元人間、今たぬき。現代ダンジョンを闊歩する。   作:ばリオンズ

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第6話 たぬきぱにっく!

見渡す限り、一面のクソミドリ。

たぬきも思わず口が悪くなるこの光景に、女将も、飼い主たちも、いぬさんさえも唖然呆然である。

 

ところ狭しと現れたゴブリンの先頭をゆくは、身の丈三メートルはあろう巨大なゴブリンロード。

ゴブリンシャーマンから進化したらしく、片手に握られているのは大きな骨の杖。

人の大腿骨を削り出したかのような歪なそれは、禍々しい呪力をまとっている。

 

魔法と呪言を使いこなすエキスパートであるシャーマンの進化体。

その肩書き通り、脅威度は従来のゴブリンロードよりも遥かに上とされている。

 

そして反対の手には、大きな盾。

……人間の女性をくくりつけた、人質兼盾。

 

縄でぐるぐる巻きにされ、意識があるのかないのか、ぐったりと頭を垂れている。

盾を破れば人質も死ぬ。

あまりにも露骨で、あまりにも卑劣な防御手段だった。

 

それだけにとどまらない。

 

ハイゴブリン。

ゴブリンチャンピオン。

ゴブリンメイジ。

バンデッドゴブリン。

 

通常であれば群れの中核を担う上位種すら、ちらほらと見つかるほどの大軍勢。

しかも何体かは、やはり人質を盾に括りつけていた。

防御というよりは優位性の誇示。あるいはトロフィーとしての意味合いすらあるのかもしれない。

 

下位種のゴブリンですら、その手に刃物を構え、ニタニタと下卑た笑みを浮かべながらこちらへにじり寄ってくる。

腐臭、血臭、獣臭。

悪臭漂うおぞましい光景が、そこには広がっていた。

 

その軍勢の前に立ちはだかる影がある。

 

象ほどもあろうかと言う大きさの犬妖精、クー・シー。

その飼い主であり、趣味で骸骨になっていた魔界貴族。

そして、たぬき。

 

ただの一般たぬきです。

確かに弱いゴブリンはぺちんで倒しましたが、こんな数は聞いてません。

ひぇぇ。

 

ゴブリンロードの咆哮を皮切りに、一斉にゴブリンたちが攻め込んできた。

 

矢が、魔法の弾が、呪いが。

雨あられと空から振り注ぎ、戦場を染め尽くしていく。

無論、こんな雑な狙撃では味方も巻き込んで焼き尽くしてしまうことも少なくない。

だが最後に獲物を分け合うとき、邪魔な奴がいると自分の取り分が減る。そういう理由で、ついでに味方ごと始末している卑劣なゴブリンメイジもちらほら見える。

 

ゴブリンたちの突撃がたぬきを襲う。

 

弱いゴブリンには、たぬきの頭突きや尻尾アタックも有効である。

しかしハイゴブリンの上位種となると話が変わる。

ペチペチ。

まさにその程度の威力しかないのだった。

 

うっとおしげにたぬきの腹を蹴り飛ばしたハイゴブリンは、その直後、足の指がへし折れてのた打ち回ることになった。

 

このたぬき、スライムを常食するかわり者であったが、なかでもベリースライムが好物である。

 

ベリースライムのベリーゼリーにはDEF+1の永続効果がある。

さて、1年365日、1日3食をモットーとするこのたぬきが、ベリースライムを食い漁った数。

ざっと2年で約1400匹。

 

結果、たぬきのDEFは1400を超え、並大抵の盾など目ではないほどの硬さを手に入れてしまった。こんな物を蹴れば指先程度では済まされず、足全体の骨に致命的なダメージが伝わっていることだろう。

 

当の本人は、腹を蹴られて吹っ飛び、木にぶつかっていた。

うわぁん、たぬきはもうおしまいです。

このまま鍋で煮られてたぬき鍋になってしまうんです。美味しくいただかれてしまうんですぅ。

 

と喚き散らしていた、そのとき。

 

たぬきの背中が、ぴかりと光った。

たぬきより一回り小さな、一匹の金色のたぬきが飛び出してきたのである。

 

ぽんぽこ、と鳴く金たぬき。

その小さな体がひときわ強く輝いた瞬間、空の色が変わった。

 

青空が一瞬で覆われ、黒い雲が渦を巻く。

ざぁざぁと豪雨が降り始め、足元の土はみるみるぬかるんでいく。

 

ゴブリンたちは足を取られ、滑り、転び、喚き散らす。

 

そして、

ピッシャーン。

ゴロゴロピシャーン。

 

雷が落ちた。

 

一度。

二度。

三度。

 

怒号のような雷鳴とともに、戦場に稲妻が叩きつけられる。何度も、何度でも、ゴブリン達を稲妻が薙ぎ払う。

 

直撃したゴブリンロードは、口から黒い煙を吐き出しながらも、かろうじて息があるようだった。

だが他のゴブリンたちはそうはいかない。

 

落雷に打たれて消し炭になったもの。

焼け焦げて地面に転がるもの。

そのまま動かなくなったもの。

木に隠れて側撃雷にやられたもの。

ついでに盾についてた人も巻き添えになった。

 

死屍累々の光景が広がっていた。

 

たぬきは、がくがくする足を必死に突っ張って立っている。

だが金たぬきが背中へ飛び込み、そのまま消えてしまったので、慌ててその場でぐるぐる回り始めた。

完全にパニックモードである。

 

だ、だれか!たぬきに!たぬきに説明を!

