元人間、今たぬき。現代ダンジョンを闊歩する。   作:ばリオンズ

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第2話 たぬきとダンジョン

たぬきが住み着いたこのダンジョンは、東京にある。

 

かつて街の象徴だった巨大な鉄塔、その残骸の下にぽっかりと空いた穴。

それがこのダンジョンの入口である。

鉄骨はねじれ、折れ、半ば崩れたまま地面に横たわっている。

遠くから見ればまだ塔の形を保っているようにも見えるが、近づけばただの巨大な瓦礫の山だ。

かつては333mの長さを誇ったそれは、もう見る影もない。

 

しかし、その瓦礫の下からは絶えず人が出入りしている。

 

現在、この周辺は少しずつ整備が進んでいる。

さすがにタワーそのものを取り除くことは重機も人手も不足してできていないが、周囲の瓦礫は片付けられ、道が作られ、仮設の柵まで設置された。

 

そしてダンジョンの周りには、プレハブ小屋が立ち並んでいる。

 

防具屋、武器屋、薬屋に食料品店。

簡易宿泊所、魔石買取所、修理屋。

立ち並ぶ看板は手書きのものが多く、電気の代わりにランタンが灯る。

 

浅草寺の出店の如き活気と人に溢れている。

武器を背負った冒険者が怒鳴り合い、薬草を煮る匂いが漂い、どこかでは鍋の音が鳴る。

誰かが怪我をして担ぎ込まれ、誰かが大声で成果を自慢し、誰かが次の挑戦の話をしている。

酒場では喧嘩や取っ組み合いが始まり、店主の怒鳴り超えも響く。

 

人間とはこんな窮地においてもたくましいのである。

 

ちなみにたぬきは、その活気の中を歩くことがある。

ただし問題がある。

 

足元をすり抜けると踏まれるのだ。

 

人間は前を見て歩くが、下はあまり見ない。

重い装備を着た冒険者などに踏まれたら、たぬきなどぺしゃんこである。

 

なので、たぬきは覚えました。

 

賢いのでちょっと地面に穴を掘って自分用の通路を作りました。

プレハブ小屋の裏から裏へ、小さなトンネルを繋ぎ、誰にも踏まれず移動できる秘密の道。

時々どんぐりも隠してある。

 

いえ、違います。

 

どんぐりをダンジョンのそばに植えればご飯取りに行く手間が減ると思って地面を掘ってたらダンジョンに転がり落ちたわけではないのです。

 

ええ、本当です。

 

だってたぬきは賢いのですから。

 

この東京ダンジョンは、上へ上へと伸びるダンジョンである。

多くのダンジョンは地下へ潜る構造らしいが、ここは逆だ。

階段を上るごとに階層が変わる。

まるで塔の内部を進んでいるかのようだ。

 

一階層は「蠢く粘液の巣窟」。

 

スライム種とスラッグ種が大半を占めており、床も壁もぬめぬめしている。

時折巨大な粘液の塊がゆっくりと動き、天井から雫が落ちる。

 

大型スライムの奥の洞窟にはお宝があるとかないとか。

冒険者たちはそんな噂を頼りに群がる。

 

次の階層に行く場合は階段で上に行ける。

 

ただし、階段の前にはだいたい大型のモンスターが居座っている。

普通はそれを倒さないと通れない。

 

たぬきはみました。

 

でっかいのはぐいぐい押したら通してくれました。

 

ぷにぷにしていたので、前脚で押してみたら少し横にずれてくれました。

ついでに横を通ったら特に何も反応もありません。

 

たぬきは賢いので、これは通っていいという意味だと理解しました。

 

それから、宝箱の中にキラキラしたなんかがありました。

キラキラしているので食べました。

 

危機感どうなってるって…?

 

たぬきはかしこいので知っています。

キラキラするのはおいしいから多分食べられると…!

 

キラキラする金色のスライムはおいしかったです。

だからこれはただしい。

 

ちょっと硬かったけど食べられたので問題はありません。

歯にくっついたけれど、そのうち溶けました。

 

ぬめぬめしたおっきいナメクジはきしょかったのでお手々で思いっきりべちん、てしたらビリビリが手から出てきて爆裂しました。

もう二度とやりません、さすがにナメクジの残骸まみれはたぬきもいやです。マジで。

 

二階層は「たゆたう幽連の街」。

 

どこまで行っても住宅街。

瓦屋根の家、二階建ての家、小さな庭付きの家。

曲がり角の先にもまた同じような家が並んでいる。

 

コンビニもスーパーもない、似たような街が無限に続く。

夕暮れ時が、ただ永遠に続く街。

空は橙色のまま変わらない。

 

時折スケルトンやグール、ゾンビなどのアンデッドが住宅の中で生活をしているように見える、どの報告がある。

 

窓の向こうで椅子に座っている影。

庭を歩いている骨の人。

誰もいないはずの道を横切る影。

 

活気のあるはずの公園も、

帰り道の通学路も、

あの日のまま、そこに取り残されている。

 

ブランコは止まったまま揺れない。

滑り台の下には誰もいない。

信号機は赤のまま変わらない。

 

そこから帰るも進むも、学校を見つける必要がある。

 

学校を見つけ、放送室で起床ラッパの音楽を鳴らすことで次の階層に。

逆に下校チャイムを鳴らすと一階層に。

 

冒険者たちはこの仕組みを発見するまで、かなり迷ったらしい。

街が広すぎるのだ。

 

たぬきですか?

