ブルーアーカイブ ―Cyber Troopers in Another Sky―   作:C03-HELIOS

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戦闘開始!


第二話 蹂躙する翼――CIPHER

 

 ――T9エリア

 

「はーっはっは! どうだ! この私がカスタマイズしたバーチャロイドたちの力は!」

 

 温泉開発部部長、鬼怒川カスミが高笑いを上げる。

 そんな彼女の前では多数のVRたちが大暴れしていた。

 

 横長の胴体と肩を持ち、右側ウェポンアームにはライフルガンを、左側ウェポンアームには大型電磁警棒を装備した軽快な機動力を持つ軽装型機体――VOXエイジ

 

 頭の上に亀の甲羅を思わせるユニットを装備し、右側ウェポンアームにはクローランチャー、左側ウェポンアームにはモーニングスターを思わせるハンマーを装備した攻撃型機体――VOXジョー

 

 ジョーと同じく亀の甲羅を思わせるユニットを装備するが、右側ウェポンアームの装備がチェーンソーとなり、左側ウェポンアームの装備がクローランチャーとなった攻撃型機体――VOXジェーン

 

 エイジと似た横長の胴体と肩だが、右側ウェポンアームにはクローランチャー、左側ウェポンアームには大きなドリルを装備し、エイジとは真逆の重装甲で全身を固めた、ドルドレイを思わせる重装型機体――VOXボブ。

 

 両肩に二基一対の大型ミサイルランチャー、右側ウェポンアームにマルチプルミサイルランチャー、左側ウェポンアームにナパームランチャーを装備し、実弾武器の弾幕の雨で味方を援護する支援型機体――VOXダン

 

 その総数なんと27機。

 どれも温泉開発部所属を表すかのように炎のような赤と白のカラーリングが施されており、近くの建物を爆破したり、地面を掘削したり、風紀委員に弾幕を浴びせかけたりと散々に暴れまくっている。

 

『数が、数が多い……!』

 

『私たちじゃ足りない!』

 

 それに対抗しているのは風紀委員所属機を示すパープルブラックを基調とした、第9小隊所属のVOXダンとVOXジョーが一機ずつ。

 

 VOXダンは各種実弾兵器による支援攻撃を得意とする後衛向けの機体。

 十分すぎる総合火力に後衛機としては及第点の装甲と機動力。そして優秀なコストパフォーマンスを誇る傑作機。

 

 VOXジョーは前衛向けオールラウンダーとして開発された攻撃型機体。

 水準以上の火力と装甲をコンパクトに纏めた優秀な設計で知られており、機動力も十分。その上でコストパフォーマンスも良好というこれまた傑作機。

 

 双方ともキヴォトス全域で広く使用されており、後衛VOXダン、前衛VOXジョーの組み合わせは鉄板中の鉄板と言って良いほどだ。

 しかし、いくら優秀と言っても数の暴力には流石に敵わず、小隊に四機いたはずのVRはもう半分しか残っていない。

 残った二機も戦闘は可能とはいえ、機体の各所にかなりのダメージを負っておりボロボロだ。

 

(八倍の戦力差があっても全滅せず、逆にこっちのVRが5機もやられている……と。

 腕の差もあるにしろ、向こうの機体はどんなカスタマイズがされているんだ?)

 

 高笑いしながらも冷静に状況を見定めるカスミ。

 

(まあ、空崎ヒナはまだ風紀委員会本部にいるのを5分前に確認している。すぐに来るのは無理だろう。

 このままあの二機を倒してトリニティ自治区に撤退できるだけの時間的猶予はある)

 

「ねえ、部長」

 

 温泉開発部で作業班長を務めるメグが話しかける。

 普段は底抜けに明るく前向けな感じの彼女だが、今はどこか硬い表情をしている。

 

「どうしたんだいメグ? 風紀委員ならもう少しで倒せるはずだぞ」

 

「いや、そろそろ逃げた方が良いと思うの」

 

「ふむ?」

 

「あっ! そう言えば部長ってタスク君の事、あんまり知らないんだっけ⁉」

 

「ふむむ?」

 

 カスミは少し考えこむ。

 

「確か二年生の備品管理部所属の男子生徒だったな? 風紀委員や万魔殿のVR整備を一手に担っているという」

 

「そう! その子!」

 

「だが、彼は技術者なんだろう? 別にそこまで心配する必要は……」

 

「あの子、一番得意なのはVRの操縦だよ? しかも、サイファー乗れるレベルの!」

 

「……えっ?」

 

 そう、カスミが間抜けな声を漏らした時、一段と甲高い回転音が上空から響き渡る。

 

「あっちゃー! 来ちゃった!」

 

 次の瞬間、カスミたち温泉開発部に紫黒の暴風雨が襲い掛かった。

 

「どわあああああああああ!!!」

 

「うっひゃああああああ!!!」

 

 ドガガガガガガガガガガガ!!!!!

