元人間、今たぬき。現代ダンジョンを闊歩する。   作:ばリオンズ

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第7話 ふてくされたぬき

暴れに暴れたあと、というのはたいてい悲惨なものだと、たぬきになる前から知っています。

 

癇癪を起こして暴れた幼少期。

喧嘩で暴れてしまった少年期。

サバゲーで暴れ倒した成人期。

 

どれもこれも、そのあとに待っているのは悲惨な後片付けでした。

 

散らばった物。

壊れた物。

怒られる自分。

 

ああ、あの頃も大変だったなぁ、と。

たぬきは今さらながらにしみじみと思い出します。

 

そして現実に目を向ければ。

 

森はめちゃくちゃ。

木は何十本も倒れている。

地面はクレーターだらけ。

ゴブリンは炭、ミンチ、あるいはよくわからない何かになって転がっている。

 

うん、これはひどい。

死屍累々?死体はもうほぼないです。

 

現実逃避している場合ではないぞ、と。

飼い主さんに頭をぐりぐりされながら、たぬきは思うのでした。

 

しかし、ここで一つ重大な問題があります。

 

たぬき、実際なにもしてなくないですか。

金色たぬきさんが出てきて、勝手にゴロゴロドーンってしただけじゃないですか。

あれたぬき関係あります?

たぬき悪くない。

 

むしろですね。

たぬき、ゴブリンに殴られたんですよ。

いや蹴られました。

お腹を。

 

ほら見てください、とばかりに、たぬきは自慢の毛皮をぺたぺた叩く。

確かに、ふかふかの毛並みがちょっとへこんでいる気がしなくもない。

 

しかも雨でぬかるんでドロドロです。

毛皮ぐっちゃぐちゃです。

これ乾かすの大変なんですよ。

 

つまり、たぬきは被害者です。

怒られるのは筋が違いません?

 

どっちかって言えばですね。

森とか岩とかいっぱい壊した、いぬさんの飼い主さんのほうが悪くないですか?

 

さっきの三日月ビーム。

あれ完全にやりすぎですよね。

 

たぬきのしっぽも危うくちょん切れるところでした。

マジ卍。

 

ゔゆんゔゆん。

 

尻尾を振り回しながら文句を言い募るたぬき。

被害者の立場を得た以上、図々しさを全力で発揮するのがこのたぬきである。

 

まあまあ、と女将がなだめる。

貴族さんも困ったように肩をすくめる。

 

だが、飼い主さんの拳は容赦がなかった。

 

ごん。

たぬきの頭に、見事なげんこつが落ちた。

たぬきの鋼鉄ぼでぃを無視し、

たぬきの精神に大ダメージ。

たぬきは倒れた。

 

ばたん。

 

愛ある拳に防ぐすべなし、とどこぞのお爺さんも言っていましたが、

わがままたぬき程度では、飼い主さんの愛は超えられなかったようです。

 

しばらくして、ぺちゃんこになったたぬきが地面に転がる。

泥まみれの毛皮。

ぺたんとつぶれた耳。

しっぽもぐったり。

 

そして小さく、情けない声が漏れる。

たぬきは……被害者ですぅ……。

 

だがその主張は、誰にも取り合ってもらえなかったのでした。

 

そんなしょんもりたぬきが斬撃跡の荒れ果てた大地を見回せば、ぽつり、ぽつりと宝箱や鉄鉱石、棍棒、ポーションなどがそこら辺に転がっていた。

 

ゴブリンの軍勢が残した、ダンジョンからの報酬である。

 

ゴブリンのドロップ報酬のうち、上位種にあたる存在は、稀に複数のアイテムを落とすことがある。

例えばゴブリンチャンピオンならば、

 

・チャンピオンのこん棒

・チャンピオンのベルト

・鉄鉱石×10

・ハイポーション

 

こういった品が、極めて低い確率でまとめてドロップする。

 

そして複数種類のアイテムが出現する場合、それらは宝箱に詰められた状態で現れるのだ。

 

なぜそんな仕様なのか。

 

ダンジョンのシステム的な問題なのか、あるいは世界の法則なのか。

その理由は誰にもわからない。

 

少なくとも、たぬきにはさっぱりわからない。

ただし、苦い経験はある。

 

以前、たぬきは宝箱を見つけたときこう思った。

箱って寝床にちょうどよくないですか?

中身を取り出して、空箱で丸まって寝ればふかふかじゃないですか。

これは名案では?

 

そう思って中身をぽいぽい取り出した瞬間。

 

箱は、すうっと消えた。

 

そのとき、たぬきはふてくされた。

ものすごく、ふてくされた。

 

なお、その時に中身の中にあった妙に光る小さな結晶を、なんとなく口に入れて飲み込んだ覚えがある。

ピリピリとしたはじける炭酸の味がして、ちょっと美味しかった気もする。

 

その結果どうなったかと言えば。

 

たまに体の奥から雷みたいなものが溢れ出て、金色の幻影たぬきが大暴れするようになった。

といっても先程のゴブリン戦が初使用なので、たぬき本人はそんな力が使えるなど思ってもいない。

 

 

それはさておき、怒られてふてくされたたぬきは、転がっている宝箱の中でもひときわ豪華なものを見つけてしまった。

 

箱の表面には宝石がこれでもかと埋め込まれ、縁は金細工でびっしりと飾られている。

明らかに、そこらのゴブリンが落とす代物ではない。

 

これは6層フロアボスのゴブリンロードのドロップ品だった。

 

しかもただのボスではない。

チャンピオンからロードに進化するのではなく、シャーマンからウィザード、ウィザードからロードへ進化するという、変異個体である。

 

つまり、この宝箱の中身はまだ誰も見たことのない報酬である。

 

たぬきはそれを理解していない。

ただ思う。

 

豪華な箱はいい寝床になるに違いない。

なら、旅行先でのベッド代わりにしたいなぁ。

 

よし、運びましょう。

 

たