魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~ 作:Yuino
どうも、ようやっと更新出来ました。
それでは、お楽しみくださいませ!
(2017/12/26 加筆修正)
――翌々日。正午。八神家居間
「よっしゃ。とりあえず、明日決行の作戦を説明するで~」
まぁ、作戦ちゅう作戦でもないんやけどな。そうはやてが軽く言い場を和ませる。彼女がそうでもしなければ、この場は緊張しっぱなしのピリピリとした感覚に襲われっぱなしだっただろう。
このような作戦に参加するのが、おそらく始めてとなる聖は、肩肘を強ばらせて姿勢を正している。まじめ、という風に捉えてもらえればおそらく良いのだろうが、それを通り越して緊張の雰囲気がダダ漏れだ。
これに関して、思わず龍吉が笑いを浮かべてしまうほど硬い表情だった。
しかし、先ほどのはやての言葉で漸く緊張の糸が解れたのか、幾分か柔らかい表情をしていた。それでも、緊張した表情だ。
それに対して、龍吉と彼に同行してきた小春は落ち着いたものだった。いや、落ち着きの中にうまく緊張を隠している、といえばいいだろうか。彼ら自身、こういう『作戦会議』を開くのも参加するのも毎回のようにやっているし、今日も朝一番で会議を行ってきた。慣れている、といえばいいだろうが、とはいえ今回同席している人物たちを見れば、緊張せざるを得ない。
何せ、今回ともに作戦を行うのは魔導師たちで、今回相手取る目標も、同じ魔導師、なおかつ指名手配中の殺人鬼なのだから。
しかも、一度龍吉は敗北している。それほどの強敵だ。緊張するな、といわれて緊張しない方がおかしい。
「えと、織村くんが自分を犠牲に持ってきてくれたスラッシャー、もといジェイソンの武装は大鎌やね」
「俺の負傷、無駄にならなかったな」
「そうやね。それで、今までの記録映像を見るに、たぶん陸戦AAA、もしかしたらオーバーSはあるかもしれへん」
「オーバーSか。相手にとって不足はないな」
「確かに。ぶっ叩く分には申し分ない相手だ」
ガシ、と握り拳を作りながら言うのは、はやて直属の騎士であるシグナム。彼女に続くように、ある意味笑顔を浮かべながら聴いていたヴィータ。そんな二人を見ながら、同じく直属の騎士であるシャマルは苦笑いを浮かべていた。
聖は、漸く働くようになった頭をフル回転させながら、はやての話を半分聞き流しつつ記録映像を見ていた。
龍吉とほぼ互角に渡り合う画面上のジェイソン。武装は身の丈以上あるだろう漆黒の鎌。重量だけでも相当あるはずのそれを、軽々と振り回すその姿に、聖は一人の武人を彷彿させていた。
「まるで呂奉先だな」
「持ってる武器は違えど、ってところだろうな」
「どーするぅ? 方天画戟持たせて同じくらいの実力発揮したら」
「「それは困る」」
聖の呟きに龍吉が答え、小春の問いかけに対し二人がつっこみをいれる。それを聞いたはやてやなのははふふっと微笑み、意味の分かっていないフェイトたちは疑問の表情を浮かべるだけ。
「映像でも分かることだが、鎌という得物を使う以上、射程距離は
シグナムのもっともな意見にうなずく皆。その中で、龍吉は「そうっすね。でも、私は──」と言葉を挟むようにして、いくつかの記録画像を展開する。
聖はこのとき気が付いた。龍吉が一人称を「俺」から「私」へと変えていた。こう言うときは、龍吉はいつものおちゃらけた龍吉ではなく、『軍師・織村龍吉』としてのあいつが出てきている。
「あくまでも、と念を押しておきますね。奴の攻撃範囲は
「その根拠は?」
「私が奴の動きを止めたとき、多少強引にマウントポジションを取ったのですが、その状況から射撃魔法、でしたっけ? それを高速展開してぶっ放してきました。最悪、充填時間を与えてしまえばもうちょい火力が出ると予測します」
