ブルーアーカイブ ―Cyber Troopers in Another Sky―   作:C03-HELIOS

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皆さん、ブルアカ新イベ予告見ました?

……トンチキイベの予感がビンビンしてる!


では主人公登場回です。


第一話 健木タスク――Singular point

 

 ――ゲヘナ学園。

 

 キヴォトス三大学園の一角を占めるマンモス校で『自由と混沌』の校風を持つのが特徴……とされる。

 その実態は暴れん坊、破天荒、唯我独尊などの性質を持った生徒たちが大量に集うカオスの巷であり、もはや教育機関としては完全に機能不全に陥っているようなヤバい学園である。

 そんな学園がギリギリ学園としての体を成しているのは、主に風紀委員会の尽力のおかげが大きい。

 

 そんな風紀委員会の委員会室。

 部屋の正面に置かれた大きな執務机で、ゲヘナ風紀委員長にしてゲヘナ最強の名を冠する少女、空崎ヒナがひたすら事務仕事に取り組んでいた。

 その机の上には書類の山が幾つか出来ていて、彼女の仕事量が並みのモノではない事を示している。

 ……まあ、前まではその数倍を超える書類の山があるのが普通だったのだから相当マシにはなっているのだが。

 そんな彼女の横では行政官である天雨アコが手元の端末を操作しながらヒナに報告を上げていく。

 

「第4小隊からD4エリアの不良たちの制圧に成功したと連絡が入りました。

 そのままE3エリアで交戦している第5小隊の援護に回します」

 

「ええ、それで良いわ。……A9エリアで暴れていた美食研究会はどうなってる?」

 

「それについては第2小隊より連絡がありました。第3、第6小隊との連携により制圧に成功したとのことです。今、捕縛用の部隊を向かわせています」

 

「分かったわ。捕縛部隊には油断しないよう言いつけておいて」

 

 カリカリ、と書類を処理する音とアコの報告の声だけが執務室に響く。

 

「……やっと騒動も収まってきたわね」

 

 手元にあるコーヒー(アコ特製。美味しくは無い)を啜りながら疲れたようにヒナは言う。

 

「本当に大変でしたね委員長……」

 

 疲れを隠せない表情のままアコも答える。

 連邦生徒会長失踪による大混乱はただでさえアレなゲヘナの治安を劇的に悪化させていた。

 具体的に言えば不良たちの騒動が普通の10倍近くまで増えた。

 それに対応するヒナやアコ含めた風紀委員会の中枢メンバーがてんてこ舞いだったのは言うまでもなく、夜中まで働きづめなのは当たり前、徹夜した日だって何回もある。

 ヒナやアコが疲れを隠せないでいるくらいで済んでいるのも奇跡に近い。

 

「……でも、まさか、私が出なくても良い日が来るなんて思わなかったわ

 去年のままだったら、私がゲヘナ中を駆け巡らなくちゃいけなくなっていたはずよ」

 

「私も、ここでこんな風に情報処理だけをしているワケには行かなかったでしょうね」

 

「これもタスクのおかげね」

 

「……ええ、そうですね」

 

 返事するアコの声に少しだけ不満げな響きが混じる。

 

「全て“彼”頼りというのが少し癪ですけど」

 

「……アコ、まだ納得していないの?」

 

 スッ、とヒナの眼が細められる。

 その様子に慌ててアコも言い訳を始める。

 

「い、いえ、全てがヒナ委員長を慮った行動なのは分かっていますし、それで大いに助かっている身としては納得しないわけには行きません! ですが……」

 

 カッ、とアコの眼が見開かれた。

 

「羨ましいじゃないですか!!」

 

 シーン

 ものすごい勢いで場が静まり返った。

 

「……えー」

 

 パトロールから戻ってきていた風紀委員戦闘力ナンバー2の銀鏡イオリが呆れたような声を漏らす。

 

「グラディウス社との提携による多数のVRの導入、万魔殿との交渉と契約による過度な干渉の禁止、第二校舎の生徒たちとの協力関係に基づく事務管理能力の向上!

