魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~   作:Yuino

4 / 32
さてさて、そこそこ早い更新です。

どうも、Yuinoです。

やはり、Pomeraを購入して良かったと、そう思っています。

それでは、4話どうぞ!


(2015/01/24 若干の修正)
(2017/12/26 加筆修正)



04:状況開始

――翌日

 

 朝一番で学校に到着した俺は、いつもどおり道場へ向かう。朝練でもやってるかなぁと思いながら道場の引き戸をゆっくり開け、中に入っていく。

 道場の中は、朝一とは思えないほどの熱気に包まれていた。至る所から響いてくる気合いの入った声と、それに混じる喝に近い怒号、竹刀が撃ち合わされる乾いた音。

 思っていた以上に、俺はこの場所を好いているみたいだ。

 

(やっぱり、道場に入ると勝手に身が引き締まるな)

 

 道場に一歩踏み込むと、中にいた朝練中の剣道部員から「おはようございます、聖さん!」とか「おう、佐々木。今日も、ちょっくら稽古頼む」とか言われるのも、もう慣れた。そして、今目の前に広がっている、いつもと変わらない風景にも。

 

「せぇぇぇぇりやぁぁ!!」

「くおぁ!?」

 

 バシィィンと響く竹刀の打撃音。それとともに倒れる剣道着を纏った青年がその場にしりもちをつく。それを見下ろすのは、剣道着を纏わず、学校指定のジャージを着て、上着は腰に巻いてとんとんと肩に担ぐようにして竹刀を持つ女性の姿。

 まぁたやってんのか、あの人は。そんなことを俺は心の中で思いながら、道場の中に入っていく。

 

「だらしないなぁ、まったく。それでもうちのエース?」

「エースって呼ばれてますけど、鏡花センセが強すぎるんですってば」

 

 剣道着の脱ぎながらそういう青年。彼の言葉を聞いて、彼女は「ふっふーん、やっぱり?」と自慢げにほほえむ。そんな彼女の姿を見ながら、俺は半ば呆れたようにしてため息をつくと、「あのねぇ」と脇から入るようにして口を挟んでみる。

 

「尾崎先生。俺との約束すっぽかして、後輩と何やってんすか?」

「あ、聖君おっそーい」

 

 まるで”きゃるーん”というような効果音が似合うような動作をしたので、その脳天に空手チョップをぶち込んでみることにする。

 

「せいっ」

「なんのっ」

 

 ぱしっ。そんな音が道場に響く。音量はさほど大きくはない。ただし、しっかりと響いたのは事実である。

 俺のノーモーションで放った空手チョップ(あくまでモドキである)。これを彼女--尾崎鏡花は、ジャストタイミングで白刃取りをしたのだ。

 まぁ、もとより当たらないと踏んでいたし、これで当たったら絶対調子が悪いに決まっているのだが。

 

「流石先生。やりますね」

「まだまだ若い子には負けないよー?」

 

 自分だってまだ若いくせに、と内心悪態をつく。まぁ、実際にそれを言ったら確実に入院一週間は免れないため、言わないけれど。

 尾崎鏡花(きょうか)。齢24にして身長156センチと小柄。しかし、このナリで剣道で中学高校大学と、計十年連続で全国大会に出場し、なおかつ毎回上位に食い込んできている。

 どのスポーツにおいても、基本的に体格差というのは中々覆しにくいところではあるのだか、彼女から言わせれば「身体の大きさなんて、より的が大きくなって当てやすいじゃない」だそうだ。

 つまり、剣術に関して言えば日本を代表する人物なのだ。

 ただし──

 

「それが今では、剣技以外はどこにでもいる小柄でおっとりしててドジっこでスットン共和国でマスコット的な先生なんだけどねぇ」

「なんか言った、聖君!?」

 

 ブゥン、と風を切ってふるわれる竹刀を、俺は体を捩って回避してから手近な竹刀を手にとって構える。

 その身体のこと──主に残念な胸部──やドジっ子などというと、こんな感じに野獣モード(マジ)になってしまうのだ。

 

「コロスコロスコロスコロス!」

 

 あ、やっべ。これ本気で怒ってる。額に青筋見えてるし、目のハイライトが若干消えてるように見える。流石に言い過ぎたか……?

