深秋の冷気が帝都モネルトの石壁を濡らす季節、陛下におかれましては聖体いよいよご清祥のことと、臣ニヘルト、遠方より衷心よりお慶び申し上げます。
さる書状にてお伝えいたしました通り、帝国西域を襲う戦慄すべき凶報は、もはや一地方の流言として捨て置くには忍びない段階に達しております。我ら諸侯連盟は、陛下の直臣たるヘラート伯の非道に対し、沈黙を守ることが神に対する背信であると確信し、ここにその罪業を裏付ける「動かぬ証拠」の数々を、厳封の上、帝都へと送付いたしました。
これらは単なる告発状ではなく、剥ぎ取られた民の叫びそのものでございます。
提出せし証拠の概略
本状に添えて送付いたしました箱の中には、以下の記録および物証が収められております。陛下におかれましては、法と慈悲の体現者として、これらを直接御覧あそばされることを切に願うものであります。
第一の証拠:修道士ヨハネスによる宣誓供述書
ヘラート伯領内、サン・マルコ修道院の司祭が命を賭して記録した日記でございます。そこには、教会法を無視して行われた凄惨な火刑の記録が克明に記されており、犠牲者が異端ではなく、単に年貢の減免を求めた良民であったことが証明されております。
第二の証拠:不法拷問に使用された鉄枷および器具
伯の居城地下より秘密裏に運び出されたこれら器具には、帝国法が禁ずる「四肢の損壊を目的とした改造」が施されております。これは統治者に許された「秩序のための強制」を逸脱し、純然たる加虐へと堕した証左に他なりません。
第三の証拠:逃亡農民六十二名の連判状と傷痕の写し
国境を越え、我がアルマート公国へ逃げ延びた農民たちの証言でございます。彼らの背に刻まれた消えぬ焼印は、ヘラート伯が陛下より委ねられた「神聖なる領民」を、自らの所有物、あるいは家畜のごとく扱った動かぬ証拠でございます。
陛下、ヘラート伯の行為はもはや個人の狂気にとどまりません。これは、陛下が守護されるべき帝国憲章への公然たる挑戦であり、ひいては帝権そのものの汚濁を招く毒液でございます。直臣が法を蔑ろにし、私怨と残虐をもって領地を支配することを許せば、帝国全土の諸侯は「法による保護」を疑い、秩序は瓦解の一途を辿るでしょう。
我ら諸侯連盟は、陛下の権威をいささかも毀損しようとするものではございません。むしろ、陛下の御名の陰に隠れて独善を貪る「毒麦」を取り除くことこそ、真の忠誠であると信じて疑いませぬ。
事態は一刻の猶予も許されぬ状況にあります。伯の専横に耐えかねた民衆の憤怒は極限に達しており、放置すれば帝国西部は制御不能の暴動の渦に呑み込まれるでしょう。
ゆえに臣ニヘルト、連盟を代表し、陛下に改めて以下の二点を強く要請申し上げます。
・ヘラート伯に対する「
・連盟軍が迅速に処罰を完遂するための、モネルト公国領内における軍勢通過権の承認。
陛下が法務院の煩雑な手続きに煩わされることなく、断固たる決断を下されることを求めます。我ら連盟の騎士たちは既に馬を世話し、剣を磨き、陛下の御名において正義を執行する準備を整えております。通行権の発給が遅滞すれば、それは罪なき民の血をさらに流すことに同義であると、畏れながら申し上げねばなりません。
万が一にも、陛下がこの明らかな証拠を前にしてなお、奸臣の虚言を信じ、我らの要求を退けられるようなことがあれば、臣らは「陛下が真意を奪われた」と判断せざるを得ません。その時、我らが取るべき道は、陛下を邪悪な影響から引き離し、帝国を正しき道へと戻すための、より苦渋に満ちた選択となるでしょう。
陛下が、賢明なる「正義の守護者」としての御姿を、再び我らにお示しくださることを、神に祈りつつ、御返答をお待ち申し上げております。
アルマート公、諸侯連盟総帥
ニヘルト三世