魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~   作:Yuino

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 はい、二日おいてさらに更新してみました。

 どうも、Yuinoです。

 これにて模擬戦回は終了となります。

 ということで、どうぞ!


StS04:鉄槌と劫火、雷神と影虎

「まさか、アンタとあたしがやりあうことになるなんてなぁ」

「そういう俺も、アンタが俺より年上だなんて思わなかった」

 

 そんな皮肉めいた言葉が飛び交っているこの一戦。ちなみに、ヴィータ隊陽の模擬戦は既に開始され、それから五分以上は経過している。

 しかし、模擬戦開始の合図は陽のこんな一言だった。

 

『なんで、こんなガキンチョが俺の相手なんだ』

 

 それから始められたのは、まさかの舌戦。直情的なことが多いヴィータだがなんとか彼の挑発には乗らず、言葉には言葉で返す戦いを繰り広げていた。

 そんなのが繰り返されて、十分が経とうとしていた。ようやく場の膠着が解け始めたのか、陽がその場で構える。右腕を引き、左腕を真正面に突き出して狙いを定めるように。

 それを見た

 

「言った手前あれだが、正直年下か年上かなんて関係ねぇな。模擬戦の目的は、とりあえず一つだけだ」

「そーだな。なら、見せてみろよ。アンタがここで通用する実力かどうか、見極めてやる」

 

 右手に持ったグラーフアイゼンを構え、陽を迎え撃つ構えを取る。

 ようやく始まる戦い。じり、と両者が足を僅かに滑らせた瞬間――

 

「はぁぁぁっ!」

 

 気合裂帛。地面を思い切り蹴り、ヴィータとの距離を一気に縮めるために陽は駆ける。ただまっすぐに、、一直線に地を駆けていく。

 しかし、無防備に接近を許すほどヴィータも甘くない。空中に鉄球を複数展開し、テニスのワンハンドストロークのように構え、フルスイング!

 

「ぶち抜けぇぇ!!」

 

 五連射を二周。計十発の鉄球が、雨のように陽へと迫る。

 しかし、陽はそれらを一目見てからにやりを笑みを浮かべ――

 

「しゃらくせぇ!!」

 

 両手を打ち合わせ、そこに紫色に燃え上がる焔を灯す。

 陽の異能力「斜陽」。その力は、ただ単純。自分の身体のどこかに炎を灯すというもの。「斜陽」という言葉から、夕方になればなるほどその力は増す。今回は、それの全力発動だ。

 本来、彼のポリシーとしては片手だけに炎を灯して戦うスタイルだが、今回に関してはもう別。本気でやらないと、恐らく太刀打ちできない。それが分かっているから、「斜陽」の全力発動をここで見せたのだ。

 両手に炎を灯してなお、陽は足を止めずそのままヴィータへと突っ込んでいく。

 そして、炎の灯った両手で迫りくる鉄球を、一つ一つ殴って撃ち落としていく!

 

「殴って撃ち落とすのかよ。さすが、武闘派だな!」

「アンタも、物理で殴るタイプだろうよ!!」

 

 ダンッ、と陽が自分の必殺距離(キルレンジ)にヴィータを収める。しかし、彼の必殺距離(キルレンジ)は、等しく彼女の必殺距離(キルレンジ)でもある。

 居合の構えのようにヴィータがグラーフアイゼンを構える。そして――

 

「アイゼン! ロードカートリッジ!」

-Jawohl!-

 

 ガツンっ、と一発。グラーフアイゼンに弾丸がリロードされる。空中に跳ね飛んだから薬莢の甲高い音が響いたと思うと、ハンマーヘッドに魔力が一気に集中していく。

 それを見て、陽は先ほど以上の笑顔を見せる。体を大きくひねりこみ、自分の次の一発への力をさらに込め――

 

「おらぁぁぁっ!!」

「ぜりゃぁっ!」

 