 

 周辺一帯が轟音に包み込まれ、何かが破壊される音、爆発する音、木端微塵に千切れる音が幾重にも重なって響き渡る。

 それは時間にすれば数秒程度だったはず。

 しかし、暴風雨が通り過ぎた時、カスミから見て左翼側に展開していた8機のVRが全て原型を留めないほどのスクラップと化していた。

 

「ま、ま、まさかぁ……」

 

 さっきまでの自信満々そうな何処へやら。

 まるで母親に自分の悪行がバレたのを察した子供のようにビクビクと震えながらカスミは暴風雨が降ってきた方向を見る。

 そこに居たのは雲一つ無い空を飛ぶ蒼い戦闘機。そして、その上に乗る遠目からでもわかるモフモフな白銀の髪の少女……。

 

「ひ、ひえぇえええ!!」

 

 カスミ。天敵の存在を感知してアウト。

 マスコットキャラみたいな泣き顔のままその場にへたり込んでしまった。

 

「わあ、また部長がダメになっちゃった!」

 

「どうします班長⁉」

 

「よし、みんな、撤収するよ! VRのみんなは悪いけど、可能な限り足止めしてから撤収してね!」

 

「「「はい!」」」

 

 メグはカスミを担ぎ、他の温泉開発部員たちと共に逃げ始める。

 残ったVRたちはそんなメグたちを庇うように前へと飛び出す。

 

 その様子をヒナは上空から見ていた。

 

「タスク、データリンクをお願い」

 

『今出すね』

 

 ヒナの目の前にホログラフのモニターが現れ、周囲の様子を可視化した3Dマップが映し出される。

 それで温泉開発部の各員の配置と動きを一瞥。

 

「……タスク、VR部隊を相手してもらって良い?」

 

『了解! ヒナちゃんはどこで降りる?』

 

「敵陣の真ん中で降ろして。一斉射してからカスミたちを追いかけるわ」

 

「OK! じゃあ、行くよ!!」

 

 タスクの機体が一気に急降下。

 機首からビームバルカン、機体側面から多数のトレース・ビーム――高い誘導性を有する細長いビーム――を発射し、温泉開発部たちに牽制と言うにはかなり激しい攻撃を叩き込む。

 これだけで撃破できた機体はいなかったが、同時にヒナも猛烈な射撃を行っていたため、二機のVRが大ダメージによって撃破されていた。

 

 タスクは地面に激突する寸前で水平飛行に移行。

 地面からわずか10cm程度の超低高度を高速で駆け抜けていく。

 そして、VR部隊が最も固まっているところで――

 

「行くわ」

 

『ロック解除! 気を付けてね!』

 

 白い帯が粒子と化して消え、自由となったヒナが飛び降りた。

 ヒナは翼を広げることで急減速。

 それでも完全に速度を殺すことは出来なかったが、これ幸いと目の前にいたVOXジョーへ蹴りを叩き込むように突っ込む。

 VOXジョーの顔面が見事にひしゃげるどころか、胴体まで完全にグシャグシャになって吹き飛んだ。瓦礫に突っ込んで動かなくなる。

 

「面倒くさいけど……やらなくちゃね」

 

 ――発動【終幕:イシュ・ボシェテ】

 

 紫黒の暴風雨が吹き荒れる。

 16機が残っていた温泉開発部のVRだったが、ヒナのこの一撃によって8機もの機体が文字通り粉砕された。

 さすがに1分以内に半数以上の機体がやられた温泉開発部に動揺が見え始める。

 

『空崎委員長!』

 

『来てくれたんですね!』

 

 第9小隊の生き残りから喜びの無線が飛ぶ。

 