 

(まぁ、後で謝ればいいか)

 

 俺は、近くの剣道部員、おそらく三年生の先輩に「開始の合図、お願いします」と一言。それを見ていた剣道部員は、「毎日毎日よくやるな、お前は」と言いながら右手を挙げる。そして--

 

「試合、開始!」

 

 そのかけ声とともに、俺は鏡花さんへとまっすぐ突進していった。

 

 

 

――同日、昼休み

 

「いってぇ……ったく、鏡花のやろう、本気でたたきに来なくても」

「はいはい。やる前に軽く挑発した佐々木が悪いってーの」

 

 俺は何とかその日の昼までの授業を乗り切ると、昼ご飯の入った弁当箱を片手に保健室に来ていた。弁当箱と言っても、中に入っているのは大きめのおにぎりが四個と、冷食の唐揚げとほうれん草のお浸しくらい。つまり、特にこったモノはない、と思う。

 

「俺が、ちょおっとスットン共和国ーとか言ったくらいで怒るなんて……」

「そいつが尾崎センセがキレた原因だドアホ」

「いってぇっすよ永手先生!」

 

 ベシンッ、という平手フルスイング。俺の脳天に直撃した手をひらひらさせながら、白衣の女性--永手凛は「コーヒーと紅茶、もしくは緑茶、どれにする?」と聴いてくる。それに対して、聖は「緑茶で」と一言伝え、弁当箱を空ける。

 おおう、見事に弁当箱の端っこに寄ってやがる。まぁ、食えないわけではないから問題ないか。

 小さなサイドテーブルにコトリと湯飲みが置かれ、湯気がたつ。それに口を付けながら、俺は思わず一息つく。やっぱり、日本人は緑茶だよ。

 

「んで、ここにきたって事は、なんか話があるんでしょ?」

「流石、っすね」

 

 湯飲みを置いて、俺は大きく伸びをする。少し、というかかなりまじめな話だから、少し真剣な表情に変えてみると、永手先生は「ん、やっぱりか」といって、コーヒーカップに口を付ける。

 

「昨日、スカウトを受けました」

「ほう、それは凄いじゃないか。どこのプロダクションだ?765か?346か?」

「いや、芸能事務所じゃなくて……時空管理局です」

 

 その一言で、永手の表情がおちゃらけたモノから何かを睨むような鋭い表情に変化する。

 やっぱり、何か知ってるのか。

 

「教えてくれ、永手先生。管理局とは、いったい何なんだ?」

「管理局、か。久しぶりにその単語を聞いたな」

 

 永手はふぅと一息つくとそのままコーヒーを一気に飲み干す。自分のデスクに腰掛けると、彼女は「管理局、なぁ」と言いながら俺にトンと分厚いファイルを手渡す。

 

「これは?」

「私が、独自に管理局について調査した結果さ。内容にはある程度間違いなどがあるかもしれないから、そこんところは覚悟しておいてくれよ?」

 

 ほら、帰れ帰れ、と手で払うようにして俺を追い出す。俺は、手渡されたファイルを抱えながら、永手に「ありがとうございました」と言って保健室から出る。

 

「永手センセと何やってたんだ?」

「安心しろ、龍吉。お前の想像してるようなことはしてねーよ」

 

 保健室の出たすぐのところ。壁に寄りかかるようにして、そこには龍吉がいた。彼の表情は若干にやついていたが、そんなこと無視して俺は「帰るぞ」と一言。すると龍吉も「あいよ」と一言言い返す。

 校門から出て、俺たちはいつも通り帰り道を進む。

 その時、不意に思い出したように龍吉が「そういえば」と一言呟いた。

 

「お前、昨日公園で一緒にいた人、アレ誰よ?」

「昨日公園で一緒にいた人……?」

 

 少し思考してから、俺は思い出した。それから「一週間前の誘拐事件あったろ?それ関係の人」と告げる。すると龍吉は「ま、マジかよぉぉ」と何故か絶望したような表情で頭を抱えた。

 何、何で頭抱えてるの?