何もわかりません!助けてくださぁい!

 

 

一方、いぬさんことクー・シーは、高らかな遠吠えをあげた。

 

その声は、まるで山そのものが唸ったかのように低く深く、そして遠くまで響いた。

谷を越え、森を越え、山の奥向こうまで届くほどの遠吠え。

 

一瞬の間もなく、ゴブリンたちの背後から、どっと影が押し寄せた。

 

無数のオオカミ。

そして野犬の群れ。

 

第四階層フロアボスの特性、仲間を呼ぶ。

フロアに応じて異なる仲間が呼び出され、より厄介な攻撃を繰り返す能力。

今回は山に住むオオカミたちが応じたのだ。

 

群れは一斉にゴブリンへと襲いかかる。

 

悲鳴。

骨の砕ける音。

肉を引き裂く音。

 

戦場の後方は、あっという間に地獄と化した。

 

そして、その中心にいたのがクー・シーである。

 

象ほどの巨体が跳躍し、ゴブリンチャンピオンの頭部にがぶりと噛みついた。

そのままぶんぶんと振り回す。

 

壊れたおもちゃのようにチャンピオンの体が振り回され、巻き込まれたゴブリンたちが次々と吹き飛んでいく。

木にめり込み、岩に叩きつけられ、あるいはその場でミンチになる。

 

チャンピオンがぐずぐずの肉塊になれば、ぺっと吐き捨てる。

そしてすぐに次の獲物へ。

 

前足で叩けば、ゴブリンなど熟れた果実のように弾け飛ぶ。まるでモグラ叩きでもしているかのようにぺちん、ぺちんと叩いて潰して遊ぶ始末。

 

群れの頂点捕食者。

それがクー・シーだった。

 

ひとしきり暴れたあと、満足したいぬさんはしっぽをぶんぶん振りながら飼い主のもとへと走り寄る。

その途中でも無数のゴブリンを轢き潰し、ぺしゃんこになった残骸が道を作っていく。

 

飼い主の前でぴたりと止まり、頭を差し出す。

褒めてほしいらしい。

 

飼い主は声を上げてにこにこ笑い、もふもふの頭を抱きしめてなでた。

クー・シーは満足そうに目を細め、さらにしっぽを振った。

 

さて、飼い犬がこれだけ頑張ったのなら、飼い主もいいところを見せなければならない。

魔界貴族はコートの内側から何かを取り出した。

 

農業用の、小さな鎌だった。

 

思わずたぬきも逃げ惑う足を止めて見てしまう。

あまりにも場違い。

あまりにも素朴。

しかし異様なほどに悍ましさを感じる。

 

だが次の瞬間。

 

えーい。

 

気の抜けた声とともに、鎌が振られた。

 

空間が裂けた。

巨大な三日月型の斬撃が、ゴブリンの軍勢めがけて飛んでいく。

 

森を横断するような斬撃。

空気が震え、地面の草が一斉に伏せた。

 

ゴブリンたちは気づいたときにはもう遅い。

 

斬撃が通過した軌道上にいたゴブリンが、まとめてすっぱりと両断された。

十体、二十体、百体。

もはや数える意味もない。

 

まるで草刈りでもするかのように、緑色の群れがごっそり消えた。

 

あっちゃー、ちょっとやりすぎちゃったかな。手加減って難しいねぇ。

 

魔界貴族さんのその言葉を聞いた瞬間、たぬきは慌ててゴブリンロードめがけて走り出した。

本能的に己に迫りくる恐怖の対処は、そこにしか活路がない。命懸けで走らなくては!

体を駆け上がり、その頭を踏んづけて勢いよく跳躍する。

 

直後。

たぬきがさっきまでいた空間を三日月の斬撃が通過した。

 

当然、ゴブリンロードも真っ二つ。

ゴブリンたちを切り裂き、岩を割り、森の木々を数十本まとめて薙ぎ払って、ようやく斬撃は消えていく。

 

空中でくるりと回転しながら、たぬきは思った。

なんとか尻尾の毛の先が切れるだけで済んでよかったなぁ、と。

 

ふわりと揺れる、自慢のふかふかしっぽ。

先端が、ほんのちょっとだけ短くなっていた。




たぬき lv 39
STR:250
DEF:1500
DEX:450
AGI:350
INT:180
LUK:60

異能
【たぬき転生】
【賢者の叡智】
スキル
【雷獣の加護】
【スライムキラー】
【たぬきアイ】
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