ブルーアーカイブ ―Cyber Troopers in Another Sky―   作:C03-HELIOS

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原作との分岐点

先生とチュートリアル組の前に現れるのは……?

※2026年3月9日編集
 バーチャロイドをVRという略称表記に変更



第0章 プロローグ/外典は蒼空の下で
プロローグ 分岐点――VIRTUALOID


 ――それは先生と生徒たちがサンクトゥムタワーの制御を取り戻そうとシャーレに向かっていた時の話。

 

 突然、キュイーンという甲高い回転音と何かが道路を高速移動する音が響く。

 

「この音は……!」

 

 スズミが何かに気付いたように他の仲間の方に振り向く。

 

「皆さん、【VR(バーチャロイド)】が来ます!」

 

 ユウカが目を見開く。

 

「嘘、何でここに来るのよ⁉」

 

 ハスミがそのまなじりをわずかに歪ませる。

 

「……機体によっては不味い事態になりそうですね」

 

 その間に、右の曲がり角から1機のロボットが高速で滑り込んできた。

 両肩に当たる部分にボックス型の大型ミサイルランチャーを四基装備。

 その下から伸びるアームの先には左右それぞれで違うボックス型の小型ランチャーを装備。

 そこそこ太くて角ばった脚部の側面には三連装ミサイルランチャーが一基ずつ装備されている。

 頭と胴が一体化したようなボディの真ん中には二本のラインセンサーが光る頭部があり、その上面にはアンテナやセンサーが幾つも突き出している。

 全高2mを超えるロボットがそこにあった。

 

“ドローンじゃない、戦闘用ロボット⁉”

 

 驚く先生にチナツの冷静な声が響く。

 

「VOXダニー。各所に搭載したミサイルやグレネード、ナパーム弾による支援攻撃を得意とする支援型のVRです! 弾幕攻撃に注意してください!」

 

『見つけたあー!』

 

 ロボット兵器――VOXダニーから不良の声が放たれる。

 両肩部の大型ミサイルランチャーが開き、その中から大型のミサイルが顔を出す。

 

『こいつを食らえー!』

 

“ユウカ、トラックの陰に!”

 

「は、はい!」

 

 ユウカが慌てながらも、近くに放置されていたトラックの裏へと隠れる。

 次の瞬間、四発も発射された大型ミサイルがユウカの隠れたトラックへと殺到した。

 

 着弾、爆発。

 

「きゃあっ!」

 

 完全にスクラップと化したトラックが真上に吹き飛ばされる。

 悲鳴を上げたユウカだが、トラックが爆発を全部吸収してくれたおかげで無事だ。

 

“あれは有人機⁉”

 

「いえ、遠隔操縦型の無人機です!」

 

“なら……スズミは頭に閃光弾、ハスミはワンテンポ遅れて左脚を狙って”

 

「はい」、「了解です」

 

『まだだー!』

 

 VOXダニーの右腕と左腕、両方のランチャーが開く。

 そこからグレネードとナパーム弾が発射される……前に頭部センサーのど真ん中に閃光弾が飛ぶ。

 

『うえっ⁉』

 

 次の瞬間、閃光弾が炸裂した。

 

『のあ~っ⁉ 目がぁー! 目がぁあ~⁉』

 

 目をつぶされたVOXダニーの動きが目に見えて悪くなる。

 そして、発射寸前だったグレネードとナパーム弾が足元へと落ちる。

 

『あ』

 

 ドーン、ドーン!

 

『ぎゃああー!』

 

 半ば自爆する形でVOXダニーがダメージを受けてよろける。

 特にナパーム弾が直撃した左脚の装甲が明らかに溶けてボロボロになっているのが見える。

 

「あれなら……!」

 

 そして、既に射撃準備を整えていたハスミの放った徹甲弾がVOXダニーの左脚を撃ち抜く。

 それはナパーム弾で弱っていたVOXダニーの左膝部を完全に破壊していた。

 そのまま左側へと崩れ落ちるVOXダニー。

 

「よくもさっきはやってくれたわね!」

 

 そして、トドメを差すのはユウカ。

 態勢を整えるや否や、転んで動けないVOXダニーに向けて両手のサブマシンガンを派手に叩き込む。

 頭部を中心としたセンサー類が次々と粉々にされ、的確な射撃によって機体各所のランチャー類もまとめて撃ち抜かれ破壊されていく。

 

『うわわわっ、損傷率がドンドン上がってくうう⁉  あ』

 

 次の瞬間、各所ランチャー内の弾薬が誘爆。

 VOXダニーはひときわ大きな大爆発を上げると木端微塵に吹き飛んだのだった。

 

“ふう”

 

 VOXダニーの完全沈黙を確認した先生が静かに息をつく。

 

“みんな、無事?”

