魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~   作:Yuino

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 お久しぶりです。
 どうにもこうにも月一更新という悪循環になりかけているYuinoです

 今回、なんと二日連続投稿を予告しておきます!!

 その理由が、今回のこの16話後編と次の17話は同じ話に入れる予定だったのですが、思った以上に字数が増えてしまいまして、二日に分けて二話連続投稿という事になりました。

 ということで、どうぞ!


16:銃と紅蓮、光剣と岩剣(後編)

――公民館 大ホール

 

 肩で息をして、大きく深呼吸をしながら聖は両手に灯った青い光を一瞥し、目の前で瞳を大きく見開いて笑顔を浮かべている司を見た。

 

「光の刃の応用……起動句(スタートスペル)は、刃製(ブレードオン)、か……」

 

 大きく深呼吸してから、聖は右手を握り、それを真っ直ぐ司へ突き出してから――

 

――刃製(ブレードオン)

 

 脳裏に走った言葉をもう一度繰り返す。小さなバイブレーション音を響かせながら、右手に灯った魔力は長さ六十センチほどの刃へと姿を変える。

 右手で刀を握っているときのまま、右に切り払ってからそのまま肩へ持って行き、左手は防御姿勢、右は上段からの突きの構えへ。

 右手の光刃が動く度、小さくブゥンと昔見たSFもの超大作映画よく鳴っていた音と似た音が響く。

 刀ではないし、実体剣でもない。魔力がメインとはいえども、これは”刀剣”。だからこそ、ここからが――

 

「本気、というわけか。ならば私も全身全霊を以て、君の本気を迎え撃とう」

 

 聖の思考を先読みするような言葉を発してから、彼女――司は両腕を肩幅に広げ、魔力をそこへ収束させていく。そして、彼女もまた、彼女固有の起動句を紡ぐ。

 

――剣は我が声と共に

 

 ばちばちと弾ける彼女の魔力。彼女の希少技能である剣製(ソードクラフト)起動句(スタートスペル)が紡がれる。

 もう一度、あの岩剣が来るのか。そう思ってから身構えた聖。

 だが、その判断は間違いだった。

 

――雌雄の剣は、我が呼び声に応じ

 

 更に続けて唱えられる言の葉。

 それが虚空に消えた瞬間、司の両手に灯った魔力と、火花がさらに激しく散る。

 ゾクリと背中を伝う嫌悪感。すぐさま地面を蹴って司へと肉薄する。

 距離にして十メートル弱。すぐに距離を詰め、畳み掛ければまだ勝機はある。その思いを胸に、聖は右手の魔力刃を思い切り振り下ろす。

 しかし――

 

――今一度の顕現をここに!

 

 鈍くも高い金属音が鳴り響く。

 聖の振り下ろした光の刃は、彼女が交差させて構えた白と黒の片刃の剣によって受け止められる。

 

(鍔迫り合いに持っていけば――っ!?)

 

 それは、咄嗟の判断だった。

 一瞬の鍔迫り合いのあと、聖は自分の右側から飛んでくる白い刃を視界に捉え、鍔迫り合いから脱出してそのまま距離を取る。

 距離を取るのが僅かに遅れていたら。もしくは視界に入れることが出来ていなかったら。

 

(直撃軌道(ルート)だったじゃん。危ねぇ)

 

 下段へ。

 光刃の切っ先を下段へ向け、左腕は依然として防御の構え。

 攻撃よりも、どちらかといえば防御からの反撃に主軸をおいた構え。

 それを見て司は、両手に握った白黒の夫婦剣を消失させると、再びあの岩剣――天地断ち斬る翡翠の岩剣(イガリマ)を現出させ――聖を驚愕させた。

 

「私に本気を出させたのは、そういえばタケハヤ以来だな」

 

 片手で構えている。それは、今までと変わらない。それだけでも十分驚く。

 しかし、今はそれ以上に、聖は驚かさせていた。

 

「キミの嘱託魔導師試験、いや、”本局所属魔導師試験”の合格は、改めて今ここで私が決定した。だからここからは先は、私とキミの私的な戦いだ」

 

 何無茶苦茶なことを言っているんだ彼女は、と思いながらも、聖は攻撃態勢を崩さない。一瞬でも警戒をほどいたら、彼女が持っている”二刀”に吹き飛ばされてしまうから。

 

