初めての作品が羂索のループものなんて思っていませんでした。
かつて呪◯廻戦を
彼女が得た術式は「
その名の通り彼女が知る数々の主人公の能力をほぼ0コストで再現する能力。与えられた天賦の才で五条悟を越える呪力量を持ち、その呪力操作さえも五条悟に劣らない。
彼女がこれだけの能力を持つために天秤にかけられているのは「世界」だ。非術師のなす術なく呪霊に殺されるしかないという理不尽を釣り合わせるために生まれてきた存在。彼女は主人公であると同時に英雄でなくてはならない。それが彼女を最強たらしめる縛りである。
だが彼女の救済意欲は図らずとも英雄であることの条件を満たしていた。
――渋谷事変までは。
2018年某日 とあるファミリーレストランにて
「我々はどうすれば呪術師に勝てる?」
頭からマグマが跳ねている呪霊――漏瑚はやや不満げに頭に縫い目のある
「戦争の前に3つ条件を満たせば勝てるよ。」
「五条悟を戦闘不能にし、両面宿儺――虎杖悠仁を仲間に引き込む。そして東雲奏の心をおる。」
香織は指を3本立てて不敵に笑う。
「五条悟と両面宿儺はまあわからんでもない。しかし東雲奏?聞いたこともないな」
「あれ?意外だね。アレは宿儺よりも強いよ。」
あっけらかんという香織に漏瑚は開いた口が塞がらない。盛んに飛び跳ねていたマグマも今は落ち着いている。
「彼女の術式はなんでもできる。圧倒的ローリスク・ハイリターンのやってられない術式だよ。」
「だがそれが術式である限りなんらかの力をもって釣り合わせる必要があるはずだ。」
「さっすが、長く生きてる奴は物分かりがよくて話がしやすい。そこを突くんだ。――まあ、その弱点がなんであるかははっきりとはしてないんだけどね。」
「はああぁぁぁ⁈」
物分かりがいいやつとの表現に若干不満を顔に出していた漏瑚は今度は呆れてものも言えないようだ。百面相だな。香織はまるで人間のようにコロコロと表情を変える漏瑚を見て嗤う。
「まあ見ててよ。」
先ほど"はっきりとしてない"と言った割には自信のある様子で香織はそう言った。
――2018年10月31日 東京
「聞いているかい?宿儺」
「始まるよ。再び呪術全盛平安の世が…‼︎」
ぼろぼろの虎杖と脹相を前にする
確かに五条悟の封印には失敗したが、
意味不明な術式について考えたところでちっともその難解なパズルのピースは埋まらないので思考を放棄し、目の前の息子達に優しく語りかける。
「私がこの1000年コツコツと積み重ねてきたことは呪霊操術で真人を取り込むことでようやく完成するんだ。――死滅回遊でまた会おう。」
夏油の背後から数多の呪霊が飛び出すと同時に、彼はその言葉を残して暗闇へと消えていった。
「ありえないありえないありえない‼︎」
東雲奏はどうやっても壊れない結界を前に大粒の涙を流して叫んでいた。結界には入れずとも、慣れ親しんだ呪力がポツリ、ポツリと消えていくのが見えた。私はただそれを見ることしか出来ないという生まれて初めての"理不尽"に戦慄する。頭を掻きむしったが、そうしたところで何かが変わるわけではない。すぐ後ろでは
「奏ちゃん。おそらくもう渋谷の山場は終わった。後片付けは俺たちに任せて戻っとき。今の奏ちゃんにはキツイやろ。」
東雲が何をしても入れなかった結界にいとも容易く直哉は侵入していく。
「みんな助けるって決めたのに…どうして今になって」
彼女がこうなってしまった1番の原因は、彼女の原作知識が「渋谷事変以前まで」であるからだった。そこにつけ込むかのように、彼女に初めて「原作の修正力」が牙を向く。
