初星学園アイドル科 賀陽継   作:pocket_ぽけ

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ぶつかった壁。くすぶり続けた時間。


初星学園高等部2年 賀陽継羽

 ここに来て5度目の春が訪れた。

 別れの季節は過ぎ、舞い散る桜と共に今年も新しい風が学園へと吹き込んでくる。

 始まりの気配に胸を高鳴らせる人々によって学園の活気がいつにも増して感じられる一方、平等に訪れる時間の流れを前に焦りを増している人々もいた。

 自分は後者であり、2年生への進級を経てタイムリミットが迫っていることをより強く実感し始めていた。

 

「俺と契約して、一緒にトップアイドルを目指そう!」

「は、はいっ! 私、精一杯頑張ります!」

 

 視界の端に映ったプロデューサー科らしき男性とアイドル科の生徒のやり取り。

 情熱と希望に満ちた二人の会話はこの先二人が進む先は明るいものになるのだろうと予感させる。

 その光景を直視することが出来ず、目を背け速足でその場を通り過ぎた。

 

 新学期が始まり、はや1か月。

 才能あるアイドル科の生徒たちと、精力的なプロデューサー科の人達のああいったやり取りもそろそろ目にする機会が減り始めていた。

 ――――そして私、賀陽継羽(つぐは)は未だ目標には遠い場所で、足踏みし続けていた。

 

 中等部時代。初めのうちは手ごたえを感じていた。

 アイドルコースでの各レッスンではトップ層の成績を維持し続けていた。昔から自覚はしていたがどうやら私は少しばかり、いやかなり要領が良く、お手本を数回見れば高い精度で模倣することが出来るようで。

 その甲斐もあり規模は小さいながらもステージに立たせてもらう機会をもらえ、そこには当然燐羽や家族を招待し、目標の一つであった燐羽に直接ステージを見てもらうことも出来た。

 かつての日のように盛大に喜び、私を褒めてくれた妹にまだまだこれからだと格好つけた宣言もしたものだったが、その後たくさんのファンが付いたり、活躍の場がステップアップすると言ったこともなく、時折学園から募集のあった小さなイベントに参加することはあれどその先へと駒を進めることは出来なかった。

 

 同級生でそのように躍進する生徒はいなかったこともあり、中等部ではこんなものなのだろうかと当時は考えていた。

 しかしその考えもすぐさま打ち砕かれる。

 

 高等部の先輩と一緒にとあるイベントに参加する機会があり、そこで一緒になった2つ上の先輩と仲良くなった。

 親切で真面目で、気持ちの良い人間だった。

 それにアイドルとしての技能も当時の私より圧倒的に優れており、きっと彼女のような人が活躍していくのだろうと納得することが出来る女性だった。

 ――――しかし、アイドルというものはそう単純ではないということを、その時ようやく理解した。

 

 話を聞けば、当時2年だった彼女も自分と同じように夢と現実のギャップの前に打ちのめされていた。

 どれだけ努力して、実力をつけても芽吹きの時は訪れず、周りの生徒たちはそんな自分を置き去りにしてどんどん次のステップへと進んでいく。

 ただ歌がうまい。ただダンスがうまい。ただ魅せ方がうまい。それだけでは人々を惹きつけることは出来ないのだと。

 数多の星々の中から、自分を選び取ってもらうことの出来るだけの"輝き"。

 "個性"。"好かれる魅力"。"目に留まる何か"。

 特定の言葉だけでは言い表せない固有の光を、先へと進むアイドルは持っているのだと彼女はそう言った。

 私たちがこの先に進むためには、それを見つけなければいけないと。

 その方法が分かれば苦労しないとも、乾いた笑みを浮かべて語っていた姿が今でも記憶に残っている。

 

 納得感はあった。

 同級生を見回してみれば、歌やダンスの実力など関係なく、その在り方を見ているだけで好きになってしまう。そんなキラキラした子たちは確かにいる。

 そして高等部に上がったことを機に彼女たちは日の目を浴びることとなり、飛び移るように階段を一段飛ばしに駆け上がっていった。

 

 そんな無二の輝きを私は持っていない。

 そう理解した時私は目の前に厚く強固な壁が現れたように感じた。

 その時の無力感をきっと先輩も味わったのだろうと、あの時のどこか悲しい笑顔を思い出してそう思った。

 だから、それでも自分の出来ることをがむしゃらに頑張り続けていた先輩に"プロデューサー"という存在から声がかかったと嬉しそうに語られた時には素直に喜ぶことが出来た。

 

 そしてそれは私にとっても一つの転機になる。

 先輩はプロデューサーと契約してからも、私と一緒にレッスンをしてくれる機会を設けてくれていた。

 それは彼女のプロデューサーと接し、実際のプロデューサーを知る機会となったのだ。

 

 あの人はスキル面に関しては基本的にレッスンに口出しすることもなく、終わるころに『いいじゃねえか』と素直に受け取ってよいのか微妙な誉め言葉と共にドリンクをご馳走してくれるくらいだった。

 しかし先輩がいないときなどに時折妙に心配そうな顔で尋ねてくるのだ。

 

『お前さん。やりてえことはねえのか?』

『好きなアイドルいるか?』

『好きなこととかあるか?』

 

 最初は場を持たせるためのただの雑談だと思っていたが、何度か繰り返していくうちにあの人の様子からしてそうじゃないのだろうと察し始めた。

 プロデューサーとしての視点から出てくる何らかの不安や疑問があったのだろう。

 それが何かは未だ想像もついていなかったが、おそらくアイドルとして活躍していくうえで重要なことであると確信はしていた。

 理由は簡単で。

 

 ――――私はそれらの質問に、一つも答えることが出来なかったから。

 

 もちろん返事はしようとしていた。ただそれはあの人が求めるものではなかったらしい。

 

『妹に喜んでもらいたいんです』

『ほ~。それでアイドルに……。あ~……家族思いでいいんじゃねえか?』

『……ありがとうございます』

 

 私の答えを聞いてもあまり納得した様子ではなく、さらに何かを聞きたそうにしながらも、踏み込み過ぎてはいけないと立ち止まったような雰囲気だった。

 

 きっと私には重要な何かが欠けている。

 それは私以外の他の生徒たちは当たり前に持っていて、私だけが持っていない。

 鏡越しに映る自分自身の姿だけが何の"輝き"も放っていない。

 その何かを得る方法を私は今も求めて彷徨い続けている。

 その答えを教えてくれる誰かを、求めている。

 

 桜が散り、地に落ちた花びらすらもすべて無くなってしまう頃、私は出会った。

 それはなんでも知っている賢者でも、どんなことでも叶えてくれる魔法使いでもない。

 欠けている何かを埋めることなく、ハリボテのまま願いを叶える方法を一緒に模索した彼をあえて表現するのなら。

 ――――共犯者というのがきっと正しかった。




面倒見がよく責任感のある燐羽の性格はそれを形成するに足るだけの愛情を与えられて育ったからではないかと思っています。
咲季からの大きな愛情を受けて育った佑芽が人の手助けを当たり前のように出来るように。
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