魔法少女リリカルなのはAnother~侍と呼ばれた青年~   作:Yuino

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 ううむ、そろそろカッコとかを統一するための一時編集をしないとなぁ、とか思い始めているYuinoです。

 来月から就活なんで、更新速度が一気に落ちるような気がしますたぶん。なるべく落とさないように、そして就活も成功するようにしていきますので、皆様温かい目で見守ってくださると嬉しいっすはい。

 それではそれでは、はじまりざますよ?

(20015/06/26 簡易修正)
(2017/12/26/ 加筆修正)


08:侍と斬り裂き魔

――聖が倉庫街にたどり着く、その数十分前。

 

 聖は一度、家の方に戻っていた。倉庫街自体が、家のある方向にあったし、なおかつとあるものを所持しておく必要があった。もちろん、それはそのときまでは『念のため』だったのだが。

 聖はひたすら駆ける。しかし、その途中で”何かおかしい”と気づき始めた。

 

「何だ、この騒ぎ……?」

 

 家に近づいていくにつれて、なにやら騒ぎが大きくなっている。しかも、その騒ぎが、家の方から聞こえてくる。

 ただならぬ予感を胸に抱き、聖は走る。

 そして、その予感は、ものの見事に的中してしまうことになる。

 その騒ぎは、本当に聖の家が中心になっていた。なにやら多くの野次馬が家を囲み、がやがやと騒がしくなっていた。

 

「あら、聖くん、今帰ってきたの!?」

「た、只野のおばさん? 一体、何が・・・・・・?」

「美月ちゃんと、葵ちゃんが――」

 

 隣の家主、只野さんの言葉。そのワンフレーズを聴いて、聖は家の中に飛び込む。鍵を開け、靴をもののゼロコンマ数秒で脱ぎ捨てるとリビングの中に飛び込んだ。

 

「おい。これは一体――」

 

 リビングは、限界というものを知らないかのごとく荒らされていた。何かと争ったような痕跡が至る所に確認でき、現場検証などにきていた警察官達がせっせと調査に当たっていた。

 その中をうまくかいくぐり、警察官の「心当たりは?」という質問に対し、聖は「全くないです」と答える。

 しかし、聖には心当たりがあった。しかし、これを警察に干渉されるのはこちらとしてもまずい。

 そして、聖の心当たりが正解ならば、あの場所に何か残っている。

 その思いを旨に、一度道場の方へ向かう。

 案の定、正解がここにあった。

 道場の床に書かれた、赤い掠れたような文字。僅かに香る、血の匂い。その赤い文字が、誰かの血で書かれ、そして誰が書いたものか、聖にとって答えは明白だった。

 

「『J soko』、か。わかったよ、美月姉さん」

 

 聖は小さく呟く。そして、道場の奥にある『不撓不屈』の掛け軸の下を持つと、思い切りそれを引き払う。

 そこには、一本の刀とその鞘、それを持ち出すためのバットケースが納められていた。

 刀は、刀身が赤く染まり、鞘もまた、それと同じ色に染め上げられている。そして、まるで封をするかのように張り付けられた白紙には『緊急時以外引キ抜クコトヲ禁ズル』と赤字で書かれていた。

 佐々木帝流直系の継承者のみが扱うことを許される、秘伝の刀。赤く染まった刀身と、僅かに香る血の匂いから、その刀は、『血の刀』と書き、血統という単語にかけた『血刀(けっとう)』、そして、その刀から『死』を連想させるということで、とある迷信で死を連想させる花である『彼岸花』の銘をつけられた。

 そう、これは、不殺を誓う天剣佐々木帝流の中でも特例中の特例。

 『身内ニ多大ナル危害ヲ加エタ者ニハ制裁ヲ』 に則って打たれた、殺しの刀。

 聖は、それの柄を掴み、勢いよく引き抜くと、鞘に収めてバットケースに収納する。そのまま道場の裏手から外にでると、そのまま駆け出す。

 向かう先は、海鳴倉庫街。そこに、必ずいる。葵と、美月が。

 