 

「てめぇ、なんであの一件でパツキンのねーちゃんと仲良くなってやがんだよぉぉ。こんなことなら俺も一緒について行けば良かったぜ」

「やっぱり、そんなことか……とか言ってるが、どう思うテスタロッサ?」

「え、えぇっと……」

 

 俺は後ろをちらりと見ながらその方向にいる彼女に声をかける。彼女は若干苦笑いをしながら、答えるのをためらっているが、その表情もなかなかに面白いで何も言わないでおこう。

 

「えっと、彼女は?」

「あぁ、さっきお前が言ってたパツキンねーちゃんだよ。名前はフェイト=テスタロッサ=ハラオウン」

 

 その場に倒れ込むようにして俺の方を見ている龍吉に、彼女に代わって紹介する。するとフェイトは、彼に対してぺこりとお辞儀する。龍吉はくるんと反転して正座すると、「織村龍吉です、初めましてよろしくお願いします!」と間髪入れず畳みかけるようにして自己紹介。フェイトは若干驚きながらも「は、初めまして」という。

 まったく、龍吉は変わらんな。

 

「龍吉、テスタロッサがビビってるから」

「あ、あはは……」

「す、すんません」

 

 龍吉は立ち上がって身なりをただす。それを見てから俺は、テスタロッサの方へ向き直る。

 

「んで、今日は何の用だテスタロッサ?」

「あ、そうだった。ちょっと、頼み事があるんだけど、良いかな?」

 

 テスタロッサは「そこのキミも、手伝ってくれないかな?」と龍吉に向かって声をかける。それに対して、龍吉は「是非手伝わせてください!」と敬礼を飛ばす。

 おいおい、ここは軍隊かよ。まぁ、良いけどさ。

 

「それで、何処まで行くんだ?」

「それじゃ、着いてきて。意外と近くだから」

 

 そう言って彼女は歩き出す。俺と龍吉はそれに着いていくようにして少し後ろを歩く。

 本当に少し歩いた先にあった。それなりに賑わいを見せている商店街。俺がいつも行く商店街とは真反対にあるそこの真ん中あたりにある、お洒落な外観の喫茶店。名前は・・・・・・翠屋か。

 テスタロッサは扉を開けると「入って?」とばかりに手招きをする。俺たち二人は、それに応えないわけにはいかないためとりあえず中に入っていく。

 内装も、外観と変わらずお洒落な感じだった。モダンな音楽が流れ、平日にも関わらずそれなりに多くの人が入っている。しかも、来客の多くが白いベースのセーラー服。おいおい、まさかあの人たち、聖祥大付属の生徒じゃん。

 

「ここ、有名私立校の溜まり場か?」

「俺たち一般人が入ってはならない、神聖な場所なんじゃないか?」

 

 そんなことないから、と苦笑気味にテスタロッサが言うと、彼女はテーブル席の奥にある予約スペースとかかれた個室へ向かう。その個室の前に行くと、扉を二回ノック。

 

「なのは、はやて。来たよ」

「は~い」

「鍵は開いてるよ。入ってええよ?」

 

 彼女の言葉を待っていたかのように、扉の向こうから二つの別の声が聞こえる。それを聞き届けてから、彼女は個室の扉を開ける。つまりは、入ってください、ということ。

 

「行くのか?」

「きたんだから、いくしかねぇっしょ」

 

 俺は龍吉の確認をよそに、彼女の入っていった半開きの扉の前に立つと大きく深呼吸。よし、心の準備は整った。いざ、突撃!