「私闘だからこそ遠慮はしない。いつか私の部下になるかもしれないキミだからな。私の本気を、今のうちにここでお見せしよう」

 

 身の丈以上の巨大な岩剣。右手に持っているのは先ほど真っ二つにして吹っ飛ばした、僅かな翡翠を交えた岩剣(イガリマ)が、無傷で再び展開されている。

 そして反対。”左手”に握られているのは、右手の岩剣と瓜二つな外見。しかし、右のそれと異なるのは、僅かに交わっているのが翡翠ではなく紅玉であるということ。うっすらと帯びた朱は、まるで揺らめく炎のよう。

 赤みを帯びたその岩剣は、右の岩剣とは(つがい)の岩剣。

 

天地断ち切る翡翠の岩剣(イガリマ)空海砕く紅玉の岩剣(シュルシャガナ)。ここまで披露して、全力を出さないまま終わるのは勿体ない。本気で――」

 

 その場でぐっと力を貯める。両手に握った巨剣の切っ先は地面に向けたまま。むしろ、巨大すぎて引きずるような格好になっているが、司は気にせずそのまま真正面、聖をキッと睨み付け一歩、二歩と踏み出して――

 

「往こうかっ!!」

「ぃいっ!?」

 

 バゴンッ、と地面を蹴り砕くような音が響いたかと思えば、すでに司は聖の真正面。彼女が持つ二振りの岩剣の攻撃範囲にいた。

 まるで瞬間移動のような速度。完全な不意打ちで聖へと迫った彼女は、右の岩剣(イガリマ)を振り上げるように斬りつける、否、叩きつける!

 体を大きく反らしてそれをギリギリ回避する聖。バリアジャケットを薄く切り裂く、否、吹き飛ばす一撃に改めて戦慄する。

 そこから反撃に移行しようと体勢を立て直そうとするも、既に左手の岩剣(シャルシュガナ)と、切り返した右の岩剣(イガリマ)が迫ってくる。

 それに対しては絶対守護障壁の十枚重ねで直撃は防ぐ。

 予測できたことだが、直撃は防いだものの、衝撃は凄まじい。聖はまるでボールのように大きく真横に吹き飛ばされる。

 

「ぐっ――かはっ」

「隙だらけだぞ、佐々木!」

 

 吹き飛ばした聖は壁に叩き付けられ、肺の中の空気を全て吐き出す。

 何度目かの硬直。これを逃すような司ではない。再び瞬間移動紛いの速度で急接近、そして再び両方の岩剣を大上段から叩き付ける!

 

「なっ、めるなっ!!」

 

 全体重を乗せて叩き付けられた両方の岩剣を、聖は正面に展開した守護障壁二十枚重ねで何とか受けきる。

 

「ぬっ、ぐぅっ――」

 

 完全に聖が押されていた。聖自身も、久々すぎるこの展開に頭が追いついていないかった。

 一振りでも恐ろしいほどの重量を持つ岩剣を片手で、しかも二刀流でそれらを携えている。元々ある程度の剣術の心得もあり、さらにこの試験に向けてそれなりに場数を踏んできた聖にさえ追いつけない速度でもってして攻め立てる司。ここまでの実力を持った人物に、聖は心当たりがほとんどなかった。

 

(生まれて始めての、強敵――いや、生まれて二人目か)

 

 そんなことを今更思いながら、正面で砕け散った守護障壁を見つめ、右手の光刃で一度、一瞬だけ攻撃を受け止めた後――

 

――短縮詠唱(ショートカット)

 

 左手を軸に展開した光刃で斬りあげる!

 司はそれに一瞬だけ驚きながらその一撃を受け流すように回避する。先ほど初めて出来た「片手に魔力を集中させて魔力刃を展開する」という行為を、少し使用しただけであっさりと両手使用を可能にした。

 これが才能というものか。そんな風に司は思いながらも、緊張感のある表情を変えずに笑顔を浮かべた。

 聖は、そんな風に笑顔を浮かべる彼女に対し、彼女の岩剣を軸に上に飛び上がるように回転。そのまま右斜め上からの斬撃を叩き込む!