 ヴィータのフルスイングと、陽の左ストレートがぶつかり合い、ほぼ同時に二人ははじけ飛んだ。

 しかし、先に踏みとどまったヴィータが一手先に前へ踏み出し、一気に接近する。上段からの振り下ろし。加速したエネルギーをそのまま威力へつなげる一発を、陽の脳天を狙って叩き込む――

 

「やられ――っかよ!」

 

 弾き飛ばされた陽は、かなり後方に飛ばされながらもなんとか踏みとどまり、上を見る。すでにそこには大上段にグラーフアイゼンを振り上げ、今にも一撃叩き込まんとしているヴィータの姿。

 次の一撃を受けたら確実に沈められる。それを一瞬で理解し、次に自分がどう動くべきか、とっさに脳内に浮かび上がらせる。

 

――受け止める。いや、確実に腕を折られてこっちの負け。

――回避する。これが一番ベター。

――玉砕覚悟のカウンター。タイミングさえ合えばこっちが有利になるが、それはそれで()()()()()()

 

(まぁ、いろいろ考えるんだけどさぁ――)

 

 ぐっ、と拳を握りしめ、再びそこに炎を灯す。そして――

 

「うだうだ考えるのなんか、俺らしくないわなぁ!!」

 

 再び思い切り、その鉄槌に向けて拳を放つ!

 

「結局、迎撃(これ)が一番しっくりくる!」

「やっぱり武闘派ってか!」

 

 バゴンッ、と轟音を立てて、再び二人は弾き飛ばされる。吹き飛ばされた距離は、今度は二人ともほぼ同距離。踏ん張って、再び拳と鉄槌をぶつけ合う。

 上段からの振り下ろしに対して左アッパーで迎撃し、右ストレートを回避して逆袈裟に打ち上げる。それをクロスアームブロックでガードし、打ち上げられたままアームハンマーを叩き込む。

 そんな防御と回避、反撃と迎撃を繰り返して数十度。先に膝をついたのは陽の方だった。いくら対人戦闘(ケンカ)で戦いなれているとはいえ、魔導師戦闘の経験はほぼゼロ。ゆえに、いつも以上に神経を使い、結果的にスタミナを多く消費していたのだ。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ――やるじゃ、ねぇか……」

「ったり、めぇーだ。お前とは、潜ってきた修羅場の数が違うんだよ」

「まぁ、そうだろうな。でもな――」

 

 グラーフアイゼンを肩に担いで陽を見下ろすヴィータ。上から叩きこまれる威圧感に全く怯まず、息も絶え絶えになりながらも陽はその場で立ち上がり、再び拳を構える。

 

「俺は()()をもってここに来たんだ。その覚悟を貫かねぇと、あのバカ野郎に示しがつかねぇんだよ」

 

 ゴウッ、と吹き荒れる熱風。魔力放出とはまた違う()()()。ヴィータはそれを目の当たりにして、思わず冷や汗をかきながらも口角が吊り上がる。

 こいつの本気に、自分の今できる本気を叩き込んでみたい。模擬戦でありながらも、ふとそんなことを思ってしまったのだ。

 まるでシグナムと同じだな。そんな風に思いながら、ヴィータはいったん大きく距離を取ってから再びグラーフアイゼンにカートリッジを装填。その形状を、一点突破型のラケーテンフォルムへと変化させ、ブースターに点火する。

 

「ラケーテン――!!」

「おぉぉおぉぉ!!」

 

 高速で突進してくるヴィータをまっすぐ見据え、陽は右腕に炎を灯し――その形を真紅の槍へと変化させる。

 思い切り腕をひき、槍へと自分の全身全霊をかけて――

 

「ハンマー!!」

「でりゃあぁぁぁ!」

 

 ヴィータの鉄槌(ラケーテンハンマー)と、陽の焔槍(名もなき槍)が轟音を上げてぶつかり合った。

 すぐさま立ち上る土煙。その向こうで、背の高い方の影がゆらりと体を揺らし、そのまま倒れこんだ。ヴィータのハンマーが先に陽の腹部に突き刺さり、彼を一撃で昏倒させたのだ。