 

「はい、無事です」

 

「こっちも大丈夫です」

 

「問題ありません」

 

「こちらもです」

 

 四者四様の言葉に先生が安堵の表情を浮かべる。

 

「にしてもまさかただの不良ですらVOXを運用しているなんて……ブラックマーケットへの横流しは思ったより深刻かも知れません」

 

 ハスミが深刻そうな表情で呟いていると、手元の端末をあたっていたユウカが戻ってくる。

 

「先生、早く進みましょう。下手すると囲まれる可能性があります」

 

“分かった。行こう”

 

 先生の言葉に四人は頷くと、先を急ぐように駆け出し始める。

 

“ところで、ユウカ”

 

「なんですか先生?」

 

“さっきのロボット兵器……VRだっけ? あれってどういう兵器なのかな?”

 

「そう言えば外の世界にはVRは存在しないんでしたね」

 

 ユウカは少し考えこむ。

 

「時間が無いのでちょっと手短に話しますね。

 VRというのは9年ほど前からキヴォトスに普及し始めた遠隔操縦式の人型戦闘用ロボットです。

 戦車並みの火力にバイクを上回る機動性、ちょっとしたアサルトライフルくらいなら弾き返す装甲を持っています」

 

“それは……強いね”

 

「はい、その通りです。さっきは先生の指揮のおかげで簡単に倒せましたけど、普通ならもっと苦戦する相手ですから」

 

「ええ、並みの生徒では返り討ちにされかねないので、私たち正義実現委員会もだいぶ頭を悩ませています。

 ……ただ、問題はそれだけでは無いのですが」

 

“それだけじゃない問題?”

 

「はい。実はVRは【シュンポシオン】という企業がほぼ独占状態で販売しています。

 ……そして、シュンポシオンは代金さえ払えば何処にでも誰にでもVRを販売する見境の無さで有名なのです」

 

“……つまり、不良や犯罪者たちにも大量に売っているんだね”

 

「そうなんですよ!」

 

 バッ、と怒り心頭そうなユウカが声を上げた。

 

「シュンポシオンが見境なくVRを売るせいで、普通の警務部じゃ対応できないような事件が年々増加しているんです! おかげでミレニアムでも導入していないとまともな治安維持も出来なくて……!

 ただでさえ財政が厳しいのにいいい!」

 

“そこまでの問題になっているのなら連邦生徒会が何とかできないのかな、リンちゃん”

 

 突然、話を振られたリンは少し面食らったようだったが、すぐに苦虫を噛み潰したような表情へと変わる。

 

『……申し訳ありません、先生。それは出来ないのです。

 連邦生徒会としては遺憾ですが、キヴォトスの治安はVR無しでは維持できなくなっているのが現状なのです。

 もし、仮にVRを禁止にしてしまえば今よりも治安が悪化する事が避けられません。

 それにシュンポシオンとそれに関係する企業の影響力は極めて大きく、連邦生徒会でもおいそれと介入できるようなモノではありません。最悪、キヴォトス中の企業が連邦生徒会の敵に回る可能性すらあります』

 

“……それは、すぐにはどうしようもならないね”

 

『本当に申し訳ありません……』

 

“ううん、大丈夫。攻めているわけじゃないから。今はシャーレを取り戻さないとね”

 

『はい。シャーレまでは後』

 

 ブツッ!

 

 リンとの通信が突如切断され、さっきも聞いた甲高い高音が響き渡った。

 

“この音は……!”

 

 真っ先に反応したのはチナツだった。

 

「……! 皆さん、ビルから離れてください!」

 

 とっさに走り出した四人がビルから離れた直後、凄まじい轟音を立ててそのビルが崩れ落ちた。

 

「もう、今度は何なのよ!」

 

 そこから現れたのは……

 

“……カニ?”