「第9小隊のみんなは下がって。後は私とタスクでやる」

 

『はい! 分かりました!』

 

『二人ともお気をつけて!』

 

 第9小隊の二機はすぐさま後方へと下がっていく。

 

「というわけでタスク、後は任せたわ」

 

 そう言うとヒナは、その小柄な身体のどこにそんなパワーがあるのか? と思えるほどの凄まじい勢いでカスミたちが逃げた方向へと駆け出した。

 

『勝てなくてもせめて邪魔くらいは……!』

 

 そんなヒナの真ん前にVOXボブが立ち塞がる。

 VOXボブはドルドレイのコンセプトを受け継いだ重量級機体。  

 ドルドレイ譲りの高火力武装・重装甲・ハイパワーを誇る強烈なパワーファイターで、破壊力だけなら強力な神秘持ちの生徒にも匹敵すると言われている。

 だが、その破壊力を発揮する前に横からドロップ・ビーム――大きな球状の誘導ビーム弾――がぶち当たり、VOXボブの巨体は吹っ飛ばされる。

 

『ぬあっ⁉』

 

 その隙にヒナの姿が廃ビル群の中へと消えていった。

 

 ドロップ・ビームを放ったのはもちろんタスクの機体。

 同時にその機体は変形し始めた。

 

 機首は右手の複合兵装へ

 ブースターは脚部へ

 長い尾翼は背部のフィンスタビライザーへ

 主翼は腰部のフィンウィングへ

 機首横のスタビライザーはスパインを有する肩部へ

 そして胴体からせり上がってくる頭部。

 

 そこに現れたのは鋭角的なデザインラインと機体各所に配置されたウィングやスタビライザーが特徴的な、如何にも高機動そうな印象のVRだった。

 

 機種名【サイファー】

 戦闘機への可変機能を持つ高機動可変型VR。

 全てのVRでもトップクラスの機動力・空戦能力と重量級相手でも渡り合える火力を兼ね備えた機体。

 しかし、紙飛行機と揶揄される薄い装甲をカバーできる操縦技術、戦闘機形態とVR形態の両方を使いこなす戦闘センス、平均よりもかなり高めのVR適性値……などが求められる非常に操縦難度が高い機体としても知られている。

 その上、VRとしてはかなり高価な部類に入るため、キヴォトスではあまり見られない機種である。

 

『さあて、ヒナちゃんに任されたんだから本気で行くよ……Get ready!!』

 

 背部フィンスタビライザーから青白い光を噴射しながらサイファーが飛翔する。

 頭部の高性能センサーシステムが周囲をスキャニングし、地形や敵VRの位置を高速かつ正確に把握していく。

 残っている敵VRは8機。VOXボブ1機、VOXダン2機、VOXエイジ3機、VOXジョー1機、VOXジェーン1機。

 

 まず狙うのは手負いのVOXボブ。

 空中ダッシュしながら右手の複合兵装――レブナントからビームバルカンを連続発射。

 ダウンから起き上がったVOXボブに無数のビームペレットが撃ち込まれる。

 

『そこっ!』

 

 その間に左手に形成したビームダガーを連続して投擲。

 ビームバルカンから逃れようとあがいていたVOXボブにそのビームダガーをよける余裕はなく、次々と命中して分厚い装甲を貫くように突き刺さった。

 突き刺さったビームダガーはドリルのように回転し、装甲のダメージを更に広げていく。

 

『トドメっ』

 

 いつの間にか地面に降りていたサイファーのブレスト・ランチャー――胸部内蔵型の大口径ビームランチャー――からドロップ・ビームが射出される。

 それは寸分違わずVOXボブへと直撃し、ビームダガーによって破損していた装甲ごと機体そのものを撃ち砕く。

 頭部ごと胴体の大部分を破壊されたVOXボブはその場に力無く崩れ落ち、動かなくなる。

 

『次!』

 

