魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~ 作:Yuino
今回、日常&聖、暁の強化回です。
どんな強化をされるかは、何となく想像してみてください!
――機動六課訓練場
先日のホテルアグスタでの一件が
この一週間の間に、ランスターとナカジマが
かくいう僕――ラウラ=ソニアもまた、その訓練に内密に多少なりとも関わっていたりしたので、教導官からは多少なりともお小言をいただいたりしていた。
これに関しては……まぁ、仕方ないだろう。あまり好きな言葉ではないが、自業自得というやつである。
そして、それから少し経ったある日。
一応、今日は午後は自分たちの分隊は半休をもらっている。所謂、「半日は待機状態で自由にしていていいよ」という日である。
ちなみに、同じ分隊のケイさんやミレイさんは自室で何やら作業をしていた。
ただ、半休をもらっていてなお、僕と暁は訓練場にいた。
というよりも、暁に半ば強引に連れ出された、が正しいだろうか。
彼女曰く――
「なのはさんからは許可はもらっているよ!」
とのことなので、特段何も不安はない。いや、なかった、が正しいか。
自主練なら僕も望むとことだし、いくらかフリーにできるからやれることやりたかったことができるという面では比較的良い休日の過ごし方だろう。
ただ――
「僕の展開術式をコピーしたい?」
「うん。まぁ、理由は聞かないでほしいけど」
その自主練内容が、あまりにも突飛なものではない限り、である。
その「あまりに突飛な申し出」をしてきた張本人――暁は、ほんの少しだけ不本意、というかむすっとしたような表情をしていた。。
彼女がこんなこと言いだしたのを聞いて、思わず僕は耳を疑った。
そりゃそうだ。戦闘スタイル――あの「舞踏」と彼女自身言うスタイルに関して、他人から文句を言わせたこともなければ彼女自身一番自信を持っている。
だからこそ、彼女が僕の「艤装展開」と呼ばれる初風の制限解除をコピーしたいと言い出した時は驚いた。
もちろん、その術式は秘術でも何でもないし、故に教えられないというわけではないが……
「あくまでも僕のアレは、軍艦としての「初風」の武装イメージを、魔法陣を基軸に遠隔展開するだけだよ。近距離メインの暁には、ちょっと合わない気がするんだけど」
「なるほど、武装イメージを展開か……」
僕の言葉の中から一つだけを引っ張り出し、ゆっくりと咀嚼するように繰り返すと、何かぶつぶつと呟きながらデバイスを構える。
そして――
「魔法陣――術式固定、展開」
コンコンと鎌の柄の先で地面をつき、自分の足元に魔法陣を展開。
そして、さらに自分の周囲に十以上の魔法陣を同時に展開して見せる。
「……マジか」
それを見て僕は開いた口がふさがらなかった。
ただ一言、僕が教えたのは「武装イメージの展開」という言葉だけ。
ただそれだけで、起動させるために必要な初期段階をあっという間に再現できるものかと。
「はは……相変わらずの天才っぷり……」
僕の言葉は耳に届いていないだろう。
ただ、僕の言葉に反応するかのように、ちらりと彼女は僕を見た。
その時僕に向けた表情は、まるで「どうよラウラ」と誇らしげなもので。
「術式展開――
自分が今、即興で作り上げただろう魔法式に名前を付け、そして発動して見せた。
――六課隊舎 談話室内
「お、暁の奴、成功させたみたいだな」
彼はそう言いながら窓の外を見る。
その方向にあるのは訓練場。
私も思わずその方向を見た。そこには、漆黒の魔力光が、まるで天に伸びる塔のように高く高く伸びていた。
「キミ、あの子に何を教えたんだい?」
私は盤上へ視線を戻してから手元の一駒を選び、ぱちりと一つ進める。それを横目で見て、彼もまた、駒を一つ進めた。
「なぁに、特段何も教えてないさ。教えたことは一つ、常に成功する自分をイメージしろ、とだけさ」
ぱちり、と私が駒を進める。それを見て、彼は苦々しい表情を浮かべた。
「おいおい、ほんとにその戦法好きだな」
「一手損角換わりかい? 一番慣れているのがこれだから、かな」
ぱちり、と再び駒を動かす。ふうむ、と悩みながらもケイはもう一度駒を動かし、それに対して私はほぼほぼノータイムで打ち込む。ケイは私の打ち込みに、さらに悩める表情を浮かべた。
「……ホント強いよな、ミレイ」
「そう? まぁ、こういう考える仕事が本職だからね。でも、なんちゃってフルバックのケイと互角にやられてちゃあ、強いなんて言えないよ」
「なんちゃってとか言うなよ」
やや悩んでから、ケイは反撃の一打を打ち込む。それにこたえるように、私も一つ撃ち込む。