 

 テーブルみたいにまっ平らで幅広で低いデカい胴体

 右腕はレトロちっくなデカい万力。

 左腕は特撮ロボの追加武装にありそうなデカいドリル。

 短足ガニ股もいかにも歩くのは遅いですな脚部。

 胴体の真ん中にある顔はゴリラやワニガメのようにいかつい。

 

 二足歩行するカニと建設用重機を合体させたようなコミカルなVRDがそこにいた。

 この機体を見た四人の生徒たちの反応は二つに分かれた。

 

「VOX? でも、何か違うような?」

 

「確かVOXボブという機体が居たはずですが……?」

 

 似たような機体を知っているが記憶と一致しないため困惑するスズミとハスミ。

 

「ドルドレイ⁉ なんでこんな所に出てくるのよ⁉」

 

「この状況と地形でドルドレイ……不味いです……!」

 

 その機体の性能と特性を知っているために焦り始めるユウカとチナツ。特にチナツに至っては青ざめてすらいる

 先生は特にチナツの様子がおかしい事に気づいて声をかける。

 

“チナツ、あのVRってそんなにヤバいの?”

 

「は、はい。あのVRはドルドレイ。

 鈍重ですがアサルトライフルどころか対戦車ミサイルすら完全に防ぐバリアと装甲、大型重機を上回るパワーを持ったVR屈指のパワーファイターです!」

 

“対戦車ミサイルを完全に防ぐ……⁉ って事は”

 

「はい、今の私たちの武器では有効打を与えられません」

 

 チナツの視線の先ではスズミ、ハスミ、ユウカの三人がドルドレイに向けて愛銃を撃ちまくっているのが見えるが、ドルドレイはその全てを弾き返していた。

 

「攻撃が通らない……!」

 

「防がれている……いえ、弾かれているのですか……!」

 

「くっ、厄介すぎるわよ!」

 

 ドルドレイは銃弾の雨を小雨でも受けているかのように無視し、地面に左腕のドリルを突き立てた。

 エンジンの猛烈な駆動音と共にドリルが高速回転し、その鈍重な見た目とは思えない速度で地中へと消えていく。

 

「逃げる気ですか⁉」

 

 ハスミがそう息巻いて追撃しようと足を踏みだす。

 その瞬間、彼女の足元が大きく揺れ始めた。

 

「⁉」

 

 咄嗟にその場から離れるハスミ。

 それから一秒もしないうちに、数瞬前までハスミが居たアスファルトを勢いよくドリルが貫いた。

 その勢いのまま、本体のドルドレイも飛び出してくる。

 そして、ドルドレイは跳躍の頂点で背部スラスターを吹かすことで姿勢を制御し、今度はスズミにドリルを向けながら落下してきた。

 

「やっ!」

 

 スズミもそれには気づいていたため、遮蔽物にしていたバイクから既に飛び出していた。

 ドルドレイはバイクを木端微塵に粉砕しながら再び地面へと潜りこんで消える。

 

「まさか次は……っ」

 

 ユウカが急いで自動車の影から走り出す。

 轟音と共に自動車が一瞬でスクラップになり、大量の水と共にドルドレイが跳び上がる。

 ドルドレイはスラスターを吹かして空中で姿勢を変えると、右腕の万力を先生へと向けて――

 

「先生、危険です!」

 

“チナツ⁉”

 

 チナツが大人しそうな様子とは裏腹な素早さで先生の手を引っ張って走り出す。

 刹那、右腕の万力がロケットブースターの稼働音と共に発射され、まるでロケットパンチのように先生とチナツに向けて飛んでいく。

 ユウカたち三人もそれに気付いていたが、迎撃する前にドルドレイが胴体上部から円盤型ビーム弾をバラまいて来たために対応できない。むしろ身を守るだけで精一杯となる。

 

“(さっきのVOXより圧倒的に……強い!)”

 

「こっちへ!」

 

 そして、チナツと先生はワゴン車の裏へと滑り込む。

 飛んできた万力はワゴン車のフロントへと衝突し、そのままワゴン車の前半分を握りつぶしてしまった。

 しかし、それ以上、万力が進んでくる事は無かった。

 

“貫通しない?”

