初星学園アイドル科 賀陽継   作:pocket_ぽけ

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プロデューサー志望 高校1年

 小さいころから好奇心旺盛で何事にも興味を持ち、それを好意的に後押しした両親の協力もあり、人よりも様々なことに取り組んできた。

 スポーツに始まり、勉強や読書、観劇などの文化的なことまで。一つ一つに対し、人並外れた理解力と吸収力をもって習得を繰り返し、また次の興味へと移る。

 視界に映る未知はそれぞれが異なる魅力を持って自分を引き付けてやまない。

 世界は輝きに満ち、人生は娯楽に満ちている。

 

 そうして生きていく中で、ふと周りへ意識を向けると『夢』という言葉に耳を惹かれた。

 『夢』を持っている人間は、それぞれが他とは違う輝きを放ち、その道の上で流す汗や涙すら糧として強い足取りをもって自分だけの道を歩いていた。

 それは今の自分が持たない輝き。

 だからこそ焦がれた。自分も喜びも苦しみも、どれだけあっても足りないと感じる貴重な自身の時間も。そのすべてを差し出してまで熱中できる"自分だけの何か"に。

 

 そう思ったとき、始めて挫折を知った。

 いくら考えても、紙と鉛筆を持って机に向かっても、自分にとっての『夢』が何かを見つけることが出来なかった。

 そうして足踏みしている時でも無情にも過ぎていく時間。

 一人、また一人と周りの人々が自らの道を見つけ、走り出していくのを後ろから眺めるしかない時間はひたすらに焦りと悔しさを加速させ、その感情がきっと自分自身を夢から遠ざけていた。

 

 中学の最高学年に進級した時、未だ何も見つけられてはいなかった。

 教師との進路相談に提出するプリントには空欄の進路希望。

 迷子の子供のようなあてどなさを滲ませる自分に対し、当時担任だった教師の言葉の多くはあまり響かなかったが、一つだけ行動指針を変えたものがあった。

 

『友達に話を聞いてみたらどうだ』

 

 客観的に考えればあまりにも愚かな話ではあるのだが、親密な友人などがほとんどいなかった自分にとっては盲点だった。

 そのため友達の部分は置き換える必要があったが、憧れる『夢』をもった輝いている人らを観察してみようとそう考えることとなった。

 

 季節が一つ、また一つと進むころ。

 結局自分の夢を見つけることは出来ずにいたが、一つの気づきは得られていた。

 どうやら自分はそういった輝きを放つ人間を観察することが好きらしい。と。

 それならば、それこそが夢を見つけるとっかかりになるのではないかという考えに至るにはそれほどの時間を要さなかった。

 

 人を観察する。それも何かに熱中している精力的な人間をだ。

 それに該当する進路とは。と思考の起点を得たことでようやく白紙だった紙に炭を落とし始めた。

 そこからトントン拍子に事が進む。

 担任に教師について話を聞き、両親にそれぞれの仕事について聞き、親戚の集まりでも話を聞いて回った。

 その末にたどり着いたのが。

 

『あん? アイドルを知りたいだァ? ほらよ。ちょうど明日ライブだ。暇なら賑やかしに来い』

 

 子供相手にガラの悪さを隠しもしない叔父。

 話を聞いてみるとアイドルのプロデューサーをやっているとか。

 アイドルというものもプロデューサーというものも単語を知っている程度でこれまでほとんど触れてこなかったものだった。

 アイドルについて調べてみると歌や踊りなどを人へ届け、ファンと呼ばれる大衆を熱狂させる芸能人だとか。

 動画などにも目を通してみれば、そこに映るのは画面越しでもわかる熱の投げ合い。

 手ごたえがあった。そうして詳しく話を聞こうとしたところ、叔父はこちらを制し、とりあえずは見てみろと1枚のチケットを渡された。

 

 ――――そこでとうとう、自分だけの輝きと出会った。

 

○○○

 

「……叔父さん」

「あん?」

 