「待ってろ。葵、美月姉さんっ!」

 

 聖はもう一度速度を上げた。手遅れになる前に、たどり着くために。

 

 

 

 

 

 

――再び時間は戻り、海鳴倉庫街

 

 いっこうに数が減らない。そうシグナムは思い始めていた。

 これじゃじり貧だ。ヴィータは内心焦り始めていた。

 速く削らないと、はやてが危ない。ザフィーラは珍しく息が上がり始めていた。

 全体の速度が上がって、ペース配分が狂っている。後方から支援していたシャマルは、ペースを落としつつも回復と支援に手一杯だった。

 もしも、この防衛ラインという場所が、守護騎士のみだったら、あと数分で崩壊していたかもしれない。

 それほどまでに、今目の前に無数に存在する、死んだはずの違法集団と、機械狼は強敵だった。

 まるで繋がっているかのような連携と、絶え間なく放たれる波状攻撃。防ぐのも攻めるのも、手一杯になりつつあった。

 もしも、対処していたのが自分たちだけなら、と言う話だが。

 

「しっつこいよ!」

 

 紅の夜叉が振るう仕込み刀が、そしてそれを使役する日本刀を振るう和装の女性が、数匹の狼達をまとめてなます切りにする。

 

「少し、静かにしましょうか?」

 

 神父が右腕をスイングすると、無数の赤い文字列が死霊武装隊員と狼の動きをその場に縫い止め、縛り上げ、切り刻む。

 紅夜叉を操る、尾崎鏡花。赤い文字列『緋文字』を繰る、ミハエル=ホーソーン。この二人は、背中合わせに、多くの相手を無力化していた。

 そしてその瞬間、転機来たりと言わんばかりに守護騎士達は自らの力を存分に振るう!

 

「ラケーテンっ、ハンマー!!」

「紫電、一閃!!」

 

 シグナムとヴィータ。守護騎士の近接担当が動きの止まった相手を一気に吹き飛ばしていく。

 

「シグナム、少し飛び出し過ぎよ?」

「あぁ、すまないシャマル」

「ヴィータも同じく、だ」

「すまねぇ。でも、ザフィーラが守ってくれるなら思い切り出れる!」

 

 飛び出しすぎて直撃しそうになったシグナムへの攻撃を、シャマルは遠隔防御壁『風の護盾』で、ヴィータへの攻撃をザフィーラが『鋼の軛』で防ぎきる。

 まさに、攻防自在のコンビネーション。守護騎士四人と、二人の探偵(武闘派)。その動きは、完璧にかみ合っていた。

 

「なるほど。貴女の剣術、なかなかのものだ。今度、是非手合わせを願いたいものだ」

「私としては、是非拒否りたいところね~」

「こらこら。そう言う話は全て終わってからにして欲しいものだ」

「まぁ、シグナムだし……」

 

 若干の緊張感のない空気が、輪形陣――中央にシャマルを配置し、彼女の前後左右をシグナム、ヴィータ、ミハエル、鏡花、ザフィーラで囲う陣形の中で流れる。

 その中、一人思案するように考え込む人物がいた。そう、ミハエルである。もちろん、四方八方、もとい正面と左右、そして上方から飛んでくる射砲撃や物理攻撃を緋文字でガードしながら、吹き飛ばしながら、少しの間うつむきながら考えていた。

 

「もしかして……いや、でも……やろうにも……むむっ……」

「なぁに唸ってるのよ、ミハエルっ?」

 

 『バチコーン』という効果音が似合いそうなモーションで死霊武装隊員を仕込み刀(ただし納刀状態)で吹っ飛ばしながら鏡花が聞く。彼女の問いかけに対し、ミハエルは「あぁ、気にしないでくれ。ちょっと」と言って、近くまで来ていた機械狼を緋文字で弾き飛ばして、一歩前へ出た。

