「第三陣、撃てー!」
ドン! ドン! ドン!
花から少し離れた建物から、砲撃が何発も撃ち出された。
スドーン! ドオォーン! ドゴォーン!
空を駆けた鉛玉は着弾し、土煙を巻き起こした。振動でツタが動き、花弁が風で揺れる。
何度砲撃を受けても、強靱な植物のツタは傷付くことなく、倒れ伏すこともない。
エネルギーを感知して捕食行動を取る植物は、自ら寄ってきた小さくも大量の群れへと重たいツタを伸ばした。
「動いた! 防御陣展開! 放てー!」
小さな筒が数個、植物の方角へと放物線を描き飛んだ。それが地面へと接触した瞬間。
ドパパパパッ!
数百の針が筒の中からはじけ飛び散った。
針は周囲の花やツタを巻き込んで飛散したがダメージを与えることはできず、その動きの牽制をすることしかできない。
けれど、感知の範囲に入ってしまえば――
「近付きすぎだ! 退避!!」
周囲の白い花が蕾のように花弁を閉じ、弾けた。
「ぎゃっ!」
弾丸のように飛んできた黒い種が、前に出すぎていた男の腕に被弾した。
「下がれ! 今すぐ種をほじくり出せ!」
白い花の種は固く、簡単に肉を突き破る。それこそ彼らが使う銃弾と変わりない。
けれども、それより恐ろしいのは。
「ぎゃああぁあ!!」
「ちっ! 今すぐ腕を切り落とせ!!」
白い花の種の、発芽する成長スピードである。
にょろにょろと細い蔓が黒い種から伸び、同時に根が肉を苗床とし広がっていく。
「躊躇するな! 腕を捨てなければ死ぬぞ!」
「ぐぅう……!」
負傷した腕に細い蔓がどんどん巻き付き、周囲の人間にまでその触手を伸ばそうとしている。
踏ん切りがつかず硬直していたその場に、異変が起こった。
「ぎゃッ!!」
「!?」
蔓が巻き付いていた腕の負傷部分が、ぼこりと隆起した。
まるで埋め込まれた種を力尽くで引き抜いているかのように盛り上がり、種が腕から飛び出した。
腕から離れた瞬間、種がぼっと炎上し、巻き付いていた蔓と共に炭と化しぼろぼろと崩れ落ちた。
「な、なにが起こったんだ」
「種が、勝手に抜けて……燃え尽きた?」
「た、助かった……?」
弾痕の残った腕を抱えて、男は呆然と燃えカスを眺めた。
花に種を打ち込まれたら、その部位を切り落とすしか助かる道はなかった。それが今、否定されたのだ。その場に居る誰もが、花が出現して初めて見る光景だった。
「随分とまあ古めかしい装備だねぇ。ありゃあ勝ち目は無さそうだ」
腕に植え付けられていた種を遠隔で取り除いた後、ガルハッタは遠くまで飛ばしていたスピリットを拡散させて一息ついた。
しばらく上空で観戦していたガルハッタだが、人間側でわちゃわちゃと騒がしくしていたので少しばかり介入してみたわけだが。
攻防のパターンを理解した後は拍子抜けとばかりに肩を落とした。
他の星ではあまり見なくなった古い銃火器を物珍しく見ていたが、あの威力では巨大花に傷をつけることもできないだろう。
バリアを張って高度を落とし、紫の花から宝石を力任せにむしる。すると紫の花が急速に枯れて。
バァアーン!