 

「た、頼もう!」

「聖それなんか違うんでね?」

 

 龍吉、それをつっこむでない。

 何はともあれ、俺は扉の向こうに入っていった。

 そこには、テスタロッサを含め三人の女性、もとい美少女が座っていた。

 

「紹介するね。こっちがなのは」

「初めまして、高町なのはです」

 

 ぺこりとお辞儀する、栗色の髪をサイドで結んだ少女。りんとした表情から、彼女の心の強さが伺える。

 

「それでこっちが、はやて」

「八神はやてや。よろしくお願いします」

 

 若干茶色っぽいショートの少女。イントネーションに違和感のあるしゃべり方だが、何となく人付き合いの良さそうな印象だ。

 

「佐々木聖だ。よろしく頼む」

「織村龍吉ですよろしくっす!」

 

 俺たち二人は挨拶をしてから席に着く。俺たち二人が席に着いたところで、テスタロッサが話し始める。

 

「この二人が、今回協力してくれる現地協力者。佐々木君は、この前説明したけれどオリジナルの魔法を使うし、織村君は……」

「こいつの姉貴が海鳴の外れで探偵社を開いてる。そこに協力を仰げば、たぶん力になれるだろう」

「うっす!」

 

 ぐっと拳を握りしめて龍吉が言う。

 確かに、彼の姉--小春さん達に協力を仰げば力強いだろう。しかし、そこまでにこぎ着けるか、と言うところが課題になるわけだが。

 まぁ、そこはなんとかなるだろう。

 

「それで、テスタロッサ。具体的に俺たちは何をすればいい?」

「ううん、そうだね……」

 

 そう言いながら、彼女はちらりと横を見ながら、高町、だったか? 彼女の方を見て助言を求める。すると高町は、空中に大型のタブレットのようなものを取り出してそれを俺たち二人の方に向ける。

 そこには、紺、と言うより黒に近い。そんな色のフーデットパーカーを着て、道を歩いている一人の人物を捉えた写真があった。明らかに不信人物、と見て良いだろうというその人物を指さしながら、龍吉が言う。

 

「こいつを捕まえてほしい、とかっすか?」

 

 龍吉の言葉にフェイトが頷く。

 

「うん。名前は不明で目的も不明」

「いろんな場所で殺傷事件を繰り返してる、いわば通り魔的存在やな。活動拠点はミッド──こっちの世界やったんやけど、つい最近地球に降り立ったんや。それで」

「たまたま三人一緒に休暇をもらえていた私達が、里帰りを兼ねて、ってことでこっちにきて、捜査しているってわけ」

 

 それに続くようにして、彼女たちは自分たちが所属している時空管理局について教えてくれた。

 

 時空管理局。第一管理世界、ミッドチルダが中心となって設立した数多に存在する次元世界を管理・維持するための機関。通称「管理局」。所属する者からは単純に「局」ともよばれる。ほかにも文化管理や災害の防止・救助を主な任務としている。その他もろもろとされていることもあり、とりあえず一纏めにすると「特殊な機関」らしい。実行部隊として次元航行艦船や武装隊などの強力な戦力を有しており、階級は日本で言う自衛隊と同じ。次元世界内で言う、強大な組織である、らしい。

 

 つまりは、世界の平和を管理、維持する組織、って言うことか。いわば、世界を股に掛けている巨大警察、と言うところらしい。永手先生にもらったファイルに書いてあることとだいたい合ってる。ホント、あの人は何者なんだろう。

 閑話休題。

 んで、その管理局の方針上、良くない動きをしている奴が・・・・・・

 

「このフードの男、ってわけか」

「うん。名前が未だに不明だから、便宜上“スラッシャー”って呼んでる」

 

 スラッシャー、さしずめ“切り裂くもの”ってところか。

 というと、俺たちのやってほしいことも何となく絞り込めた。んだけど・・・・・・

 

「んで、俺たちにやってほしいことって、なんなんすか?」

 

 龍吉、ご丁寧に質問してくれてありがとう。八神も、それを待っていた、みたいな表情するな。

 八神はもう一つ別の端末を取り出すと、それをいじって一つの画面をだすとそれをこちらに見せてくる。それを見て俺と龍吉は、納得したように「あぁ、これか」と声を揃えた。

 最近、海鳴市を含む周辺の町で頻発している連続殺傷事件。目撃者の証言を見ると、身長180センチくらいのがっちりとした体つきの人物で、紺色のフーデットパーカーを着ている、と言う証言だった。