つまり、と龍吉は自分のパソコンを起動させ、小春に持ってきてもらったプロジェクターにつなぎ、映像を出す。
その映像は、まるでチェスの盤上のような形。赤く、大きな駒が中央に位置し、盤外には十の青い駒が散りばめられていた。
「中・近距離で超高速の
「動きが鈍く鈍重、且つ一撃の威力は高くとも隙が大きい相手に対してなら効果的だが、今回の相手は遅いわけじゃねえし、むしろ早く鋭い方だ。どうすんだ――」
軍師さんよ? 聖の一言を待っていたかのように、龍吉はニヤリと笑みを浮かべると、画面上に一つ、黒い駒が現れ、それが赤い駒の隣にコトリとおかれる。
「なら話は簡単だ。一人、近接戦闘に特化した人物をジェイソンに当て、それに気を取られているうちに周囲から集中砲火。ジェイソンを無力化した後、捕縛する」
パシン、と教壇で指さし棒をふるう教師のようにして、聖を指す。刺された当人は、きょとんとした疑問の表情を浮かべてから、瞬時に驚きの表情に変わる。
「まじ?」
「あぁ。おそらく、シグナムさんでも相手は出来ると思うが、一応保険と言うことで取っておきたい」
「俺はあれか? 主力を回復させるためのおとりって奴か? げんきのかけら使うために出す秘伝技要員かおい」
「まぁまぁ聖君、落ち着いて」
ぐるるる、と唸る聖を宥めるなのは。そんな聖を半ば無視して、龍吉は再びプロジェクターの画面に向き直り、別の画面を展開する。
展開された画面は、海鳴の外れにある倉庫街。聖がいつか、なのは達と出会うことになったきっかけを作ったあの誘拐事件、その現場にもなった場所だ。
「決戦場所はここ、海鳴倉庫街の十一番倉庫。ここに、ジェイソンの拠点があると、うちの捜索班からの連絡が――失礼」
説明半ばで龍吉は手元にあったケータイを取り出し、通話に出る。緊迫していた空気がわずかに緩んだ。
その空気が、すぐさま緊迫したものに戻るとも知らず。
そして、この戦いで少なからず犠牲が出るとも、思わずに――
ふいにかかってきた電話に出るべく、俺は少し離れる。多少緊張の糸が張りすぎていたところにこの連絡。ある意味、助け船とも言え無くなかった。
ケータイの画面を見る。そこには、よく知った名前があった。
ホーソーン。今回、ジェイソン捕縛作戦の際に、偵察役をかって出てくれた人物の一人だった。
「まいど~」
『まいど、こちらミハエル。定時連絡、良いか?』
「うぃす。ある意味ナイスタミングっすよ」
『ん? まぁ、とにかくだ。ジェイソンに動きがあった』
なに……?
ジェイソンに動き、だと?ずいぶんと早いじゃねぇか。
「……続けてください」
『あぁ。見張っていた倉庫に、所属不明の団体様方ご一行が入っていった。ミス・鏡花と見ていたが、あれは武装持ちだった。武装は全てサブマシンガン系統。且つ殆どが』
「魔導師、か。こりゃ、ほんとに総力戦になりそうだ」
俺は、後ろにいる高町さん達に魔導師組に気取られないように、一度部屋を出るため、ドアの方へ向かう。それを見たであろう、いや、見ていたであろう聖に、ハンドサインを送る。俺と聖。聖龍コンビの二人しか分からない、バレーボールの時のような簡単且つ高速のハンドサイン。
腰に手を当てる様な仕草を利用して、そのまま……
(えっと、確か……こう、こう、こう、こうっと、んで、こう、だっけ)
さささっとハンドサインを送る。すると、聖は大きく伸びをしながら「ちょっとお手洗い~」と言いつつ部屋を出る。それに合わせるかのようにして、俺も別の扉を開けて部屋から抜ける。
「さて、と……」
我ながら無粋な真似だなぁ、とか思いつつ手元の小型通信機、もといもう一つのケータイを起動させ、通話ボタンをタップ。そのまま聖に通話を繋ぐ。
『なんだよ、急にハンドサインなんか出して』
「ちょっとな。どうにもこうにも、ジェイソンが動いたみたいだ。んで……」
『先だって俺に動け、ってか。ったく、軍師様は人使いが荒くて困る』
