元人間、今たぬき。現代ダンジョンを闊歩する。 作:ばリオンズ
第五階層、特殊地帯。
「呪われし黄金の大鉱山」。
正規の方法では、牧場の丘の向こう、岩肌にぽっかりと開いた巨大な坑道。
その奥の階段へ足を踏み入れると、次の瞬間にはこの階層に立っている。
人間たちが主に目指すエリアの一つであり、序盤の難所の一つでもある。
広大な鉱山地帯。
天井は高く、無数の坑道が枝分かれしている。
木の支柱と石の壁、そこかしこにランタンの灯り。
カン、カン、と金属を打つ音が止まない。
鉱山エリアのため、ツルハシの販売所が採掘地帯の直ぐ側にある。
頑丈な石造りの小屋が並び、道具が山のように積まれている。
ドワーフなどが店員としてせわしなく動いており、支払額によってツルハシのグレードも上がる。
普通の鉄製から、魔力を帯びたもの、特殊な刃を持つものまで様々だ。
モンスターが湧かない希少なエリアでありながら、死亡率の高いエリアでもある。
理由は単純。
黄金があるからだ。
黄金を掘り当てた場合、すぐにこの階層の換金所に持ち込まなくてはいけない。
この階層の黄金は、ただの金ではない。
誰にかはわからないが、呪われている。
二つ以上黄金を持つと、思考回路が黄金を掘り当てることだけに乗っ取られてしまうのだ。
頭の中が金色に染まり、耳鳴りのような声が聞こえる。
掘れ。
もっと掘れ。
まだある。
そんな囁きが延々と続く。
金を求め、ただひたすらに掘り続けてしまい、崩れた坑道で生き埋めになる人間が後を絶たない。
それだけでなく、他に黄金を持っている人間が近くにいると殺して奪い取ってしまったりと、とにかく危険性の高い魔性の黄金なのだ。
そのためこの階層では唯一の厳しいルールがある。
黄金は一個まで。
見つけたらすぐ換金所へ。
それ以上持つ者は、狂う。
あと、本当に稀にだが。
黄金の数が五十個に達した場合、黄金で出来たゴーレムが出現してしまう。
高さ三メートルほどの巨体。
関節はぎしぎしと軋み、全身が鈍い金色に輝いている。
熱以外の属性に極めて強く、斬撃や貫通系の攻撃はほぼ効かない。
刃は弾かれ、矢は折れ、魔法もほとんど通らない。
一度出てしまえばしばらく消えないので、採掘者はルールに従わざるを得ないのだ。
例え、このフロアの換金所が黄金に関しては異様に安くても、だ。
たぬき?
柔らかお手々では硬い壁を掘れないのでそもそも黄金に遭遇しない。
さて、たぬきの視点を見てみよう。
いぬさんに運ばれて大きなお山にたどり着きました。
普段たぬきが行く道は人間さんがカンカンしてるところで何時もうるさいのが悩みでしたが、いぬさんたちは特別な道を知ってるようです。
飼い主の骸骨さんと大きな荷物を背中に乗せて、カンカンしてるところのちょうど裏側あたりに到着しました。
坑道の奥、採掘地帯とは別の道。
人間の少ない静かな通路。
そこを抜けると、小さな街に出ました。
ここは小さくてゴツゴツした人間さんのたくさんいる街だそうです。
背丈の低い人たちが忙しそうに歩き回っている。
ひげもじゃで、腕が太い。
おんなの人もひげもじゃ。
大きなハンマーを担いでいる人もいる。
犬さんの飼い主さんは色んな所に牧場の商品をお届けしているからか、裏道をたくさん知っているそうです。
なんせ朝ごはんをご馳走になったとき、大きなサメさんのスニーカーが牧場の下駄箱に入ってたのです。
たぬきアイが確かなら、あれで九階層に簡単に行き来できる代物なのです。
ということはあの骸骨さんはめっちゃつよいのでは、とたぬきは思いました、まる。
いぬさんとお別れして街を散策します。
ここの人はたぬきよりは大きいですが、踏み潰されはしないので気軽に見てまわれるのが嬉しいところです。
道行く人も撫でてくれるのはありがたいのですが、そろそろたぬきの毛がごわついてきました。
ここの人たちのせいだけではなく、潮風とか骸骨さんに塗った日焼け止めとかオイルとか、そういうのがベタッとお手々にのこってまして…。
どこかお風呂はないでしょうか。
たぬきが入ってもいいやつ。
と、思ってたら飼い主さんが来ました。
たぬきの飼い主さんと、いぬさんの飼い主さんです。
