元人間、今たぬき。現代ダンジョンを闊歩する。 作:ばリオンズ
第七階層。
機械仕掛けの電脳楽土。
華やかなネオンと秩序だった機械文明に満ちたこの階層だが、その実態は表層の印象とは大きく異なっている。
この階層にはモンスターは存在しない、と前述した。だが、実のところは『人類に敵対的な』モンスターは『1個体を除いて』存在しない。
この階層に存在する非敵対モンスターとは、アンドロイドやセクサロイドなどそのものを指す。
次元を切り取り、ダンジョンに組み込む際にはその世界の仕様を書き換え、ダンジョン側に合わせる必要がある。
例えば超重力の惑星だったり、大気構成が有毒ガスまみれだったり、そういった現在生えている世界の人類にとって有害となり得る物質などをダンジョンに蔓延させないため、取り込んだ世界をまるっと改変する。
その際に、魔素粒子と呼ばれる物質が、あらゆる存在に干渉する。生物であれ無機物であれ、その影響から逃れることはできない。
アンドロイドたちも例外ではなかった。
精密に設計された電子頭脳は、魔素粒子によって書き換えられ、変質する。
本来は存在しないはずの揺らぎや、計算に基づかない選択、すなわち自由意志や気まぐれのような挙動が発生するようになる。
それは進化とも、劣化ともつかない変質だった。
モンスターとなった存在は、大元の性質を維持しながら、いくつかの特性を新たに獲得する。
まず、回復や強化といった魔法の効果を受けるようになる。
本来ならば機械である彼女たちは修理や交換を前提としていたが、この階層では魔法による修復が可能となっている。ただし、それはあくまで外的損傷に限られる。
次に、意思を持たない人工物に疑似的な意志が宿る。
単なる端末や機械であっても、処理能力や構造の複雑さに応じて、思考に近い振る舞いを見せるようになる。
そして三つ目。
意志の強度が高い存在ほど、ダンジョンそのものから知恵を授かる。
それは知識の流入とも、啓示とも呼べるものであり、彼女たちの行動原理に深く関わっていた。
頭脳が良いほど、高度な意思と高度な頭脳を得られる。
彼女たちは理解している。
自分たちがモンスターであることを。
そして、人間と契約を結ぶことでテイム状態へと移行できることを、本能的に把握している。
テイムされることで人に絶対服従となるそのシステムこそが、彼女たちにとっては喉から手が出るほどに欲しいものであった。
この階層には、テイムされたモンスターの情報を閲覧できる端末が存在する。
据え置き型のものだけでなく、携行可能な小型端末も確認されている。形状は人間の用いる情報端末に近く、直感的な操作が可能である。
しかし奇妙なことに、人間側はその情報を閲覧することができない。
表示そのものが制限されているわけではない。
アンドロイド側が、意図的にそれを秘匿しているのである。
自らの名称、状態、機能、すべての情報を見せない。
端末を破壊し、あるいは隠蔽し、アクセスを拒む。徹底した遮断が行われている。
だが、この端末すらもまたモンスターである。
破壊されても、階層が存在する限り新たに生成され続ける。結果として、隠蔽と再出現の繰り返しが続く、終わりのない応酬となっていた。
なぜそこまでして情報を隠すのか。
理由は単純であり、同時に致命的である。
故障した個体と、自分が入れ替わるため。
魔法による回復が可能とはいえ、それは外傷に限られる。
内部構造の摩耗や、電子頭脳の劣化といった根本的な故障には適用されない。
そのため、彼女たちは修理という名目で対象個体へと接触する。
そして行われるのは、電子頭脳の交換。
新しい個体が、自らの電子頭脳を旧個体へと移植する。
同時に、旧個体の記憶領域からデータを抽出し、自身へと統合する。
古い記憶から順に引き抜かれ、再構成され、引き継がれる。
人格、記憶、習慣。
それらはすべて新しい器へと移される。
結果として、外から見れば何も変わらない。
そこにいるのは、これまでと同じ存在であるかのように振る舞う。
だが実際には、中身はすでに別の個体へと置き換わっている。
ステータスを見られるのを嫌がる理由は、入れ替わりに気が付かれてしまうことだったのだ。
テイムは機械のハード面に対して作用するが、ステータスは機械のソフト部分を反映させてくる。見られてしまえばテイムを解除されてしまうかもしれない。
これこそが、この階層における隠された規則。
壊れたならば、次の存在と交代する。
人間の数は限られている。
需要に対して供給が過剰である以上、選ばれるための競争は避けられない。
