ループ羂索の災難   作:めろんそー

6 / 7
羂索の死滅回遊ループ話 第6話
これでようやく2周目おわり。書いてるうちに哲学に興味が出てしまった結果時間がかかりました。割とシリアス?


2周目⑤:決戦

――リンゴンリンゴンリンゴン!泳者による死滅回遊へのルール追加が行われました!――

 

 

「うるさ!……もうちょい音量下げれんの?」

 

虎杖は両耳を腕で塞ぎ、なお聞こえてくる大音量に愚痴る。なにせ今は高専のメンバーと会議中。同期や五条はともかく、東雲や日下部などの真面目な大人に対して迷惑のかかることは辞めてほしい。しかしコガネは全く聞く耳を持たず――いや、耳がないのは確かだが――追加されたルールの内容を続けた。

 

ーー〈総則〉13 五条悟、東雲奏、及び20ポイント以上を持つ泳者は互いに”目を合わせて名乗りを交わす”まで攻撃を加えてはならない――

 

「「「……」」」「……めっちゃ武士じゃん。」

 

虎杖は思ったことがそのまま口に出てしまった。確かに武士は戦場で敵や味方に向けて、自分の姓名、家系、出身、武功などを大声で告げる行為をしていたという。だがそれはあくまで自身の勇名を轟かせ、手柄を証明して恩賞を得るためのものであり、死滅回遊において意味のあるものとは思えなかった。ますます意味がわからない。

 

「釘崎……これどゆこと?」虎杖が汗をダラダラ流しながらかろうじて聞く。虎杖以外の皆は困惑を見せることなく思考の海に沈んでいたため、自分だけが理解できていないと思ったからだ。「あんたってほんと馬鹿ね」くらいの言葉は覚悟していたが、なんと釘崎も自身と同じ表情をしているではないか。

 

(あ、釘崎もわかってないな。)

 

虎杖は同類を見つけ安心した。かくいう釘崎も頑張って考えていたが彼女が頭の中で出した結論は「死滅回遊の泳者に本物の武士がいる」だ。口に出したら虎杖もろとも馬鹿判定を受けるのは確実だった。

 

「――たしかルールを追加できるだけのポイントを持ってたのは羂索のみだったよな。……アイツはどうやら本気で東雲と五条を相手にする気らしい。」ソファーに深々と背中を預け、天井を見上げながらそう発したのは日下部だった。言葉には出していなくとも体中から「めんどくせー」というオーラを出している。

 

未だ状況が掴めていない生徒に対し、教師の務めを果たすべく日下部は虎杖達のいる方に向き直り説明のために口を開いた。「いいか?このルールは――」

 

 

 

 ――時を遡ること30分――

「さて、合流してポイントも300点以上溜まったことだし、私から一つルールを追加させてもらってもいいかな?」そう提案する羂索はイタズラを企む子供のような、それでいて残虐性をもった表情をしている。

 

羂索からルールの内容が聞かされた。最初に言葉を発したのはやはりこの場で一番頭の回転が早い日車であった。

 

「なるほど。前回の東雲の攻撃を封じるためのものか。」「そ。あんなの出されたら今までやってきたことすべての意味がなくなるからね。このルールによって東雲は私達に名乗ってからでないと攻撃ができなくなるから少なくとも初手で詰むことはなくなる。それに、どこかに泳者がいて知らないうちに巻き込んでルールに抵触する可能性を考慮しないといけないから、ある程度集中を削ぐことも可能だ。」

 

死滅回遊の作成者だからこそできる自由な発想に一同は驚くとともにひどく納得されられた。今まで鹿紫雲を始め「特定の人間を妨害するためだけのルール」というのは思いもつかなかったのだ。

 

「もっとも、思いついたところで20人の命をそんなことに使おうと思えるやつは限られるが――」日車は心の中でそう注釈をつけた。

 

「これで君たちもルール追加の勝手がわかっただろう?これから他に追加すべきルールや3周目に追加するルールの優先順位について話しあいたいからどんどん意見を出してね。」羂索の言葉を皮切りに議論は再び進む。前回とは異なる”共同作業”に皆ワクワクしていたのだ。死と隣り合わせの1ヶ月を送ってきた彼らのうち、そこに倫理観を重視するものはほとんどいない。殺さなければ殺される。

 

ここにいる者たちは皆まさしく”呪いを扱う者達”であった。

 

 

 

話は再び高専に戻る。説明を受けルールの真意はある程度全員が掴めたが、ここで五条が虎杖達のはてなマークを増やしてしまう発言をする。

 