 

目覚まし時計で起きると次の階層に行けるんです。

 

骸骨の人に添い寝してもらうとスライムの階層に帰れるのです。

 

たぬきは知っています。

骸骨の人はたぬきをたぬきと理解していると。

 

一回箒で叩かれました。

庭に入ったら、ばしっと。

 

もうだめだぁ、と倒れたら申し訳なさそうに介抱していただいたのです。

自分のペットをたたいてしまったかのように、酷く後悔していたのです。

 

骨の手でそっと起こされ、頭を撫でられました。

骨なので撫で心地はあまり良くありませんでしたが、気持ちは伝わりました。

 

たぬきはまだ大丈夫なのだと、まだ歩けるのだとぐるぐる回ってみせました。

 

なので、たぬきはその骸骨の人の家の犬小屋に住んでいます。たぬきが新しいペットになるというわけです。前任者のいぬさんには恥じぬ働きをしてみせましょう。

 

庭の隅にある小さな小屋。

屋根は少し傾いているが、雨は入らない。

中には毛布もある。たまに洗ってるのかフカフカの毛布になってることがあって、たぬきとしては幸せです。

 

たまにドッグフードを貰います。

皿に入れて置いてくれるのです。

サクサクしてて美味しいです。

 

いつも同じ味なのが不思議なところですが…。

 

たぬきはかしこいので考えました。

多分これは保存食なのです。

人間だった頃、エナジーバーみたいに長く保存できる同じ味の保存食を食べていたことがありますし、たぶんこれもそういうものでしょう。

 

だからきっと正しい食べ物なのです。

 

三階層、「わななく睡蓮の大海原」。

 

成人男性のすね程度の水深が大半を占める大海原。

波風はなく、どこまでも広がる浅く広い水の平原。たまに砂浜も見つかる。

 

足を踏み出せば、ぬるい水がちゃぷんと揺れる。

空は薄曇りで、昼なのか夕方なのかも分からない。

淡い光が水面に広がり、世界全体がぼんやりと白い。

 

そして水面には、巨大な睡蓮が無数に浮かんでいる。

人間の身長ほどもある葉。

その間から、ゆっくりと花が揺れている。

白、薄紫、青。

時折、血のように赤い花もある。

それらは風もないのに震えている。

近付くと泣き声のような音が響き、煩い。

 

だからこの階層は「わななく睡蓮の海原」と呼ばれている。

 

煩いだけで被害がなく、なんなら引っこ抜くと極太れんこんが出てくるので実は意外な食料エリアとなっている。

 

ただ、この海原には、道がない。

睡蓮の葉は足場代わりになる。

だが、どの葉も不安定で、踏むとゆっくり沈む。沈んだところで浅瀬なのでそこまで危険はない。

 

葉の上を渡っていく者もいるが、基本的には水の中を歩くことになる。

 

しかし問題がある。

水の中には、モンスターがいるのである。

ジェリー種とフロッグ種、あと魚。

 

魚自体はぶつかってくる程度で危険性は低く、捕まえれば普通に食用として利用できる。

淡水魚、海水魚問わず普通に生息しており、全て既知の種類である。

暖かい海、冷たい海なども関係ないため、ある漫画になぞらえてオールブルーなんて呼ばれることもある。

ただ、水中に転がっている有機物を捕食する傾向がある。

 

ジェリー種は巨大クラゲである。

海面を漂っているが、その傘の範囲以上に触手の範囲が広く、下手に近寄らないことが推奨されている。

麻痺毒や睡眠毒、発熱毒、淫毒など多種多様な毒を持っており、捕まえて分析しようとするものもいるが、たいてい毒に返り討ちにされる。

複数の状態異常を受けて海に倒れ込んでしまうと、海水を吸い込んで溺死する恐れがある。

魚に群がられて顔がなくなった人もいるとか。

 

フロッグ種は蓮の葉の上にいる小さな蛙たちである。

積極的な敵対行動は取らないが、うっかり彼らのいる葉を踏み沈めると体に貼り付いて起爆する。

爆発自体は大した威力にならないが、フロアボスを呼び寄せてしまうトリガーになるため、極めて危険。

 

 

たぬきですか?

たぬきは骸骨の人と砂浜にいます。

骸骨の人ってビキニ着て何してるんですかね。

グラサンにビキニにトロピカルジュースだと…。

リゾート気分ですね…。

 

たぬきに日焼け止めを渡さないでください。

たぬきのお手々はそんなに便利じゃないんです。

かしこいのと器用なのは別問題です。

骨に塗ってどうするんですか…。

 

ああ、たぬきはもうだめです…。




黄金の獣判
消費アイテム
使用すると雷獣、氷獣、炎獣のどれか一つの加護を受ける。
食べて使用するものではない。

雷獣の加護
通常攻撃に電撃属性が付与される。
足が速くなる。
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