 

「少し、試してみたいことが出来た」

 

 ぼうっ、と煌めく赤い文字。そして、懐から数本の十字架を取り出し、それらを指に挟み込むようにして持つとそのまま横にスイング。

 すると、十字架の上から白銀の刃が、光を伴って展開される。

 その現象に、一瞬だけ驚く守護騎士達だが、何かの『策』と判断し、シャマルを最後尾に配置してミハエルを囲うように輪形陣を組み直す。

 

「何かの策があるのだろうな、修道士」

「あぁ。というか、君はしゃべれたのだな、狼君」

「ザフィーラだ」

「あぁ、そう。それじゃザフィーラ君、少し頼まれてくれるか?」

 

 心得た。そう短くザフィーラが言うと、彼の前にザフィーラが来て、光に包まれる。すると、光がはれた頃には筋骨隆々な褐色の男性がいた。

 

(ザフィーラの人間形態(モード・ヒューマン)、見るの久しぶりね)

(魔導師って、もうなんでもありなのね)

 

 シャマルが感慨深く、鏡花はあきれたような表情で彼を見る。そんな二人をよそに、ミハエルはザフィーラに対し「それでは、よろしく頼む」と一言。

 彼の一言にうなずいたザフィーラは、その場に構える。そして――

 

「でりゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 気合裂帛。

 地面を思い切り踏み抜き、彼の叫びに呼応するように、無数の白銀の槍--彼の魔法『鋼の軛』が乱立し、死霊武装隊員と狼を一カ所にまとめ、そして動きを封じた。

 その瞬間。

 

「ふっ!」

 

 手に持っていた十字架十本をすべて、時間差をつけて空中に投擲する。そして、懐に隠していた聖書を取り出し、唱える。

 

「――告げる(セット)

 

 ぼう、と輝き出す彼の足下。

 

「――我が殺す。我が生かす。我が傷つけ我が癒す。我が手より逃れうる者は誰一人として在らず。我が目の届かぬ者は誰一人として在らず」

 

 バスン、という鈍い音を立てて十字架の一本が空中より落下する。

 その色は、赤。

 

「打ち砕かれよ。破れた者、老いた者を我が招く。我に委ね、我に学び、我に従え。休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、我を忘れず、我は軽く、あらゆる重みを忘却させる――」

 

 一本、また一本と、落下してくる十字架。今までに落下してきた数は、九本。その十字架は、一カ所にまとまった武装隊員たちの周りに、十字を作るように落下し、突き刺さる。

 そして、落下して突き刺さるたびに色が赤から白へ向けて、徐々に薄くなっていく。

 

「装うなかれ。許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を――」

 

 一歩、前へでるミハエル。手に持った聖書は白銀の光をさらに強め、世界を照らす太陽の光にもよく似た、目映い光を放っていた。

 

「休息は我が手に。貴殿等の罪に油を注ぎ印を記そう。永久の命は、死の中でこそ与えられる。――許しはここに。洗礼を受けし我が誓う」

 

 パタンと聖書を閉じ、右手でもって十字を切る。そして、最後の一本の十字架が、ほかの九本で作り上げた巨大な十字架の中央に落下する。

 そして。

 

「――――その魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)

 

 完成した十字架を起点に、吹き出すようにして白銀の光の奔流が溢れ、その光を拒むかのような爆風がミハエル達を襲う。

 風に吹き飛ばされまいと踏ん張る守護騎士達と鏡花。彼女たちの声がかき消されていく中、ミハエルには全く別の声が聞こえていた。

 

「――っ!――っ!!」

「な、なんだこの声は」

 

 絶望、哭泣、悲壮、死。まさにそのような表現が一番ぴたりと当てはまる、そんな負のイメージをさせる、叫びがミハエルの中に響いてきた。

 そのすべて。最後に響いてきた声は、絶望の中から救いを求める、そんな声。

 そんな声にもまれながら、彼は突風の中膝をつく。飲み込まれる、そう一瞬だけ思考し――その思考をすぐさま取っ払った。

 