 どれもこれも私たち風紀委員の念願でした。それを彼は全部一人でやってしまったんですよ! しかも、事もなげに!」

 

「あ、コレ、いつものアコちゃんの発作かぁ……」

 

「行政官もよく続きますね……」

 

 段々とヒートアップしていくアコを見ながら、イオリと書類整理をしていたチナツはもう完全に呆れている様子だった。

 

「これを私が出来ていれば、ヒナ委員長の信頼をもっと獲得できたと思うと……もう羨ましいという言葉ですら表しきれません!

 ああ、でも、羨ましい、羨ましいですよ、健木タスク!」

 

 そうアコが言い放った時、執務室のドアを叩く音がした。

 噂をすれば影という奴だろう。次に聞こえてきたのは少し高めな男の子の声だった。

 

「すみませーん、備品管理部の健木タスクです。今日のVRの整備についてのお話に来ました!」

 

 その直後、間髪入れずにヒナの声が響く

 

「良いわ。入ってちょうだい」

 

「はい!」

 

 ガチャリ、とドアが開き一人の生徒が入ってくる。

 頭に蒼く光るヘイローは、円盤と四角形が組み合わさったCDケースを思わせるもの。

 一目見ただけでは男か女か分からないほどの中性的な顔立ち。

 しかも、男子どころか女子としても低めな身長のせいで、どう見ても女子にしか見えない……だが男だ。

 髪は黒くて短く綺麗に切り揃えられているが、それ以上に頭にかけた大きな蒼い機械式バイザーゴーグルの方に目が行く。

 着ているのは標準的な長ズボン式のゲヘナ学園制服。

 その上から作業着のようなシンプルで頑丈そうな蒼い上着を羽織っており、そのポケットからは各種工具類が頭をのぞかせている。

 上着の裾からチラリと見える両腰のホルスターには近未来的なデザインの拳銃のグリップが覗いていた。

 彼の名前は健木タスク。

 ゲヘナ学園唯一の男子生徒にして備品管理部に所属する二年生だ。

 彼は慣れた風に部屋に入ると、まっすぐヒナ委員長のデスクに向けて歩き出す。

 

「ヒナちゃ……あ、違った、ヒナ委員長」

 

 慌てて言い直しながらタスクはヒナに手元の書類を渡す。

 

「これが今日の整備記録です。詳しくは確認してもらいたいですが、とりあえず第1小隊のVOXジョーはもう何時でも出せる状態です」

 

「ええ、ありがとう、タスク」

 

 ヒナは嬉しそうに微笑みを浮かべながら書類を受け取る(アコは悔し涙を流した)。

 

「貴方のおかげで、私たちの仕事がとても楽になっているわ。改めてお礼を言わせて、ありがとう」

 

「い、いや、そんな大したことはしてないよ……してないですよ!

 昔から真面目で何でも出来ちゃうから、貧乏クジばっかり引いちゃうヒナちゃんを助けたかっただけだし……」

 

 アコにはほぼ見せないであろう笑顔で感謝するヒナと、恥ずかしそうに顔を赤くさせながら目線を迷わせるタスク。

 それはさながら甘酸っぱい青春の1ページ(ヒナはハンカチをくわえてキーッとしている)。

 

「すみません、イオリ」

 

「どうしたんだチナツ?」

 

 そんな三人から隠れるようにチナツはイオリに話しかけていた。

 

「いえ、タスク先輩の事なんですが……どうしてあんなにヒナ委員長と仲が良いんですか? 昔からのお知り合いみたいですが」

 

「ああ、そう言えばチナツは知らないんだっけ。ヒナ委員長とタスクは幼稚園の頃からの幼馴染みなんだってさ。

 詳しいことは私も知らないけど、タスクがゲヘナに来たのも委員長がゲヘナに居るからって話だぞ」

 

「へえ、そうなんですね……救急医学部にいた頃から、あんなに技術に強い人がミレニアムじゃなくてゲヘナに入学したのか不思議に思っていたんですけど、そんな理由があったんですか」

 