ぱちり、と互いに打ち合う。
静かな攻防。
無言のせめぎあい。
視線の間にて放たれる火花。
互いにそれをかわし――先に音を上げたのは彼の方だった。
「……投了だ。どう打っても勝てる未来が見えん」
「ふぅぅ……これで勝敗はイーブンだね。50戦25勝25敗」
そう言ってから、私は手早く盤と駒を片付け、談話室の戸棚にしまい込む。その間に、彼は反対側の戸棚にあるケースから茶葉を取り出し、紅茶の用意をし始める。
「でも、珍しいね。キミが暁ちゃんに、あんな超攻撃的な魔法式の展開方法を享受するなんて」
「ん? あぁ、あれのことかい?さっきもいったけど、教えたのはコツだけだよ」
ゆっくりとした所作で紅茶をカップに注ぎながら、ケイは私にカップを差し出す。
でも、肝心なところで食い違っている。彼の言葉に対し、私はさり気なく首を振り否定して見せた。
「そこじゃないよ。キミが、
普段滅多に使わない肩書を使われ、気に障ったのか。彼の表情は一気に曇った。
しかし、大きく一息つき、自分の分の紅茶と茶請けのクッキーを取り出し、テーブルに置くとそのまま一つクッキーを口の中に放り込む。
「分かってて使っているだろう。その肩書が、俺が嫌いなこと」
「なんのことかな?」
私はあえて惚けて見せる。ゆっくりと紅茶を口に含み、咀嚼するように味わってから飲み込む。
将棋もチェスも囲碁もマージャンも、彼は私と五分の五分。それでも、私が
「キミは
「……あいつの言葉に、誑かされただけだ」
そんな風に言うと、彼は紅茶を一気に飲み干し腰に下げている刀に触れる。
それは、彼の相棒。
幼少期より彼とともにあり、どんな苦難も困難も、絶望も佳境も、何もかもを乗り越えてきた、最愛にして最高の相棒。
きらりと光る鍔。頭から下げられた「朧 一〇六」と刻まれた銀のタグ。
それに触れて、ほんの少しだけ微笑んでから再び呟く。
「俺はあのアグスタ任務の時、同じ場所に居れなかった。ただ、その現場にいたあのじゃじゃ馬娘が、こう言ってたんだ」
――私に強さを頂戴。ここにいる全員、最後は笑って終われるために
恐らく本心だったのだろう。
ガジェットとは互角にやりあえる。でも、そのあとにきた槍使いの魔導師と炎使いの魔導師に一蹴され、その二人を撃退した彼ですら、魔力不足による衰弱から一昨日ようやく六課に復帰した。
多分、その時なんだろう。
彼女が、自分自身を「弱い」と認識したのは。
だから彼は、彼女に力を与えた。彼が持っている、最高にして最強、そして唯一の「攻性防御術式」。
「心象結界術式。使用者の心を正確に映し出し、なおかつ使用者の心の強さ、精神の強さが結界に強さに比例する、そんなピーキーな術式。よく覚えようなんて気になったね」
「だから言っているだろう。俺が教えたのは、あくまでもコツだ。あいつが、自分でモノにしたんだ」
あそこまでのモノになるとは、思わなかったけどな。
そんな風に付け足して、彼は空になったカップを下げて談話室を立ち去る。
その後ろ姿を見て、私――ミレイ=カリスタは小さくつぶやいた。
「キミの本心だって、暁ちゃんの本心と同じじゃないか……」
その声は、彼に届かず。
ただただ、虚空へ消え去るのみ。
――六課隊舎
管理局の武装隊、航空隊、陸士部隊の隊舎には、二人一組で寝室があてがわれている、というのは無論周知の事実だろう。
もちろん、この機動六課もその例に当てはまらないわけない。
ただ、隊舎の大きさに対して人員が少なすぎるため、変に部屋が余ってしまっているこの機動六課。その一室を、俺が借りている訳だ。
つい一昨日、陽とともにようやく隊舎に戻ってこれた俺は、部隊長であるはやてに、追加一週間の静養期間を言い渡され、こうやって一人、広い部屋で惰眠をむさぼっていた――のだが。
「んで、何故にあなたがここに来た?」
「ん~? そりゃあ、お届け物をしに、ね?」
つい数分前に転移魔法で部屋にダイレクトに乗り込んできた俺の上司――ルルイナ=ディートハルトは、部屋の戸棚に隠しておいた、某巨大スーパーから取り寄せた、一キロの巨大ポテチをむしゃむしゃと頬張りながら言う。
お届け物をしに来た、と言いつつもその姿は完全に仕事から抜け出してきたサボり魔のそれだ。
普段の職場では白衣に身を包み、きりっとした表情で仕事をしているのに、いざ職場を離れるとスポーツジャージにTシャツという、明らかにニートか何かな生物へと変貌してしまう。
「ここまでオンオフの切り替わりがはっきりしている人も、なかなかいないよなぁ。今はオンのはずなのに」