 

「あたしの、勝ち、だな……!」

 

 ぐっと握り拳を作り、その場に座り込むヴィータ。今、自分の隣に倒れている陽は、負けたにもかかわらず笑顔を浮かべていた。

 ふぅ、と一息ついてから空を見上げる。

 先に一撃を叩き込み、勝利したヴィータだが、彼女もまたかなりギリギリの勝負だった。ちりちりと焦げ臭い臭いを僅かに立てている髪に触れ、その穂先が掠めた頬に触れる。

 若干火傷したようなヒリヒリした感覚が頬に残る。確実に回避したと思ったが、その穂先はわずかに彼女を捉えていたのだ。

 あの状況で当ててくる技術。自分のハンマーにビビらず撃ちこんでくる度胸。そんな、彼のフロントアタッカーとしての潜在能力に、ヴィータは期待を持っていた。

 

 

 

 ヴィータと陽の模擬戦から数分後。すでにフィールド上には本日最後の模擬戦の相手――フェイトと龍吉がスタンバイしていた。

 

「そういえば、龍吉君と模擬戦するのって初めてだよね」

「そうっすね。俺はいつもあの()()とやりあってたフェイトさんを見てた側なんでね」

 

 そんな皮肉っぽく言う龍吉だが、彼はいつもと変わらぬ表情だ。悪戯っぽい笑みを浮かべながら、手に握っていた黒い外套を身に纏う。

 昔から変わらない、白シャツに黒のスラックス、そして真っ黒い外套(マント)。既に微弱な魔力が纏わされているそれを見て、フェイトもまたバルディッシュを握る手に力がこもる。

 そして、模擬戦開始のカウントが――

 

『模擬戦、はじめっ』

 

 機械音声から、模擬戦開始の合図が鳴り響いた。 

 瞬間、フェイトは思い切り地面を蹴ってジグザグにステップを踏みながら龍吉へと接近していく。接近してくるフェイトをまっすぐ見据えながら、龍吉は逆に大きく後ろにバックステップ。そして指を鳴らし、いつも通りの一言を放つ。

 

「黒虎!」

 

 ぐわぁっ、と龍吉の着ているマントの端が形を変え、鉈のように変化する。そして、龍吉が手を振ると自ら意思を持ったかのように大きく振りかぶり、思い切り振りおろされる。振り下ろされたところにフェイトは既にいないが、そこは大きく陥没し、地面が食い削られたかのように抉り取られていた。

 「羅生黒虎」。龍吉の異能で、攻撃範囲に入ったものは全て消滅させ、空間を抉り取ればその空間から先へ攻撃が一時的に通らなくなる。まさに攻防一体の異能。反応できさえすれば、全ての攻撃を防いで尚且つ反撃が可能な異能だが――

 

「流石に(はや)いけど、これは――!?」

 

 当たらない。龍吉の方も、この数か月でそれなりに鍛えて速度も上がったつもりだったが、、それ以上にフェイトの方が速かった。振り下ろしも、突きも、薙ぎ払いも、その悉くが当たらない。

 龍吉自身も、彼女が速い事くらい理解している。しかし、彼の想像以上に、彼女は速かった。ストップ&ゴーの切り返しや、急停止からの急加速。強引なまでの高速旋回など、前よりも格段に速くなっていた。

 

(さて、どうすっかな。攻撃当たらねえし……)

 

 縦横無尽に動き回るフェイトの視界に捉えながら、影牙の切っ先を左右に動かし狙いを定める。定まらない狙いにやきもきしながら、龍吉は一度影の鉈を引っ込めて両手にその影を纏わせる。

 そして、そのタイミングを見計らってフェイトがバルディッシュを下段に構え、一気に突進してくる!