 聖の放った右側からの斬撃に対し、司は右手に握った岩剣(イガリマ)でそれを冷静に受け止める。

 その一瞬のつばぜり合いの後――

 

「おおぉぉっ!」

「はぁぁっ!!」

 

 両者、怒濤の連撃!

 基本性能(スペック)の全てで聖を勝る司は、まさに暴嵐のごとく連撃で聖を追いつめていく。

 しかし、聖はその嵐のような攻撃の中を、いつかのマシンガンの銃撃の中をかいくぐったような素早さを以て回避し、攻撃を受け止め、正確に反撃を試みる。

 だが、それでもやはり司の方に軍配が上がる。徐々に聖の攻撃は司の岩剣にすら当たらなくなり、逆に司の攻撃は徐々に聖の身体を捉えるかのように彼のバリアジャケットを吹き飛ばしていく。

 

「くっ――そっ」

 

 何度目かの撃ち合いの瞬間、聖は自分の分の悪さを理解して両手の光刃を利用して魔力放出。光刃はなくなったものの、思い切り後ろに跳んで一時的に距離を離すことに成功する。

 

「逃がしはしないさっ!」

 

 しかし、それでも司は逃さない。

 ダンッと地面を蹴り、両手に岩剣を握っているとは思えない驚異的な速度で聖へと迫る。

 逃げられない。そう思った聖は、思わず左腰に手を伸ばす。そこには何もない。そう思った矢先だった。

 

 -チャキッ-

 

 確かに、金属のものを持った感覚があった。

 覚えのある感覚。

 ついこの間まで握っていた感覚。

 その感覚に従うがまま、彼はその柄に手をかけた。

 

「カスミ式。風神――」

 

 そのまま着地。

 双方間の距離は目測十メートルほど。

 一瞬で距離は詰められる。それも、先ほど以上の速度で。

 つまりそれは、聖が久しぶりとなるカスミ式魔法の絶技、『風神』を披露するということ。

 

「――シッ!」

 

 ダンッ、と地面を蹴って思い切り司へと肉薄する。

 すでに司は二対の岩剣を振り上げている。

 回避はおろか、通常の防御も間に合わない。

 ならば――

 

「天剣佐々木帝流、抜刀の型――」

「むっ――!?」

 

 蒼く光る魔力刃を伸ばした、一本の刀の一太刀にて受け止めるまで!

 

「麒麟!」

 

 司が大上段から振り下ろした二対の岩剣。それに合わせるようにして聖は横へ刀を薙ぐ。

 重みはあまり感じない。元々持っていた『雪風』や『彼岸花』と同じくらいの、自分にぴたりと合う重量のそれで、十八番の居合いを抜き放つ!

 

 -ガァァァァンッッ-

 

 瞬間響く轟音。

 絶技『風神』による運動エネルギーをそのまま斬撃へと乗せる、彼曰く突進居合い斬りである『麒麟』の威力は、ただ”振り下ろす”だけで床をぶち抜く大威力を発揮する二対の岩剣の威力を完全に相殺していた。

 

「なん、とっ」

「――フッ」

 

 そこからの聖は(はや)かった。今までも速かったが、それ以上に疾い。

 振り下ろされた岩剣を受け止めると、一瞬だけ力を緩め岩剣を軸に右へくるりと反転、岩剣を踏み台にしながら飛び上がってのまま司の斜め後方へと回る。

 

「天剣佐々木帝流、抜刀の型――」

 

 回転の勢いそのままに宙へ跳ねると、順手で握っていた刀を逆手に持ち替える。そして、そのまま大きく腕を引いて光刃を司の後頭部へと狙いを定め――

 

「な――ッ!?」

「――翡翠(かわせみ)逆式ッ」

 

 思い切り振りおろす!

