初星学園アイドル科 賀陽継   作:pocket_ぽけ

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賀陽継は何故アイドルになったのか。
彼女はどんな道を進み、何を思ってアイドルをやめたのか。

pixivでも投稿中です。


なによりも"たいせつなもの"

『ひぐ……うぇぇ……』

 

 あの子の泣いた声を聞くと、胸が痛いくらいに締め付けられる。お利口な"燐羽ちゃん"が家族に迷惑はかけまいと1人で膝を抱えている姿は私にとって受け入れ難いものだった。

 ――――私は、燐羽ちゃんのお姉ちゃんだから。

 たった一人の大切な妹。

 燐羽ちゃんの為だったら何でもしてあげたかった。

 

『――――すごい、すごいねお姉ちゃん!』

『えへへ……ありがと!』

 

 最初はただの思いつきで。

 テレビで見たアイドルにハマり、生で見てみたいと両親にお願いするもまだライブに行くには小さいからと許しが出ず、涙を浮かべて落ち込む"妹"を元気づけたかった。

 ライブ会場に連れていくことは出来ない。それでもアイドルを燐羽ちゃんに見せてあげる方法を考えて、自分がアイドルになりきることを思いついた。思い返してみれば子供騙しなやり方だ。

 見様見真似で歌と踊りを覚えて、持っている中で一番かわいい服を着て、暗くした部屋でスポットライト代わりの懐中電灯に照らされて。

 ハリボテのアイドルとして燐羽ちゃんの反応を伺いながら一生懸命に踊った。

 

『お星さまみたい……。お姉ちゃんが"あそこ"に立ったらどんなふうになるんだろ……!』

 

 私なんかよりもよっぽどキラキラと輝いた笑顔でそう話す燐羽ちゃんを見ることはこれまでの人生における何よりも幸せなことで。

 あの子の無垢な願いを本気で叶えてやると、勇み足で私は両親にお願いして初星学園への入学を決めた。

 その選択を後悔はしていない。

 きっと普通じゃなかった。アイドルになるためには二度とは訪れない青春をすべて差し出さなければならないのだから。

 それを自分の願いではなく、妹の願いのためにしようというのだから。

 当然あのライブを見ていた両親からは心配された。

 

『あなたが本当にやりたいなら、お母さんたちは全力で応援するわ。でも……』

『……うん。私は本気だよ。だから、お願い』

 

 アイドルになることがとても大変で、難しいということはきちんと調べた。

 それでも、と伝えれば二人は不安そうにしながらも快く送り出してくれた。

 

 こうして振り返ると、優しい両親の想いを汲み取らない選択をしたことに後ろめたさを感じたりもする。

 しかしそれ以上に、燐羽ちゃんが喜ぶ姿を見たかったから。

 あの子の憧れでいたかったから――――。

 

『私もおっきくなったら初星学園に行くから! 待っててね継羽(つぐは)お姉ちゃん!!』

 

 世界で一番大好きなあの子の応援を大事に胸にしまって、私は初星学園の門を叩いたのだった。

 

☆☆☆

 

「――――継さん。そろそろ出番ですよ」

 

 記憶の海に沈んでいた意識を、ぶっきらぼうな男の子の声が引き上げる。

 

「うん。……ありがとうね。プロデューサーくん」

「はぁ、ライブはこれからなのでそんな色々終わった後みたいな気分でいられると困るんですが」

 

 初星学園の講堂。

 学内でもトップクラスのアイドルだけが立てる煌びやかなステージ。

 これから私は、そこでライブをする。

 観客席には――――燐羽ちゃんがいる。

 

「一番星を懸けた最後の大勝負なのですから。その結果次第でこれからの活動も左右されます。最大限気合を入れて臨んでほしいですね」

「あはは……気合だなんて珍しい。でも、もちろんだよ。ここまで私を応援し続けてくれたファンのみんなにいっぱい楽しんでもらいたいから。それにキミにも」

 

 ぎゅっと両手を握り、彼ご所望の気合を主張するように意気込みを伝える。アイドルらしくアピールも付け加えて。

 学内トップアイドルのファンサを間近で浴びておきながら、目の前のプロデューサーくんはため息をつき。

 

「一番は妹さんでしょう」

「うん。そのために私はアイドルになったから」

 

 私の願いを受け入れて、こんなすごい場所まで連れてきてくれた魔法使いさんはきちんと知っていてくれる。

 ステージに立つ私の想いの一番深い場所は、いつもあの子にだけ向いていることを。

 それでも一緒にそれを隠して、私を立派なアイドルにしてくれる。

 これから立つのは私の5年と少しの終着点。私がアイドルで有るためのたった一つの理由を遂行する。

 このライブの後、私が何を感じて、アイドルを続けるのか、達成したと満足して終わりへと向かうのかはわからない。

 私は私自身の願いを動機にするのが下手だから、きっとどうしたらいいのかわからなくて、迷子になってしまう気がする。

 だから、あの子の願いを叶えたその先で、彼が私に願いを預けてくれるのなら私は。

 

「移動しますよ」

「あ、うん。今行くね」

 

 そこまで考えたところでプロデューサーくんに移動を促され、思考を打ち切って控室を後にする。

 前を歩く彼の背中を眺めながら、忙しなくスタッフさんが行き来する廊下を歩く。

 プロデューサーくんは時折こちらの所在を確かめるように視線を送ってくれる。それが嬉しくて小さく笑い声を漏らすと、彼はバツが悪そうにわざとらしく前を向いて歩みを早める。

 照れ屋さんで、不愛想で、素直じゃない男の子。

 夢をかなえる数刻前。私は大切な(パートナー)とのこれまでの歩みを振り返った――――。 




pixivで執筆していた本シリーズの第一部を書き終えたのでこちらにもまとめて投稿しようと思います。
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