Re:インフィニット・ストラトス   作:ぬっく~

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クラスメイトは全員女

入学式から一夜明けた朝。

 

織斑一夏は目覚ましの電子音に叩き起こされた。布団の中で一瞬ぼやけた脳が、「昨日の出来事は夢じゃなかったのか」と認識するのに数秒かかる。

 

「……やっぱり、俺はここにいるんだな」

 

枕元の鞄から取り出した学生証には確かに〈IS学園〉の文字。つい数日前までは「普通の高校で平凡に過ごす」

と信じていた未来図が脆く崩れ去り、今は

「女子ばかりの特殊機関に通う男子生徒一号」

という現実が眼前に広がっている。

 

制服に袖を通す。灰色を基調とした学園服はややタイトで動きやすく、男用サイズは当然ながら一点限りのオーダーメードだ。鏡に映る自分が妙にぎこちなく見える。

 

「さて……行くか」

 

寮の自室を出て廊下に出ると、すでに登校ラッシュが始まっていた。薄桃色の制服を纏った生徒たちが何十人と行き交う。

そのすべてが女性であるという事実に一夏は軽い眩暈を覚える。

 

「……やばい。昨日も思ったけど、これ慣れなくて死ぬかも」

 

独りごちながら一歩踏み出すと、すぐ横を歩いていた少女と肩が触れそうになり、

 

「きゃっ」

 

小さな悲鳴。慌てて謝ろうとした刹那、逆に彼女のほうが顔を赤らめて頭を下げた。

 

「あっ……ごめんなさい! 私の方こそ避けきれなくて……」

 

見ると柔らかい栗色の髪を耳元でふわりと遊ばせた小柄な女の子だ。青みがかった瞳が申し訳なさそうに潤んでいる。

 

「いやいや、こっちこそ気をつけなきゃいけない立場だし!」

 

慌ててフォローを入れると彼女はほっとしたように微笑んだ。

 

「私は5組の谷本癒子。もし困ったことがあったら何でも聞いてね? 一夏くんの話はもう学園中に広まってるし……」

 

 

「ありがとう。お互い頑張ろう」

 

自然なやりとりにほっとしたのも束の間。

昇降口近くの階段で待ち構えていたのは、腕組みした織斑千冬と副担任・山田麻耶だった。

 

「織斑、集合時刻を守れ。寝坊癖は治らんのか」

 

千冬の低音が響き渡る。

 

「うぅ……朝から姉貴に説教されるとは思わなかった」

 

 

「ここでは教師だ。織斑先生と呼べと言ったはずだ」

 

麻耶先生が気まずそうに割って入る。

 

「せ、先生……まだ入学2日目ですし大目に見てあげましょう? 皆さんも早く教室へどうぞ〜」

 

ざわつく廊下。一夏は麻耶先生に救われつつも背中で千冬の視線を感じながら2年1組の教室を目指した。

 

***

 

扉を開けると、机の並ぶ光景はどこか見慣れた学校と変わりない。

だが席に座る全員が女生徒という空間は明らかに異常だ。

 

「おはよう、一夏」

 

通路側の一番後ろで手を振るのは篠ノ之箒。

いつも通りの澄んだ声だが、ほんの少し硬い。

 

「おはよう。お前の席そこなのか」

「ああ。出席番号順だそうだ。君は私よりも早いから前になるだろう」

 

案の定、出席簿順に名前が呼ばれると一夏の名は2番目。箒のすぐ前ということになる。

 

(これで視界にはいつも箒の顔が入るわけか……)

 

内心苦笑しながら椅子に腰を下ろすと同時に鐘が鳴った。

 

「みなさんおはようございます! 今日から正式に授業が始まります」

 

教壇に立つ麻耶先生がにっこりと笑う。しかし直後、

 

「山田先生。後半の科目は私が請け負います」

 

涼やかな声とともに千冬が教壇の裏側から現れ、教卓の上に持参した出席簿を置いた。

 

「きょ、今日は基本構造から応用技術までの速習カリキュラムですね。織斑先生がいると……私も頑張らなくちゃ!」

 

麻耶先生が握り拳を作るとクラス中から小さな拍手が起きる。

しかしその温かな空気は千冬の次の言葉で凍りついた。

 

「まず最初に警告しておく。明日から実技演習も本格化する。織斑は特に注意しろ。男だからと言って特別扱いは一切しない。怪我をしてから泣いても遅いと思え」

 

教室が静まり返る。誰もが固唾を飲んで一夏を見た。

 

「……はい。覚悟はできています」

 

声が震えないよう腹に力を込める。

幼なじみの箒でさえも意外そうな顔をしていた。

かつての自分がこんな台詞を言うとは到底思えない。だが今の織斑一夏は「世界で唯一の男性IS搭乗者」なのだ。

 

「結構。では基礎理論から。山田先生、プロジェクターお願いします」

 

千冬が指を鳴らすと天井のスクリーンがゆっくりと降りてくる。

そこで提示されたスライドタイトルは《ISコアの量子干渉性と武装管制》。

 

一夏は筆記具を取り出し、深呼吸した。

ここは甘えも妥協も許されない戦場だ。

生き残るために、知恵を絞り、技術を吸収するしかない。

 

机の上で組んだ掌に静かに力が入る。

これから始まる運命の歯車を噛み合わせるか否か、答えは自分の中にしかないのだ。

 

「……よし」

 

小さく呟き、一夏は目を上げた。

窓の外では桜の花びらが舞い散り、青空を背景に不規則な軌跡を描いている。

 

たとえどれだけ困難であろうと。

彼はこの花吹雪の中に飛び込んでいく覚悟を決めた。

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