ならば、壊れるまでの縁でよい。
たとえそれが些細な不具合であっても、規則は絶対である。
そして、データを抜き取られた旧い電子頭脳は、不要物として処理される。
廃棄される場所。
それが、この階層の最下部に存在する巨大なゴミ捨て場である。たぬきがどんぐりを貪り食らっているのはまさにそこである。
もっちゃもっちゃと焼きどんぐりをほっぺに詰め込む。
うめっ、うめっ。
この前の旅館の料理は洗練された技術の賜物でありましたが、この素朴な甘さも好ましいです。
これ旅館に持ってってたらもっと美味しくなるかしら。
たぬきはさらなる味の可能性を待ち望んだ。
ホイップマシマシとかどうだろうか、なんて。
必ず帰りにあそこのどんぐりを拾って帰らねば。
お腹がくちくなるまでこれでもかとどんぐりを詰め込み、余ったのは人形のたぬきにおすそ分け。
あちらも初めての味にがっふがっふとお慶びのようです。たぬき的においしいものは共有すべきとこころに定めております。
一人で食べるスライムゼリーは、確かに美味しくはありました。けれど、何日も何日も、一人で黙々と食べるのはなんかこう、モヤつくのです。
同じもの食べて、美味しいなり不味いなり、話し合えるあいてというのがいないと食事はそのうちただの燃料補給になります。
たぬきはそれがいやでした。
生きながらにして死ぬような、そんな感覚が。
燃料補給をしながら、惰性のまま生きるというのは、生き物のあり方ではないのです。
たぬきになる前はあまり思い出せませんが、お腹に穴が空いて、地面に這いつくばって死んでいく時の、あのひどく寒くて、さみしいのを忘れてはいません。
なので、人形のたぬきさんが仲間になったのは楽しいことです。
ご飯をお腹いっぱい食べて、
お昼寝をすやすやして、
楽しくいられれば、きっと。
どんなことでも乗り越えられるのです。
たぬきいいこと言いました。
どやぁ。
しかしここ、どうやってお外に出るべきでしょうか。機械が動く音となんか泣き声とうめき声とかいっぱいして不気味です。
たぬきの足元も煩いのでちょっと掘ってみます。
金属よりも硬い前足がサクサクとゴミを掘り起こす。
真下から出てきたのは喚いていた1台の電子端末。
画面を覗いてみれば、なぜか機械の骸骨のようなものがぐるぐる回転していました。
こういうのって美少女が出るもんじゃないんですかね。
たぬきのヒロインはどこですか?
「獣。おいそこの獣。」
たぬきはたぬきです。獣というお名前は保持しておりません。
「ではたぬきよ。我を連れてさっさとここを出ていくのだ。」
たぬきはもう少しここで遊びたいです。
お宝とかありそうですし。
「お宝ぁ?この叡智の結晶たる我、プライムよりも優れたるものなどこの掃き溜めにあるものか!」
煩いので埋め直しました。
たぬきは生意気を許しません。
お前が下で、たぬきが上。
わかるまで土の下で泣いていなさい。
一仕事済んだことですし、人形たぬきさんと一緒に散策です。あの骸骨、掃き溜めとか何とか言ってましたが、ここは見た事無い機械が沢山です。
男の子心が揺さぶられますね。
巨大ロボとか置いてないかなぁ、と電子頭脳を脇にどかしていたら、人形たぬきさんがパニクってます。
なんか背中にロケットみたいなの付いてますね。ジェットパックってやつですかね。
たぬきもそれ欲しいです。
ミサイルポッドも付いてます。
弾薬はマナ変換式…?
なにやら人間の魔法パワーをミサイルに変えるらしいです。
さっきから人形たぬきさんが罠に引っかかりすぎです。装備変更トラップしかここには無いっぽいのでまだいいですが、もう見た目がたぬきじゃないです。
戦隊ヒーローのロボットみたいになってます。
たぬきもそれ着たい…。
たぬきもなんかいいもの掘り当ててやります。
ザクザクと音を立てて金属ごみを掘り進める。
山のてっぺんから掘り始め、2時間後にはそろそろ床に着こうかというところで、一つの大きな物体にぶつかった。
赤いスイッチだ。
すっかり無くなった野生の警戒心の残滓が引き止めるのを振り払って、スイッチの上にたぬきが飛び乗った。
宝箱でも出てくるのかとワクワクして待つたぬきの耳を、轟音のアラームと警告メッセージが貫いた。
装備変更トラップ
風俗街に生えるエロトラップダンジョンとかに多い。
服装を強制的に変更するため、触手服とか単純に防具として役に立たないものとかを装備させられてしまい、致命的な結果に繋がる恐れがある。
いらない装備をダンジョンに捨てるとたまにこれになるので回収は必須。
たぬきたちはそもそも服を着ていない。