 パカァンッという打撃音が響いた。

 後頭部、と言うよりも側頭部に近い場所に直撃し、司の身体がぐらりと揺れる。

 勝った。そう聖が確信した、次の瞬間だった。

 彼は、見てしまった。

 

「――ラァッ!!」

 

 瞳に光の宿っていない、黒く澱んだ彼女の瞳を。

 

「なっ!?」

 

 グルンッ、と体を捻りながら司が右の岩剣を乱暴に振り下ろす。

 その思っても見なかった攻撃に、聖は残りの守護障壁を全て費やしてそれを凌ぐ。

 障壁が一つ残らず砕かれる音が響いたと同時に、障壁展開の軸としていた左腕の真ん中あたりから、ビキッといういやな粉砕音が響いた。

 

(おいおい、マジか非殺傷設定の許容範囲を超えてきたよ)

 

 岩剣に吹っ飛ばされてから大きく距離をとり、左腕をダランと垂らしながら冷静に分析する。

 非殺傷設定とは、あくまでも相手の攻撃を受ける、もしくは相手に攻撃を当てても、それが身体の内外への損傷には至らない程度に攻撃威力を押さえる設定、という意味を持つ。つまり、どれだけ大威力の攻撃でも、相手に怪我をさせるレベルには至らず、せいぜい打ち身や打撲といったくらいに抑えられるのだ。犯罪者に対してそれを用いる場合、”魔力ダメージ(つまりは魔力攻撃による衝撃)のみでノックアウト”というえげつない方法で犯罪者を捕縛する人物も存在するように。

 つまり非殺傷設定の模擬戦とは、あくまでも模擬戦対戦者双方にほぼ

怪我をさせない、ある意味組み手のような”安全な試合”という意味合いを持っている。

 しかし、今の司の一撃は、非殺傷設定にしていながら、その設定の許容範囲を悠々と超えてきた。

 おそらく、というよりも当たり前だが、彼女に聖を殺すような気はないだろう。それでも、ほぼ無意識のうちに放った一撃が、設定の許容範囲を超えてきた。

 

「――ぁ、も、申し訳ない」

 

 ふっ、と意識を取り戻したように、司の瞳に光が戻る。

 おそらく、あの一撃は彼女自身予期していなかったものなのだろう。本気で”殺る”気で打ち込んだ一撃が、彼女の本当の実力を一瞬だけ引っ張り出してしまった。

 ぶるっと聖の背中に走る悪寒。その悪寒は、ある種の恐怖だった。

 彼女は「本気を出す」といっていたが、まだ見せていない底がある。そう彼に確信させるものだった。

 

「何はともあれ、さぁ、続きと行こうか!」

「あ、あぁっ!」

 

 司に促されるように、聖は刀を構える。そして、再び両者は周囲に火花を散らしながらぶつかり合った

 

 

 

――海鳴海浜公園 裏山

 

「ぁ――かはっ」

 

 あのタイミングで自分が叩き込める最大火力――『カノーネクスフィアス』を撃ち、相手――市川剛が自分に叩き込んできたバーニングクラッシュとぶつかり合い、弾け飛んだ反動でそのまま後ろに吹っ飛んだリーネは、自分の意識が一瞬だけ落ちていたことに今気がついた。

 

(やば、意識、落ちてた)

 

 寄りかかっていた木から身を起こし、自分の体の状態を確認する。

 外傷多数。バリアジャケットが守ってくれたとはいえ、Ⅰ度熱傷が相当数。あと、大問題なのが……

 

(残り魔力は、砲撃三発分。残りカートリッジは……四発か)

 

 ポケットから残った残弾全て入ったマガジンを纏めてクスフィアスモードのヘカートにリロードし、正面に立ちこめた土煙の中、魔力反応だけを頼りに索敵を開始する。

 

(――見つけた)

 

 相手は思ったより早く見つかった。

 同じようにダメージを受け、こちらの出方を探っているのか。正面に見える影は、ひょこひょこと右に左に揺れながらまるでアウトレンジボクサーのように距離をとりつつゆっくり迫ってくる。

 少しだけ、彼には似合わない慎重策。それでも、この一瞬を逃すほど、リーナは甘くない。

 

(いち、に、いち、に――よし、リズムは覚えた)

 

 タン、タン、タン、タン、と、影が左右に揺れるタイミングに合わせて、ヘカートの砲身を指で優しく叩く。

 タン、タン、タン、タン。一定間隔で刻まれる、メトロノームのようにリズムを刻み、相手のリズムと同調する。

 土煙の向こうの影に向けて、砲身を向ける。右、左、右、左、右と左右に揺れる影に対して、一瞬のタイミングを見計らい――

 

「ここっ――」

 

 トリガーを引く!