 青年がキーボードを叩きながら、部屋の奥にある一段高価そうな椅子でふんぞりかえっている中年男性に呆れた声を投げかける。

 着慣れていないおろしたてのスーツは未だ少年の色を残している彼には不釣り合いながらも、仕事に取り組む姿と、纏うくたびれたサラリーマン然とした雰囲気によって不思議と均衡が取れているようにも見えた。

 『叔父さん』と呼ばれた男は座った回転椅子でぐるりと反転し、青年の方を向きながらぶっきらぼうに続けて問う。

 

「なんだぁ? 何か文句があんのか?」

「それはもう。俺はアイドルのプロデュースを学ばせてもらいにここにいるはずですが」

「確かに15のガキンチョにそんなことを頼まれたな。ちょうどお前さんの手元にあるのが、俺のプロデュース成果だ。よく学べよ若人」

「もちろんよくよく読み込みましたよ。ただ記録は記録でしょう」

 

 青年はそう言いながら自分たちがいる部屋。『初星学園』内の一角にある特別教室を見回す。

 わざとらしくゆっくりと端から端まで姑のように視線でなぞり、最後に話が違うのでは?と冷ややかな目つきを男へと向けた。

 しかし当の男はそんな形で不満をぶつけられてもどこ吹く風と肩をすくめている。

 そのような態度を見せられ、のらりくらりと誤魔化されることにしびれを切らしたのか深くため息をつきながら青年は立ち上がり、男の前まで歩き、言った。

 

「プロデューサーなんですよね」

「あぁ。知っての通りだな」

「プロデューサーはアイドルを受け持ち、導く存在と聞きました」

「俺の知っているプロデューサーと同じみたいだな」

「それで? そのアイドルは一体どこに? 聞いた話ではあなたは学園に着任して十数年もの間、常に誰かしらのアイドルをプロデュースしていたとか」

「ちょうど3月にみんな卒業しちまったんだから仕方ねぇだろうよ」

「仮に今担当しているアイドルがいないのなら、スカウトに赴くのが一般的なプロデューサーかと思いますが」

「あ~。ん~……。まあなぁ?」

 

 尋問のように矢継ぎ早に繰り出される質問と、詰め寄ってきた青年の圧に流石に耐えかねたのか、どうしようかと天井を仰いで何かを考えている様子の男。

 それをあまり期待していない目で眺めながら青年は付け足した。

 

「伍藤プロデューサー」

「わかったわかった。少し早いが動き出してもいい頃合ではある。その資料は作り終わったのか?」

 

 役職で呼ばれ、伍藤はようやく仕事モードとして相手をしなければならないと思ったのか、降参だと両手を上げながら割り振っていた仕事の状況を確認する。それに対して、青年はあらかじめ用意していた回答を返した。

 

「データは共有フォルダに格納しました。ご確認を」

「はいはい。仕事が早えこった…………。あ~。はいはい。あいよ。オッケーオッケー」

「…………ちゃんと確認したんですか? 100プロにお送りする資料ですよね」

「過去最高に心配そうな顔をするんじゃねえ。流石にそこは俺もしっかりやってる。お前の能力は既に知っているしな。内容に問題はなかった。残りは後で確認する」

 

 青年が作成していたのは、昨年度まで伍藤が担当していたアイドルのうち、初星学園と密接な関係にある100プロダクションへ所属することとなったアイドルの追加資料だ。必須となる資料は卒業前に引き継いでおり、残っていたのはレッスン風景や、デビュー当時の映像などの資料。様々な媒体で保管されていたそれらを整理することが、伍藤から与えられた仕事だった。

 青年は自身の成果物に自信を持ってはいるものの、二者チェックをさらりと視線で撫でる程度で終わらせられると流石に心配にもなると伍藤に確かめたが、問題ないと言うのでひとまずは受け入れることにしたらしい。

 

「んじゃ、外出するぞ。用意しろ」

「何をしに?」

「スカウトだよ。ご所望なんだろう?」

 

 椅子に雑にかけていたジャンパーを羽織り、伍藤は青年を置いてさっさと部屋を出ていった。

 待ちわびた時がやってきたと高鳴る胸を抑え込みながらそっとパソコンを閉じ、青年は同じく部屋を後にした。

 

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