初星学園アイドル科 賀陽継   作:pocket_ぽけ

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大舞台に向けて

ファンの反応:天竜静音

 

『静音様のH.I.F出場決定! 去年のN.I.Aの優勝に引き続いて勝ってほしい!』

『自信満々なキャラに負けずに実力派だから一番星あるよな!?』

『まだ2年生ですし流石に難しいのではないでしょうか』

『絶対静音様に勝ってほしい〜〜!!』

『ウォォォッ!! 静音様ァァァァ!!!』

『お嬢様みたいな雰囲気だけどライブで見るたびにパフォーマンス良くなってるし、絶対裏では努力家で推せる』

『俺達"忠犬"もガンガン布教して盛り上げていこうぜ!』

 

ファンの反応:賀陽継

 

『賀陽継ちゃんって知ってるか? 最近密かにハマってるんだよな』

『一見普通の正統派アイドルっぽいけど無性に引きこまれる』

『ライブ行くとすっごい賀陽さんと目が合う気がするんだよね。ファンにめっちゃ気を配ってくれてるのがわかるっていうか』

『それすぎて。クラスで一番可愛い子と授業中に目があったみたいなドキドキあって全然ガチ恋できる』

『ファンサに気を配れるだけあって、普段のダンスとか歌はかなり上手いのに余裕ある感じですし、意外に実力は高いかもしれませんね』

『まだ2年生で難しいかもしれないけど、継ちゃんにはH.I.F頑張って欲しいな……』

 

 

☆☆☆

 

「と、継さんの現在の評判はこんなところですね」

「喜んでくれてるみたいで嬉しいな。それにみんなこんなによく見てくれてるんだね」

「そうですよ。ファンの方々の目線というのは我々提供側からしても想像以上に鋭いものです」

 

 ネットから集め、整理したファンの声をタブレットで継さんに見せながら話す。

 選抜試験合格以降、その実績から初星学園のアイドルを追いかけているファンの中で話題となり、そこから発展して現在継さんはアイドルファンに対して知名度を大きく伸ばしつつある。

 その成果を共有し、活動のモチベーションをより高めてもらおうという狙いで見せることにしたが、どうやら正解だったようで継さんは嬉しそうに目を細めてファンの声を見ていた。

 

「学内での知名度についてはこの調子で問題ないでしょう」

 

 これは審査側への訴えかけの側面が大きい取り組みだと考えていた。

 継さんは彼女の活躍を望む人の数がたとえ少なかろうがその人のために尽くすことのできる人間だ。

 相変わらずアイドルとしては異端だが彼女のパフォーマンスを最大化する上で、ファンの増加は必須条件ではなかった。

 

 しかし、審査員に向けてはそうではない。

 公平、中立。専門的な審美眼を持って審査を行う立場といえども所詮は人間でしかないのだ。

 パフォーマンスの結果が点数で目に見えるなんていう頭のおかしな機能を持ち合わせる人間などいないのだから、芸術としての要素を評価する上で主観を取り除くことなどできない。

 

 人気があるのだから演技も優れている。

 そのようなバイアスがどうしても介在してくるはずだ。

 人気というアイドルの評価項目としては外せない要素を、心理学的にはハロー効果と呼ばれるものの対象として利用し評価への上乗せを図る。

 それにより技術面で最高峰にいる継さんがフルスペックを発揮した時の負け筋を限りなく削っておくのが目的だった。

 

「"賀陽継"のアバターは継さん自身にもある程度うまく作用しているようですね。パフォーマンスもだいぶ安定してきています。継さん自身としてはどうですか?」

「なんていうのかな……うん。以前までよりも前向きにアイドルやれてると思うよ。きみが作ってくれた"継さん"をきちんとみんなに好きになってもらいたいなって思うから」

 

 継さんは顎に手を当て少し考えるそぶりをしながらそう答えた。

 期待した成果が出ていることに内心喜んでいると、それを見透かされたのか継さんはこちらを見てニコニコと嬉しそうな表情を浮かべていた。

 それが気まずく目を逸らしながら肯定の返事をする。

 

「……なるほど。それは僥倖です」

「きみって照れると難しい言葉使うよね」

「うるさいですね」

 

 生暖かい空気に座りの悪さを感じて沈黙しているこちらを、継さんは何が楽しいのか眺めてくる。

 遊ばれているようで気に入らなかったため、睨みつけてみたりするが今ひとつ効果はなかった。 

 

 彼女の時折見せる姉らしい思いやりの表情が苦手だ。

 自分は見守られるような立場でもなければ、そうされるような性格でもないのだというのに。

 その暖かさを心地よく感じないわけではないが、継さんに心を割いてもらうのは正直身に余る。

 

 そう思いながらも彼女が望んでしていることに対してわざわざ拒絶することもできず。

 結局抵抗を諦め、柔い視線に耐えながらタブレットを操作し、さっさと次の話題に移そうとすることにした。

 

「ゴホン! H.I.F本戦への出場が決まったということで決めなければならないことが2つあります。わかりますか?」

「え? え、えっと……お祝いのお店と日程とか……?」

「は?」

「ご、ごめんなさい」

 