「そんな感情がある、と言うことだけ理解できれば・・・・・・もう、十分だ」

 

 膝をついた状態から再び立ち上がると、再び十字を切り、自分の右手を首にかけた十字架のペンダントで浅くない斬り傷をつける。一瞬だけ吹き出て、その後はつぅっと真っ赤な鮮血が彼の指を伝い、地面に落ちる前に風に吹き飛ばされていく。

 

「緋文字、改式。形状、弾丸」

 

 指を伝って落ちていく彼の鮮血が、ゆっくりと彼の指の先に螺旋を描いて集まっていく。しゅるるる、と乾いた音を立てながら指先に集まっていき、それは一つの形を生み出す。

 それは、球体。銃弾と言うにはあまりにも小さく、しかしパチンコ玉よりも確実に大きい、そんな形状のそれ。

 それを指先に形成すると、彼は右手を、まるで子供が拳銃遊びをするときのような、手で銃の形を作り固定すると、光の奔流と爆風の発端である場所に向け--

 

Anfang(セット)――緋文字改式、洗礼の弾丸(バレッド・オブ・バプティズム)。その願い、聞き届けた」

 

 乱射。

 マシンガンかガトリングか。まさにそれと表現することがふさわしい高速連射で、弾丸を射出していく。

 光と爆風の中に消えていく旅に響く哭泣、悲壮。しかし、その声は光と爆風が落ち着いてくるとともに徐々に小さくなり、声が聞こえなくなると同時に爆風も綺麗さっぱり無くなった。その光の中にいた、武装退院と狼も、跡形もなく消えていた。

 それを確認して、ミハエルは膝をつく。すぐさま右手の出血を止めるため、止血を施す。

 そんな彼を見て、シグナムはすぐに体を動かして彼のことを立たせる。出血は既にほとんどないものの、その代わりなのか、彼の顔色は良いとはいえなかった。

 

「バカか!あんな無茶しやがって!」

「ははっ、まぁ、アレが一番効くと思ってな。それより――」

 

 ヴィータの罵倒を聞き流しながら、ミハエルはふるふると震える体で倉庫の方向を指さす。

 その倉庫の中から、桃色の光と赤黒い光が爆音とともに立ち上った。

 

「進め、守護騎士。主の元へ、急げ」

「――わかった。その代わり、復活したらお前たちも来いよ?」

「ふっ。理解した」

「あ、私もここで一時待機なのね?」

 

 ったりめーだ。そうヴィータは鏡花に告げると、足早に倉庫の方へ急ぐ。そんな彼女たちを見送りながら、鏡花とミハエルの二人は自身の体力回復につとめていた。

 

 

 

――ヴィータ達の戦いが終盤に入り始めていた、それと同時期。

 

 鉄の扉が、轟音をたてて崩れ落ちる。

 僅かに外から差し込む太陽の光を背に、聖は倉庫の最奥にたどり着いた。

 その姿は既にぼろぼろ。身に纏う戦装束"東雲"にはいくつもの解れが生まれており、聖自身にもいくらかの傷、ダメージを負っていた。

 しかし、そんなものは彼にとって今は"些細な傷"。今はただ、前へ進むのみ。

 そして、彼はたどり着いた。今回の標的の元へ。

 

「お前が、ジェイソン――」

「会いたかったぞ、ヒジリ・ササキ」

 

 倉庫の一番奥。そこに彼は居た。

 高々と積まれた荷物の上に腰掛ける、異形の鎌を担いだ男。顔の半分を、骸骨をモチーフにした仮面で覆い、血に塗れた黒いコートを纏う男――ジェイソン。

 しかし、彼の様子がどことなく異なっていた。少なくとも、はやての家で見た、龍吉との夜間戦闘の時に放っていた、禍々しいほどのオーラはなく、ひどく落ち着いた、紳士のような雰囲気。

