元人間、今たぬき。現代ダンジョンを闊歩する。   作:ばリオンズ

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第3話 たぬきといぬ

第三階層にてたぬきがうゆーんと悲鳴を上げているが、それはさておき次の階層に行くための方法は、砂浜の奥の森に行くことである。

 

わななく睡蓮の大海原は、海原という名前の通り、水と花だけの場所ではない。

遠くの方には、ちゃんと砂浜もある。

 

白い砂がゆるやかな弧を描き、その奥には濃い緑の森が広がっている。

波はほとんどない。

水面は静かで、時折睡蓮がゆらりと震えるだけだ。

 

砂浜にたどり着くまでがまず大変である。

水の中には魚やクラゲ型がうろつき、睡蓮の葉の上にはカエル型モンスターがいる。下手に刺激すれば命はない。

 

 

それでも砂浜に辿り着きさえすれば、少し安心だ。

乾いた砂の感触は不思議と落ち着く。

 

その砂浜を横断し、奥の森に入る。

森の中を五分ほど散策すると、いつのまにか景色が変わる。

それが次の階層への移動条件である。

 

 

また、このフロアには別の方法もあるらしい。

 

フロアボスであるホオジロサメを倒し、その戦利品のスニーカーを装備すると九階層へと行くことができるらしい、とたぬきアイは言っている。たまたま遠くで襲われる人間を見ていた時に偶然発覚したのだ。

 

たぬきアイとは、たぬきの目に浮かぶ文字のことだ。

たぬきはそれをとても信用している。

 

しかし、たぬきはスニーカーが履けない。

足の形が違う。

 

なので関係ない。

 

人類はこの方法を知らないため、

今のところは不明のままだ。

 

元の階層に戻る手段はない。

諦めて上に行くしか無い。

少なくとも、人間にとっては。

 

このフロアはたぬきも普通に森を散策して抜けた模様。

特に深く考えたわけではない。

森があったから入ってみただけである。

 

ちなみに帰るときは骸骨の人に抱っこされてなんか帰れたそうな。

 

ダンジョンのモンスターは、階層間を自由に行き来できる存在であることが、ひっそり判明した瞬間である。

 

人類はまだ知らない。

しばらくは知ることもない。

 

四階層、「溢れる野生の進撃」。

 

この階層は、ダンジョン形成時に巻き込まれた牧場が主体となったものである。

 

果てしなく広がる牧場。

どこまでも続く草原。

柵と納屋、サイロ、小屋。

積み上げられた干し草の山や干し草のロール。

 

風が吹くと草が波のように揺れる。

一見すると、とても平和な景色だ。

 

果てしなく広がる牧場には、牛や豚、馬や羊、あと鶏が住み着いている。

たまに牧羊犬などもいる。

小屋のなかにはスケルトンがいることもあり、牧場主の格好をした個体がせっせと色んなものを修復したり、牛のミルクを絞ったりしている。

 

たまに二階層のスケルトンらしき存在がミルクを買っていく光景を見た、という話もある。

 

ただ、このフロアのモンスターである彼らは、スケルトンと犬と鶏以外、人間を発見し次第二足歩行で全力ダッシュして追いかけてくる。

 

まるでギャグ漫画の一コマのようで思わずツッコミを入れてしまいたくもなるだろうが、ぐっと堪えねばならない。

なぜなら彼らはもともと持ち合わせた天性の体格を活かし、人間を蹂躙してくるのである。

 

馬の並外れた筋力から繰り出される後ろ脚。

豚の突進。

牛の角と頭による頭突き。

 

何かおかしいと思う人もいるだろう。

普段からやってることと変わんなくないか、と。

 

二足歩行になったところでメリットがなく、むしろ大損しているのだ。

 

人間のように柔軟な指を得たわけではない。

硬い蹄はそのままだ。

 

農家の生き物だった彼らにそのギフトは、もらっても邪魔なだけだった。

 

それでも得たそれを使うことを強要されるがために、彼らは二足歩行で人間を襲っているのである。

 

ぎこちなく、しかし全力で。

 

例外として、鶏だけ空を飛べるようになった。

 

飛んだからってなんだ、という感じが彼らからひしひし伝わってくる。

空を飛びながらコケコッコーと鳴いているだけである。急降下攻撃とか肉体構造的にできない。卵爆撃もない、というか普通の生物はそんな事しない。

 

ちなみにこのフロアのフロアボスは牧羊犬のボーダーコリーである。

 

どでかもふもふの彼はこのフロアにおいて敵対的ではなく、人間を次のフロアに誘導してくれる貴重な存在である。

 