 急に問題を振られ面食らいながら継さんが慌てて出した腑抜けた答えに呆れの反応を見せると、彼女自身検討外れだと思っていたのか、すぐさま謝罪してくる。

 意地の悪い自分はそれに溜飲を下げつつ、正解を伝える。

 

「披露する曲と衣装です」

「あー……確かに」

 

 残念そうながらなっとくと言った表情で相槌を打つ継さん。

 彼女の言葉に関しては確かに盲点ではあったのだが、それは俺が祝うべきことではないだろう。

 

「お祝いされたいのであればクラスのお友達とお願いします」

「そうじゃなくてね――――」

「話を戻しますよ」

 

 継さんの言葉でまた話が脱線するのを避けるべく、強引に本題へと路線を戻す。

 その表情にどこか寂しそうな色を滲ませていることにチクリと心が痛むが、時間も無限にあるわけではない。

 

「まず楽曲ですが、用意する必要があるのは2曲」

「うん。本戦で披露する曲と……」

「そして優勝ライブで披露する曲です」

 

 わずかに言いよどむ彼女の声に続けて答えを伝える。

 初星学園で4年を過ごした継さんなら知っていて当然だが、いざ自分が一番星になった時の話をするにはまだ現実味がないのだろう。

 参加者の中で2曲目を披露できるのはただ一人ではあるが、それでも準備はしておかなければならない。

 こちらの言葉を待つ継さんの前にプリントを滑らせると、軽く目を通してこちらを見た。

 

「初星学園の曲で行くつもりなんだね」

「はい。これに関してはどうしようもない事情と、それとは別でメリットを考慮した上での選択です」

「まだ持ち曲できてないもんね」

「それに関してはこちらの落ち度です。もう少しお待ちください」

 

 そうなのだ。未だに継さんには個人曲を渡せていない。

 それはプロデューサーとしての不徳であり言い訳のしようはなかった。

 彼女をプロデュースし始めた段階で、彼女の行先を見据えることが出来ず、彼女用の楽曲を用意するのが間に合わなかったという実力不足だと反省している。

 

「実のところ楽曲の用意自体はもうほぼ出来ています。急ぎで持ち曲の練習を進めることも継さんなら可能でしょう」 

「え!? そうなんだ! 聞かせてもらったりって……?」

「まだダメです」

「え~……いじわる」

「確かに俺は意地が悪いですが、これは意地悪のためにしている訳ではありません」

 

 実際のところ作曲依頼自体は既に行っており、完成直前の状態にはなっている。

 しかし賀陽継というアイドルを作り上げてからの期間が短く、彼女用にチューニングしきれていないのだ。

 H.I.Fまでには間に合う見込みだが、いくら継さんの楽曲習得速度が速いとはいえ、クオリティを整えるのが間に合うかはギャンブルになってしまう。

 負け筋を減らす方針で進めるのであれば、排除すべきリスクだ。

 

 そしてそれとは別に学園の楽曲を選ぶ理由はあった。

 初星の楽曲も様々あるが、その中でも一際特別に初星学園を象徴する楽曲が存在する。

 過去のH.I.Fでも毎年披露されており、優勝者が披露したこともある格のある曲。

 

「結論から言いますが……継さんには"Campus mode!!"を披露していただきます。だって、得意でしょう?」

「――――いいの? だって"Campus mode!!"は初星アイドルを代表する曲だから……きっと他にも披露したい子がいるよ」

「そうかもしれませんね。ですが今回最も優先的に曲を選ぶことができるのは継さんです」

「そうなの?」

「はい。なぜなら……」

 

 その理由を問う継さんに、さらに1枚のプリントを仰々しく披露して見せた。

 楽曲の優先選択権はH.I.Fの出番順に決められる。

 そこに記されたのは継さんの名前と、煌々と存在を主張する1番の文字。

 

「あなたが一番手だからです」

「え…………え、ええええ!? な、なんで!?」

「厳正な審査の結果だそうです」

 

 同じプリントに記載された文章を指さしながら他人事のように読み上げる。

 俺も気になって教員に順番の決め方を聞いてみたが、毎年協議のもと決められているらしい。

 継さんの様子を窺うと、顔を青くして決して変わることのないプリントの文字列を穴が開くほどに見つめていた。

 少し意外な反応だ。

 

「珍しいですね。普段ライブでも緊張しないタイプなのに」

「だって……。H.I.Fは生徒もファンの人たちも、沢山の人がその日のために目一杯楽しみにして、精一杯準備をしてくるライブなんだよ。そんなライブの大事な一番を任されるなんて……」

「はぁ……言いたいことがわかりませんね」

 

 呆れた様子でそう返すと、継さんはまるで裏切られたような反応でこちらを見て、必死に言葉を続ける。

 

「きみならわかるでしょ。大事なの、一番最初の出番は。その日のライブの成否を左右することもあるくらいに」

「何を当たり前のことを……」

「ならっ――――」

「俺が理解できないのはあなたがそれに気負っていることですよ。ライブの成否を左右するほどの重要なパート。であればあなた以上の適任はいないでしょうに」

 