茎が三叉に引き裂かれたかのように破裂し、中から大量の種が撒き散らされた。奇しくも、武装兵が使っていた筒爆弾と同じ手法である。
「せめて黒以外の色があれば楽しめるんだが」
ガルハッタがため息をつく通り。
大量の種はバリアを貫通できずに、視界を黒く埋め尽くしたと同時に燃え尽きてしまう。
彼にとっては、ただのこけおどしだった。
「おい! Dr.ドクヒルを連行したんだろう! この花の弱点はまだ聞き出せないのか!?」
武装兵が並ぶ列の後衛で、そんな声が飛んだ。
生物の遺伝子を調べ、組み合わせ、人工的に生み出し作り上げる。この惑星の中でも随一の頭脳を持ち、しかし歪んでいる科学者。Dr.ドクヒル。
数時間前に彼の隠れ家への突入命令が下り、ようやく身柄の確保に成功したのだ。
この星を蝕んでいる巨大な花。その生みの親。
「申し上げます! Dr.ドクヒルが逃走しました! 行方がわかりません!」
「なんだと!? 縛り上げていたはずだろう!」
「いつの間にか、縄を残して姿が消えており……」
「探せ! 花の殲滅が終わり次第、彼は処刑となっている!」
「はっ!」
探索命令のために数人の兵が周囲へと散らばり、ひとり残った兵は静かに奥歯を噛み締めた。
「花だけでなく、サイヤ人のような子供も作っていたんだ……! ここで逃走を許し、新たな脅威を作られては敵わん……!」
隠れ家の地下に踏み込んだ兵は、培養槽の中で目を開けていた黒髪の子供を見た。その培養槽を撃ち抜き、ガラスが砕け、黒煙に包まれる姿まで認めたのだ。
「……あのような存在を作り出す人間など、この世に在ってはならない……!」
兵は決意を秘めた瞳で対峙する花を見やり、拳を強く握りしめた。
「あ、良かったー! 無事だ!」
兄弟が宇宙船で着陸した場所に向かえば、自分たちの船は寸分違わず同じ場所に鎮座していた。
リモコンでエンジンを動かせば、同期されている笛の音がぺぺぺぺ~と鳴り始める。
「そろそろ他の曲に変えたいな~」
「そうだな」
プシューと音を立てて開いた搭乗口から中へ乗り込み、二人は手早く離陸準備を始めた。
「兄ちゃん、このまま脱出するの?」
「駄目だ。飛行機を回収しに行かないと。あと迎えに行く。あの宝石をもらえなきゃ大損だからな。捕獲した花はちゃんと持ってるか?」
「ポケットにあるよ、四つとも」
「商品箱に入れとけ。また無くすぞ」
「わかった」
兄は操縦桿を握り、操作盤を見やった。
ピコンピコンと光が瞬き、通信機器に反応が残っている。
「誰かから連絡が来てる」
弟は近場に設置してある頑丈な箱を開けて、中に四つの青いカプセルを丁寧に安置した。
未使用の五つ目のカプセルは迷った末に、ポケットへと戻す。
「げっ!」
「兄ちゃん?」
片付いた後は兄の隣の席に着き、弟はベルトを締めた。
「フリーザ軍から通信が入ってる……」
「えっ」
「な、なんだろう。最近なにかを売った覚えもないし……」
「……注文とか?」
「かもしれない……。と、とりあえず折り返しの連絡をしてみる……。うっ、緊張する……」
「兄ちゃんファイト!」
震える指でスイッチを押した。ピピピピと接続音が響く。
ただの下請けの下請けの下請けにフリーザ軍が何の用事だろうか、と動悸がする胸を押さえて応答を待った。
プップップッと通信機器が点滅した。受信の合図だ。
「通信です。発信場所は――惑星コスラ。先ほど通話を試みた、あの兄弟からのようです」
「おや。早かったですね。繋げなさい」
冷静で事務的な報告に、厳かな声が答える。
浮遊した椅子に乗り、堂々とした佇まいでその空間を支配しているその姿。
宇宙の帝王として恐れられている存在。フリーザ。
優しげな声音にすら圧倒的な威圧感を漂わせ、周囲に配置されている部下ですら、彼の一挙手一投足に神経を研ぎ澄ませる有様である。
『ご、ご連絡ありがとうございます! 星間商売人のイコンとトスです! お待たせしてしまい申し訳ございません!』
「いえいえ、気にしてませんよ。むしろ早いくらいでした」
『あっ、ふ、フリーザ様……!? ああああの、ご寛大なお心、ありがとうございましゅ!!』
「ふふふ」
(……小気味良いくらいの虫ケラだ)
フリーザは、この兄弟をそう結論付けた。今から行われる計画にちょうどいいと自らの考えにほくそ笑む。
「ところで本題に入りたいのですが。今、あなた方は惑星コスラにいらっしゃるそうですね?」
『は、はい!』
「そちらの惑星ではクローン技術が盛んに行われているらしいですね。そして……私が小耳に挟んだ所、サイヤ人のクローンにも手を伸ばした、とか?」
『えっ。……サイヤ人……?』
「知りませんか? 黒髪黒目の、獣の尻尾が生えた凶暴な種族です」
『……………………あっ』
「その様子だと知っているようですね。もしや、出会いましたか?」
『あ、あの…………はい』
通信先からの言葉に、フリーザは口角を吊り上げた。予想以上の収穫だった。
