魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~   作:Yuino

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 恐ろしく時間が空いてしまいました。
 お久しぶりですYuinoです。

 新社会人としてばたばたしていたり、別で書いている一時創作の方がすすみが良かったりその他諸々の要因があって、だいぶ時間が空きました……(モウシワケナイデス)


19:目的へ向けて

――三月某日。

 

 桜の花びらが舞い散る日。

 聖や龍吉の高校で卒業式が執り行われた。

 厳かな雰囲気の中行われた式は一時間半に及んだ。龍吉は学内代表として答辞を担当していたが、特に何も担当していなかった聖は式の半分以上を寝て過ごしていた。

 それを見つけた沙希や楓は苦笑。弟の晴れ姿を見に来た美月は「しょうがない弟だなぁ」と同じく苦笑し、葵はケータイを鳴らして起こすという少々危険な手を取ろうとしていたのは、ある意味ご愛敬といったところだ。

 そして式が終わり、教室に戻った聖たちは高校三年間の思い出を友人達と語り合っていた。

 

「んで、聖は卒業後は外国へ行くんだっけか」

「おう。母さんのツテで、同じところで働かせてもらうことになってな」

「んで、龍吉は旅にでるお姉さんに変わって探偵社の所長だっけ?」

「勝手な姉に困ったもんだけどな。まぁ、何かあったら、うちに連絡してくれよな。出来る限り力になるぜ」

 

 わいわいとにぎわう教室。その中でも、やはり涙ながらに語り合っている人もいる。

 こいつらとも、これでお別れか。そんなことを考えていたときだった。

 

「佐々木くん、お客さんですよ~」

「ん?」

 

 教室の出入り口で、クラスメイトの一人が手招きしている。

 確か、新聞部の部長だった妹尾珠稀だったか。彼女が作る校内新聞はかなり評判がよく、それを楽しみにしている教師もいたとか何とか。そんな彼女の表情は、校内でもよく見かけた「スクープ発見!」というわくわく顔というか、そんな感じだ。

 教室の扉までいくと、妹尾が自前の僅かに赤みを帯びた黒髪をひょこひょこ揺らしながら「佐々木君もスミに置けませんね~?」とかいう。

 なんのことだ、と疑問を浮かべながら扉の向こう側をみると、そこには

 

「せ、先輩。ご卒業、おめでとうございますっ」

「ますっ」

 

 顔を赤らめながらぺこりと一礼し、笑顔を浮かべる沙希と楓の姿があった。

 

 

 

 その後龍吉と合流した聖は、沙希と楓をつれて学校の屋上にきていた。もう来れない場所だから、といって、龍吉が職員室から屋上の鍵を借りてきたときは驚いた。でも、彼ならこれくらいのこと簡単にやってのけるだろうと思っていたのもまた事実。

 屋上を吹き抜ける風を受けながら、聖はフェンスに寄りかかる。龍吉も同じように、隣でフェンスに寄りかかった後にそのまま座り込む。

 

「制服、汚れるよ?」

「んぁ、いいよ。今日で着納めだからな。存分に汚して帰ってやらぁ」

 

 全く気にしていないように、にかっと笑顔を浮かべる龍吉。そんな彼に呆れながらも笑顔を絶やさない楓。

 適当な奴だと思いながら、聖は買ったスポドリに口を付ける。そして、隣で空を見上げていた沙希が唐突につぶやいた。

 

「本当に、行っちゃうんですか?」

「あぁ。明日、出発の準備をして、来週にはな」

 

 ぐい、とスポドリを飲み干して、ゴミ箱に投げ入れる。かこん、という乾いた音が、静寂の中響いた。

 それと同時に、沙希が聖に抱きついた。抱きついた、というよりも飛びついたような勢いで抱きつき、聖をよろめかす。

 

「さ、沙希――?」

「――って、ほしくないです」

 

 言葉の頭がとぎれる。もう一度聞き直すために、口を開こうとした聖を遮るように、沙希が彼をまっすぐ見つめて、涙混じりに言った。

 

「本当は、行ってほしくないです。私の知らないところでいなくなっちゃうなんてイヤなんですっ、だから、だから――」

 

 ぎゅっときつく抱きしめ、そのまま見上げる。そして、聖が思いも寄らなかったことを口にした。

 

「――私も、あっちに連れてってください」

 

 幾度目かの静寂。少し離れたところで見ていた龍吉と楓も、聖の言葉を固唾を飲んで待っていた。そして、数拍の間のあと、聖が口を開く。

 

「流石に連れて行くことは出来ねぇって」

「デ、デスヨネー」

 

 シリアスな空気をぶった切るように言った聖の一言に、思わず沙希も口調がどこか崩れてしまっていた。龍吉と楓もそれは同じようで、まるでお笑い芸人のリアクションのようにがくっと崩れ落ちている。

 そして、「まぁなぁ」とややあってから聖がもう一度口を開く。

 

「当たり前じゃねーか。お前、まだ二年だろうに」

「そういうことなんですか!?」

 

 うがーっ、と吼えるように言う沙希に対し、聖は「とりあえず落ちつけって」と言いながらストローの刺さったオレンジジュースのパックを突き出す。それを受け取って、どこか釈然としない表情の沙希を見ながら、「さぁて、なんて言おうか」と少し考えるような表情を浮かべてから、少し困ったような表情を浮かべて言う。

 

「とりあえず、きちんと沙希が卒業してからだ。そうしたら、同じ場所に連れてってやるから。それまでは待ってろ」

「むぅ……分かりました。でも、待てなくなったら、すぐに追いかけに行きますからねっ」

 

 んなむちゃくちゃ言ってんじゃねぇよ……

 そんなことを思いながら、抱きついている沙希の頭を優しく撫でたのだった。

 そして、ふと数日前の京士朗との会話を思い出していた。

 

 

 

――数日前、佐々木家。道場最奥

 

「おい待て親父。ここはどこだ」

「どこって、道場のいっちゃん奥だけど?」

「一番奥、とは言ったけどさぁ」

 

 瞬間、室内に聖の声が響いた。

 

「道場の一番奥とはいえ、ここまで広いわけねぇだろうがぁぁ!?」

 

 聖のツッコミはもっともである。

 何せ、道場の最奥にしては広すぎるのだ。

 そして、『モノ』が多すぎる。その『モノ』も、ある意味問題なのだ。

 

「おい、親父。この刀、三日月宗近(みかづきむねちか)か?」

「おぉ、懐かしいなぁ。俺が初めて受けた依頼で回収したやつだな」

「どんな経緯で天下五剣の一振りがうちにあるんだよ……」

 

 この道場奥の蔵にあったのは、無数の武具。しかも、それ一つ一つが業物で、「幻の」とか「伝説の」とか、そういう冠詞がついていておかしくない代物ばかりなのだ。

 まさか、と思いつつ、聖は問いかけた。

 

「親父。まさか、こいつら全部が……」

「古戦武装。一応、俺が全部任務関係で回収した奴だ」

「これが、全部……」

 

 聖がそう呟くのに対し、京士朗は「んで、古戦武装の意味だったか」と言いながら、手袋を着けてから一本の刀を手に取る。

 

「古戦武装、っていうのは、正直読んで字の如くだ。過去、大きな戦いの場にあり、多大な功績とか戦績を残した武人の武器防具を神格化して言ったものだ。例えば、この刀は?」

 

 京士郎がその刀と、手袋を聖に手渡す。それを着けてから、聖は刀を受け取る――

 

「――ッッ!?」

 

 瞬間、背筋が凍り付く悪寒を覚えた。

 思わずその場で手放しそうになるが、それをぐっと堪え、ゆっくりと鞘から引き抜く。僅かに見えた、銀色に輝く刀身。吸い込まれそうなほど磨き抜かれたそれは、まるでこれを見たものを取り憑かせようとするほど。

 しかし、聖はその刀身の美しさなどに見向きもせず、勢いよくそれを引き抜く。

 ほんの赤みを帯びた銀色の刀身。その朱は、刀身を染める「飾り」ではなく、明らかに外的要因で染まった紅。

 

「この赤、血液……やはり、この刀は――」

 

 くるり、と刀身を裏返す。そこに彫り込まれた一文。それは「一撃必滅」。その一文を見て、聖は察する。この刀の銘を。

 

「千子、村正――」

「そう。徳川家により『妖刀』と名付けられたそれは、俺が回収した二十年前でも、その力を遺憾なく発揮したよ。それは、古戦武装の一つ『一撃必滅・千子村正』だ」

 

 聖から刀――千子村正をひったくるとそのまま鞘に収めて再び刀掛けに戻す。すると、村正は澱んだ瘴気か、邪悪なオーラのようなものを放ちながらそこに落ち着く。ふぅ、と一息つくと京士郎はその散切り頭をがしがしとかきながら「古戦武装はな」と前置きして話し出す。

 

「管理局側からすればただの『ロストロギア』。でも、俺とか龍吉君のような異能保有者からしたら最強無敵の切り札(ジョーカー)だ」

 

 魔導師とも対等に渡り合えるんだからな、と付け足して京士郎は周囲を見渡す。そして、どこからともなく取り出したイスに腰掛けると、そのまま話し出す。

 

「んで、ついでに話しとこうか。俺が、死んだことになってた理由」

「唐突すぎだが・・・・・・まあ、話してくれるなら聞こうじゃないか」

 

 聖も、いつの間にかあったイスに腰掛ける。向かい合うようにして座ったのを確認してから、京士郎は「さて、まず結論から話そうか」といきなり切り出した。

 

「俺が死んだことになっていた理由だがな。端的に言えば、狙われてたんだ」

「は?」

「だから、ある意味一回死んでいた方が狙われずに済むからな」

「おいおい……」

 

 素っ頓狂な声を上げる聖。その反応が当たり前だよな、というような表情を浮かべる。そして、懐から一枚の写真を撮りだし、聖に差し出す。

 そこの写っているのは、長身の男性。金髪に、白いスーツ。ワイングラスを片手に、写真から見切れている人物と挨拶を交わしているようだった。眉目秀麗なその容姿に惹かれてなのか、周囲には美人の女性が多く群がっているようにも見える。

 

「狙われてたって、この写真の男に?」

「そういうことだな。こいつ、表向きは古美術商を営んでいるんだが、その裏でどうにもゲスい事をやってたみたいでな。そのとき手に入っていた情報によると、古戦武装を保有している、とか言う噂があってな」

 

 その武装がこれだ、というように、もう一枚の写真を見せる。

 その写真には、遠目で先ほどの男が写っていた、そして、その男の周囲には、いくつもの武装が囲うように浮遊していた。

 槍、弓、斧、短剣、杖、籠手、剣、刀、琴、そして銃。数にして十、そして、そのどれもが黄金に輝いる。

 聖は驚きを隠せなかった。今までに見てきた古戦武装やロストデバイスの中でも、頭一つ飛び抜けて『やばい』と感じるほどに。

 

「これも、古戦武装なのか……?」

「あぁ。名前はまだ不明だがな。ただ一つ分かってるのは、この古戦武装の使い手の名前。彼の名前は、キース=バルザック」

 

 父が告げたその名前。それは、聖の脳にしっかりと焼き付いていた。

 

 

 

――卒業式当日 夜

 

 卒業式が終わり、聖君と別れた私は、夜に何となく散歩に出ていた。

 いつも通り、ヘッドホンから聞こえるピアノ曲に合わせて歩を進める。いつも通りの、夜の道。

 でも、一つだけ違っていた。

 

「――また」

 

 くるり、と振り向く。しかし、そこには誰もいない。

 左右を見回す。歩いている場所は、近所の森林公園へと続く一本道。周囲には、何もない。

 上を、下を見回す。しかし、当たり前ながら何もない。見えるのは、上は薄闇に包まれたような星空。下は無機質なコンクリート。

 ふ、と前を見ると、何時しか森林公園の入り口にたどり着いていた。公園の広場までの大通り、等間隔に設置された明治風の街灯。夜に来ると、幻想的な空間に見えていたのに、今日に関しては異常なほど不気味だ。

 ぐ、と拳を握りしめたまま。私は一気に駆け出す。

 公園の奥へ、奥へと進む。私の駆け足の陰に隠れるように、たっ、たっ、たっ、と足音が響いていた。

 そして、視界が一気に開ける。森林公園の中央。昼間なら、多くの人で賑わっているここも、夜では月明かりに照らされ、うっすらと闇に包まれている。

 そして、私はきゅっと反転。後ろを振り返ると、そのまま叫ぶ。

 

「いい加減、姿を隠すのは辞めたらどう。ストーカーさん?」

 

 自分でも信じられないほど冷静だった。

 身を守るものなんて、なにも持っていないのに。

 自分が、何と対峙しているかも分からないのに。

 不確定要素が満載なのに。

 自分は、今この現状の中にとらわれていても、冷静そのものだった。

 

「流石は古戦武装(エンシェント)保有者(ホルダー)。この程度の気配断絶では、すぐに勘づかれるか」

 

 その声とともに、ぼわっと煙のようなものが立ち上り、そこから一人の男性が現れた。

 金髪。整った顔立ち。遠目で、且つ夜闇であっても分かるほど眉目秀麗な男性。ホストのような真っ白なスーツを身につけており、その所為か、彼の周りだけ輝いているように見えた。

 彼の登場に、思わず私は身構えた。

 急に現れた、と言う意味もある。ただそれ以上に、私の直感が告げている。この男は危険だと。

 身構えた私を見て、男はくっくと喉で笑う。そして、彼もまた、構えた。

 

「おお、怖い怖い。でも、生身で私に刃向かおうなど……」

 

 ぐっ、と地面を踏みしめて、目の前の男は膝を僅かに折り――

 

「数十年早いんじゃないかな!?」

 

 一気に距離を詰めてくる!

 速い。私が男に対しての感想はただそれ一つ。

 それでも、私の体は自然に動いていた。目の前の男の突撃を、迎撃するために。

 

「……シッ!」

 

 軽く足を踏み込み、真っ直ぐに拳を放つ。知識では知っていたそれを、こうして実戦で放つのは初めてだ。

 それでも、何の迷いもなく、何の躊躇いもなく。ただ真っ直ぐに、それを放った。

 不意打ちになったのだろうか。思わぬ攻撃に男は右へと飛び退いた。そのために生まれる着地の隙を、私としては逃す気はなかった。

 男が飛び退く動きに少し遅れるようにして右へ踏み込み、狙いを定めて左の拳撃。しかし、それも直撃寸前で男に受け流されてしまう。

 とんとんっ、と間合いを取るように男は下がる。私は、男と正対するように向き直ってから再び構える。

 ぎゅっと、拳を握りしめる。仄かにそして、小さく呟いた。

 

「猛れ、猛れ、六界を統べる覇具よ。汝が撃を以て眼前の敵の一切合切を討ち倒さん。砕世の時に、我が名を知らしめせ。そう、汝が名は――」

 

 ゴウッ、と自分の周囲が唸るように衝撃波が走る。そのまま拳同士を撃ち合わせ、正面を見据える。

 

「神崩拳、神威!」

 

 瞬間、私の腕を覆うようにソレは現れた。

 一言で言うならば、それは籠手だ。ただ、普通の籠手ではないし、私の知っている籠手でもない。

 それは、闇夜を切り裂くような黄金に輝いていた。

 がづん、とそれを打ち合わせて、構える。ボクシングとも、空手とも、レスリングとも言えないような、そんな構え。その私を見て、目の前の男は口角が上がり、「わが意を得たり」というような表情を浮かべる。そして、両手に赤い光をともし、そこから光の剣のようなものを二本生み出し、構える。

 

「キミの持つ力、私が再びいただこう!」

「よくわからないけど、変人は吹っ飛ばします!」

 

 その場を思い切り蹴り、一気に男へ突っ込んでいき――

 

 

 

――三月下旬 夜

 