 

「ドルドレイのバイスアーム射出は命中した相手の捕縛・圧迫に特化しているため、貫通力はほとんど無いんです。

 こうやって障害物を挟めば無力化できます」

 

 チナツの言う通り、バイスアームはそのままワゴン車の残骸を潰していたが、すぐに逆推進用スラスターを吹かし、ドルドレイ本体へと戻っていく。

 

“そうなんだ……チナツってVRに詳しいんだね”

 

「い、いえ、それほどでも。ただ、先輩にVRに凄く詳しい人がいるのでその受け売りです」

 

 そう言葉を交わしている間にも先生は戦況を見ていた。

 ドルドレイは地面に潜るのを止めて交戦する事を選んだらしく、ユウカたち相手に真正面から戦っていた。

 右手の万力から火炎放射を放ちながら、胴体から円盤型ビーム弾を連射。その上で隙を見せればドリルと万力を叩きつける。

 遮蔽物を利用して何とか三人は渡り合っているが、ドルドレイの鉄壁の装甲の前に攻撃が通らないのが余りにも大きく、時間稼ぎのような戦闘を強いられてしまっていた。

 

“(このままだとジリ貧だ。何とか突破口を見つけないと……)”

 

 そう思いながら先生は戦況を更に詳しく見ていて……ある事に気づく。

 

“(ハスミに対する攻撃が激しい?)”

 

 そう、同じようにユウカ、スズミ、ハスミが攻撃しているのに対して、ドルドレイの攻撃は何故かハスミに集中しているのだ。

 確かにハスミの使うインペイルメントの.30-06スプリングフィールド弾は四人の使う銃弾で最も威力は高いが、それもドルドレイの装甲には通らない豆鉄砲でしかない。

 それなら盾役のユウカ、妨害役のスズミの二人を先に倒した方が良いはず。なのに、ハスミに攻撃を集中させているという事は――

 

“(ハスミの攻撃なら通る!)”

 

 先生は即座に指示を飛ばした。

 

“チナツ、ドルドレイの武装は分かる⁉”

 

「え、ええっと……胴体にはエネルギー弾ランチャーが、右腕のバイスアームには火炎放射器が内蔵されていて、ドリルも万力みたいに射出できる上に大半の障害物を貫通します!」

 

“……ハスミ、一番威力の高い技を用意! 私の指示で発射できるように!”

 

「え、は、はい。了解です!」

 

“他の二人はハスミのサポート。スズミは胴体と両腕の武器を撃ちそうになったら邪魔をして、余裕があれば閃光弾を頭に。ユウカは頭を狙ってとにかく妨害!”

 

「はい!」

 

「分かりました!」

 

 指示に従って四人が動き始めると、すぐに戦況は変わっていった。

 実質的な攻撃役が二人になったにも拘わらず、ドルドレイはさっきよりも明らかに動きのキレが悪くなっている。

 常に頭部にユウカのサブマシンガンが叩き込まれるせいで視界やセンサー精度が悪化し、たまに飛んでくる閃光弾がわずかとはいえシステムをダウンさせる。

 それでも各種武装を使おうとするが、的確なスズミの射撃が確実に邪魔をしてくるため、頭部への妨害もあってロクに命中する事が無い。

 その間にハスミは大技――EX技の発動準備を着々と用意していた。

 

“……そろそろだな”

 

 そう先生が呟いた時、ドルドレイの動きが変わった。

 ユウカとハスミの攻撃を強引に無視するように向きを変え、先生とハスミが隠れ直した自動車の方へと視線を向ける。

 

「先生、あれはドリルで突進してくるつもりです!」

 

 チナツがそう言うや否や、ドルドレイは左腕のドリルをまっすぐ先生たちに向けると高速で向かってくる。

 

“ハスミ、左肩!”

