老練ラットは胡坐をかく   作:すすのて

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1.ヤードラット人がブロリーのクローンに転生する話

 

「提案なんだが。ブロリーのクローンとして生まれ変わってくれんか?」

 

 見上げるほどの巨大な机を挟んだ向かいに、その巨大な机が相応しいほどの山のような巨体の人物が、沈痛な表情を浮かべてこちらを見下ろしていた。

 

 どんな者でも死ねば閻魔様の元へ運ばれ、天国行きと地獄行きのどちらかを言い渡されるのだという。今の自分の状況はまさにそれだった。

 

 背中が曲がった老体をなんとか伸ばして頭上を仰ぎ見る。机の上に置かれた役職名からして、目の前の彼が閻魔様なのだろう。とても疲れた顔をして、頭痛でもするのか額に手を当てている。

 

「ブロリーのクローン、ですかい。ブロリーってのは、俺が知ってる坊っちゃんで合ってるかい?」

 

「ああ。ついさっき別れたばかりの、あのブロリーだ」

 

 確かに、別れたのはついさっきだ。俺が死んでしまって、その場にブロリーがいたのだから。

 閻魔様は頬杖をつき、右手でトントンと机を叩いた。

 

「今回問題になっている星ではクローン技術が当然のように扱われているらしくてな。家畜や魚介類などは全てクローン技術で複製され賄われている場所なのだが、人間などの知的生命体の複製は倫理的に禁止されていた。しかし、多種多様な人間がいる以上、禁忌を破る者も存在する」

 

 そこから一拍置いて、閻魔様は重々しく呟いた。

 

「どうやってブロリーの遺伝子を手に入れたかは知らんが、あやつのクローン化はすでに最終局面まで進み、人の形もほぼ出来上がりつつあるんだと。だから急がねばならない。魂の選定を」

 

 ふむ。閻魔様の説明を聞きつつぼんやりと考える。

 クローン技術に関しては詳しくないが、血液とか髪の毛とか唾液とかそういうものがあれば可能だった気がする。

 であるならば、手に入れるのは簡単だろう。

 

「おまえも知ってる通り、ブロリーの力はとても危険だ。天国行きの善人な魂に転生の話を持って行っても『こわい』だの『自信がない』だの及び腰になって断る者ばかり。かといって悪人の魂に頼むわけにもいかんし、まっさらな魂に頼むのも不安が残る。で、候補探しに難航しておった時に、ちょうど良いタイミングでおまえがここに来たわけだ」

 

 おまえ、と人差し指を向けられて、不満さを表に出すべく眉間にしわを寄せた。

 

(好き好んで死んだわけじゃねぇんだが……)

 

 しかしもう充分生き長らえた、という充足感もある。

 そういうわけで、複雑な表情を浮かべながらも肩をすくめるだけに留めた。

 

「おまえならブロリーの力の強大さや危険さを知っている。今までの経験から力の取り扱い方もわかるだろう。地獄へ行くほどの悪人でもないし、ブロリー本人と鉢合わせたとしてもおまえなら問題ない」

 

 ん? とりあえず最後まで話を聞こうたと思ったが、ひっかかりを覚えた。

 軽く挙手し、ひらひらと手を振る。

 

「そりゃなにかい。俺が今持ってる知識や記憶をそのまま残して置いてくれるってことですかい?」

 

 転生というのは、記憶も経験も全て消して空っぽの状態まで魂を浄化し終わった死人が、人生をやり直すためのものだという認識だったのだが。

 

「特例で許そう」

 

「おお。そりゃあある意味、生き返りと同等じゃねえですか?」

 

「でなければ第二のブロリーになるかもしれんしなあ」

 

「あー……。まあ、否定はできませんな……」

 

 まっさらな状態で他者を圧倒できる力を持ってしまえば、高慢な人間になる可能性は高いだろう。自分ですらそういう傾向があるのだ。

 サイヤ人の戦闘能力を手に入れてしまえば、彼らと同じように傍若無人な振る舞いになりそうだと、簡単に想像がついた。

 

「休む暇なく黄泉返りというのも忙しないが……。まあ、俺が最適者であるなら仕方がない。その提案、引き受けましょうぞ」

 

「ありがたい。では係の者に……」

 

 閻魔様は肩の荷が下りたかのように安堵の表情を浮かべた。

 傍に立っていた男の鬼に声を掛けようとすると、壁際の通路から一人の男の鬼が血相を変えて飛び出してきた。

 

「閻魔大王様!! 転生部門から急ぎの連絡が! 例のクローンが生命活動を開始しそうとのことですオニ!」

 

「む、そうか。たった今、適任者が見つかったところだ。この男を連れて行ってくれ。手続きはこちらで済ませておく」

 

 急ぎ走り寄ってきた鬼の方へ顔を向けると、驚きと喜びが入り交じった顔と目が合った。

 閻魔様の言葉にはい! と返し、俺に向けて一緒に来てくださいオニ! と一分一秒を争うかのように急かしてくる。

 

「頼んだぞ。ガルハッタ」

 

 鬼の後を追うべく駆け出そうとした背中に、閻魔様の声が掛かった。

 

「はいよ~」

 

 転生することに対して特に思うことはなく。

 ぼんやりとした笑顔で手を振り返して、俺はいつものように浮遊し、座った体勢のまま滑るように飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……やっと最優先書類が片付くわい。よりによって将来を危惧しとるブロリーのクローンを生み出すとはなあ」

 

「あの、閻魔大王様……」

 

 候補不可の書類が連なって厚くなった資料にようやく可のハンコが押された紙が挿入され、一番上の表紙に処理済みのハンコを押した、その時。

 机の脇に佇んでいた男の鬼がおずおずと口を開いた。

 

「なんだ」

 

「先程のお爺さん、ヤードラット人ですよね。本当にサイヤ人の体を任せて大丈夫でしょうかオニ。サイヤ人とヤードラット人では体と魂の相性が悪いのでは……」

 

「あー、うん、そうだなあ。……まあ、ガルハッタなら大丈夫だろう」

 

「そこまでの信頼を寄せるということは、凄い人なんですオニ?」

 

「なんだ、知らんのか? ガルハッタはな、スピリットを極めたと言っても過言ではない使い手なのだ。独自の技をいくつも編み出して、気のコントロールで右に出る者はいないと言われている。出来ることより出来んことを数える方が早いとな」

 

「へえ~凄いオニ~」

 

「あやつなら、クローンブロリーの潜在能力を抑えながら意のままに操ることが出来るだろう。心配する必要はあるまい」

 

「サイヤ人の戦闘能力とスピリットの力が合わさって最強になってしまうオニね。あの人が暴れたら止められる人がいなくなるオニ……」

 

「恐ろしいことを言うな……」

 

 横通路から別のオニが焦った様子で走り寄ってきた。

 

「閻魔大王様~!! 死者が急増してますオニ! それも凄い勢いで!!」

 

「なんだと」

 

「……どこかの星で戦争でも始まったオニ?」

 

「無駄話は終わりだ! 働くぞ!」

 

「は、はいオニ~!」

 

 

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