその声が気になって玄関をリビングからのぞき込む。
するとそこには、意外な人物がそろっていた。
「ん、あら。龍吉君、お久しぶり」
短く切りそろえられた髪。小さく微笑んだその表情。柔らかく微笑んだその表情を見て、俺は思わず頬をつり上げて若干歪んだ笑顔を浮かべながら、彼女に向かって挨拶をした。
「げっ……んんっ、お久しぶりですね、泉子さん」
「あら、その反応は少し残念ね」
彼女――
リビングへと案内し終わってから、キッチンへと立って紅茶の準備を始める。そんな俺を、座ってじっと見ていた泉子さん。少ししてからその場で立ち上がったような、コトリ、という音が響いた。お手洗いかな、とか思いながら俺は茶葉を用意していると――
- 閃ッ! -
耳元を通り過ぎる白銀の刃。少しだけ首をかしげてそれを避けるとくるっと反転してそれの柄の部分を掴み取る。
放たれたのは、彼女の主武装である多節槍。三節棍と槍を組み合わせた、いわゆるチェーンランス。その先端。刃をつなぐ柄の部分をがっしとつかみ、俺はにこりと微笑む。
「さすがに、挨拶にしちゃあやりすぎでないんですか?」
「そうかしら?」
「そこを軽く聞いてくるところ、貴女も大概ですよね」
軽く呆れながら俺は泉子さんに槍の先端を投げ返す。彼女はそれを器用に受け取るとそのまま縮小し、小さなキーホルダーにして自分の青いジーンズのフックに引っ掛ける。
「まったく、相変わらず変わらないのね泉子。うちのかわいい弟に喧嘩ふっかけるのは、そろそろ止めて欲しいのだけれど?」
「喧嘩を吹っ掛ける? 貴女こそ、何を言っているのかしらね?」
「あのー、白熱しているところ大変申し訳ないのですが、いったん落ち着いてもらえると……」
テーブルを挟んで火花を散らしている女性二人に対し、俺は冷や汗を流しながら紅茶を持って行く。
俺の一言で何とか収まってくれるところ、なかなかこの人達は聞き分けがよくて助かる。
改めて紅茶を出し、彼女と対面して一呼吸置く。
名倉泉子。
この日本にいる、異能保有者を取り仕切る名倉家の当主。現時点で、日本にいる異能保有者の中では最強と歌われる人物。
肩まで掛かるほどのショートカット、そして愁いを帯びたようなぼうっとした表情が特徴的な彼女は、見かけによらず異様なまでに強い。
それが、先ほどの一発。気配を全く表さずに放つ、音速の一閃。そして、彼女の持つ異能『檻』から名付けられたのが、彼女の異名『棺の繰り手』。
「それで、今日貴女がここに来た理由。まだ聞いてなかったのだけれど?」
「そうね。言ってなかったものね」
紅茶を一口すすってから彼女は持ってきていた鞄から分厚い書類をぽんと俺たちの前に置いた。
「これが、今日の本題。貴女達に、この件に対しての協力を依頼します」
その書類のど真ん中に書かれていたのは『異能保有者襲撃事件の件について』と書かれていた。
「ふぅん。言っておくけど、私達はあくまでも一つの“会社”よ。ボランティア精神で動くわけ無いからね?」
「当たり前じゃない。報酬は、結果次第で考えさせてもらうわ」
「その言葉、忘れないでね?」
その書類を手にとってからそんな会話を交わし、姉貴は軽く中身を全て読み終えるとと少しだけ睨むようにして泉子さんを見た。
「此処が、また戦場になるのね」
「おいおい、マジか姉貴ぃ」
俺は思わずぐでぇっとなってしまう。
めんどくさいことになったな。そんなことを思いながら、俺は窓の外から赤く染まり始めた空を眺めたのだった。
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