 ガァンッと砲音を響かせて放たれる高速魔力砲。ただ一発のそれの威力は、彼女の通常威力の砲撃に大きく劣る。

 しかし、それ以上に、この砲撃は速度に特化したもの。故に放たれた瞬間、音が遅れて飛んでいく。

 一瞬にして土煙の中へ飛んでいき、影へと進んでいく。しかし、土煙の中の剛は見えているのか、その弾丸をゆらりと身体を揺らして回避すると――

 

「はぁぁっ!」

 

 再び、両方のトンファーに炎を纏わせて突進してくる。

 姿勢を低くして突っ込んでくる。勢いに任せたこういう突進こそ、一番見切りやすい。しかし、それは速度が遅ければ、である。

 速度が速い剛の突進は、まさに平原を疾走し獲物を捕らえる肉食獣そのもの。殺気充分の突進は、一歩見切り損なえば一瞬にしてこちらの負けだ。

 しかし、それでもリーナはここで負けるわけにはいかない。だから、彼女は一つ、賭けに出てみた。

 

「――っ!」

 

 両足に残り少ない魔力を貯め、一瞬の後方確認ののち思い切り後ろに飛ぶ。

 案の定、剛は追いかけてくる。一直線(ストレート)勝負なら負けないというような表情を浮かべ、そのまま真っ直ぐ、更に速度を上げて突っ込んでくる。

 

(うん、そう来ると思ってたよ)

 

 リーナは左手をフォアグリップから離すと、そのまま空中に魔力球を展開し、それを楕円形の魔力弾へと姿を変える。

 瞬間、剛の表情が凍り付いた。

 ダァンッと思い切り両足を地面につけ、更に炎が煌々と灯っていた両方のトンファーを地面に叩き付けてブレーキをかける。

 

(しめたっ)

 

 剛の一連の行動を見てから、リーナはニヤリと笑みを浮かべた。そのまま、その魔力弾に左手を乗せ、横へスライド。すると、一定間隔を空けて魔力弾が五つ生成される。

 最後の最後まで取っておけた、リーナの切り札。魔力弾を一つの魚型水雷、つまり魚雷として一気に撃ち出す。通常の射撃魔法などと違い、誘導能力は殆ど無いものの、直撃すれば一撃で昏倒させる威力を誇るそれを、彼女は最大展開数の五つを展開し、そのままブレーキをかけながらも真っ直ぐ突っ込んでくる剛へ狙いを定め――

 

「これでッ!!」

 

 一気に撃ち出す!

 空気を裂くような音をたてながら五発の魔力魚雷は突き進んでいき、剛へと迫る。

 直撃もらった。そうリーナが思った、次の瞬間だった。

 

「舐めるなよ、リーナっ!」

 

 両手足をブレーキに使っていた剛は、次の瞬間爆発と共に大きく飛び上がった。彼のいた場所を魚雷は通過していき、その少し先で推進力を失い地面に着弾。

 後方へ飛んでいたリーナは、着地の瞬間にそれを見てぽかんとした表情を見せてしまう。唖然とした表情でそれを見ながら、彼女はブレーキをかけていた剛がどういう状況だったかを思い出した。

 

(両腕のトンファーの炎を起爆剤にして、跳び上がった!?)

 

 構えていた大砲をもう一度サブマシンガンの形に変形させてから、彼女はその照準を剛へ向ける。

 しかし、剛はまるでそれを読んでいたかのようにニヤリと口元をつり上げて、叫ぶ!

 

「アレス、加速制御装置(アクセラレーションリミッター)解除(リリース)! フル加速だぶちまけろ!」

-承知した-

 

 瞬間、剛は彼の魔力光と同じ真紅の炎の尾を引きながら、驚異的な速さで乱雑に移動を開始する。

 上下、前後、左右。まさに縦横無尽に飛び回るとツバメのように宙を舞う。

 その縦横無尽に動き回る剛をその銃口で追いかけながら、リーナはひたすらにその引き金を引き続ける。しかし――

 

(爆発を推進力にした高速突進(ハイスピードチャージ)。これじゃ、狙いなんか!?)