どうやらこの階層のちょっとはずれに温泉旅館があるそうです。
二人のお知り合いが女将さんらしいので楽しみですね、と何故か小さくなってたいぬさんとおしゃべりしつつ抱き上げられて馬車でガタゴトガタゴトと揺られていきます。。
ここのお馬さんも二足歩行でしたが、なかなか楽しそうに馬車を引いてますね。
御者がいらないのがまた凄い。
お馬さんたちに飼い主さんたちの言葉が伝わるようで、
ちょっとゆっくり目に、とかいろいろ自由がきくのはいいところです。
たぬきの言葉も飼い主さんたちに伝わるのでなかなか楽しいです。
わかんないことを聞けば答えが返ってくる喜びが、たぬきの孤独を癒してくれています。
ああ、なんたる幸せ。
コール&レスポンスとはこのことです。
たぬきはもしや天国にいるのではないでしょうか。
そんなことを言って笑われていたら、どでかい温泉旅館に着きました。
箱根とか修善寺とか草津にありそうな、あれです。
山の斜面に建てられた大きな木造建築。
立派な門、長い廊下、湯気の立ちのぼる露天風呂。
たぬきも人間だった頃、一年に一度の贅沢で行ったものです。
貸切風呂が懐かしい。
月見風呂とか雪見風呂とか…。
と黄昏ながら飼い主さんに運ばれ、旅館のなかに入りました。
女将さんも骸骨さんかしら、と思ったら、
普通の人間に見えます。
グンバツセクシーダイナマイツです。
どういうことだこれ、なんだこれ、とパニクってぐるぐる回るたぬきを笑うみんな。
笑ってないでたぬきの疑問に答えてください。
たぬきは困っているのです。
慌てた骸骨さんがたぬきを掴み上げれば、
いつものごつごつした骨張ったお手々ではなく、生身のお手々。
顔を見上げれば。
おお、おお…。
うっわナニコレ美人。
たぬきはきっと死んだに違いありません。
おお家族よ、先ゆくたぬきをお許しください…。
泡を吹いて気絶したたぬきを女将さんは救護室に連れ込み、気付け薬を飲ませました。
なんだこのゲロまずぅ。
たぬきになる前もあともここまで不味いのは初めてだぁ。
たぬきはやっぱり死んだに違いありませぇん。
天国の次は地獄ですかぁ!
と喚くたぬきにチョップを食らわす飼い主。
ようやく静かになったたぬきに、女将さんが説明をしてくれました。
この温泉旅館は平行世界でダンジョンに山ごと巻き込まれ、客も従業員も皆死んでしまいました。
残ったのは山の女神一人だけ。
信仰が消えては自分も消えてしまうと慌てた女神と、たまたま近くに山が生えたのでやってきたドワーフの長老が、かつての温泉旅館を再興することで女神への信仰を増やそう、という計画が立てられたのです。
山仕事をするドワーフたちにとって山の女神は元から信仰の対象。多少前に信じてたものと形は違うが、温泉やうまい飯まで出してくれる女神様を信じないわけがない。
ドワーフたちの信仰により、以前よりも遥かに力を増した女神様は、死者を蘇生する力を手に入れてしまいました。
けれど、従業員たちは起き上がりません。
もう魂がないからです。
ドワーフたちは他の階層にいる霊魂たちをその身体に入れてみてはどうか、と提案しました。
その結果、蘇生自体は成功しました。
ただし、霊の生前の姿として。
従業員たちの形はどこにも残りませんでした。
それ以降、女神様は蘇生を死者の復活としてではなく、一時的な肉付けとして使うようになりました。
アンデッド系の人にも、気持ちよく温泉を味わってもらうために。
生前の姿に少しの間戻れる場所として。
たぬき?
人間には戻れませんでした。
たぬきの体は死んでないので…。
そして、その女神様こそが女将さんなのです。
たぬきは平身低頭しました。
絶対罰当たりなことしたじゃん、と。
しかし女将さんは笑って許してくれました。
中身に人が入ってても、たぬきは山の子だそうです。
なので実質女神様はママですね、とたぬきが言ったら飼い主さんのチョップがたぬ頭に炸裂しました。
それよかご飯とお風呂はまだですかね。
たぬきは、自己中であった。
呪われし魔性の黄金
売却アイテム兼フロアボス召喚アイテム
欲に目を眩ませることなかれ。
一つのみを掴んで帰れ。
ただ一つ以外を望むものは、元から持っていた大事な一つすら失う。