 継さんは言葉の意味がわからない、という顔になる。

 意味がわからないのはこちらだと言ってやりたい。

 結果を積み重ね、出場を掴み取って、真っ当にある程度の自信はつけてもらったものとばかり思っていたが、相手が本戦に出てくるようなアイドルになると話は変わってくるらしい。

 ならばプロデューサーとして理解させる必要がある。

 今の彼女が持つ価値を。

 

「継さんはあまり俺の評価を素直に受け取ってくれませんよね」

「う……そんなこと……」

「一番手にあなたを据えると決めたのは学園の教員たちです」

 

 公平な立場からの評価。

 初星の教師にはその信頼がある。

 それは長である十王邦夫の掲げる理念によるものであり、アイドルを目指す少女たちがのびのびと努めることができるためのものだ。

 それならば利用されてこそ本意だろう。

 

「失敗は許されず確実なパフォーマンスが要求される場所。ならば誰よりも愚直に積み重ねてきたアイドルこそ信頼できるというのが学園長の言だそうです」

「そう、なんだ」

 

 これだけ伝えても未だ不安は拭えないようだったが、いくらか納得した様子は見せてくれた。

 それにただ技能だけでなく、きちんとそのアイドルの活動も踏まえた上での判断なのだ。彼女はそれを誇るべきだと思わずにはいられない。

 その口惜しさが表情に滲んだのだろう。

 申し訳なさそうに継さんは答えた。

 

「ごめんね……いつも。私はやっぱり私のことを簡単には信じられないみたい」

「早いこと改善してほしいものですね」

「うん……ごめんなさい」

 

 暗い空気になりそうなのを誤魔化そうとつい皮肉を口にしてしまったが、当然継さんには逆効果で余計に身を小さくして謝られてしまう。

 こういう時、どうしても継さんとの人間的な相性の悪さを感じずにはいられない。

 当然非はこちらにあるのだが。

 

「……それほど問題があるわけでもありませんので。あなたが自分に自信を持てないのなら、持てるまで言葉を尽くすだけです」

「うん……。いつもありがとうね、プロデューサーくん」

「……では、"Campus mode!!"を披露する方針で進めます。そうすると衣装も自動的に決まりますね」

 

 Campus mode!!を披露するアイドルは専用の衣装を着て演技することがほとんどだ。

 初星を代表するという印象を押し出すためにもそこを曲げる必要はない。

 

「あ……」

「何か懸念でも?」

 

 しまった、という顔で継さんが声を漏らした。

 目を泳がせる様子は先ほどの不安げな色とは異なった感情に見える。

 しかしながら内容に見当はつかないため、問いただすと継さんは頬を赤くして気まずそうに口を開く。

 

「その……ね? Campus mode!!の衣装は1年生の時に着たからあるんだけど……」

「はい。存じていますが、それが?」

「えっと……う〜ん、と……」

「歯切れが悪いですね……。今更何を悩んでいても迷惑に思ったりしないので」

 

 さっさと話してしまえと急かすと、こちらから目を逸らしたまま。

 

「そのぉ……最近、レッスン減らしてたから……ね?」

「?」

「体重が増えちゃってるの……衣装、入らないかも……」

 

 察して欲しそうに話すその意図を汲み取れないでいると、継さんは観念したようにそう言った。

 聞いてみれば恥じらう理由も理解できるが、その内容については。

 

「存じていますが」

「ええぇぇっ!?」

「うわっ、びっくりした。急に大きい声出さないでくださいよ」

「ご、ごめんね……」

「プロデューサーですから。担当アイドルのコンディションには常に目を配っていますよ。衣装についても既に調整の依頼はしてあります」

 

 不要な懸念だと伝え、完璧に不安を拭ったつもりだったのだが、何故だか継さんの纏う空気がいくらか冷たい。

 

「……いい? プロデューサーくん」

「は、はい。なんでしょう?」

 

 継さんがこちらに一歩近づいて真剣な表情で何かを話そうとする。

 その姿に妙に圧を覚え、つい背筋を伸ばして話を聞く姿勢をとってしまう。

 こちらの反応を確かめると、諫めるように言った。

 

「きみはこれから先、私以外にも他の女の子を担当することもあるでしょ? その時、あんまりデリカシーのないことをハッキリ言っちゃダメだよ。傷ついちゃう子だっているかもしれないんだから」

「は、はい…………気をつけます」

「うん。いい子だね」

 

 正直なところ継さん以外をプロデュースする自分があまり想像できない部分はあるが、こちらを慮る言葉をまっすぐぶつけられると、素直に頷くことしかできなかった。

 その後、優勝ライブで披露する楽曲や、演出プランなどを伝えその日は解散となった。

 

 それからの時間はあっという間に過ぎ去った。

 いくつかの仕事による知名度アップ。

 H.I.F参加を押し出したプロモーション。

 ライブパフォーマンスの最終調整。

 どれも不足はないはずだ。

 

 日々を積み重ね、目標の祭典。その当日を迎えた。

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