 これは、先ほど彼女が言っていた“スラッシャー”の風貌に合致している。高身長に黒に近い紺色のフーデットパーカー。つまりは・・・・・・

 

「この人物が“スラッシャー”かもだから捜せ、ってことか?」

「ご明察や。流石、フェイトちゃんが見込んだ人やなぁ」

「ちょ、はやて!?」

 

 八神の言ったことにテスタロッサが顔を赤らめながらわたわたし始める。わたわたする意味はよく分からないのだが、まぁ、褒め言葉として受け取っておこう。

 何はともあれ、俺たち二人はこの人物を捜して、尾行してくれ、ってことかな?

 

「尾行、までは行かないけど、出来ればね。あと、やるときはなるべく夜がいいかな?」

「何故夜に?」

「こいつの基本活動時期が、夜22時から翌日3時までなんだよ」

 

 ニュース見てないのか?という龍吉の言葉に対し、俺は少しだけむっとしながら最近のニュースを思い出す。

 そう言えば、最近見たニュースでこの犯人の活動時間が深夜帯に限定されているとか聞いたような・・・・・・まぁ、頭の片隅においておこう。

 

「んで、現行犯だったらどうすりゃいいっすか?こいつも、聖や君たちと同じ、えっと、魔導師?なんすよね?」

「そうだね。織村君の場合は、なるべく時間を稼いで、私たちが駆けつけてくれるのを待つ、がいいね。佐々木君の場合は・・・・・・」

「一応、この話し合いが終われば俺たち二人は現地協力者、っていうことになるんだろ?なら――」

 

――叩きのめしておけばいい。

 

 俺はそう告げる。相手が何であろうと、斬り伏せればいい。もしも俺以上の実力者なら時間を稼いでテスタロッサ達が来るまでの時間稼ぎと、体力を削っておく。つまりは、負けなければいい。そういう心意気だ。

 そのことを彼女たち二人に告げる。すると三人は、というか龍吉もだな。四人はそろいもそろって失笑を浮かべた。

 

「ホント、佐々木君は面白いなぁ」

「そうだね。負けなければいい、って、面白い、ふふっ」

「すんません、皆さん。こいつ、こういう奴なんで」

 

 おい龍吉。俺を『こういう奴』扱いするな。

 まぁ、そんなこんなで方針が決定し、俺たち二人は晴れてテスタロッサ達三人、もとい管理局の一時的な現地協力者となった。

 

 

 

 彼女たちと別れた後、特に何も用事がなかったので、すぐに龍吉と別れて家へ帰ることにする。

 時刻は夕刻。すでに17時を回っており、今からでは予定していた魚貝入りホワイトシチューを作る時間がない。仕方ないが、それはまた後日にしよう。

 少しだけ急ぎ足で俺は帰宅すると、玄関のドアノブに手をかけて、それを回した。回して玄関に入る寸でのところで、俺はわずかな疑問符を浮かべた。

 

(あれ、俺、出るとき鍵閉めたよな?)

 

 ゆっくりと玄関の扉を開けて家の中に入ると、再び鍵を閉めてからゆっくりと制服の懐に手を伸ばし、雪風を取り出す。

 デバイスとして展開しない場合の雪風は、言うなれば護身刀。刀身は刃のない模造刀と同じで、単純な打撃武装として機能する。俺はそれを逆手に持って構え、ゆっくりと家の中に入っていく。

 

(自分の家なのに、何やってんだ俺は)

 

 そんなことを思いながら、俺はゆっくりと音のする方向へ歩みを進める。方向は、リビングか。

 リビングの引き戸を少しだけ開け、人の気配を察知する。場所は、いつも俺が寝転がっているソファか?