 

 ドリルの駆動音が響き始め、背部のスラスターに大きな光が生まれ、更なる加速からの突進を――

 

 ――発動【アーマーピアッシング弾】

 

 繰り出す直前、ドルドレイの左肩を神秘を帯びた高速の徹甲弾が貫いた。

 それは左肩のアクチュエータとエネルギーサーキットを完全に破壊する。

 左肩で起こった一回の小爆発をきっかけに、装甲を中心とした左腕の各所で小爆発が連鎖。遂にはドリルごと左腕そのものが爆散してしまった。

 

「ふう……」

 

「やった!」

 

「相変わらず見事ですね」

 

 前線で戦っていた三人が少しだけ息をつくが、先生も含めてすぐに気を引き締め直す。

 左腕を失ったドルドレイは、明らかに焦燥したような様子を見せていたからだ。

 それまでの機械的に的確に敵を排除するような動きとは一変し、とにかく目の前の敵――生徒たち――を排除しようと狂ったように暴れ始めたからだ。

 

“(でも、明らかに『動きが悪い』)”

 

 しかし、ドリルという攻撃と機動の大半を担う装備を失ったドルドレイの動きは精彩を欠けている。

 何よりも大きな障害となっているのは地形だ。

 ドルドレイがお構いなしに暴れたせいで、近隣のビルや建物が幾つも倒壊しているため、この一帯には大小さまざまな瓦礫が転がっている。

 さっきまでのドルドレイならドリルで壊せるから何の問題も無かったが、その肝心なドリルを失った今、瓦礫たちが大きな障害物として立ちふさがったのだ。

 

“みんな、戦術はそのままだけど、スズミは残っている腕の方に、残りの二人は壊れている腕の方に回り込むのを意識して動いて。特に左肩の破損部には装甲もバリアも無いから隙があればそこに集中攻撃!”

 

 ドルドレイの右側からは絶えまないアサルトライフルの射撃と閃光玉による攻撃が続く。

 ひたすら鬱陶しい攻撃にドルドレイはスズミを優先的に攻撃しようとするが、サブマシンガンの弾幕とスナイパーライフルの一撃がそれを許さない。

 ユウカとハスミの二人は装甲もバリアも無くなった破損部位に集中して弾丸を叩き込んでおり、確実に機体にダメージを蓄積させていく。

 かと言ってユウカとハスミを排除しようとすると、的確なスズミの射撃が邪魔をしてくる。無視しようとしてもスズミの動きは隙を見せれば破損部を攻撃して来る気満々であり、無視できない。

 結果、ドルドレイは攻撃対象の集中が出来ず、ロクに対応できないままダメージだけが蓄積していくハメになる。

 

 遮蔽物ごと焼き尽くそうと右腕のバイスアームから猛烈な火炎放射を放つも、わずかな予備動作を見切った先生の指示により、簡単に回避されてしまう。

 胴体から放つ円盤型エネルギー弾も瓦礫の群れに阻まれて、先生や生徒たちには届かない。

 

 更に不意打ち気味に放たれたハスミの一撃が破損部から内部に貫通。

 それにより制御システムに異常が発生したのか、動きがさらに悪くなっていった。

 

 これだけ悪条件が重なってくれば幾ら鉄壁の重装甲を誇るドルドレイも持たなくなってくる。

 残っている装甲が徐々にボロボロになり、剥がれていき、内部フレームが露出していく。

バリアも弱まっているのか、さっきまでは完全に防げていたはずのサブマシンガンの弾でも弾き切れない様子が見て取れる。

 もはやドルドレイは『殻を砕かれたカニ』になりつつあった。

 

“(もう少しで行けるか……?)”

 

 そう先生が思った時、突然ドルドレイの動きが止まった。

 その隙を逃さず、三人の射撃が叩き込まれるが、ドルドレイのバリアがそれを弾くことは無く、装甲がさっきとは比べ物にならない勢いで破壊されていく。

 

“(バリアが壊れた……いや、バリアを切ったんだ)”

 

 ドルドレイは各所から火花と炎と小爆発を上げながらも先生の方へと顔を向ける。

 ユウカのサブマシンガンが円盤型ビーム弾発射器をズタズタに破壊し、スズミのアサルトライフルがボロボロで限界を迎えていたバイスアームを破壊し、ハスミのスナイパーライフルが股関節部のサーボモーターを破壊する。

 もはや、まともな攻撃も歩行もままならない状態。

しかし、なぜか溢れ出す敵意と殺意は収まる様子を見せない。むしろ増大していく。

 

“チナツ、アレは何を企んでいるか分かる?”