 接近してくるならどうにかしなくちゃな。そんな風に思いながら、龍吉はその場で構える。

 

「はぁぁっ!」

 

 射程距離に入った瞬間振り上げられるバルディッシュ。それを紙一重で何とか回避すると、再びバックステップで距離を取る。

 距離にして約十数メートル。詰めようとすれば両者ともに一瞬で詰められる距離。たったそれだけの距離を取ると、龍吉は外套をまるで翼のように大きく広げ――

 

「羅生黒虎――地吹雪!」

 

 周囲を抉り取るように、無数の影の弾丸が飛んでいく!

 フェイトはその弾丸を前に、バルディッシュの形状(フォーム)をチェンジ。黄金に輝く大鎌へと変えると、そのまま魔力を刃を思い切りスイングして飛ばし、影の弾丸を叩き落していく。

 

「こいつも退けられるのか……」

「まぁね。だてにオールレンジアタッカー名乗ってないから」

 

 にこり、と笑みを浮かべながらフェイトは言う。それにつられてか龍吉も笑顔を浮かべるが、内心は思い切り焦っていた。

 何しろ今の一発はフェイトにはもちろん、()にも見せていない。それなのに、初見でいきなり対応されてしまった。

 すべての弾丸を撃ち落とし、フェイトは再び龍吉へと接近する。そして射程距離に入った瞬間、龍吉へ得意の至近距離(クロスレンジ)攻撃を連続して叩き込んでいく。

 クロスレンジの連撃を紙一重で何とか回避しながら、再び思考の渦に入り込む龍吉。遠距離も効かなければ自分の最高速度も通用しない。だと、あと見せていないのは()への対抗策として用意した「アレ」のみ。

 

(実戦使用は初だけと、やれるとこまでやってみるか)

 

 フェイトの一発を影の拳で殴り飛ばし、半ば吹っ飛ばされるように距離を取ると、そのまま羅生黒虎をしまい込む。そして、ポケットから小さな水晶玉を取り出し、くるくると手の中で弄びながら握りこむ。そして、自分の左手の甲に一筋傷をつけ、僅かに血を垂らす。垂らした血は指先を伝い、ゆっくりと右手に握りこんだ水晶に落ちていく。

 一滴、二滴、三滴と落ちたのを確認し、ゆっくりと握る手に力を込めた。込めた力は水晶へと注ぎ込まれ、ゆっくりと魔力が圧縮されていく。

 

「あ――――――――っ」

 

 プツリ、と脳内で何かが切れる音が響く。それが自分の右腕の血管の一本が破裂した音。破裂した血管の代わりに生み出されたのは、本来自分の中にあるはずのない一つの「回路」。一本の血管を犠牲にしたことで二本の回路が生まれ、さらに血管を一つ犠牲にしていくことで二つずつ、回路を組み上げていく。

 

「あ、あぁ――あぁぁっ」

 

 崩す。組み上げる。壊す。作り変える。そんな自分を破壊しかねないことを繰り返しながら、自分の右手の水晶への道筋を作り出していく。

 そして、刹那――

 

「――キタ」

 

 ガキンッ、と音が響く。勿論、その音が聞こえたのは龍吉だけだ。

 ただ、その音が完成の合図。その音が、完了の合図。

 合図とともに、右手を開く。

 その右手には既に水晶はなく、あるのは漆黒に輝く魔力球。それが胎動し、彼の右手に纏わりつくと一つの形を作り上げる。

 作り上げた形は、漆黒の籠手。肘の先へ大きく伸びるような形をしたそれを握り返しながら、汗だくの表情で龍吉はニヤリ、と笑みを浮かべ、言う。

 

「展開、完了――羅生羅刹(らしょうらせつ)鎧槌(がいつい)

 

 改めて、龍吉がゆっくりと構える。右手はいつでも殴り掛かることができるような構え。対の左手は、逆に掴みかかることが出来るように軽く開いて構える。独特な構えだが、これが龍吉自身が()対策に作り上げた一つの切り札。

 フェイトは初めて見た彼の構えに警戒しつつも自分の速度を生かして一気に加速、接近して再び自分の射程距離(キルレンジ)に収め――

 