 後方から迫っていた大型ミサイルを、スラスター噴射によるダッシュでかわしながら、ビームバルカンを連射。

 威力より命中率を重視した多重連射モードにより、大量に発射されたビームバルカンは、さっきのミサイルを発射したVOXダンへと向かう。

 広範囲に広がるビームバルカンをVOXダンは回避できなかったが、威力そのものが高くないため撃破はされない。しかし、次のミサイル発射を邪魔するには十分だった。

 タスクは機体を急停止させ、右手のレブナントを真っ直ぐ突き出す。

 瞬間、レーザーバスター――レーザーに似た高速・高出力の太いビーム――が発射される。

 VOXダンの機動力では回避不能な攻撃だ。せめてもの抵抗に右側ウェポンアームのミサイルランチャーから小型ミサイルを発射するが、レーザーバスターはその全てを破壊しながら真っ直ぐVOXダンへと突き刺さった。

 VOXダンは決して防御力が低い機体ではない。少なくとも標準程度の防御力はある。

 それなのに、レーザーバスターはVOXダンの装甲を易々と貫き、そのどてっ腹に大穴を開けてしまっていた。もちろん、無事なわけが無い。大破だ。

 

『二つ目終わり!』

 

 サイファーに向かって新たに飛んでくるのはビームスパイクが生えたハンマー。

 VOXジョーが左側ウェポンアームの装備を、ロケットパンチのように射出してきたのだ。

 VOXジョーのハンマー射出は回避機動を取るヘリコプターを一撃で粉砕するほどの誘導性能と破壊力を持つ。

 空中戦を得意とする高機動型VRへの対抗手段としては十分すぎる選択肢だ。

 

『甘い』

 

 が、タスクには通用しない。

 右手のレブナントの銃口からビームソードを展開し、目の前に迫るハンマーに向けて鋭く振るう。

 切断は出来なかったが、甲高い衝撃音を上げてハンマーはあらぬ方向へと吹っ飛んでいった。

 ……今、VOXジョーはハンマーを一時的に失った状態。

 その隙に畳みかけようとタスクはVOXジョーに迫るが、それを遮る機体がある。残っていたVOXジェーンだ。

 VOXジェーンはVOXジョーのマイナーチェンジ版にあたる攻撃型機体。

 右側ウェポンアームがチェーンソー、左側ウェポンアームがクローランチャーへ換装されているのが外見的な違いで、VOXジョーよりも機動力を重視した機体となっている。

 VOXジェーンはハンマーが戻ってくるまでの時間稼ぎのつもりか展開した肩部ランチャーからホリゾンタルナパーム弾――垂直の火柱を連続発生させるVR特有の特殊なナパーム弾――とドラム缶型爆弾を何発も発射。

 途端にタスクの前に火柱のカーテンが展開される。そして、ワンテンポ遅れてドラム缶型爆弾も飛んでくる。

 

『うわっと』

 

 タスクはスラスターを全開。全速力で垂直上昇して回避する。

 サイファーは火柱のカーテンを飛び越えると、VOXジェーンの真上を取った。

 

『それっ』

 

 宙返りしながらビームソードを展開して急降下。

 VOXジェーンに対して頭上からの唐竹割りを叩き込む。

 装甲が厚いため一刀両断とは行かなかったが、無視できないほどのダメージを与えることに成功。

 VOXジェーンの操縦者はかなり慣れていたのか、大ダメージを受けても冷静に反応。チェーンソーを横薙ぎに振るう。

 しかし、それをタスクはしゃがんで回避。矢継ぎ早に足払いをかける。

 高出力ジェネレーターの出力に物を言わせた足払いは、重量級相当の重さを持つVOXジェーンすら転ばせるほどの威力があった。

 仰向けに倒れたVOXジェーンの胴体めがけ、大上段でビームソードを振り下ろす。

 唐竹割りで破損していた装甲は両断され、内部機器も真っ二つに切り裂かれる。

 すぐにVOXジェーンの頭部バイザーカメラから光が消え、完全に機能停止する。

 

『次!』

 

 左手に形成した多数のビームダガーを周囲にバラ撒きながら飛翔。

 次の瞬間、さっきまでサイファーが居た場所に大量の砲弾が叩き込まれる。

 残っていた3機のVOXエイジがライフルガンからロケット弾を発射していたからだ。

 しかし、それはあっさり躱され、逆にビームダガーによる反撃を受けてしまう羽目となった。装甲を抉るビームダガー。

 