 しかし、そんなことは関係ない。そう思いつつ、聖は彼に問いかける。

 

「先に問おう。葵と、美月姉さんはどこだ」

「無事だ、あの二人は。解放した、ここにつれてこられて、目を覚ましたときに。本意じゃなかった、あの行為は。許せ、とは言わない」

 

 すっ、と重力を感じさせない動きで彼は降りてくる。その時に響いた、グチャリという音を聞いて、聖はその視線の先に、細切れになったニンゲンがいた。

 

「つまり、あの行為は俺を呼び寄せるために、勝手に部下がやったと?」

「信じなくてよい、別に。真実である証拠はないからな、俺の言葉が」

 

 そう言いながら、彼はゆっくりと歩みながら自分の得物――巨大な鎌を構える。それを見て、聖もまた、ここまでの戦いで刀身がボロボロになりつつある彼岸花を構える。

 双方、動かない。その状況下で、ジェイソンが口を開いた。

 

「言っておく、先に。殺せ、俺を」

「は・・・・・・?」

 

 いきなり突飛藻無いことを口にするジェイソン。呆然とする聖をおいて、一瞬だけ身体をくのじに折ると、ジェイソンは鎌をぐるぐると回転させてから構え、聖に突撃していく。聖はそれを刀で受け止めようとするが――

 

「遅イゾ、貴様ァァッ!!」

 

 放たれたのは斬り上げ。狙ったのは、聖の心臓。直撃だけは避けるため、僅かに体を後ろに倒しながら聖はそれを真っ正面から受け止めにかかる。

 しかし――

 

 パキィン

 

「なっ――」

 

 金属が砕けるにしては軽い音が響き、聖の持つ刀が――『血刀・彼岸花』が真っ二つに砕け散った。今までの戦いによる負荷と、今の一撃で、とうとうその刀は力尽きた。

 まさにそれを狙ったかのように、ジェイソンはニタリと口元をつり上げ、そのまま鎌を短く持ち、長くなった柄の方をフルスイング!

 

 

「ウラァァッ!」

「がふっ――」

 

 まるで弾丸ライナーのごとく聖は吹き飛ばされ、倉庫の壁にたたきつけられる。追撃が来る。そう思い、ボロボロの体を引きずるようにして立ち上がり、近接戦闘の構えをとるも――

 

「ア、ガァ、グッ、ァァァアァァアアアアッッ!!」

 

 瞬間、ジェイソンが吠えた。真っ黒い魔力の奔流。暴走するような、周りのもの全てを取り込まんとする、真っ黒い負の奔流。

 それに飲まれながら、聖は感じていた。先のジェイソンが放っていた、ひどく紳士的な雰囲気と、この真っ黒い負の雰囲気。まるで正反対の雰囲気。

 

(まさか、この獣じみた雰囲気、この黒い魔力も。もしもこれらが、"こいつの本心"でない、としたら)

 

 一つの可能性を感じ取った聖は、納刀していた雪風をゆっくりと引き抜くと、そのまま突撃の構え──切っ先を真っ直ぐ相手に向ける、突きの構えを取って、ジェイソンへと一気に接近していく!

 

「ガァァァァッ!!」

 

 聖の予想通りの攻撃。正面を薙ぎ払うフルスイング。通常の鎌のリーチに加え、魔力による強化を付与しているため、射程距離は五割り増し強!

 しかし聖は、それの射程距離に突入してしまう"寸前"で急停止。ジェイソンの攻撃を五センチ手前で回避すると、再び突入!

 身の丈以上のリーチがあり、なおかつ魔力による斬撃を延ばすことでさらにリーチを延ばしているジェイソンの大鎌(ビッグサイス)と、三尺ほどで斬撃を飛ばすというような細かいことが出来ない聖の(雪風)。リーチの差は歴然。しかし、それを乗り越えなければ――

 

(勝機は、皆無!!)

