5月⚪︎⚪︎日 賀陽継羽
今日はライブをしたね。
ごめんなさい。
きちんと覚悟をしたつもりだけど、ステージに立つとまだ上手くできないんだ。
色んなことが頭を巡ってしまって、集中できてないんだと思う。
きみには申し訳ないけれど、もう少しだけ時間をください。
ちゃんと整理をつけて、きみの望むアイドルとしてステージに立つから。
5月○○日 プロデューサー
ライブお疲れ様です。
パフォーマンスについては賀陽さんの感じたことを否定はできません。
ですが焦る必要はないかと。
あなたがここまでひたむきに積み上げてきたおかげで、時間には余裕があります。
それに4月と比べれば改善傾向が伺えます。
きちんと進めていますので。
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6月○○日 賀陽継羽
中等部の子達とっても可愛かったね。
みんなキラキラした目で頑張ってて、アイドルが大好きなんだなぁって。
ダンスも教えたことを一生懸命に吸収して、どんどん上達してた。
みんな素敵なアイドルになれるといいな。
6月☆☆日 プロデューサー
流石のご指導でした。
彼女たちの成長は賀陽さんの個人指導の賜物でしょう。潰しが効きますね。
あと、今日のは学内とはいえ仕事ですので。ああいった場面での雑用は俺や周りの人に任せるようにしてください。
賀陽さんには賀陽さんにしかできない仕事がありますから。
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7月XX日 賀陽継
色んな想いが心の中にあって言葉にするのが難しいな。
まずはありがとう。プロデューサーくん。
やっとアイドルとしてステージに立てた。
来てくれたみんなをガッカリさせずに済んだ。
きみのおかげだよ。
さっき中等部のあの子たちがお部屋まで来ていっぱい応援してくれたんだ。
本当に良かった。
7月XX日 プロデューサー
定期公演お疲れ様です。
作ったキャラクターではありますが、賀陽さんらしい思いやりがたくさんの素敵なステージでした。
光明が見えてきました。
これならば夏のH.I.Fも夢ではない。
明日打ち合わせをして本格的に動き出しましょう。
今日のステージで後輩の方々にとってもあなたは憧れのアイドルになったことでしょう。
彼女たちの憧れを背負うのに恥ずかしくない姿を見せていけるように頑張っていきましょう。
☆ ☆ ☆
「きみって日記だといつもより優しいよね」
「……お望みなら改めますが?」
「ううんっ、全然嫌とかじゃないからっ!」
ある日、事務所でその日の日記を読んでいた継さんがそんなことを言った。
筆記と直接話す場合とで語調に差があるのは自覚していたが、こうして受け取り手に直接言われるとばつが悪く、ついひねくれたことを言ってしまう。
継さんが慌ててフォローの言葉を口にしたところで流石に幼稚な振る舞いだったと反省し、謝罪しつつ聞き返した。
「失礼しました。ですがどうして今更? 交換日記を始めてからもうしばらく経つでしょう。ノートも2冊目になるというタイミングですし」
「あ、えっと。昨晩ね、これまでの分を読み返していたんだけど」
「……ええ」
恥ずかしいことをするものだと口走りそうになり、かろうじて飲み込んで相槌をうつ。
「その時に気づいて、きみが気を遣ってくれてるんじゃないかなって」
「まぁ、気は遣っていますよ。そもそもこの日記を始めた理由自体が関係構築とあなたのメンタル矯正でしたし」
前者に関しては、これを面と向かって言ってしまえるくらいには継さんのことを知ることができているし、関係も作り上げられていると考えているが。
「それはそうだと思うんだけど……」
釈然としない様子ながら上手い言葉が出てこないのか、継さんは何やらモゴモゴしている。
そこに追い討ちをかけるように続けた。
「そもそも、じっくり文面を考えて、渡す前に読み返すこともできる日記でわざわざ嫌味なことを言うのもおかしいでしょう」
「うぐ……」
とうとう諦めたように継さんは肩を落とした。
何がしたかったのかいまひとつわからないままだが、こうもわかりやすく落胆されるとそれはそれで居心地が悪い。
仕方がない。
これ見よがしにため息をつき、膝に置いた手をしょんぼりと見つめている継さんへと言葉を投げる。
「……とはいえ、俺もあなたからノートを受け取ってから、それほど文面をじっくり考える時間があるわけでもないですから。大体は本心で思った通りのことを書いているだけですよ」
「……そうなの?」
「はい。ですから必要以上に気を遣っていたりはしませんし、俺も、まぁ楽しんで書いていますよ」
「そ、そうなんだぁ……」
そう伝えると今度は一転してはにかみながらそう呟く。
それはそれで照れ臭い反応だから勘弁してほしい。
どちらに振れても思い通りにいかない人だ。
「まぁ本当は前日の夜のうちに大体の内容は考えているんですけど」
「ええっ!?」
騙されたのかと驚く継さんを見て、幾らか溜飲が下がる。
相変わらず退屈しない人だ。
そんなやりとりがあった後、継さんをレッスンに送り出して一人になったタイミングで、いつも通り日記を書こうと考えペンを取り出した。
今日はH.I.Fに向けての話でも書くとしようか。
そう考えてノートを置くと、窓から吹き込んだ風がページを捲り上げ、ちょうど最新のページが開かれる。
「……ふむ」
少しくらいは担当アイドルの要望に応えてもバチは当たらないだろう。
そう考え、いつもよりも少しだけ肩の力を抜いてペンを走らせた。