 音をなるべく殺して俺はリビングへ入ると、人の気配のするソファへ進む。すると・・・・・・

 

「ひーくーん!」

「のわぁ!?」

 

 背中から来る強烈な衝撃。人が突撃してきたような衝撃を受けて、俺は前のめりに倒れそうになる。俺はそれを何とか堪え、後ろに抱きついてきた人物、というか、俺のことを“ひーくん”と呼んだ人物へと文句をぶちまける。

 

「美月姉さん。帰ってくる、っていうから、来るなら連絡の一本入れたらどーなんだ?」

「あっはは~。ごめんちゃぃ、って痛い痛い痛い痛い!」

 

 ふざけながら抱きついていた、ロングヘアーの女性--俺の実の姉である佐々木美月に対して、抱きつかれた状態でアイアンクロー(利き手バージョン)を叩き込む。勝手に家の鍵を開けて、あまつさえ音もなく抱きついてきた罰だ。

 

「兄さん、その辺にしておかないと、美月姉さんの頭変形しちゃう・・・・・・」

「大丈夫さ葵。人の頭は簡単に変形しない」

「それも・・・・・・そっか」

「こらぁ、葵ぃ!確かに簡単には変形しないけど止めてぇぇあぁぁ痛い痛い痛いからぁ!?」

 

 ソファに座っていた、ミディアムショートでリボンをつけた少女--俺の妹である佐々木葵が、若干ぼーっとしながら言う。美月姉さんが死にそうな声してるから、そろそろ許してあげよう。

 俺がぱっと手を離すと、美月姉さんはその場にぐでぇっと倒れ込むように伏せる。その様子を見ながら、俺はため息混じりに口を開く。

 

「んで、いつ来た用件は何だ」

「えーっとね・・・・・・暇だから遊びに来ちゃいましたっ」

 

 こういうのを『てへぺろ』っていうんだったか? あかんな、すごいムカついてきたぞ。

 俺は思わずアイアンクローをまたかけにいこうとしてしまうが、すんでのところで葵が割って入って止めてくれた。ありがとう葵。もう少しのところで大切な姉を手に掛けてしまうところだったよ。

 

「手に掛けてしまうところ、じゃないからね!?もうすでに手を掛けてて、しかも二回目を掛けにいこうとしてたからね!?」

「さて、なんのことやら」

「むきー!!」

「ねぇ、お腹空いた・・・・・・」

 

 前と変わらない。全く変わらない日常が、この家で流れていた。

 願わくば、この日常が崩れることなく、頼まれ事が終わってくれることを、切に願う。

 

 

 

――それから数時間たった深夜。

 

 バイトが終わりすでに帰宅していた龍吉は、コートを羽織って深夜の町を徘徊していた。

 徘徊、と言っても別に悪い意味ではない。

 昼間に頼まれた、連続殺傷事件の犯人。それの手掛かり探しである。今日は夜勤組の交代時間までのシフトだったし、まだ目が覚めている。運のいいことに明日は土曜日。部活に所属しているわけでもなければバイトもオフ。しかも課題もすべて片付けた。今日は明け方まで調査が出来る、と言うわけだ。

 

「さて、と・・・・・・手掛かりと言っても見つかるかどうか、ってところだよなぁ」

 

 そんな風に愚痴りながら、龍吉はコートの襟元を立たせて不意に吹いた寒風に体を震わせながら歩みを進めた。

 

――そのときだった

 

「――――――!」

「ぁん?」

 

 不意に遠くから聞こえた悲鳴のような声。いや、悲鳴だったのだろう。

 龍吉はコートの襟元をもう一度正すと、神経を集中させるように目を閉じ、意識を『音』のみに集中させる。

 

――大気が流れる音

 

(違う・・・・・・)

 

――葉が風に揺れ擦れる音

 

(違う・・・・・・)

 

--ガタンガタンと時折聞こえる最終列車の音。それに混じって聞こえるノイズ。

 

(違う、けど近い・・・・・・)

 

――そして、肉を切り裂くような、ぐちゃっ、ぐちゃっ、という生々しい音

 

「――見つけた」

 

 龍吉はそう言うと、助走をつけてブロック塀を一跳びして乗ると、そのまま誰とも知れない家の屋根の上に乗る。

 

(方角は南南西。距離的には250ってところか)

 

