神の恩寵を分かち持つ我が封臣、アルマート公。
卿が「諸侯連盟」の名を帯びて認めた書状、並びにその後次々と帝都へ届けられた膨大な「証拠」と称される記録、遺物、証言の束は、すべて我が手元に届いている。卿らが帝国の静謐を憂い、法と正義の維持を求めて声を上げたこと、その忠誠の志については、朕も深く聞き及んでいる。
しかしながら、朕が今ここで下すべきは、一時の激情に任せた断罪ではなく、神より託された天秤を正しく水平に保つことである。卿らが提示したヘラート伯に関する告発、すなわち領民への不当なる火刑、および法的手続きを欠いた拷問の嫌疑は、事実であれば帝国の屋台骨を揺るがす重大な違法行為である。だが、法とは強者の叫びによって曲げられるものではなく、また数に頼る圧力によって速断されるものでもない。
朕は帝国法務院、および聖庁より派遣された審問官らに対し、提出された全資料の厳正なる精査を命じた。その中間報告によれば、現状において以下の諸点が看過し得ぬ疑義として残されている。
第一に、火刑に処されたとされる者の身分と罪状の不透明さである。提出された焦土や遺品は、それが異端審問の逸脱によるものか、あるいは正当な叛乱鎮圧の結果であるかを、物証のみで判別するには至っていない。
第二に、証言者たちの信憑性である。帝都に送られた農民や修道士の多くが、卿ら連盟諸侯の庇護下にあり、あるいは直接的な利害関係を有している事実は否定できぬ。法廷における宣誓は、一切の世俗的畏怖から解き放たれた場で行われねばならぬ。
第三に、ヘラート伯自身の弁明である。伯は朕に対し、これら一連の事象は「連盟による国境侵犯を企図した挑発に対する、正当なる防衛権の行使である」との反論を提出している。
法は両者の言い分を等しく聴くことを求めている。 一方を「奸臣」と断じ、一方を「救済者」と予断することは、朕が守護すべき帝国法典への背信に他ならない。ゆえに朕は、法務院による現地への追加調査、および聖庁による神学的見解の確定を待つこととした。これは決定の回避ではなく、真なる正義を確立するための不可避なる手続きである。
さて、卿らが求めたヘラート伯討伐命の発布、および連盟軍の国内通過権についてであるが、これらは現時点において再び、明確に拒絶する。
帝国の剣は、法による断罪が確定した後にのみ抜かれるべき聖なる武力である。証拠の審理が継続中である現状において、特定の諸侯に討伐権を与えることは、私戦を公認し、帝国を無秩序な内乱状態へ突き落とす行為に等しい。また、通過権の要求についても、それが「皇帝を邪悪から解放するため」という美名の下にあるとしても、朕の許可なき大軍の移動は、それ自体が帝国主権への重大な挑戦である。
卿らに命ずる。
直ちに国境付近に集結せしめた軍勢を解き、各々の封土へ戻れ。
卿らが真に帝国の忠臣であるならば、朕が司る法の裁定を静かに待つべきである。もし、朕のこの意志を奸臣の甘言によるものと歪曲し、独断で兵を進める者がいれば、朕はその者を、地位のいかんに関わらず、帝国秩序に対する公然たる反逆者と見なす。
朕の意志は、誰の手によっても操られることはない。
神が朕に授けた統治権は、諸卿の合議によって左右される性質のものではなく、ただ神と法に対してのみ責任を負うものである。
アルマート公。卿の賢明さに期待する。
この書状が届き次第、速やかに恭順の意を示し、無益な動員を解除せよ。
真実が明らかになった暁には、朕自らが厳正なる裁きを下すことを、ここに改めて宣言する。
神の加護のもとに。
神聖帝国皇帝ベルフェイン
自署・帝璽印下