 卒業式の日の夜。沙希が消えた。

 そんな連絡を受けたのは、式が終了してから三日経った時だった。

 状況不明、詳細不明。そのすべてが不明のまま、彼女はいなくなった。

 そして、「いなくなった」ということに付け加え、彼女が「存在した」という事実すら、消滅していた。

 クラスメイトの名簿からも、彼女の名前が消えていた。彼女の家族、友人、そして彼女にかかわったすべての人から、彼女の存在が消えていた。

 しかし、俺や龍吉、そして高町達のような、魔導師や異能保有者といった特異な存在は、記憶から飛ぶことなく、彼女がいなくなったことを記憶していた。

 縁側で月を見上げながら、俺は考えていた。

 誰が、なんで、彼女を連れて行ったのか。

 なんとなく予測はできていたけど、本当にそれが起こってしまうとは、思ってなかった。でも、それが可能性のひとつであるならば、俺は動かなくてはいけない。

 その場で立ち上がると、俺は道場へ向かう。

 恐ろしいほど静かな三月の夜。月明かりに照らされる道場へ入ると、その中央に一人、正座して待っていた。

 白髪交じりの散切り頭、細くもしっかりと筋肉の付いた体つき。身にまとった薄墨色の年季の入った着物。彼の前に置いてあるのは、白銀に輝く刃。

 俺が入った気配を感じ取ったのか、彼――佐々木京士郎は閉じていた目を開くと、いつもののほほんとした雰囲気はなく、凛と張り詰めた空気が道場内に駆け巡る。

 

「来たぜ、親父」

「約束の時間ちょうどだな」

 

 その場で立ち上がると、京士郎は目の前の刀を手に取ると、構える。彼を見て、俺もまた構える。格闘戦特化の、現状いま俺が一番戦える構え。

 じり、と草履が道場の床を滑る音が響く。それと同時に、俺は床を思い切り蹴りぬいて親父へと肉薄する。左足で一歩踏み込み、そこからもう右足で踏み込んで、上体をほぼ動かさずに前へと突き進む。

 ゼロ距離。それは、今の俺にとっても親父にとっても必殺の距離。何のためらいもなく、俺は拳を叩き込む。そして、それを交差させるように、親父は刀を振り下ろした。

 ぴたりと俺の首元で刃が、親父のみぞおちで掌が停止する。数秒停止してから、俺は手を下ろし、親父は刀を収め、改めて元の位置へと戻る。

 

「覚悟は、出来たんだな、」

「出来ていなかったら、親父とこうして一瞬でも本気の手合わせしてないからな」

 

 再び正座して向き合う。すると親父は、後ろから一つの刀を引っ張り出すと、それを俺のほうへ差し出した。

 その刀は、何度も見たことのあるものだった。

 薄紅色の柄に、そこから伸びた同じ色の帯。我が家に伝わる脇差、鬼灯(ほおずき)だ。親父が昔から使い続けた刀。そして、親父の相棒でもある刀だ。

 

「こいつをお前に託す」

「いいのか? こいつは、親父の――」

 

 言いかけると、親父は収めていた刀を一瞬にして抜き放ち、俺の首元へ持っていくと寸でのところで止める。音速の剣閃。まさに「目にも止まらぬ」という言葉が一番似合う剣速。首元で止められ、冷や汗が出る。

 再び刀を収めると、親父は「別に気にしないさ」と言う。

 

「お前がやりたいこと、やるべきことのために、この刀は必要だ。だから、お前が持っていけ」

 

 そう言うと、親父はそのまま道場を出ていく。

 道場に取り残された俺は、そのまま一人、道場で夜を明かした。

 

 そして翌日――俺は、地球を出発した。

 

 

 

―――三月下旬 とある管理外世界

 

「ここでもなかったか」

 

 そう呟くと、彼は手に握っている槍を地面に突き立てる。崖上で嵐のような風に吹かれながら、眼下の草原を眺めていた。

 しかし、眺めている草原は普通の草原ではなかった。

 眼下の草原、その一帯が真っ赤に染まっているのだ。草も、木も、地面も、何もかもが真っ赤に染め上げられていた。そこに倒れ伏せる、大量の人のような生き物たちと、その中心で倒れる巨大なドラゴンの血で。彼が身に纏う紅色の軽甲冑と真っ黒いマントも、返り血でところどころ赤黒く染まっていた。

 ぶんっ、と手に持った槍を一振りし、穂先に付いた血糊を払う。そして、その場から立ち去ろうと一歩踏み出して――

 

「待ちなさい」

 

 呼び止められる。黒髪で凛とした表情の彼女――早乙女司は、彼の後ろから呼び止めた。いつの日かのスーツ姿ではなく、武道家の胴着にわずかな甲冑を取り付けたような服装で、彼女はその場にいた。

 声に反応して、青年はチラリ、と司のほうを見る。真黒な闇に沈んだような、淀んだ黒い瞳。傷だらけの顔。地面に突き立てた槍を引き抜くと、青年はマントのフードを深くかぶると槍を構えて司のほうへ向きなおる。