きっと、こいつは電話越しで笑っているだろう。今のワンフレーズ。俺に対する文句の中でも一番多い一言。
『人使いが荒くて困る』。この一言の裏には、文句ではなく信頼。ただ、その一つの感情。
聖龍コンビと言われる前から、俺と聖の間に、いつの間にか作られていた、そんなつながり。
ブツン、と通信が切れ、そのまま音が切れる。そんな相棒にため息をついて、再び部屋に戻る。恐らく、この間にも聖は一度家に戻ってから倉庫街へ向かっているだろう。自分の身を削るような、そんな戦いに向かって。
まったく、世話の焼ける相棒だ。そんな風に思いつつも、俺は一度部屋に戻る。そして、一言……
「ジェイソンが動いた。さて、僕たちも動くとしましょうか」
にやりと口元をつり上げて、俺は言う。
さてさて。動くとしましょうかね。
――海鳴市郊外 倉庫街周辺。
倉庫街に到着した聖は、大勢の”出迎え”を受けていた。
「はぁ――はぁ――ったく、ご大層な出迎えだなぁおい」
肩で息をしつつ、聖は雪風をふるってから鞘に収める。それを見た、正面にいる武装隊は一斉にサブマシンガンを構え直す。相手は魔導師でありながら火器兵器を使用する、ある意味異端者の軍勢。
しかし、それは聖もまた同じ。魔導師、騎士であり、雪風をふるう上で父と約束した不殺を誓い。をれを守ってきた聖だが、今回に限ってはそれを守れそうにない。それほどまでに、聖は怒っていた。
雪風は不殺の刀。人斬りは基本的に行えない。それを持つことで、自分自身に自己暗示を掛け、人斬りを行えないようにしてしまう。
だからこそ、聖は自宅からコレを持ってきた。
「殺しはしたくないから、本当はこんなモン使いたくなかったんだが」
そう言いつつ、聖はもう一本差していた刀を引き抜く。
それは、模造刀ではなく真剣。若干刀身が赤く染まっているのは、もともとの刀身が血のような赤みを帯びているせいか、はたまた彼の周りに倒れ伏せている同じく人々のせいか。
腹部から、腕から、足から。赤々とした体中から鮮血が吹いている。すぐに処置しないと命に関わるレベルの負傷であり、斬撃の痕。
すべて、聖が行った所行。
『殺しを封印した』はずの聖の、本気。
「あんた達がやったことは俺の逆鱗に触れた。その時点で、あんた達の運命は、二つに一つ――」
聖が、足下でうめいていた、もとい既に息絶えた武装隊員を軽く蹴飛ばして道を造る。大きく開けた、武装した違法集団数十名と聖、双方の距離。距離にして二十メートルと離れていない、銃火器を所持している人物にとってはほぼ必中距離のような、そんな距離で、聖はその刀--『
「生きるか、死ぬか。好きな方を選べ」
「撃てぇぇぇぇ!!」
武装集団の中央あたりで指揮を執っていた、指揮官らしき人物が叫ぶ。
「全く、話を聞かない人たちだ」
聖が駆け出す。魔力を加速のみに振り、人外じみた速度で一気に飛び出した。
それよりほんの少し早く、違法集団の全員が、マシンガンを、自動拳銃を、そのすべてのトリガーを引き、嵐のように銃弾をまき散らす。
しかし、当たらない。一転を狙うような点射撃ではなく、広範囲を殲滅する為の面射撃だ。そのはずなのに、聖の姿を、とらえることが出来ない。
それほどに、聖が速すぎるのだ。目で追いきれないほどの、超高速。
敏捷性に全能力を極振りした、と表現しても差し支えないほどの高速移動。もともと速いそれに、すさまじい回数の
「くっ、そぉぉ!!」
「――ごめんなさい」
小さな謝罪。それとともに、違法集団の最前衛中央にいた人物の体に十字の斬撃が叩き込まれる。心臓を断ち切る、絶命必至の一撃。血の雨の吹き出しながら、彼は絶命した。
その場にいた全員がたじろぐ。血の雨を浴びた聖は、うつろな表情のままゆらりと揺れるようにして、再び刀を構える。
「通してくれ――」
一歩、踏み出す。
「――本当は、もう、殺しはしたくないから」
また一歩。
極端に優しすぎる、とよく言われる聖が、自分の本当の気持ちをうつろな言葉に乗せながら。