 

 あまりにも速すぎる高速機動。リーナの反射神経を悉く凌駕して剛は更に速度を上げていく。

 

「くっ――そこっ!」

 

 限界まで集中した状態で一発を放つも、剛が咄嗟に行った爆風による軌道変更で魔力弾ごと消滅させられてしまう。

 そして、爆風による再加速。一瞬でリーナの視界から彼は消え去る。

 

「な、どこっ」

 

 魔力反応を追いかけてリーナは周囲を警戒する。しかし――

 

「っ!?」

 

 その必要は無くなった。

 頭上約十メートル。その高さから、剛が炎を纏いながら落下してきていた。瞬間、彼女は悟る。

 

(迎撃は間に合わない。障壁(プロテクション)最大展開――)

(おせ)え!!」

 

 瞬間、剛がその劫火を叩き付ける!

 巨大な爆発に飲み込まれ、周囲は一瞬にして吹き飛んでいく。

 土煙が晴れた時には、変わらず両腕に炎を灯した剛がその場に無傷で立っており、ギリギリ障壁で直撃は防いだものの衝撃を受け止めきれなかったリーナは、離れたところに倒れ伏せ気を失っていた。

 気を失っているリーナを見ながら、剛はその場で右腕を大きく引いて構え、右の拳に魔力を集中、再度炎を拳に灯す。

 

「悪いな、リーナ。これも、依頼主(クライアント)からの申しつけでな――」

 

 瞬間、拳に灯った炎が更に巨大になる。直径約五メートルほどになったそれへ再び魔力を流し込む。

 そして――

 

「意識を完全に吹っ飛ばしてリンカーコアをまるまる抜きとらにゃいけねぇんだよっ!!]

 

 放たれる業炎!

 軍用火炎放射器などめじゃないというほどの火力を持った、まさに”火の球”。それが、周囲の障害物を飲み込みながらリーナへと迫る!

 しかし、その炎は――

 

――佐々木帝式剣術、手刀(てがたな)壱番

 

 唐突な横やりによって、霧散させられる。

 

「――八重桜」

「なっ――!?」

 

 直径五メートル強の巨大な火球。それが、一瞬にして霧散していった。

 驚きのあまり硬直する剛。その反応が当たり前だ。

 何せ、彼の放った火球を、横から入ってきたその男性は右手一本で霧散させたのだから。

 

「ふぅ、流石に”抜かず”だとこれくらいが限界かぁ」

 

 そこにいたのは、一人の男性だった。細身に体に纏われるのは薄汚れた青の着物。ぼさっとした散切り頭。どことなく幸薄そうな顔つきの男性が、頭をかりかりとかきながらそこにいた。

 火球を霧散させた右手は全くの無傷。常人ならそんなことできないし、常人じゃなくても多少なりとも右手に焼け焦げた痕などがあるはずだ。

 それが、その男性にはなかった。つまり、彼は常人じゃない、しかも、他の人より頭一つ抜けたレベルで、常人じゃない。

 そのことを悟った剛は、両腕のトンファーを構えなおす。

 

「おい、オッサン。横から入ってくるたぁどういう了見だ?」

「どういう了見もなにも、そりゃ自分の家の近くでこれだけドンパチやってたら目立つに決まってるじゃない? 何となく見に来たら、キミがその娘を吹っ飛ばしたところが見えてね、ついつい駆けつけちゃったところさ」

 

 あはは、と笑いながら彼はいう。剛は、ぎりっと歯を食いしばりながらも一歩だけ後退した。

 今の一瞬。彼が話している間に、ふつうだったら一撃入れているところだった。

 でも、それができなかった。それをやらせてくれなかったのだ。

 剛が一歩の動けないくらいの覇気。ただ立って、話しているだけで強烈すぎるほどの殺気を振りまいてくる。

 そんな彼に対し、剛がその”覇気の塊”に対し強引に突っ込もうとすると。

 

「――やめておけ、イチカワ」

「なっ――」

 

 剛の動きを制すように放たれた、低い男の声。驚く剛の前、つまり、剛と散切り頭の男性の間に、突如黒コートの人物が現れた。剛が着ていた黒いフーデットコートと全く同じものを着た、長身でガッシリとした体つきの男。

 

「何でだシャドウ!」

「そうか。お前はまだ知らなかったな。奴は――」

 