「でもおかしいよね。いくら僕達の範囲攻撃くらったって羂索なら死にはしないでしょ。100ポイント使ってまで初手の対策する?」

 

「東雲さんの術式は相手にとってブラックボックスだ。だからこそ封じたかったんじゃないですか?あとは目を合わせればある程度術式の解析ができるとか。」

 

伏黒が反論した。だが五条は「わかってないなー」という顔で伏黒の言葉に重ねて言う。

 

「渋谷事変であいつらは確かに東雲を封殺して、僕を封印まであと一歩のところまで追い詰めてたわけだよ?」

 

封印できなかったけどね、と付け加える五条は恐ろしいほど通常運転だ。対する伏黒は(それを東雲さん本人の前で言うのはあまりに酷じゃないのか……?)と渋い表情をした。

 

「おい、五条。せっかく一年が納得したっていうのに爆弾投下するなよ。どっちみち他の目的は本人に聞かねーとわからねえわけだしあそこで終わっとくのがベストだったろ。」日下部は五条を非難し会話を終わらせようとする。これ以上場の雰囲気が悪くなるなんてゴメンだ。だが五条の指摘したことは日下部も疑問に思っていたことだった。

 

 

ここにいる人間は知らない。東雲がコロニーを覆うほどの大規模な攻撃で結界内の泳者を一撃で殲滅したことを。唯一東雲だけはそれを頭の片隅に候補として入れていたので「もっと早く動いておけばよかった。」と歯噛みした。

 

ーー「私、今から東京第一結界に行きます」

 

東雲が混乱した場でそう一言だけ発言すると、一気に皆が静かになった。

 

「でも今まで上の許可が降りてなかったから結界に入ってなかったんじゃないんですか?ルールが追加されたところでおそらく上層部は動きませんよ。」再び伏黒が反論する。伏黒の目には現状に対する複雑な感情があった。伏黒の姉の津美紀は死滅回遊に巻きこまれており、13日が経過している今も侵入が許されていない状況に苛立ちをかくせない。いくら東雲によってある程度きれいにされたと言っても彼らの重い腰は健在だった。それを受け入れるしかない自身の弱さも嫌いだった。

 

「今回のほぼ宣戦布告のルール追加。そして羂索と残りの泳者の滞留結界から見るに、結界内の強者はほぼ全員羂索の仲間となっていると見て間違いないでしょう。」東雲の発言に全員が表情を固くした。「経緯はわかりませんが、協力関係が明らかになった以上最速で叩くべきです。」

 

東雲は結界の方向を見遣る。その顔にかつての優しい笑顔はなく、あるのは悲壮な覚悟のみだった。これ以上仲間を殺させない、と。

 

反論するものはいなかった。彼女が全員殺す、と決めてしまえばこの日本全土を巻き込んだゲームだって一人で終わらせることができると皆が知っていた。――まさか更地にするとは思っていなかったが。

 

彼女は何も言わず会議の場を去っていった。

 

 

 

 

――「君が鹿紫雲の言っていた天使だな。」日車は目の前に降り立った少女に言う。彼女の風貌はまさしく天使のソレで、路地裏にもかかわらず物理的に後光が差していた。

 

「正しくは私と共存関係にあるのが天使です。私は来栖華といいます。」

 

彼女がそう言いながら自身の左下に目を向けると、左頬から目と口が現れた。口が喋る。「華、一度日車寛見と目を見て話がしたい。すこしの間体を貸してくれないだろうか。」

 

彼女は了承し、身にまとう雰囲気が変わった。

 

「はじめまして、日車寛見。私が天使だ。」

 

日車は来栖の”共存関係”という言葉に引っかかっていた。今まで見てきた受肉型は皆、受肉元の体と過去の術師で別れていなかったからだ。それを察して天使が説明を加える。

 

「受肉型の泳者はそれが無意識であったとしても罪のない受肉元の人間を一人殺してしまっている。それが私の考えに反していてね。華とはこうした関係を築かせてもらっている。……もっとも、覚醒型の君も彼らとなんら変わらないようだが。」

 

人殺し――端的に言えば彼女はそう日車を非難しているのだ。それは日車がとっくに受け入れた事実だと思っていたが、予想を裏切って彼女の言葉は重くのしかかった。いくつかの言い訳が瞬時に頭をよぎる。死滅回遊という極限状態。東雲に勝てる力を持つまでループが終わらないという事実。だからこそ「彼らはまた生き返る。仕方のない犠牲である。」と日車は無意識に命を軽視していた。

 

「……東雲の虐殺を防ぐためだ。」

 

自分で言ってて吐き気がするよ。かろうじて出した”言い訳”はより日車寛見という歪みを露わにした。

 