 チナツが納得している間にもヒナとタスクの話は続いていた。

 

「……で、そこそこ足が速くて前衛が出来る機体が欲しいの。風紀委員会の予算で使えそうな機体はあるかしら?」

 

「うーん……だったらVOXエイジかVOXジェーンの二択になるかな?」

 

「その二機種の違いは?」

 

「VOXエイジは軽戦闘用。VOX系では動きが素早くて武装も素直、なによりコスパが抜群な機体だね。ただ、火力は決して高くないし耐久面も低いのが欠点だよ

 対するVOXジェーンはVOXジョーのマイナーチェンジ版にあたる重戦闘用。VOXジョーより耐久面が落ちているけど、機動力が明確に上がっているのが長所。ただ、武装がちょっと違うし、装備レイアウトが左右逆になっているからジョーに慣れた人の機種転換が難しいかも」

 

「一長一短というところね……アコ」

 

「はい!」

 

 頼られたアコ、即座に嬉しそうに反応。

 

「各小隊の皆からVOXエイジとVOXジェーンのどちらの機体が良いかアンケートしておいて。

 その結果を元にどの機体を採用するか決めるわ」

 

「はい、お任せ下さい!」

 

 端末をすごい速さで操作していくアコを横目に、タスクはちょっと面食らっていた。

 

「ヒナちゃん、良いの? 僕の意見だけで決めるなんて……」

 

「構わないわ」

 

 ヒナは堂々とした表情のまま答える

 

「ゲヘナで一番バーチャロイドに詳しい貴方が、私に対して提案した物のだもの。少なくとも私たちの誰よりも的確なはずよ」

 

「い、いや、そこまで信頼してくれるのは……嬉しいけど……なんか照れるよ……」

 

 またまた顔を赤くして顔を背けてしまうタスク。

 そんな彼を慈しむような微笑で見つめるヒナ。

 

「(ギリィ!)」

 

 アコ、嫉妬で人が殺せそうな顔になる。

 しかし、目の前にヒナが居るせいか即座に普段の表情へと戻る……多少、こめかみがピクついてはいたが。

 

 と、アコの端末からけたたましいビープ音が鳴り響く。

 アコの表情が一瞬で真面目なものに変わる。

 

「何かありましたか?」

 

 スピーカーモードになっているのか、そこから慌てたような風紀委員の声が聞こえてくる。

 

『こちら第9小隊、T9エリアで温泉開発部と交戦中です! 相手が多数のVRを投入しているため、現有戦力では対応できません! 増援をお願いします!!』

 

「T9エリアですって⁉」

 

 アコの大声にタスクを除く全員が反応する。

 それはそうだ。T9エリアはトリニティとの境界線にちょうど位置するエリア。

 長引いたらただでさえ面倒くさいトリニティとの間で何が起こるか分からないし、下手すれば万魔殿からのはた迷惑な干渉もあり得る。早急な制圧が必要だった。

 

「くっ、不味いです。こんな時にエリアの近くに第9小隊以外の部隊がいないなんて……!」

 

 アコが苦虫を噛み潰したような表情を見せた直後、ガタンと椅子を動かす音を立てながらヒナが立ち上がった。

 

「アコ、私が行くわ」

 

 そして、タスクの方に振り向く

 

「ごめんなさい、タスク。貴方のVRを貸して貰える?」

 

 タスクは力強く頷きながら答える。

 

「うん。じゃあ、1分後に外で……ソファ、借ります」

 

 そう言うや否やタスクはソファに座ると、頭の大型ゴーグルをきちんと装着し、腰のホルスターから二挺の拳銃を引き抜く。

 モーゼル・シュネルフォイヤーが原型であると辛うじて分かるほどの魔改造がされた拳銃。そのグリップをタスクは握り直すと、何かの動作をした。

 

 カチャリ、という音と共に本来外れないはずのグリップが外れる。

 それはまるで何かの操縦桿のような形状をしていた。

 

 ソファに座るタスクの膝上にワイヤーフレーム図を思わせる台のようなものが出現する。

 そこにタスクがグリップをはめ込むように置くと、まるでそれが当然のように固定された。

 