何か言った~?という彼女の声も俺は無視し、冷蔵庫から麦茶を取り出して彼女に差し出す。それを彼女は嬉々として受け取り、一気に飲み干す。
「んで、俺にお届け物ってなんすか、所長?」
「おおっと、忘れていた。これだよこれ~」
正確には、私とキミの父君からだけどね、そう付け足して、彼女は持ってきたであろう大きめのトランクから三つ、何かを取り出した。
-
その声が聞こえた瞬間、俺の心臓は飛び跳ねたようだった。
聞き馴染んだ声。舌足らずなその声は、どことなく幼少期の妹の声に聞こえる。
そんな風に設定したのは、このデバイスを設計した母だし、それに対して当時の俺もそこそこに喜んでいた。ひとまず、今はどうかは置いておいて、だ。
それでも、彼女の帰還は、俺にとって悲願であり、念願だった。
「――おう。よう戻ってきたな、雪風」
-はいです!-
手渡された短刀をくるくると、まるでペンを回すかのように弄び、最後には軽く宙へ放ってから懐にしまい込む。
「一応、雪風ちゃんのコアをいじらず外部システムだけいじってるから、試しに――」
「雪風、
-はいです!-
訓練場で起動させてみてよ、という彼女の言葉を遮るように俺は彼女を起動させる。
きぃぃ、という音とともに氷雪が舞う。そして、その氷雪を振り払うようにして右手を振るい――
「バリアジャケットは……今までと同じか」
身にまとったその戦羽織を見回す。
変化はほとんどない。腰の部分に白い羽飾りが増えたくらいだろう。
「そこ弄ったら、キミ怒りそうだからね。手を加えたのは武器の方だよ」
そう言われ、俺は下げられている雪風を引き抜いて見せる。
刀自体の外見は前と変わらない。
刀身が透き通るような青なのも、柄巻が青と黒の二色なのも、柄の頭に下げられた羽飾りも、何も変わらない。
ただ、何かが違うのは、握っていて確かに感じていた。
「告げてみ? モードチェンジ颯天、それか凪って」
「ふむ……」
ルルイナの言葉を受け、形態変化を搭載した事を理解する。ただ、そのままモードチェンジというのは、どこか風情に欠ける。
それに、俺は魔導師であるついでにサムライだ。なら、こちらのほうがよりシックリくるだろう。
「変化――颯天」
ぽう、と刀が光に包まれ、それが二つに分離すると両手に収まり――小太刀二刀の姿をとった。
「なるほど、颯天は取り回しのいい小太刀二刀流か」
「そう。んで、凪の方は直刀ね。忍刀と言ったほうが分かりやすいかな」
なんで忍刀を搭載したんだ、というツッコミはあえて入れず、俺は雪風を待機形態に戻す。
そして、俺はもう一つの届け物に関して問いかけた。
「ンで、うちの親父からって言うのは?」
「あ、それはこれさこれ」
しゅるしゅると、赤い布を解いていく。
中から出てきたのは黒い筒。そのフタをとり、中からこれまた二本の刀を取り出した。
「この二本、あなたに渡してって」
おいおい、親父よ。今、しかもこのタイミングで、これを俺に預けるのか。
その二本は、実家の蔵にしまい込んであったはずの刀だ。それをここに、ひいては俺のもとに持ってきたってことは。
「親父よ、これを俺に渡す意味、解ってんのか」
そういいながら、俺は彼女から渡された二本の刀――白夜と極夜を受け取る。
この刀を手渡す意味。それは、親父も俺も、むろん重々承知しているはず。そのうえで、これを送り付けてきたのだろう。
すっと二振りの刀を腰に下げ、そして――
「開錠、対極を成す二振りの姉妹刀」
小さく言葉を唱え、引き抜く。
右手に白夜を、左手に極夜。一度構えて見せ、そして振り抜く。
ひゅんひゅんと風を斬り裂く音。それぞれを振りながら、再度納刀。カチリという音を鳴らして、鞘に刀身がロックされた。
「あいっかわらず厳重な鍵だな。これ唱えないと引き抜けないとかな」
「それだけ重要な刀なんでしょ、その二本」
まあな、と答えながら、俺はその二振りを腰から外してロッカーにしまう。
いざ、というときは当分来なくていいものの、万が一来てしまった時、俺は自身に課した禁を破ってこの刀を使うのだろう。
「そんな時は、ゼッタイに来なくていいわな」
「えぇ、そうね」
俺の言葉に応じるように、彼女もまた頷く。
そして、自分がここに、この世界に渡った目的を、もう一度再認識するのだった。
「もう一度今までのあいつの――沙希の動向を知りたい。協力してくれるか、所長」
「もちろん。その代わり、キミの力を私に貸しなさい。佐々木聖くん?」
窓の外から風が吹き込んだ。
この先にある、不穏と期待のこもった、やや暖かい風が。
感想とかいろいろ、お待ちしております!!
(最近スランプっぽくてなかなか書けないので更新が相変わらず亀いです……)