 飛んだサイファー目掛け、再びVOXジョーが左の腕のハンマーを放つ。

 それを物理法則を無視したような超機動で回避しながら、3wayビームバルカンを連射。

 そして、肩部の四基のスパイン・ユニット――細長い棘のようなスタビライザー――からトレース・ビームを斉射する。

 空対空にも使えるほどの誘導性と弾速、重量級VRの装甲も撃ち抜く貫通力が特徴のトレース・ビーム。それを四発。

 よほど機動性が高い機体か、パイロットが相当な技量を持っていない限りは無傷で凌ぐのは不可能だ。

 現にVOXジョーも回避しようと全力でダッシュしたが、重量級に近い機体の動きでは焼け石に水。

 四発のトレース・ビームが全て直撃し、VOXジョーは機体各所の装甲が消し飛んでしまう。

 それでも堅牢な事で知られるVOXジョーはまだ戦闘可能な状態を保っていた。

 

『これで!』

 

 しかし、トドメを刺すようにタスクは上空からレーザーバスターを発射。

 回避しようと再びダッシュするVOXジョーだが、それを読んだタスクが偏差をつけて発射した高出力ビームは、まるで吸い込まれるようにVOXジョーに直撃。

 直撃した右脚を丸ごと持っていかれたVOXジョーは制御を失って転倒する。

 その後はまるで高速道路で事故った暴走車。火花と轟音を上げながら機体のありとあらゆるパーツをまき散らしながら、VOXジョーは何度も何度も回転しながら転がっていく。

 最後には取り壊し中のビルに衝突し、ビルを巻き込む形で大爆散したのだった。

 

『残りは……!』

 

 残っているのはVOXエイジが3機

 VOXエイジは扱いやすい武器を持ち、地上での機動力が高く、何よりコストパフォーマンスに極めて優れた軽装機体。

 火力や防御力に物足りない点はあるが、その使い勝手の良さでキヴォトス全域に普及している機体だ。

 

『まとめて片付ける!』

 

 着地したサイファーのブレスト・ランチャーからドロップ・ビームが撃ちだされる。

 それは普通のドロップ・ビームより一回り大きく、強い輝きを帯びたモノ。

 通常のドロップ・ビームよりも誘導が強く弾速が速いそのビームは、散開しようとしていた一機のVOXエイジに命中する。

 直後、ドロップ・ビームが炸裂し、エネルギーの大爆発が引き起こされた。

 ドロップ・ビームの直撃とエネルギーの爆発を近距離でモロに受けた機体は一撃で大破。

 残りの二機もエネルギー爆発に巻き込まれて、決して軽くは無いダメージを負ってしまう。

 間髪入れず、ビームバルカンの雨が襲い掛かる。

 装甲が厚くないVOXエイジにとってはビームバルカンですら脅威だ。

 機動力が他の機体よりも高いために回避は何とか出来ているが、確実にダメージが積み重なっていく。

 そして、その場にしゃがんだサイファーから高出力モードのトレース・ビームが発射され、VOXエイジに襲い掛かる。

 全弾直撃すれば重量級VRですら致命傷に近い大ダメージを受けるビームを受けて、VOXエイジが耐えられるわけが無い。

 

 四発のトレース・ビームを受けたVOXエイジは呆気なく爆散。

 ビームダガーを投擲しながらサイファーは飛翔し、最後に残ったVOXエイジとの距離を一気に詰める。

 最後の一機は懸命に迎撃しようと武器を撃ちまくるが、桁外れの空中機動力を持つサイファーは見惚れそうなほどの高速機動でその攻撃を回避していく。

 そして、胸部から放たれるドロップ・ビーム。VOXエイジは回避できずこれをモロに喰らって直後に爆散。

 

『よし、終わったね』

 

 再度、周囲のスキャニングをしながらタスクは独り言ちた。

 戦闘可能な温泉開発部のVRは0。残っていた部員もほとんどが倒されているようで、遠くからは風紀委員の増援部隊がVRを伴って駆けつけてくる様子が確認できる。

 

『うん?』

 

 タスクのモニターにメッセージが入る。

 送り主は――空崎ヒナ。

 

(どうしたんだろう?)