 

 再び横薙ぎの斬撃を回避して接近。一歩一歩、一撃一撃、確実に、そして疾く回避しながら聖は接近していく。

 そして、互いの距離が三メートルと言うところになった瞬間。

 

「届けぇぇ!!」

 

 突きの構えを取っていた聖は、その"溜め"を一気に解放。今の今まで溜めていた魔力の全てを、加速に全振りする!

 

「天剣佐々木帝流、突きの型――時鳥(ホトトギス)!」

 

 バスンッ、という音を立てて、聖のはなった突きがジェイソンの鎌を、防御をかいくぐり直撃する。瞬間、呻きをあげるジェイソン。

 天剣佐々木帝流の中で、唯一の突きの型『時鳥』。その効果は、対象の急所に叩き込むことで一時的ながら全感覚の切断を行うもの。そして、カスミ式の魔力と共に叩き込む場合、魔力回路、リンカーコアの一時停止も同時に行う。つまりこれは。

 

「ガッ――あ、ああぁ――」

 

 対魔導師用の、完全麻痺攻撃(パーフェクトスタンアタック)

 ジェイソンは、その体を痙攣させながらその場に停止する。そして、その瞬間を、聖は逃さない!!

 

「カスミ式禁呪――」

 

 カスミ式の中でも、『禁呪』と言われる魔法が一つだけある。

 自己強化に重きを置くカスミ式は、一つだけでも『何者にも負けない』という絶対の自信のある攻撃手段がなければ『決定打』のない弱い魔法とされてしまう。しかし、その中で唯一、ある意味決定打となる大魔法が存在する。

 

「想起――!」

 

 それは、相手の記憶を呼び起こし、読み解き、それを利用するというもの!

 

「フラッシュバック・インポート!」

 

 藍色の光を、聖は左手でジェイソンに叩き込む。

 瞬間、黒い魔力を伴って、彼の"記憶"が聖の中に流れ込んでくる。

 

(こ、これは――)

 

 そう、それは、真っ黒い記憶に対抗するような、彼の本心。

 流れ込んでくるのは、後悔、愉悦、狂喜、懺悔、絶望、快楽。様々な、彼の感情。

 それと共に、彼が見てきた記憶が、記録となって流れ込む。

 

――茶色の陸士部隊の制服を着て、何か言いながら多くの同僚を率いている彼の姿。彼の手に握られているのは、まったく形の異なる大きな槍。

 

――焼け野原で一人。多くの同僚の死を見て、絶望している彼の姿。彼に手を差し伸べる、一人の白衣の男。その表情は、狂喜か、狂気。

 

――黒いコートを羽織り、何の罪もない一般人に攻撃を仕掛ける彼の姿。後にそのことを知り、絶望する彼の姿。そして、彼に囁きかける、黒い影。

 

――今と同じ仮面をかぶり、深夜の静まりかえった町を歩く彼の姿。その後ろにボウと浮かび上がるのは、顔を手で覆い絶望した彼の影と、黒い影を纏い彼に語りかけるボロコートの男。

 

――自分の首を落とし、死に絶えながらも生きながらえ、あまつさえ全ての記憶を持って生きる、その行為に絶望する、彼の姿。

 

 記憶をかいま見た聖は、驚愕の表情を隠せないままゆっくりと後退し、再び刀を構える。完全麻痺攻撃から解かれたジェイソンは、再び狂気の瞳で聖を睨む。

 そんな目で見られながらも、聖の表情は崩れない。ただ真っ直ぐに、ジェイソンを見据えるのみ。

 

「そうか・・・・・・だから、"殺せ"か」

 

 ゆっくりと切っ先をおろす聖。それを見て、ジェイソンは獣のような叫びをあげながら一気に詰め寄り、鎌を振りかぶり、振り下ろす!

