レーダーの反応を頼りに星南の行方を追った末、辿り着いたのは初星学園から遠く離れた山奥だった。
初星を発つ頃は明るかった空もすっかり夜の帷に包まれてしまっている。
嗅覚を頼りに追跡していたら、途中で見失ってしまう可能性の方が高かっただろう。
「——まさか、こんな山の中まで来ることになるとは。藤田さんがいなければ、見つけることは難しかったでしょう。これは、ことねちゃんレーダーからスーパーことねちゃんレーダーに改名する必要があるか……」
「プロデューサーさんって、たまに星南プロデューサーと似たところがありますよね……。というか、なんですかその変な名前。もっとマシなやつはなかったんですか?」
「名付けたのはあなたのプロデューサーです。抗議は彼女を救出した後に直接お願いします。さて、ここからどうするべきか——」
プロデューサーは改めて前方を見据える。
砦のように重厚で巨大な塀に囲まれた建造物——恐らくは何かの研究所もしくは軍用施設かと思われる。
見るからに一般的なそれとは異なる。
外観から既に仰々しいというか、剣呑な雰囲気に満ち溢れている。
よくこれまで人目につかないでこれたな、とある意味で感心しつつもプロデューサーは決断を下す。
「——ここは、正門から正面突破と行きましょうか」
「えっ、えええええっ!? 何考えてんですか!? 流石に危険過ぎやしませんかっ!?」
ことねが驚くのも無理はない。
普通であれば裏口や抜け道からこっそりと侵入しようという思考に至るのが常であるだろうし、プロデューサーとしてもそれが安牌だとは思いつつも、
「こそこそ潜入するよりもこうした方が手っ取り早い。それに——もう既に出迎えが来ているようです」
言って、プロデューサーはことねに施設の入り口を見るように促す。
視線の先にはふらふらとした足取りの少女がいた。
緩くウェーブのかかった長いブロンドの髪。
白い制服に袖を通した、女性にしては高身長なシルエットは、二人のよく知る人物——、
「——あれって、もしかして……星南、プロデューサー……?」
「いえ、偽物です。本物の星南さんは、今も施設の中にいるはずです。スーパーことねちゃんレーダーがそのように反応を示しているから間違いありません。あれは——ガワを真似ただけの幻影です」
念の為レーダーで星南の位置を確認しつつ、プロデューサーは目の前の偽物を観察する。
彼女を構成しているのは、微弱なエネルギー粒子。
星南が纏う"かわいい"オーラの残滓を人の形にしただけの紛い物だ。
それならば、対処は容易だ。
「藤田さんのかわいいオーラをぶつければ簡単に消滅するでしょう」
「……あの、それってどうやってぶつけるんですか?」
「こちらを使ってください」
言って、プロデューサーは懐から小型のドライヤーに似た道具を取り出し、それをことねに手渡す。
「これは一体……?」
「”かわいいハンドガン”、使用者のオーラを弾丸にして撃ち出す装置です。これにファンサをするような感覚で念を込めて、ここの発射ボタンを押してください。人間に害はありませんが、あの手の敵には効果覿面です」
「なんでこんな物を……って、いいや。どうせ、聞いたところで変な答えしか返ってこないだろうし。とりあえず……こう、でしょうか?」
困惑しつつもことねは、プロデューサーの指示通り星南に狙いを定めて弾を発射する。
装置から放たれた黄色いエネルギー弾が偽星南を撃ち抜くと、
「Oh……」
偽星南は、満足げに微笑みながら消滅した。
「……なんで攻撃食らってるのに嬉しそうだったんだろう? ——うん、深くは考えないようにしよう」
「お疲れ様でした。偽物とはいえ星南さん相手にはやはりこれが効く。しかし……偽星南さんがやられたということは——当然、こうなりますよね」
偽星南が消滅した直後、建物から警報が鳴り響く。
同時に正面の扉から大量の警備員が続々と飛び出してきた。
全員小銃を構え、全身を武装で固めている。
警備隊というよりも軍隊と称した方が適切かもしれない。
警備員の一人がプロデューサーに向かって叫ぶ。
「侵入者だ! 捕えろ!!」
「げげっ! 中から人が……って、うええええっ!? 何人いるんだよっ!! しかも、全員なんか銃みたいなの持ってるし! ここ日本だろ!!」
「ざっと百五十人くらいですね。ちなみに、彼らが持っているのは恐らく普通に実銃です」
「え、今サラッととんでもないこと言いやがりました!?」
ことねの顔がみるみる真っ青になる。
まあ、そうなるのも無理はない。
寧ろ、パニックになってないだけでもありがたいと思えた。
「……まあ、何にせよ、とりあえず藤田さんは後ろに退避を。ここは俺がなんとかします」
「なんとかって……早く逃げないと! 危ないですよ!」
「心配には及びません。藤田さんは、スーパーことねちゃんレーダー防御形態が守ってくれますので」
「あたしの心配より自分の心配をしろっつーの!!」
「では、少しそこで待っていてください。すぐに片付けますので」
「やっぱ話を聞かねーな、この人っ!!」
声を荒げながらもことねが物陰に隠れたことを確認し、プロデューサーは懐からスタンガンを取り出す。
どんなに屈強で武装した軍人であっても一撃で気絶させることのできる特注品だ。
これ一つあれば、多少時間はかかってしまうが、この場にいる敵全員を容易に無力化させることが可能だ。
「さてと——”初星プロデューサー”戦闘任務を開始します」
バチバチ、とスタンガンから電流が迸ることを確かめてからプロデューサーは、目にも止まらぬ速さで敵陣へ飛び込んだ。