 

 メッセージは短いものですぐに読み終わる。

 

(なるほど。最後の一働きって事だね)

 

『健木先輩、大丈夫ですか……って、うわあっ⁉』

 

 真っ先に駆けつけてきた風紀委員のVOXジョーから驚きの無線が飛んだ。

 

『もう全滅してる!』

 

『さ、さすがはタスク……』

 

『事後処理しか残ってませんね……』

 

 後から駆けつけてきた他のVRからも同じような無線が飛ぶ。

 タスクはすぐに無線を繋ぐ。

 

『風紀委員の皆さん、もう周囲に敵反応はありません。

 後は事後処理だけなんですが、お任せしても大丈夫ですか?』

 

『はい、大丈夫です。アコ行政官からも『タスクさんは自由に動いてもらって良い』と指示を受けてます』

 

『はい。ありがとうございます。では、これで』

 

 タスクはそれを聞くや否やサイファーは飛翔しながら戦闘機形態へと変形し、その場から素早く離れていく。

 目指すはゲヘナ学園の中央区……ではなく、T9エリアから見てやや離れた場所にあるS13エリアだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

「や、やっと撒けたか……?」

 

「一応、そうみたいだね……」

 

 廃ビル群の中。

 もはや廃墟なのか道なのか分からないくらいに崩れ、半ば埋まっているような通路をカスミとメグは進んでいた。

 

 あの後、ヒナの猛烈な追撃にあった二人だったが、何とか逃げ切る事に成功していた。

 理由は幾つかあるが、大きい理由は二つ。

 

 一つはエリアT9が再開発地区だった事。

 廃ビルと立て直し中のビルが無秩序かつ混然と入り混じるこのエリアは、まるでコンクリートと鉄骨で出来た迷路。

 その上、不良やヘルメット団、そして温泉開発部によって改造されたり破壊されたりした場所もメチャクチャ多く、一度迷子になれば何時間も出られない事も珍しくない。

 逆に言えば構造を熟知していれば追っ手を撒くのには最適な場所となるのだ。

 ……まあ、ヒナならば廃ビルの一つや二つ破壊してくるから油断は全くできないのだが。

 

 そしてもう一つの理由は逃走ルートの再選定。

 T9エリアの状況的にトリニティ自治区の方へ逃げるのが普通だ。

 しかし、カスミは敢えて逃走ルートを大きく変更した。

 トリニティ自治区側に向かうのではなく、ゲヘナ学園・中央区側……すなわちゲヘナ学園自治区の内側へと逃走したのだ。

 T9エリアに用意してあった隠し通路の内、トリニティ自治区側に向かうものに入った……と見せかけて途中の別れ道から逆進。

 T9エリアの隣のT8エリアを経由し、トリニティ自治区とミレニアム自治区との境界でもあるS6エリアに向かっていたのだ。

 

 実際、ヒナもこれに騙されてT9エリアのトリニティ自治区方面側を重点に捜索していたため、結果としてはカスミの判断は大正解だったいえる。

 

 そして、今、二人はS6エリアへ直通する高速道路があるS11エリアを進んでいた。

 

「ぬうう、しかし、タスクというのは本当に厄介だねえ」

 

「うんうん。そうなんだよ部長!」

 

 プンプン、という風にメグが頬を膨らませる。

 

「部長が部活に入るちょっと前までなんて本当に酷かったんだよ。

 ゲヘナ自治区内で温泉開発を始めたら、どこでやってても10分以内に委員長とタスク君が駆けつけて、さっきみたいに殲滅してくるんだもん!」

 

「それは……本当にどうすれば良いんだろうねえ?」

 

(VRの中でも特に操縦が難しいサイファーを手足のように操り、機体の性能差があるとはいえ八対一を2分で殲滅、か……相当な腕だな。少なくとも銀鏡イオリ級かそれ以上の強さはあると言って良い。

 しかも、それが空崎ヒナを乗せて空から駆けつけてくる? ただでさえ空崎ヒナを抑えるのは不可能に近いのに、制空権を取られる上に冷静な銀鏡イオリ級の戦力が追加される?

 いや、これ本当にどう対抗すれば良いんだろうねえ……?)