 瞬間響く金属音。その鎌は、聖まで届かない。聖もまた、刀の切っ先を鎌の切っ先に当て、それを受け止めていた。受け止める刀の切っ先からは、薄い藍色の障壁が展開されている。

 カスミ式の防御魔法『椋鳥(むくどり)』。彼の固有魔法である絶対守護障壁には届かないものの、それと同等の防御性能を持つ、刀を抜いているときのみ発動可能な防御魔法。

 

「はっ!」

 

 "椋鳥"を使用したまま、刀を振るうことで"打撃技"としてジェイソンを吹っ飛ばす。そして、再び刀を構え、聖は動きを止め、想い起こす。

 彼が、ジェイソンが、過去に言っていた言葉を。

 

「俺は、傷つけるために戦うんじゃない。守るために、戦う、か」

 

 俺と似ているな。そんな風に何となく思いながら、聖は一度、相棒に問いかける。

 

「良いか、雪風?」

-はい、大丈夫です! 司令(しれぇ)と共に、雪風、どこまでも参ります!-

「ありがとう、雪風。感謝する」

 

 簡単な問答。答えは分かり切っていた。だからこその、再確認が必要だったのかもしれない。

 聖は雪風の刀身に手を当て、ゆっくりと、刃紋をなぞるように引いていく。すると、刀身が徐々に藍色に染まり、そして全てが藍色に染まりきったとき、その光は爆発し、聖ごと飲み込んでいく。

 そして、収束し、消えていったとき、聖の姿はまるで変わっていた。

 

「雪風改式、限界突破(オーバードライブ)完了」

 

 ぽつりとつぶやく聖。彼の姿は、見紛う事なき覚悟の証。額の鉢巻は消え、藍色の着物だった戦装束は、白い、死に装束とでも言うかのような姿に変わっていた。その背に刺繍された文字は“一刀絶護”

 

「改めよう。『氷風の一閃』改め、『不沈の一刀』雪風と、『藍の剣聖』佐々木聖――」

 

 ひゅん、という鋭い音を立てて、雪風を構える聖。彼の姿を見て、ジェイソンもまた、その大鎌を構える。

 

「いざ、参る!」

「ゴガァァァァァッ!!」

 

 聖の言葉に呼応するかのように、ジェイソンが吠える。その叫びは、やっと殺してくれる、というどことなく安堵の混じった叫び声のようと、聖は感じていた。

 

 

 

――倉庫街中腹

 

 聖の追いかけるなのは達。彼女は走りながら、ジェイソンのことについて調査してもらっていた案件についての回答を待っていた。

 ジェイソン、という人物について。彼が保有する武器について。何か白の情報が、確実とは言い切れないものの、高い確率で管理局のデータベース内に保存されているのではないか、というのがフェイトの推測。

 

『フェイト、なのは、はやて。見つけたよ、ジェイソンの情報』

「本当、ユーノ!?」

 

 そしてその推測は、彼女たちの十年来の友人である、ユーノ=スクライアからの緊急連絡を以てして、見事的中した。

 ユーノから送られてきたデータを確認しながら、彼女たちは彼からの言葉を待つ。

 

『本名ジェイソン=バラク=フリーガー。元管理局員で、入局10年のベテラン。階級は三等陸尉で、三ヶ月前に死亡届が出されて二階級特進を受けて最終的な記録は一等陸尉。所属は第371陸士部隊』

「三ヶ月前・・・・・・。ジェイソンが現れたのは二ヶ月前。いい感じに合致するね」

「それで、亡くなった原因は?」

 

 なのはが画面の向こうのユーノに問いかける。すると、彼は少し苦々しい表情をしてから、ややあって返答した。

 

『所属していた陸士部隊総出で行った、違法研究所の一斉検挙、っていうのがあったんだ。出動人数は50名。371に所属していた魔導師全員。それが、機械兵器十数機と数名の魔導師相手に、全滅させられた。生き残りはたったの五人。その中にジェイソン氏は含まれていなかった』

 