 マントを深くかぶっているせいで、その表情はよくわからない。ただ、司が分かることは一つ。彼は今、自分に対して敵意を持っていると。

 その敵意を感じ、司は両手に光を灯し、唱える。

 

――剣は我が声と共に

 

 光とともに現れるのは、巨岩の剣。天地断ち切る翡翠の岩剣(イガリマ)を片手で構えると、司はいつもと変わらない表情で彼に告げた。

 

「ここのところ、いろんな管理外世界で違法渡航とか騒乱を起こしているの、貴方ね?」

「だから、なんだ?」

 

 マントの男は不愛想な声で答えると、思わず司はあきれた表情になってしまう。不愛想を通り越して無関心といったような感じだ。もうちょっといろいろ聞きたいところだが、これは聞けそうにない。そう判断した彼女は、その場に岩剣を突き立て、ゆっくりと青年の周辺を回るように歩きながら、ずばっと確信をつく。

 

「まぁ、確かに? 最近いろんなところに出没している『アレ』や、あれのリーダーらしき龍を倒してくれるのはスゴイ有り難いんだけど、騒がれるのかだいぶ困る。だから、事情とかを話してくれるのであれば管理局(こっち)も協力できる――」

「断る」

 

 彼女の言葉を一蹴し、青年は手に持った槍を突き出す。まさに音速の一撃のそれが司の髪を掠めていくと、彼女はくるりと反転しながらそのまま岩剣を回収し、構える。

 まさに一瞬ですかいな。そんな風に思いながら、司は岩剣を腰だめに構える。それを見て、青年もまた、槍を構え直す。

 先に手を出したのは、やはり青年のほうだった。一歩だけ踏み込むと、そのまま連続の刺突。防御箇所を絞らせない、広い範囲への刺突。点の攻撃である槍の刺突でも、攻撃範囲が広ければ広いほど、ガードが難しくなる。その攻撃の意味を、理解しての連撃。それに、司は今まで以上に苦戦していた。

 青年の攻撃の合間を縫って、司も攻めを叩き込んでいく。しかし、その攻撃も当たる気配が全く見えない。すべて受け流され、回避されていく。

 

(何、こいつ。私の動きが、攻撃が、見えているというのか?)

 

 一度退くと、司は天地断ち切る翡翠の岩剣(イガリマ)を地面に突き立てると再び詠唱に入る。

 

――剣は我が声と共に

 

 光が再び手に灯る。その色は、緑と赤。

 

――雌雄の剣は、我が呼び声に応じ

 

 両手に生まれる、ボロ布に包まれた武骨な岩の柄。

 

――汝らが力の顕現をここに!

 

 そして生まれる。巨大な、紅玉の岩剣。天地断ち切る翡翠の岩剣(イガリマ)空海砕く紅玉の岩剣(シャルシュガナ)を展開した司は、双方を片手に持って構える。それを見ると、青年はまるで驚いたような表情を浮かべた。司には、そう見えていた。マントの向こうに見えた口元が、僅かに驚いたような風に動いたからだ。

 周囲の空間ごと引き裂きそうな勢いで二本の岩剣を振り回しながら、司は青年へと斬りかかる。周囲の空間ごと吹き飛ばす斬撃を撃ち込んでいく。

 空気が薙ぎ払われていく。まさにそんな感覚を覚えながら、青年は彼女の連撃を回避していく。

 嵐のような連撃。攻撃を重視し、防御を捨てた。そんなスタイルの攻撃に、青年は防戦一方となっていた――が。しかし、その中で青年は攻撃の一瞬の隙を縫い――

 

「甘いぞ、ツカサ――!」

「――!?」

 

 小さくツカサの名前を呼ぶと、そこから思い切り石突の打撃から切り払いのコンビネーションを叩き込む。不意に名前を呼ばれたことに驚いた司は、ガードが緩くなった空海砕く紅玉の岩剣(シャルシュガナ)を砕かれ、さらにそのガードの先にあった天地断ち切る翡翠の岩剣(イガリマ)へヒビが入り、大きく吹き飛ばされる。体制を空中で立て直しながら司はなんとか着地すると、そのまま大きく後退していく。