 

「い、いえ、分かりません。あの状況のドルドレイに反撃できる武装はありません。

 強いて言えば重量を活かした突進くらいですけど、股関節を破壊された状態では……」

 

 その時、ドルドレイの背部スラスターが青白い噴射炎を放つ。

 スラスターの推力だけで強引に進みながら、ドルドレイは胴体上部の平らな部分を先生へと向ける。

 その中心には小さなCDのような物体が高速回転しているのが見える。

 瞬間、そのCDのようなモノは『巨大化し、機体の前面を全て覆うような巨大な円盤』へと姿を変えた。

 

“はい?”

 

「え」

 

 物理現象を完全に無視したような異常な光景に先生とチナツの動きが止まる。

 同時にドルドレイはドリル突進と同じ、あるいはそれ以上の速度へと瞬間的に加速。

 

 まるでドルドレイそのものが巨大なドリルとなったかのように突撃してきたのだ。

 

“マズイ!”

 

 先生はとっさにチナツの胴を抱えると、そのまま自分が出せる全力の力でチナツの身体を引っ張りながら横に跳んだ。

 直後、チナツの身体からわずか数センチ先を全て砕かんばかりのドルドレイの突撃が通り過ぎていく。

 ドルドレイはその凄まじい勢いを維持したまま、先生たちの背後にあった廃ビルへと突っ込む。

 

 ドッゴーン!

 

 まるで巨大な爆弾が爆発したかのような轟音が轟いた。

 廃ビルはまるで爆破解体でもされたかのように盛大に崩れ落ちていく。

 

「先生、すみません失礼しますね!」

 

 今度はチナツが先生を抱えた。

そして、崩れ落ちる廃ビルから離れるために全力で駆け出していった。

 幸いにも崩れ方が良かったのか、先生やチナツの方に大きな瓦礫が落ちてくる事は無く、二人は無事に危険地帯から逃げ出すことが出来た。

 

「先生!」

 

「大丈夫ですか⁉」

 

「お怪我は⁉」

 

 慌てて残った三人も先生たちへと駆け寄った。

 

“なんとか無事だよ。怪我もないよ”

 

 チナツの手から降りた先生は、土埃で汚れたスーツを手ではたきながら心配をかけないように笑顔で答える。

 そして、チナツの方へも振り向く。

 

“チナツもありがとう。危なく潰されるとこだったよ”

 

 チナツは少し照れたような表情で答える

 

「い、いえ。私も先生が引っ張ってくれなかったらどうなっていたか分かりませんので……ありがとうございます」

 

 その時、後ろから轟音が響く。

 

“⁉”

 

 先生と生徒たちが振り返る。

 その視線の先では廃ビルの横にあった別の雑居ビルが崩れ始めていた。

 そして、その雑居ビルは原形を保ったまま倒れ始め……。

 ちょうど廃ビルの瓦礫から這い出ようとしていたドルドレイの真上から倒れ込んだ。

 

“あ”

 

 数百トンを超える大質量物の直撃に、ボロボロのドルドレイでは耐えることが出来なかった。

 コンクリートの巨塊が装甲を砕き、フレームをへし折り、そして全てを踏み潰した。

 残ったエネルギーが逆流したのか爆発が幾つか起こったものの、すぐにコンクリートの山の中へと飲み込まれて一瞬で消える。

 さっきまでの強さが嘘みたいな呆気ない終わりであった。

 

“「「「「………………」」」」”

 

 あまりの呆気なさに先生と生徒たちは無言でポカーンとする事しか出来なかった。

 

『――か! 先生、聞こえますか!』

 

 その停滞を吹き飛ばすように、焦ったリンの声が無線機から聞こえてきた。

 

“うん、聞こえるよ”

 

『先生、ご無事ですか⁉』

 

“何とか、ね。さっきまでVR……ドルドレイって奴に襲撃されていたんだけど、上手く倒せたところ”

 

 その話を聞いてリンの表情が変わる。

 

『……第二世代型VRを皆さんだけで……?』

 

“うん”

 

『……先生、どうやら貴方は連邦生徒会長が見込んだだけある人だったようです。

 話したいことはまだありますが、先ほどのような通信妨害がいつ来るか分かりませんし、VRに襲われる可能性も十分にあります。

急いでシャーレに向かってください』

 

“了解。……みんなも聞いていたね? 急いで目的地に向かうよ”