「奴の、ジェイソンのところまでの道を開けろ」
さらに一歩。
そして――
「美月を、葵を……俺の家族を、返せ――っ!!」
鬼神じみた速度で、武装集団のすべてを、瞬時に地に伏せさせた。
――それから三十分後
「うわ、こりゃすげぇな」
倉庫街に聖に遅れて到着した龍吉たちは、その光景を見て圧倒されてしまった。
海鳴市倉庫街。その、ジェイソンが拠点としている十一番倉庫。そこを守るように、数十人の武装した違法魔導師が警備している、という情報が、ミハエルからの通信。
そのことを念頭に入れて、ここにくる前にすでに全員を戦闘態勢にしておいて、尚且つはやての十八番である広域魔法で倉庫街一帯に人払いの結界を展開しておいてもらっている。ある意味、それが功を奏した、といっても良いかもしれない。
「なんて、酷い」
「まさか、これを全部聖君が……?」
「そのまさかっすよ、高町さん。おそらく、全部聖がやったことっす」
「そんな――っ」
なのはが、はやてが、フェイトが。全員が口元を押さえ、絶句していた。
目の前一面、血の海だ。その殆どが急所を断たれ、一撃にて殺されている。もしもこの騒ぎが外に全て漏られいたら、異臭騒ぎでは済まなかっただろう。
「とりあえず、この先に
そこまで言って、彼は視界の中に入ったものを見て、思わず足を止める。それにつられるかのように、なのは達も足を止めた。
「どうしたの、織村君……?」
「どうやら、お出迎えみたいっすね。しかも、ちょっと予想外なお出迎えっす」
思わずファイティングポーズ、もといすぐに動ける臨戦態勢を取る。それを見て、なのは達も前を見ただろう。
今、彼らの目の前にいるのは、さきほど倒れ伏せていた武装隊員。彼らは、皆生気のない虚ろな表情をし、ゆらゆらと揺られながら、まるで死霊のようにして立ち上がり、武装を構えた。
龍吉達探偵社側も、なのは達管理局側も、この状況に対して驚きを隠せなかった。まさか、死んだはずの人間が復活してくるなんて、思っても見なかったのだから。
さらに、彼らの後方十数メートル先から迫ってくるのは、異様な機械装備を施された狼達。その数、実に五十以上。背中には黄色の半球のクリスタルのようなものが埋め込まれた機械装甲を身に纏い、全速力でこちらにつっこんでくる。
「八神さん。あんなものに見覚えは?」
「似たようなもんは見たことあるんやけど、あれは初物やね」
龍吉の問いかけに答えつつ、はやては右手で愛杖シュベルトクロイツを振るう。ついで、ユニゾンしているリインフォースⅡに声をかける。
「何はともあれリイン、迎撃行くよ!」
『はいです、はやてちゃん!』
リインの一声から、はやては二メートルという僅かな高度をとって、シュベルトクロイツを構える。
「フリジットダガー、最大展開!」
『はいです!』
はやての声で、彼女の前面に水色の短剣が多数展開される。リインフォースⅡが持つ攻撃魔法『フリジットダガー』。はやてとのユニゾンで威力強化はもちろんのこと、中距離までの射撃ならば足止めとしても威力十分だった。
「ってぇー!」
太陽光を弾き返しながら、光とともに中空を走る白銀の短剣群。それらは、前衛にいた武装隊員達に当たり、確実に意識を刈り取った--
「やった…?」
まさかの初撃決着。そう思ったはやては、構えた愛杖をゆっくりとおろし――
「まさか――八神さん下がって!!」
「え……って!?」
不意につっこんできた龍吉に、訳も分からず吹き飛ばされていた。
瞬間、龍吉へと迫る。色取り取りのライン。それらは、後方から迫っていた機械狼が放ったものと理解するのに、そう時間はかからなかった。
「織村君!」
なのはが叫ぶ。頭で考えていただけでは、自分の体は動いていなかっただろう。とっさの反応で彼女はレイジングハートをスイング。迎撃の為にシューターを多数展開しようとするが――
(ま、間に合わない!?)