「シッ――!」

「なっ!?」

 

 耳元を掠めた高速の拳撃、その風圧を感じ、思わず通り過ぎて手を着いて土煙を立てながら方向転換。バルディッシュを構えなおして前を見る。

 正面には同じ構えの龍吉。そして全く動いていない左手とゆっくりと引いていく右手。まるで、矢を放つ前、きりきりと引かれていく弓の弦のように元の構えに戻る。

 そして、さらに目を引くのは右腕を覆う籠手。冷たい金属であるはずのそれから、わずかな蒸気を発していた。

 

(まさか、その籠手で拳撃を加速させてる――?)

 

 もう一度見極める必要がある。そう結論付けたフェイトは、再びジグザグに動いて狙いを定めさせないようにして加速。再び射程距離に入る――その寸前に停止し、そこから一気に跳んで至近距離へと迫る!

 その瞬間――

 

「セァ――ッ!」

「くっ!」

 

 シュワァッ、という音を立てて龍吉の腕が丸々飛んでくるように加速。ガギッ、と音を立ててバルディッシュの刃面と拳撃がぶつかり合う。

 まるでロケット砲のような加速と衝撃力を受けながらも、フェイトはそれを受け流す。バランスを崩した龍吉はつんのめって前へ倒れこむ。

 そして、振り向いた先に突き立てられるバルディッシュの切っ先。

 ぐ、と反撃に転じようと龍吉は何か考えるものの――

 

「……やっべ、完全に自爆した」

「その技、もうちょっと調整が必要みたいだね」

 

 そんなことを言いながら、苦笑する龍吉とフェイト。

 さすがに、この状況からの逆転はほぼ不可能。

 それが、模擬戦終了の合図だった。

 こうして、今回の模擬戦の全試合が終了したのだった。

 

 

 

――とある管理外世界

 

「ここじゃあなかったか」

 

 荒涼とした大地を眼下に収めながら、崖の上から彼は言った。

 任務中とはいえ、今日の彼はいつもの服は着ていなかった。

 黒いスーツに赤いマフラー。いつもの和装ではないものの、それでも今の彼にとってはあの服装と同じ、臨戦態勢に入った状態の服装だ。

 彼はとある任務を受けてこの管理外世界を訪れた。その道中で、おそらく戦闘にもなるだろうと想定して最初からこの服装で来たのだが、如何せんその目的のものがここにいなかったし戦闘もなかった。ある意味、骨折り損のなんとやら、というわけだ。

 そのため、さっさと報告書を書いて部屋に帰って寝るために、ここの転送ポイントである崖に来たのだが――

 

「追加任務ででアレを殲滅してくれって、無茶な命令(オーダー)だこと」

「まぁ、そんな無茶無謀命をだしてくるのも、マイスターらしいですけどね……」

 

 そんなことを言いながら、彼の肩に腰掛ける小さなパートナーは言う。

 帰ろうとして崖に転送ポートを作ろうとした少し前。彼の所属している部署の所長が急ぎの用事として伝えてきたとある一件。それが、眼下にてゆらゆらと蠢きながら彼らを見上げる無数の生命体の殲滅任務だ。

 所長によれば、正体も不明で弱点も不明。もともとこの世界にいた魔法生物に何らかの改造を加えて生まれたのがあのアンノウンである、というのが所長の見解。

 わけもわからない目標を殲滅してくれ、というのは彼の所属する部署にはよく舞い込んでくる特別任務だが、ここまで急に来るのは久しぶりだった。

 

「ひとまず、依頼にあった()()を片付けるか」

「了解なのです、マスター」

 

 すっ、と伸ばした手の上に彼女が立つ。瞬間、掌に生まれる魔法陣。円形のミッド式と三角形のベルカ式を組み合わせたような、そんな魔法陣。

 ミッド・ベルカ混合魔法陣「ムゲン式」。それを展開し、ゆっくり目を閉じる。

 そして、彼と彼女は、意識を、呼吸を、テンポを合わせ、静かにその言葉を唱える。

 