ただしこのフロアでなにか拾い物をしている場合や敵を倒してドロップ品を手に入れてしまった場合、彼の前で速やかに手放さなければならない。

 

でなければ彼は主のものを盗んだ罪人を追い詰め、フロアとフロアの隙間に投げ捨ててしまうからだ。

 

どこに繋がるか分からない、暗い落下穴へ。

 

その頃一方たぬきは、骸骨さんの体に日焼け止めやオイルを塗りたくり、しっぽでひーこらひーこらうちわを振り回していた。

 

尻尾にうちわをくくりつけられた時はどうしてくれようか…と思ったものです。

ペットとしての扱いを要求する、とギャンギャン怒ったところたぬきの分のフルーツをもらいました。

 

ゔゆん。

たぬきは優しいので許してあげます。

決してフルーツで買収されたわけではありません。

 

気が済むまでバカンスを楽しんだ骸骨の人は、森の奥へと足を進めていった。

水着のまま。

 

とてとてと慌てて追いかけます。

 

骨だからって羞恥心はどこに…。

たぬきはかしこいので口には出しませんでした。

顔には出てたので怒られました。

 

視界がひらけた目の前には大きないぬさんが。

 

もふもふの塊のような巨体。

しっぽはぶんぶん振られている。

 

びっくりしすぎて固まってたら、首根っこ噛まれて連れてかれました。

 

二足歩行の動物さんたちに手を振りながら、たぬきがドナドナされていった先は、大きな犬小屋でした。

 

たぬきはたぬきです。

いぬさんではありませんよ、と大きないぬさんに訴えます。こいぬさんと間違われたかもしれないので。

食べても美味しくもないですよ。

 

いぬさんはいいます。

 

きみ、ともだち。

ここ、ぼくのうち。

あそぼ。あそぼ。

 

いいでしょう。

たぬきの溢れんばかりの遊びパワーを見せて差し上げます。

 

それから半日ほど野原を駆け回り、

ほかの動物さん達も巻き込んで大運動会をしました。

 

追いかけっこも鬼ごっこもかくれんぼもたのしかったです。馬さんは二足歩行なのにいぬさんよりもめっちゃ速かったです。

なんか昔競走馬だったとかで、まだまだ走り足りないそうです。今度馬だけでレースをしようということになったので、たぬきは見せてもらうことにしました。

 

なんか途中人間さんをいぬさんが無意識に踏み潰してたのは見ないことにします。

たぬきはかしこいので。

 

たぬきはへとへとです。

 

さすがに半日はたぬきサイズのぼでーでは中々つらいものがあります。いぬさんは象くらい大きいのです。

たぬきも最近なんか速く走れるようになりましたが、それでもとても大変です。

 

地面にうつぶせになり、ぜいぜい息を切らしていたら、犬さんが大きなお皿をくわえてやってきました。

 

これ。これ。

僕のお皿。

一緒に飲も。

たぬさんも飲も。

 

置かれたお皿に二足歩行の牛たちがミルクを注ぎ込む。

並々と注がれた乳白色の液体は時折銀色にきらめいて見える。牛を倒すと得られるドロップ品、雲海の一雫である。

 

たぬき一匹から見れば風呂桶かと見間違えるほどのミルク皿を、皆で首を突っ込んで飲む光景は、牧歌的で微笑ましい。馬も、牛も、豚も、鶏も。

今だけは種族関係なしに仲良くミルクを飲んでいる。

 

ぷはぁ。

 

たぬきのお腹はポンポコリンです。

こんなに美味しいミルクは人間時代から見ても初めて飲みました。濃厚でまろやかで…、食レポはたぬきの趣味ではないのでほかの人がしてください。

 

お腹がくちくなると眠くなるものでふ。

 

めんどくさくなってその場で丸くなろうとするたぬきを、犬さんは自分の寝床に引きずり込みました。

友達と一緒に寝るのが楽しみないぬさんと雑談をしながらうつらうつらと頭が揺れだしました。

 

ぬくぬくとあったかいいぬさんに包まれ、たぬきはぐーすかぴー、と眠りに落ちてゆくのでありました。




雲海の一雫
消費アイテム。
ホルスタイン・ミノタウロスからドロップするアイテム。ドロップするときはガロンボトルに入っている。
非常に濃厚なミルクで、大ジョッキ一杯で満腹になるほどのポテンシャルを秘めている。
きわめて高い栄養価もあるため、冒険家たちは必死になって追い求めている。

実は牧場主のスケルトンから買える。
お値段1本398円なり。
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