時既に遅し。まさにその句がぴったり当てはまる状況だった。シューターでの全力迎撃はおろか、遠隔展開での防御魔法すら、間に合わない。フェイトも、はやても、シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも。
そのときだった。
「――ったく。手の掛かる弟だこと」
声が、響いた。りんとしつつも、どこか柔らかい。そんな声が。
「雪――?」
なのはは、ふと視界に入ったものの名前を口にした。
ゆらゆらと落下する白銀のそれ。秒速数メートルという低速で落下してくるそれは……雪。それが見えたとき――
轟音。
龍吉のいたところに、色取り取りの砲撃が突き刺さった。はっとして着弾点を確認するも――
「え……?」
龍吉は、無傷無事だった。砲撃は、彼の周囲数メートルのところに突き刺さっていた。土煙が上がってよく確認できなかったものの、余波でのダメージはおろか、爆風での負傷も見受けられない。
「おっせーよ、姉貴」
「いやぁ、ごめんごめん。
「その頭、どうにかした方がいいぞマジで」
ぴんぴんした格好で、龍吉が屈伸、伸脚をして体の調子を確認する。そんな彼の少し後方から、なのは達の後ろから着いてきていた小春が大きく伸びをしながら龍吉の隣に並ぶ。
「どういう、こと?」
「一体、何が?」
フェイトが困惑し、後方から高速で防御壁『鋼の軛』を展開しようとしていたザフィーラもまた、驚いた表情をしていた(狼形態で)。
「さて、と。それじゃ、反撃といきましょうか」
彼女――小春の一声で、龍吉の隣に黒スーツに左手には聖書を持った男性が、小春の隣には和装に和傘、花柄のマントを身につけた小柄な女性が並ぶ。
「ミス・小春。ミス・鏡花。本当に、よろしいのだな?」
「えぇ。
小春がスーツの男性――ミハエル=ホーソーンにそういうと、彼はため息をついてから聖書をぱらぱらをめくりながらとあるページで止め、「人使いの荒いご令嬢だ」と言いつつも一歩前へ出る。それに合わせるように、小春は体をほぐすように伸びをし、和装の女性――尾崎鏡花も、和傘を閉じて杖のようにつく。
「小春っち。私は前衛?」
「そうねぇ。龍吉は遊撃。私はなのはさん達を護衛しながらひじりんを追うわ。倉庫の中に私たちが突入するまで、ミハエルと鏡花さんで、この人達を抑えて」
「あいよ、姉貴」
「心得ました、ミス・小春。ミス・鏡花、往くぞ」
「分かってるわよ」
鏡花とミハエルは、互いに三メートルほど距離をとり前を向く。鶴翼陣形で囲い込もうと画策する死霊武装隊員と機械狼達を前にして、臆することなく彼らは構える。
「死者よ――一度死した者が、今一度この世を闊歩するなど、神から許されたことではない。そのことを理解して尚、私たちに楯突くか」
「何言っても無駄でしょうに。全く、これだからイケメン聖職者は。先にやるわよ?」
鏡花は閉じた和傘の中程をクルリと回し、そこから銀色に輝く何かを引き抜く。
それは、直刀。聖の持っているような、剃りのある日本刀ではない。基本的に突き刺すことを旨とした、そういう武装。
それを引き抜いた鏡花は、一歩前へ出て、朗々と、まるで歌うように唱えた。
「散る花弁の美しさよ。されど蕾のまま、散ることもなし――」
ブゥンと、鏡花の背後の空間がブレる。まるで、何かを空中に映し出そうとして、なかなか映し出せないような、そんなものに似ている。
それに続くように、ミハエルもまた、一歩踏み出し、鏡花とは対照的に、静かに、ただしかしはっきりと、まるで宣告するかのように告げる。
「主よ、私と争う者とあらそい、私と戦うものと戦ってください――」
それは、旧約聖書。詩篇第三十五篇。その、第一節。その節を唱えながら、彼は手持ちのクロスでゆっくりと自分の右手に傷を付けていく。僅かながらの出血を伴う、そんな傷を。
それらの句は、彼らが自らの枷をはずし、能力を起動させるときの一句。名は、
瞬間――
「――目覚めよ、緋文字!」
「咲け、
ミハエルの周囲には、赤々と燃えるような、赤い文字が浮遊する。
鏡花の背後には、同じく赤い、血のような和装を纏い、般若の面を被った女夜叉が浮かび上がる。
「まさか、召喚魔法!?」
「ん~、似たようで違う、そんなもんよ、なのはちゃん」
「とりあえず、先へ急ぎましょう」
龍吉が駆け出すのと同時に、なのは達もまた駆け出す。しかし、その中で動かず、自らの武装を構える者達がいた。
「シグナム!?ヴィータ!?」
「行ってください、我が主」
「聖のバカを追いかけて!」
「ここは、我ら守護騎士が」
「いつまでも置いてかれっぱなしは、さすがにシャクだからね」
シグナムが、ヴィータが、ザフィーラが、シャマルが。それぞれ騎士甲冑を纏い、ミハエルと鏡花の隣に並び立つ。
これが、開戦の狼煙。
犠牲を払うかもしれない。そんな戦いの、始まりの始まりだった。
感想とかいろいろ、お待ちしております!