 肩で息をしながら、司は嫌な雰囲気を覚えていた。こんな雰囲気、こんな場面を、彼女は記憶していた。自分の本気の攻撃をことごとく回避し、そしてその隙間を掻い潜って一撃を与えてきた、そんな場面を。

 記憶をたどりながら、彼女は両手の剣を消してからもう一度構えなおし、ゆっくり、記憶の中にある彼の名前を呼んだ。

 

「まさか――呉、なのか?」

「応える義理は、ない」

 

 くるりと背を向け、呉と呼ばれた青年は槍を消すとそのままゆっくり歩きだす。

 

「待て、呉! なぜお前はこんなことを――!?」

「司。お前は思ったことはないか? 自分の本当に守るべきものは、何なのかって」

 

 何を言っている。そう言葉を発する前に、青年は自分の背中に巨翼を生やし、ゆっくりを羽ばたきを始める。本来、滑空に適しているであろうその翼は、鳥のように空を飛ぶための法則を無視して、ゆっくり、早く、力強く羽ばたきを始めていた。

 彼の身に纏うマントが吹き飛ぶ。身に纏った紅色の軽甲冑の全貌が、そして彼の相貌があらわになる。

 そこにあったのは、青年というよりは少年といったほうがいい、やや幼い顔つきだった。しかし、その顔は、その瞳は、明らかに顔の幼さに似合わない、何か強い闇を抱えたような、そんな顔だった。

 

「だから俺は、自分の本当に守るべきもの、救うべきもののために――」

 

 ビュオォォッ、と突風が吹き荒れる。周囲の草木が根こそぎ吹き飛ばされかねない強い風が吹き荒れると同時に、青年の姿は消えていた。

 その場に取り残された司は、彼――呉が最後に発したたった一言を、小さく繰り返していた。

 

「世界を、敵に回してでも、救いたいもののために戦う、か――」

 

 小さく発した彼女の言葉は、誰にも届かずに虚空へ消えていった。

 

 

 

――三月下旬 ミッドチルダ

 

 目の前の建造物を見上げて、彼女――八神はやては小さく「ようやく出来たんやなぁ」と呟いた。

 彼女の目の前にあるのは、真新しい真っ白な建造物。建物の入り口となる門には、鈍色に光るプレートが埋め込まれており、そこには「機動六課隊舎」と刻み込まれていた。

 それを見ながら、感慨深いような表情を浮かべるはやて。それもそのはずだろう。彼女が夢に見た場所が、ようやくこうやって一つの形を成せたのだから。

 少数精鋭の超が付くほどの特化型部隊。古代遺失物――ロストロギアを管理、回収する部隊であり、管理局の中でも精鋭が集まるこの課――古代遺失物管理部機動六課。その部隊員の隊舎が、これである。

 はやてが部隊長を務める第六課(この場所)が設立するまで、今日であと一週間を切った。ここのところは、新しく部隊に入る隊員たちを名簿とにらめっこしながら確認する毎日だ。

 見る書類もようやく少なくなってきたこの頃だが、それでもまだまだ多く、毎日が残業乱舞ではやては今まで以上にぐったりしていた。しかし、新しい隊舎をこうやって見たことで、そんな疲労感も幾分かマシになっているようだった。

 

「残業は本当にいややけど、こうやって完成間近の隊舎を見ると、そんな疲れも吹っ飛ぶなぁ!」

「最近は本当に残業だらけでしたからねぇ」

 

 そんな風に返すのはリインフォース(ツヴァイ)。彼女もはやてと同じく、疲れた表情をしているものの笑顔を浮かべていた。

 これで、自分たちがこれから追い求めていく「モノ」に対しての準備は整った。あとは――

 

「八神部隊長」

「あ、グリフィスくん」

 

 後ろから彼――グリフィス=ロウランに声をかけられる。彼から手渡されたデータ書類を受け取り、それを空中に展開する。

 そこには、四月から新しく配属となる、八名の局員――フォワード部隊の面々と、地球から出張に来る四名の友人の名前が記されていた。

 

 ここから、改めて始まる。

 彼女たちの、短くも長い戦いが――




 きっと、時間が空いちゃうかもしれませんが、気長に書いていこうと思っていますので、申し訳ないですけど、気長に待っていて頂けると助かりますゆえ……

 それでは、新編へ向けて……パンツァーフォー!(違う)
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