 目測で距離を割り出すと、その方向へ屋根から屋根へ飛び移るようにして走り出す。その姿は、まるで闇夜を駆ける忍びか何かだ。

 たん、と柔らかく地面に軟着陸すると、目の前にあるのは森林公園。そこの広場だ。しかし、その広場はすでにいつもの風景ではなかった。

 

「うげ。流石にこれはクるなぁ」

 

 真っ赤に染まっている芝生。漂う異臭。それは絵の具とかペンキではなく、誰かの鮮血によって染められたものだ。異臭のするその芝生の上を進みながら、龍吉は見た。

 

「あんたか。ここんところ世間を賑わせてるやつは」

「・・・・・・」

 

 黒いフーデットパーカーの人物。夜だから真っ黒に見えるが、若干青みを持っているパーカーは、体をすっぽり覆うほど大きく、まるでマントかコートだ。右手に持っているのは、大振りのサバイバルナイフ。血で真っ赤に塗れたその得物の柄には、同じく赤黒い宝玉が埋め込まれている。

 そして、その人物の足下にあるのは、見事なまでに六分割にされてしまった女性の遺体。絶望の表情のまま殺されたのだろう。そんな表情をしていた。

 

「まったく。面倒事は嫌いなんだが、頼まれたしまった以上、やらないわけにゃいかんよなぁ」

 

 そんな風につぶやきながら、龍吉はしっかりと閉じていたコートのボタンを全て外し、トントンとその場で小さく跳ねる。それを見たフードの男は、ゆらりと体を揺らしながら龍吉の方を向いた。

 月明かりに照らされたフードの奥は、充血しきった真っ赤な目がギラギラと輝いていた。それはまるで、新しい獲物を見つけた肉食獣のように、血に飢えた獣のような瞳。

 そのひとみと真正面に相対した龍吉は、ふぅと大きく息を吐いてから瞳を閉じ、再び開く。

 

「――俺を凡百な万人と思うなよ。血に溺れた哀れな獣」

「――――!!」

 

 今の一言がキーになったのか、フードの男はまっすぐに龍吉へと突進していく。右手に持った血濡れのナイフの切っ先を龍吉へ向け、速度を上げていく。

 

(距離にしてざっと十五メートルと言うところか。この距離なら・・・・・・)

 

 俺の方が(はや)いな。そう確信した龍吉は、すっと右手を振りかぶり、龍吉は呟く。

 

「黒虎よ――」

 

――喰らい尽くせ。

 

 瞬間周囲に響く、金属が強引にねじ曲げられたような、いびつな音。フードの男は、その音が鳴ったときには龍吉から距離をとっており、右手に持ったナイフをみる。

 そのナイフは、刀身の中程から何かに喰い千切られたような壊され方をしていた。

 フードの男は龍吉をみる。

 

「――何だ、ソレは」

 

 龍吉が聞いた声は、風邪を引いたときに聞こえるような濁声。龍吉は、彼の問いに答えるべく、一歩、前へ出た。

 

「これか? これは、俺の能力。皆は“黒虎”と呼んでいるが、俺は特に気に入っている小説から名前をとり、こう呼んでいる――」

 

――“羅生黒虎”と

 

 龍吉の着ているコートがはためく。それに併せるかのように、コートの端が歪み、とあるモノを形作る。

 それは一本の槍。黒く、黒く染まったそれを一瞥してから、龍吉は構える。それを見てから、フードの男はナイフを懐に仕舞い、両手を赤黒く輝かせて構えをとる。『魔力』だ。

 魔力(それ)を初めて見る龍吉は、へぇと小さくつぶやきながら、羅生黒虎によって形成された黒槍に手を添え――

 

「次の、獲物は、お前だあぁぁぁ!!」

「とりあえず、動きを止めさせてもらう!」

 

 片や、次元世界を脅かす恐怖の殺人鬼。片や、地球にすむどこにでも住んでいるような、普通だけど、少し普通じゃない一般人。

 そんな両者が、今宵、激突した。




久しぶりに個人視点を使った気がします。ノリノリで書くと書けるのですが、書けない時はさっぱりですからねぇww

それでは、感想等々、お待ちしております!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。