 

 冷静に考えれば考えるほどマズイ事が分かってくるので、カスミは難しそうなしかめっ面を浮かべる。

 が、それを今、考えても仕方がないと割り切り、逃走ルートを再度確認する。

 

「メグ、あの先の道を曲がれば高速道路の入り口だ。部員たちに言って車も回してもらっている」

 

「りょーかい、部長! ちょっと見てくるね!」

 

 そう言ってメグは駆け出して、道を曲がって……ピタリと止まる。

 

「うん? どうしたんだいメg」

 

 少し遅れて道を曲がったカスミの目の前に映ったのは……

 

『ヒナちゃんの予想通りだったね』

 

 制圧された温泉開発部部員たちと……タスクの駆る蒼いサイファーだった。

 

「なっ⁉」

 

『こちらタスク、カスミとメグの二人を例のポイントで見つけたよ。……うん、了解』

 

 タスクは誰かへと無線を送ると、即座にレブナントを二人に向ける。

 

『二人とも、大人しく捕まってください。じゃないと撃ちます』

 

「バカな、どうしてここが分かったんだ⁉」

 

『T9エリアをいくら探しても見つからなかったから、トリニティじゃない別の逃走ルートを使ったのが明白だったからです。

 だったら、次に近いミレニアムに行けるルートを使うだろうって、ミレニアム自治区に隣接するエリアを片っ端から索敵したんですよ。

 まあ、ヒナちゃんのおかげでルートはほぼ限定されてたんで、意外と楽でした』

 

(くっ、サイファーの機動力と索敵能力を甘く見過ぎていたようだ。

 いくらルートが限定されているとはいえ、地下道も通っていたこちらを見つけてくるとは……)

 

 カスミの頭がフル回転する。

 

(あの言い方からして間違いなく空崎ヒナには伝わっている! このまま待っていたら呆気なく捕まってしまうだろう。

 だが、あのサイファー相手に戦うのは厳しい。接近戦なら私とメグで勝てる可能性もあるが、素直に接近戦を挑ませてくれるほど馬鹿じゃあるまい。

 むしろ空から攻撃されまくって完封される可能性が極めて高い! ならば口八丁で……!)

 

『あ、少しでも僕を言いくるめようとしたらボコボコにしますので』

 

(読まれてるだとぉ⁉)

 

 カスミ、十八番を潰される模様。

 ちなみにメグは何時でも火炎放射器を放てるように構えているが、今の状況が不味いことに感づいているため、カスミの指示を待っている状態だ。

 

『ヒナちゃんからカスミの口八丁っぷりは教えてもらってるからね。容赦はしないよ』

 

(くっ、これはマズい。突破口が見えない。だが、急がないと空崎ヒナが……)

 

『……あ』

 

 と、突然、サイファーが真上に飛んだ。

 

「うん?」

 

「あれ?」

 

 カスミとメグの二人は突然の事に動きを目で追ってしまうが……

 

「二人とも、覚悟は良いわね」

 

 後ろから聞こえてくるある種の処刑宣言。

 サーー、とカスミの顔から血の気が引いていく。メグの顔が『あっ、やべ』みたいな表情を浮かべる。

 二人が同時に振り向くと……

 終幕・デストロイヤーの銃口をピタリと向ける空崎ヒナの姿があった。

 

「終わりよ」

 

 容赦も躊躇もなく放たれる紫黒の暴風雨。

 

「ひ、ひええええええええええええっ!!!」

 

 カスミの悲鳴は轟音にかき消されていった――。

 

 

 

 それから数十分後。

 風紀委員のみんなによってカスミとメグを含めた温泉開発部の部員が連行された後。

 タスクとヒナは風紀委員会の委員会室にいた。

 

「今日はありがとうタスク。おかげで温泉開発部を一網打尽に出来たわ」

 

「どういたしまして。またVRが必要な事があったら遠慮せずに言ってね」

 

「ええ、今度もよろしくお願い」

 

「任せて!

……あ、そう言えば、前にヒナちゃんが行きたいって言っていた演奏会のチケットが手に入ったんだけど、今度で良いから一緒に行かない?」

 

「本当⁉」

 

「うん、ほら、ヒナちゃんが好きなクラシックのあの曲も入ってる」

 

「……良いわね。タスク、いつなら大丈夫かしら?」

 

「僕はここしばらく時間が空いているから、ヒナちゃんのお休みの方に合わせるよ」

 

「やっぱりそうなるわね……ちょっとスケジュール調整しないと」

 

 ……この会話中、二人はソファに隣同士で座って密着するくらいの近い距離で話していたりする。

 当然、アコは今にも血涙を流しそうな様子である。

 

「んぎぎぎぎぎぎ……!」

 