 その情報は、執務官として多少ながら捜査協力、もとい事後調査に当たっていたフェイトは知っていた。当然、死亡者リストも一から全て確認したが、ジェイソンという名前は載っていなかった。

 何かがおかしい。そう思いながらも、フェイトは再びユーノの言葉に耳を貸す。

 

『これはあくまでも僕の推測、程度に聞いてほしい。たぶん、彼の死は"何者かによってもみ消された"と思って良い。その何者かは、たぶん、僕たちも知らない"管理局の深淵"だと思う。だから――』

 

 気をつけて。そうユーノに伝えられ、再びなのは達は走り出す。そして、走り出した先に見たものは――

 

「なっ・・・・・・」

「聖君――」

「あのバーローが」

 

 真っ白の死に装束のような服装をして、凄まじいオーラを放つ、聖の姿と、そんな彼に対し、縦横無尽に長大な鎌を振るうジェイソンの姿だった。

 龍吉は知っている。真白の死に装束じみたあの姿は、彼が密かに言っていた“最後の切り札”。切り札(エース)を潰す切り札(ジョーカー)。その名前は。

 

「戦羽織、瑞鶴――」

 

 龍吉はつぶやく。幸運の空母と呼ばれ、その武勲に由来し、彼がデザインしたの戦羽織の名前を。

 その声が聞こえたのか、聞こえていないのか。それはわからないが、目の前で見事なまでの斬撃を叩き込み、ジェイソンから放たれる斬撃を回避し、受け流し、斬り流す聖の動きが、一段とキレを増したように見えた。

 

「聖君!」

 

 なのはが叫び、相棒(レイジングハート)を構える。

 彼らが戦っている距離は、私の距離じゃない。でも、今の中・長距離(ミドル・ロングレンジ)からの援護射撃なら。そんな思いを持って、彼女は構える。

 しかし、そのことが彼女にとって、そして聖にとっても大きな誤算となってしまう。

 

「来るな、高町!」

「■■■■■■■■■■!!!!」

 

 獣の叫びのようにも聞こえる、体の芯に"恐怖"を直接叩き込むようなジェイソンの爆轟。一瞬だけ、トリガーを引こうとしたなのはの指が固まる。そして--

 

「なのはっ!」

「え・・・・・・?」

 

 フェイトからの声が響いた頃には、ジェイソンは彼女の目の前にいた。

 どれくらい停止していたのだろう。

 すでにジェイソンは目の前にいて、障壁展開も間に合わなくて。

 振り上げていた大鎌は、まさに空間を切り裂かんとするような速度で飛来。目の前まで迫る。

 

(殺られる・・・・・・!?)

 

 一瞬働いた思考。それより先に動いたのは、自分の体。せめて、差し違えてでも。そんな思いを持って、自分が出せる最大限の速度で相棒を構えなおし、トリガーを引く--

 

「やめろぉぉぉ!!!」

 

 否、引こうとしたとき。まさにその瞬間、声が響いた。

 瞬間響く金属音。

 それに次いで、ブチュ、という、何かを肉感のあるものを潰す音。

 

「て、めぇ・・・・・・俺とのサシの最中に、何“なのは”に手ぇ出そうとしてやがる」

 

 ギチギチと響く金属音と共に聞こえるのは、パタッ、パタッ、という少なくない出血量が地面にしたたり落ちる音。

 

「勝手に、俺以外の、というか、俺の仲間に手ぇ出してんじゃねぇよ」

 

 驚愕の表情を隠せないなのは達四人の視界に入ってきたのは、ジェイソンが振るった鎌を苦悶の表情で何とか受け止める聖の姿だった。

 そして聞こえてくる出血は、彼の左目から、したたり落ちていた。

 

「目の一個くらいくれてやる。ただし、てめぇの成仏と一緒に、てめぇの首ももらうぞ、ジェイソン!!」

 

 聖の残った片目は、すでにジェイソンの心臓を捉えていた。

 




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