 刀神(とうじん)だ。そう黒コートの男がいうと、剛は先よりも驚いたような表情を見せ、刀神と呼ばれた男性も少しだけ驚いたような表情を浮かべる。

 

「へぇ、俺のこと知ってるんだ」

「そりゃぁ、こちらではもとより、あちらでも有名ですしね。刀神、佐々木京士郎の名前は」

「くくっ、そうかい」

「そうです。たぶん、この剛じゃ今は相手になりませんよ」

「それは買いかぶりすぎだ。でもな」

 

 その評価は嬉しいね。そう小さく言いながら、彼――佐々木京士郎は腰に差した”三本”の刀のうち、一番上に差している刀の柄に手を伸ばす。

 迎撃の態勢。京士郎はただその仕草のみで、彼らに訴えかけた。

 その評価を下すならば、その証拠を見せろ。無言で構えることでその人ことを告げる。

 つまり、撃ち込んでこい、ということだ。

 

「くくっ、面白(おもしれ)ぇ!!」

 

 それを見て、剛は黒コートの男の腕を押しのけて前にでる。そして、我先にと一気に飛び出した。

 互いの距離は十メートル弱。コンマ数秒で剛はその距離を詰めにかかる。前と変わらない、爆発を推進力にした高速突進。彼曰く、初見殺し。

 しかし、その初見殺しを前にして、京士郎は刀の柄に手を添え、小さく言の葉を紡ぎながら、引き抜く。

 

「――佐々木、抜刀」

「トージンだか何だか知らねぇが!」

 

 まっすぐ引き抜き、左、右、と刀に着いた血糊を払うような仕草をしてから、下段に構える。

 

「葬炎、点火」

 

 彼が引き抜いた刀。刀身はまるで鏡のように磨き抜かれており、わずかな太陽の光を浴びて、きらりと輝く。

 そして、瞬間その刀身に薄朱の色素が生まれる。

 

「佐々木帝式剣術、蒼天改式――」

「邪魔するなら容赦しねぇ!」

 

 剛がまっすぐに突っ込んでくる。右腕にまとった炎が膨れ上がり、それを思い切り振り上げる。

 それに合わせるように、京士郎もまた、腰溜めに刀を持って行く。

 そして――

 

「――葬天」

「食らいやが――!?」

 

 剛の右腕にともった巨大な炎が、京士郎の放った居合い斬り、そして居合い斬りと共に放たれたに”黒い炎”よって消滅させ、剛は思い切り吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた剛を見て、黒コートの男はあきれたように「やれやれ」と言ってからため息をつく。

 吹き飛ばされた当の本人は、空中でうまく体勢を整えて黒コートの横に舞い戻る。

 

「ったく、最近の若いのは血の気が多くてやだね」

「わかっただろう。今のお前じゃ相手にならんよ」

「なら、シャドウの旦那ならどうなんだ?」

「――さて、今日のところは引き上げるとしますか」

 

 剛の言葉を誤魔化すように彼の首根っこをつかむと、そのまま転移魔法を使用してその場を去る。去り際に、剛が京士郎に向かって「次は負けねぇからな!!」などという捨て台詞を吐いていたのに、たぶん京士郎は気がついていないだろう。

 二人がいなくなってから、京士郎は全くあわてることなく懐からケータイを取り出しどこかへと通話をかける。

 程なくして通話がつながり、スピーカーから『あら、キョウちゃん?』という少しハスキーな女性の声が響いてきた。

 

『海浜公園のドンパチ騒ぎはどうだったの?』

「あぁ。カレンの予想通り、噂の異能力者襲撃事件の件っぽい。一人、重傷、とはいえないけど、怪我人がいるから一応保護してウチに連れ帰るよ」

『了解。とりあえず、治療の用意だけしておくわ』

「ん、頼んだよ」

 

 通話を切って、彼は腰に差していた刀を近くの木に立てかけておいたバットケースの中にしまい、それを背負ってからリーナを背負う。それから、ここからどうやって家に帰ろうか、二分ほど考えることになるのだった。

 

 

 




と言うことで16話後編でした。

多少、ご都合主義的な感じも否めないところがつらい……

何はともあれ、感想等々お待ちしております
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