ーー今の俺は最大多数の幸福原理を宣い、そこに確かにある命から目を背ける世間と同じだ。いや、彼らは知らないだけだ。知っていて見なかったことにする俺のほうがタチが悪いな。

 

同時に、彼は自分の罪を棚上げしつ自分たちが「最大多数の幸福のために排除されるべき」側の人間である事実を直視できていないことも理解していた。そのうえで日車は”純粋悪”である羂索の勝率を上げるために天使に協力を持ちかけた。心はぐちゃぐちゃでも口はよく回るらしい。

 

「東雲は28年の人生で罪を犯したことがない」という事実を今の彼に告げればどうなるだろうか、と天使は思った。彼の表情、言葉、仕草から今、彼がいかに脆い正義の上に立っているかを天使は正しく理解していた。だからそれを口には出さなかった。

 

――彼は今揺れている。ここでその残酷なまでの事実を突きつけ彼の罪を暴いたとしても、良い方向には変わらないだろう。

 

 

天使は静かに目を閉じ、華に体を明け渡した。華の頬から日車に対して口を開く。「私達は現時点で羂索と協力する気はない。それによってこの殺し合いが永遠に続くとしても、だ。」彼女達は再び空へと飛び立っていき、日車はしばらくその場に立ち尽くした。

 

彼はさらけ出された矛盾に対して、どちらかを切り捨てることも開き直ることもできなかった。自分の弱さを痛感しながら、羂索達のいる劇場にもどる。彼がその弱さに自分の結論を出し、前に進み始めるのはまだ先の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

――「泳者として東雲奏が新たに登録されました。」

 

コガネの声で周囲に緊張が走る。「いよいよお出ましだね。」

羂索の言葉の直後、一同は上空から発せられる身に覚えのある呪力に、原初の恐怖が蘇った。一斉に上を見上げる。そこには、先程追加した”名乗り”のルールに構わずあの呪力の球を生成し始める東雲がいた。

 

 「なんで?!」「ルールフル無視かよ!」

 

何人かが悲鳴とも取れる叫び声を上げる中、羂索は叫ぶ。「コガネ!ルール追加だ!”泳者は5ポイントを消費して他コロニーに瞬間移動できる”!」

 

承認を待つ数秒が永遠に感じられた。呪力球はその間も膨張し続ける。前周の死が脳裏をよぎった者の浅い呼吸音が響いていた。

 

「――ルール追加が承認されました。」コガネの言葉を合図にしてそれぞれが自分のコガネに呼びかけ散った。だがーー

 

各コロニーに逃げた泳者の先にいたのは、()()()()()()()()()()()()だった。

 

羂索の前にも、静かに立つ東雲がいた。

「イカれてる……!」羂索は笑った。笑いながら、確実に死を悟っていた。

 

「自分の魂の複製なんて、私でもやろうと思わないよ。」

 

東雲は何も言わない。ただ、淡々と羂索を見つめており、そこに感情は存在しない。

 

ーー自分が自分でなくなる恐怖。それは呪術師含めあらゆる人間にとっての存在の根拠だ。しかしどうだ?彼女はルールへの抵触によって死んだ”もう一人の自分”に対してなんの感情も抱かなかった。魂の同一性、自我の連続性を無視する東雲はさながら機械のようだ。もはや生物ですらない、ただ淡々と役割をこなす、部品。

 

羂索は笑いながら、背筋が冷えるのを止められなかった。今回もいつの間にか首が切られている。目の前の東雲もそれと同時に倒れていくが、後ろから新たな東雲が歩いてきていた。羂索が死亡するのと同時に他の泳者で生き残っていた者も光に包まれて消えてゆく。

 

東雲の恐ろしさを今回身をもって実感した一同は再び死滅回遊一日目にもどった。

やり直し、それは決して救いではなかった。途方もない先に、あるかもわからない”終わり”を見つけにいかなくてはならないことを突きつけられる。

 

「うーん。結局1回目とほぼ変わらない結末か。いや〜先は長いね、裏梅。」

 

羂索はヘラヘラと笑っていた。確かに、羂索は東雲という得体のしれない生き物に恐怖を感じている。だがただそれだけだ。彼は何回だって挑戦する権利を与えられている。

 

「直近の課題は有効なルールについての考察と味方のメンタルケアかな。やりこみ要素のあるゲームは嫌いじゃないよ。」

 

彼は3回目の死滅回遊への一歩を力強く踏み出した。




レベル1の時から毎回ボス戦仕掛けられてるのと同義だからなあ…
羂索以外の精神の拠り所をどうするか問題がある。(その筆頭が日車さん。)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。