結果として渋谷事変では灰原、吉野、七海をはじめとする数多くの死者が出た。加えて宿儺の原作より30秒長い顕現。虐殺の被害者は原作の2倍だ。もっとも、五条が封印されなかったこと、狗巻の両腕が無事であることを加味すればお釣りがでるほどだったかもしれないが。
なんにせよ、東雲含め呪術師は慢心していたのだ。彼女がいれば大丈夫だと皆が思ってしまっていた。彼女は決意した。
「もうこれ以上人を救わない」と。
死滅回遊により10のコロニーに1000人の術師が放たれた。開幕から15日後、未だ高専の術師は中に入ることを許されていない中事態は動く。
上層部は東雲奏による死滅回遊の単独平定を決定したのだ。
「ごめん。」
彼女はコロニーの3km上空で右手を高く上げる。その手のひらの上には球体が出来始め、やがてその大きさはコロニー全体を覆うほどになった。天使と呼ばれることもあったくらい慈愛に満ちたかつての姿は鳴りを潜め、その球体は禍々しい夕闇の色をしている。
おもむろにその手を下ろす。球体もそれに従って下に落ちていき、触れたものは皆解けるようにして消えた。一撃で更地に変わったコロニーは宿儺が領域展開によって渋谷に残した爪痕などかわいいと思えるほどだ。
生存者の反応がないことを確認して、次のコロニーに向かう。仕方がないことなのだ。これでもうこれ以上私の周りに死ぬ人はいない――
――羂索は大いに焦っていた。計画は概ね順調だったのに突如東雲によって全コロニーの全プレイヤーが殺されたからだ。悔しいがこの時代はもうダメだろう。再び潜伏を「やあ」「⁈」
気の抜けた声で話しかけてきたのは今まさに考えていた東雲だ。片方の手には裏梅の首を持っている。
「やってくれたねえ東雲奏」
憎らしげに語るが、その顔は焦燥と恐怖が伺える。体が勝手に震え、術式が制御できないのか周りに従えた呪霊が出現した。対して東雲はどこまでも凪いでいて、まるで植物を見るかのような視線を向けてきている。
「それはこっちのセリフだよ。羂索。」
羂索は皮肉の一言でも吐こうとして、ようやく自身の首と胴体が泣き別れになっていることを理解した。視界が下へと落ちていく中で精一杯の呪いを吐く。
「こんな理不尽が許されていいものか…!君が呪力を使う限り世界の理は必ず君を苦しめるだろうさ」
「そう。どうでもいい。」
羂索は怒りに狂う。自身の1000年をこんなおもんないやつに壊されたのだ。ルールに則って真面目に進めていたのを側面から払いのけるかのような暴虐。まだ私は満ち足りていない。
般若のような顔をする羂索を突如光が包む。両者共に困惑していたが、次の瞬間
まだ状況が掴めていない東雲を残し、羂索は――死滅回遊1日目に戻っていた。
「そうか……!これが東雲の術式のデメリットか!」
羂索は未だ冷めやらない鮮明な恐怖と流れ込んでくる東雲奏の術式に関する情報で目を見開く。
東雲は無意識下で自身に課されていた縛り――「英雄らしい思考言動」――を破ったのだ。世界にとって彼女は今、私利私欲のために力を使うヴィラン。そこでつり合わせようという世界の力が働く。その結果の私の逆行。
「楽しくなってきた。」
羂索は余裕を取り戻した。そのつり合いを取るためにはおそらく何十回、何百回とループを繰り返さねばならないだろう。さらに彼女自身の術式は縛りへの抵触で弱体化されていない。あくまで私にチャンスが与えられるだけ。
しかし彼にとってこの状況は目前に置かれた新たなゲーム(クソゲーもクソゲーだが)だ。遊ばない手などない。もとより死の繰り返しなど慣れっこだ。
次なる行動を取るために立ち上がった羂索は、まるでいつぞやの宿儺のような邪悪な笑みを浮かべていた。