「「ユニゾン、イン」」

 

 きぃぃん、と音を響かせて彼女が彼の体の中に入っていく。それと同時に、彼の服装も黒いスーツから桜色の軽甲冑に変化する。右の腰には個性的な形の長剣。ショットガンの柄を剣にそのまま流用し、刀身と柄の間に弾倉をはめ込んだような剣――ガンブレード。それを引き抜くと、空の弾倉に一発一発弾丸を入れていく。

 

「サクラ、数は?」

「敵性反応確認、数は五十。平均魔力反応はAマイナスです。」

「了解。魔力反応の平均はそこそこに高いけど、まぁ、関係ないか」

 

 空弾倉八発に弾を詰めてからそこまで確認すると、助走をつけてから崖を飛び下りる。

 高さにしてだいたい三十メートル強。その間に剣を銃のように構えなおし、トリガーに指をかけて眼下のアンノウンに狙いを定める。そして。

 

「――シュート!」

 

 弾く。剣先に生まれた小さな光弾はトリガーが引かれた瞬間に弾丸と全く同じ速さで飛び、一体のアンノウンの頭部を吹き飛ばす。バシュンッ、と肉が弾けるような音が響き、周囲に赤黒い血液が飛び散る。

 着地してから剣を構えなおし、銃を握るというよりも剣を握るように構える。

 はじけ飛んだ一体を周りのアンノウンは見てから、唸るように吠える。その声は、憎しみを全開まで引き出したような、そんな咆哮。

 吠えたまま口をあんぐりと開け、口内に赤黒い光が灯す。その光は、全て魔力。口内に瞬間的に圧縮されていく魔力を見据え、彼はガンブレードを握りなおし、自らの中にいる少女――サクラへと問いかける。

 

「圧縮率は?」

「現在三十パーセントですけど、撃てますっ」

「ならよろしい。砲門、開けっ」

 

 崖を背にしてガンブレードを大上段に構える。瞬間、聖の足元と正面に作り出される、六芒星のカスミ式の魔法陣。

 二つの魔法陣を足元と正面に展開し、巨大な魔力球が生まれる。

 魔力が回転しながらゆっくりと圧縮していく。圧縮された魔力は、ゆっくりとブレードへと流し込まれ、刀身そのものを覆っていく。

 そして、サクラが言うように彼の目の前に魔法陣で形成された砲門が生まれる。八つの魔法陣を重ねたその砲門は、真正面のアンノウンへと狙いを定める。

 

「アンノウンの砲撃、来ますっ」

「了解。合図と同時にこっちも撃つぞ。用意しておけ、サクラ」

「分かりましたっ」

 

 アンノウンの口内に蓄えられた光がより眩い光を放つ。そして、その光のすべて――四十九の魔力砲撃が一斉に放たれ――

 

「往くぞ、サクラ」

「はいです!」

 

 す、とガンブレードの切っ先を、正面に圧縮された魔力球へ向ける。それが、全ての合図――!

 

「「黒天撃ち砕く桜神砲(レーヴァティン・カノーネ)!!」」

 

 トリガーをひき、桜色の極光が放たれる。それらは、正面から迫る赤黒の砲撃を全て飲み込み、逆にアンノウンを全て消滅させていった。

 極大の砲撃を放った彼――佐々木聖は必要以上の魔力消費に思わず膝をつく。反動でバリアジャケットとしていた軽甲冑もパージされ、サクラとのユニゾンも解除されてしまっていた。

 

「はぁ――はぁ――はぁ――三十パーでもこの出力か。対軍魔法はキツイな。やっぱ、俺向きじゃねえってこれ」

「でも、撃てるだけいいんじゃないですか、マスター?」

「まぁ、そう、だな。うん――」

 

 ばたん、とその場に倒れこんでから一息つき、サクラはサクラで彼の額に腰掛ける。

 ままならないな、この魔法は。そんなことを小さく呟いてから、空を見上げるのだった。




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