 大きな機械式バイザーゴーグルに二本のコントロールスティック。

 それは最も基本的なVR操縦用システムのレイアウトだった。

 

 

 

 ――M.S.C.S Ver.33.589k 

 

 ――GRADIVUS KIVOTOS VIRTUALOID ENTERPRISE

 

 ――ID:gkv-008128-S

 

 ――VIRTUALOID SELECT GKVV-642G CIPHER

 

 ――CONTROL TYPE    MANUAL

 

 ――SYSTEM START

 

 

 

 

 タスクがソファに座ってから数十秒後。

 委員会質の外からキュイーンという甲高い回転音と空気を切り裂くような音が聞こえてきた。

 

「ちょうど1分。さすがね」

 

 そう言うとヒナは愛銃【終幕・デストロイヤー】を掴むと、委員会室の窓を開く。

 そして何の躊躇もなく窓の外へと飛び出した。

 風紀委員会本部の建物はかなりの高さがある。ヒナの身体は容赦なく落下していくが、背中から生えた黒い翼を上手く使い姿勢制御を行っていた。

 

 そんな彼女に向かって一機の航空機が向かってくる。

 

 バーチャロイドと似たデザインをした鋭角的な航空機で、機体上面の大きなブースターらしきユニットから青白い光を噴射しているのが目を引く。

 そして、その機体はタスクが好む鮮やかな蒼を基調としたカラーリングが施されていた。

 

『ヒナちゃん、合わせて』

 

 航空機から放たれたタスクの声にヒナは頷くと、翼を巧みに操ってその航空機の上へと位置をあわせる。

 

 トンッ

 

 そんな軽い音と共にヒナの身体が航空機、その胴体の上に降り立った。

 同時に航空機の胴体から白い光の細長い帯が現れ、彼女の脚と身体へと巻き付くようにして固定する。

 

『固定良し。出発するよ』

 

「ええ、お願い」

 

 キュイイイイイン!

 

 甲高い回転音が更に大きくなり、ブースターユニットから噴き出す光が何倍にも増えて機体を急加速させる。

 ヒナを乗せたタスクの機体は、青白い光の軌跡を引きながら空を高速で飛翔していくのだった。

 

 

 

「え、えええ……?」

 

 短い間とはいえヒナの無茶苦茶な強さを知っていたチナツであったが、目の前で起こった光景に目を白黒させていた。

 

「いやあ、久しぶりに見たな、ヒナ委員長とタスクの同時出撃」

 

「くっ、納得できません! 幼馴染みとはいえヒナ委員長とあんなに距離が近いだけでも羨ましいのに……

 その上で! あの! あの! ヒナ委員長の『足』になれるなんてっ!! 羨ましいにも程があります!」

 

 逆に見慣れているイオリとアコは普通の反応を示していた。

 ……アコの様子がおかしい? あのヒナ委員長絶対主義者はいつもの事なので普通の反応扱いである。

 

「じゃあ、アコちゃんも委員長の『足』になれる機体に乗れば良いんじゃ? タスクが無料でVR適性の検査やってるぞ?」

 

ピシリ。

突然、アコの動きが止まった。

 

「あっ……」

 

 イオリ、何かを察してとっさに耳をふさぐ。

 チナツも無言で耳をふさいだ。

 

「……たんですよ」

 

 ダンッ! と机をたたく。

 

「適性無かったんですよおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 アコ、渾身の叫び。

 

「分かりますか! タスクからもの凄く気まずそうな表情で『ま、まあ、頑張れば、何とか、なります……かなあ?』なんて慰められた時の気持ちが!!

 平均値が1000なのに200以下とかどう見ても何とかなるわけないじゃないですかっ!! そんな! 優しさは! いらないんですよおおおお!!!」

 

 それからしばらく、アコの魂からの叫びが委員会室に響いていたのだった。

 

 

 




本当は戦闘シーンまで書くつもりだったんですが、思いのほか長くなったので分割しました……。

次回、戦闘開始です
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