 

「はい!」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

「了承しました」

 

 そして、先生と生徒たちは急いでその場を後にしていった。

 

 

 

 

 先生たちから5kmほど離れた廃ビルの上。

 何もいないはずのそこにチラつくようなノイズが現れる。

 そのノイズは徐々に色濃くなっていくと、徐々にVRの姿を象っていく。

 

 鍛え上げたスマートな軍人を彷彿とさせるその機体。

 それは見る人が見ればVOXと並んで量産型VRの傑作と呼ばれるアファームド、そのJタイプ系列機の一種だという頃が分かるだろう。

 しかし、同時に困惑もするはずだ。

 まるでガスマスクを装備したような頭部、右手に持つメガホンと銃を融合させたような銃を装備したアファームドなんて、既存のカタログには存在しないからだ。

 

 ――本部。こちらピースメイカー1。作戦は失敗。“ワニガメ”は撃破された。繰り返す“ワニガメ”は撃破された。

 

 ――こちら本部。情報の真偽を問う。本当に“ワニガメ”が撃破されたのだな?

 

 ――肯定する。

 

 ――……分かった。目標への損害は?

 

 ――明確な損害はこちらでは確認できず。

 

 ――……まさか局地戦のドルドレイ相手に無傷で勝利するとは……

 

 ――本部。現状ならピースメイカー1から4での追撃が可能。

 

 ――撤退しろ。ピースメイカー隊が露見する危険は冒せん

 

 ――了解。ピースメイカー隊、撤収します。

 

 

 

 

 某所

 

「……作戦は失敗したか」

 

「やはり『可能ならば捕獲、不可能なら排除』というのは欲張り過ぎたか?」

 

「それを差し引いても、あの状況下でドルドレイを無傷で撃破するのは想定外だ。

 さすがはあの超人が選んだ『先生』と言うべきか」

 

「ふん、だがいくら戦術に明るかろうと所詮は個人。システムとカネの前では勝てまい」

 

「油断は禁物ですよ。先生の動き如何では学園どもがどう動くか分かりませんからね」

 

「そうでもあるな。……ところでアビドスの方はどうなっている?」

 

「はっ、現状で目標の90%を達成しています……ただ」

 

「分かっている。廃校対策委員会を名乗る不法占拠者どもだろう?」

 

「はい……現在、カイザーを通じたヘルメット団による襲撃を何度も行っているのですが……全て撃退されています」

 

「VRを使えば良いのでは無いか?」

 

「既にダミーカンパニーを通じて30機ほど提供しましたが……第二世代型も含めて全て撃破されています」

 

「ふん、ヘルメット団などという半グレどもに任せるからだ。我々のラウンドナイツを投入すれば一発だろう」

 

「甘く見るな。アレを率いるのは【暁のホルス】だぞ。

 第二世代型を雑魚のように蹴散らすバケモノ相手ではラウンドナイツですら敗れる可能性を否定できん」

 

「それにあまりにもリスクが大きすぎます。ただでさえカイザーの行動はブラックに近いグレーゾーンなモノです。仮にラウンドナイツを投入した上で露見すれば我が社も無視できないダメージを負うでしょう」

 

「あの茶会貴族共に枷を嵌めた時の悪評もまだ残っておる。謀略と策謀が取り柄の貴族共だ、下手を打つと枷を外されるぞ」

 

「しかもだ。最悪、あの忌々しい【グラディウス】が奪いに来るぞ。そうなれば大ダメージどころではすまん」

 

「……ええい、忌々しい小娘が!」

 

「だが、手をこまねいているワケにもいかん。

 極海鉱脈に枯渇の傾向が見られ、雷帝との密約をコウモリどもに奪われた今、我が社が保有している大規模鉱山はジェイナとディヴィジョン3のみだ。

 茶会貴族共と異端者共のもあるが、あれはコンバータには使えん。

 可能な限り早急に例の鉱脈を掌握する必要がある」

 

「……確かアビドスに関わっているのはプレトリアとタンゲンが主だったな?」

 

「はい」

 

「ADXからも支援を出させろ。派閥争いをしている場合では無い」

 

「了解しました。伝達しておきます」

 

 

 




 次話から主人公が出る予定です。

 お楽しみに
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