 美少女がしちゃいけない顔をしながら奇声を上げるヨコチチハミデヤン。

 それをイオリとチナツはため息でもつきそうな表情で見ていた。

 

「……もう去年一年くらいこんな感じなんだし、アコちゃんも慣れれば良いのに……」

 

「去年一年もこんな感じだったんですか?」

 

「ああ、少なくとも私が風紀委員会に入った時にはもうこんな感じだったな。それからずっとだ」

 

「こんな関係を一年……ですか? 幼馴染み同士とはいえ異性同士がこの近さで? なんかデートの約束までしていますけど?」

 

「……そうなんだよ。本当にこの近さで、デートの約束するのも、ずっと」

 

「……お二人が付き合っている……とかは?」

 

「少なくとも……私は聞いてない」

 

「「………………」」

 

 アコの鳴き声(比喩)だけをBGMに気まずそうに沈黙する二人。

 

(……なお、余談だが風紀委員の中では、密かにヒナとタスクがどうなるかの賭けが行われていたりする)

 

 そんな時、ピロリンという着信音が鳴る。

 

「あ、失礼します」

 

 チナツが自分のスマホを取り出して画面を見る。

 

「えっ」

 

「どうしたんだチナツ?」

 

 何か珍しいものを見たかのように固まるチナツと、それを不思議そうに見るイオリ。

 

「い、いえ、思いもよらない人から連絡があったもので」

 

 チナツのスマホの画面にはモモトークのアプリが開かれており、新着メッセージが来ていることを示す赤いマークが光っている。

 相手は――“先生”だった。

 そのトーク内容を読み進めていくと、チナツの表情が微妙なモノへと変わっていく。

 

「これは……どうしましょうか」

 

 うーん、という感じで思案するチナツ。

 

「じゃあ、今日の修理があるから僕は戻るね。また明日」

 

「ええ、また明日」

 

 その間にタスクとヒナの話は終わり、タスクは執務室から帰ろうとしていた。

 ハッ、と慌てたようにチナツは立ち上がりながら声を上げた。

 

「あっ、タスク先輩、待ってください!」

 

「え?」

 

 ドアノブに手をかけたままタスクは振り向いた。

 

「どうしたのチナツ?」

 

「えっと、す、すみません」

 

 意を決したようにチナツは口を開いた。

 

「明日、私と付き合ってもらえませんか?」

 

「え??」←タスク

 

「は???」←ヒナ

 

「え?」←アコ

 

「え?」←イオリ

 




この話の戦闘描写のためにマスターピース引っ張り出して、機体の挙動とか確認してたんですが……

いや、やっぱオラタンは良いな……と再確認してました。うん。


それと一応、風紀委員のみんなの原作との違いは

●ヒナ
 自分の事を慮ってくれる幼馴染みがいる&労働条件が非常に良くなっている=きちんと休めているために常時キラキラシロモップ状態。
 無理に仕事をしようとするとタスクが止めてくれるのでワーカホリックも若干改善している。
 タスクに関しては幼馴染み以上の感情を持っているが、それがどんな感情なのかはまだ自覚していない。
 総じて原作より肉体面・精神面の双方でパワーアップしている


●アコ
 ヒナが常時キラキラシロモップなために原作よりテンションがアップ。
 しかし、同時にヒナ委員長が男とイチャイチャ(アコ主観)している姿を見せつけられているため、脳が破壊されてヒスりやすくなっている。
 プラスマイナスで言えばややプラスくらい。


●イオリ
 自信とほぼ同格かそれ以上の強さを持つ同級生の仲間(タスク)がいるため、原作以上に鍛錬を積んでおり戦闘能力だけでいえば原作以上。
 ただし、猪突猛進なところはあまり改善されて無いため、結局は原作とどっこいどっこいといった感じ。
 委員長とタスクのイチャイチャ(イオリ主観)を目の前でずっと見せつけられているため、『早く付き合ってくれないか……?』と内心思っている。


●チナツ
 今作では最近になって風紀委員になったため、ヒナとタスクの関係をほとんど知らないという設定。
 ただ、救急医学部にいた頃から機材類やVR関連でタスクにかなり世話になっているため、タスクの能力自体はそれなりに知っている。
 風紀委員の業務に役立つだろうと思ってタスクからVRの各情報を教えて貰っているため、実は風紀委員で一番VRに詳しい。


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