「ほお! では、サイヤ人のクローンがどんな人物か知っているのですね? 人数はわかりますか?」
『お、おれ達が会ったのは、小さな子供のサイヤ人、ひとりだけです……』
「なるほど」
(子供……それはますます好都合)
更に笑みを深めるフリーザの様子に、密かに耳を澄ませていた部下たちは冷や汗を流した。
絶滅危惧種となったサイヤ人、その生き残りは全てフリーザ軍に所属している。
サイヤ人がそこまで少数になった理由を知っているフリーザ軍の幹部たちは、フリーザが口にするだろう言葉を想像して目を細めた。
「では、あなた方にお願いがあります」
優しく、しかし望むのはたったひとつの言葉。
通信越しでも感じるその威圧感に、イコンとトスの兄弟は逃げられないことを悟った。
「遅いな、あの兄弟」
周囲の宝石をあらかた採取し終わったガルハッタは、枯れて萎びた植物ばかりが広がる大地を眺めていた。
故障した飛行機の装甲に座り待っていたが、走って宇宙船に向かった兄弟はいまだに戻って来ない。
(……兄弟の気が一定時間動いてない。何か問題でもあったか、逃げる相談でもしているのか……)
ガルハッタは立ち上がり、すぐ傍で眠りこけているブロリーの様子を窺った。たまに眉根を寄せるも、いまだ起きる気配はない。
「……飛んでパラガスへ届けに行っても良かったかもなぁ」
瞬間移動で連れて行こうかと考えていたのだが、気の探知範囲にパラガスがいなかったので中止したのだ。
まあ、パラガスがいた所からブロリーが感知できなかったのだから当然とも言える。ど忘れしていた。
「今更か。今から移動するとすれ違いになるかもしれんしなぁ。ブロリーなら放っておいても自分で戻るだろ」
軽く肩をすくめて浮遊し、ガルハッタは少し離れた花の群れへと移動した。
宝石を採っていない紫の花からは、甘い香りと瑞々しい透明な果実がはちきれんばかりに主張している。ガルハッタがいくら近寄ってもツタは動かず、周囲の白い花は蔓を伸ばそうともしない。
(……動かねぇな)
懐から宝石をひとつ取り出して、白い花に近付けてみる。すると白い花は宝石を避けるように遠ざかった。
(……種を飛ばす時との違いは、所持している宝石の数か? 大量に持ってる俺を仲間だと誤認している?)
宝石を懐に戻し、地面に根付いていたツタを引き剥がした。
(動かないとただの植物に見えるが……)
手のひらに気を溜めて、それを刃の形へと形成。
対象を切断できるほど鋭く、密度を高く。
そして――斬る。
つるりとしたツタの断面には空洞があり、外側の肉が厚いホースのような構造になっていた。ふんふんと納得と仮説と確認を繰り返す。
白い花が吸収し、紫の花が宝石に蓄積し、そこから周囲へ分散され、栄養が全ての花に行き届く。
(面白いな、この生態。宝石が要か)
スピリットエネルギーのコントロールを磨くことを人生の中心に据えていたヤードラット人の性質は、サイヤ人として生まれ直してもなお揺らぐことはなく。
ガルハッタは時間を忘れて花の観察に没頭してしまっていた。
「遅い。ブロリーはいったい何をしている」
獣は全て捌き終え、宇宙船内の食料庫に片付けた。水も補給し終わった。
あとはブロリーが戻ってくるだけ、という状態でパラガスは待機していた。
「まさかとは思うが、噂の花に捕まったか? ……いや、ブロリーならいくら巨大な花でも相手にならないはず。……あの子供と出会ったか?」
パラガスの懸念は、ブロリーに似たサイヤ人の子供に向けられていた。
ブロリーに対しての心配はない。しかし、あの子供の口車に乗せられる可能性はあった。
(子供とは思えぬあの落ち着きよう……。サイヤ人なら、格上の相手に捕まったらどんな状況でも抗うはずだ。尻尾を掴まれていたとはいえ、そんな様子が一切なかった)
無造作に放置していた情報を精査し、頭の中で整理する。
(理性的な目。暴れもせず、静かに立ち去った。あれはそう、ガルハッタがたまに使っていた瞬間移動という移動方法によく似て……)
――ガルハッタに似た気を探していたら、こいつが――
「…………惑星ベジータは十二年前に滅びた。もしも飛ばし子であるならブロリーと同じ年頃のはず。あの子供は五歳ほどだった。そして、ガルハッタが死んだのは六年前……」
パラガスの中で、何の変哲も無い情報が嫌な繋がり方をした。
「……計算は合うが、しかし……。そんなことが有り得るのか?」
ただの杞憂かもしれない。妄想と笑い飛ばすほどの馬鹿馬鹿しい結論だ。けれども、ブロリーの感覚を、なにより自分自身の考えを、パラガスは切り捨てることはできなかった。
「――確かめに行くしかない」
組んでいた腕をほどき、バサリと白いマントを翻した。
→
▼年齢設定
パラガスの記憶通り、惑星ベジータが滅亡したのは十二年前です。
なのでブロリーはまだ12才。つまり悟空も12才。
今頃ブルマと出会って、ドラゴンボール探しを始めているかもしれません。
ちなみに今のガルハッタは5才。パラガスは30~32才くらいだと思います、たぶん。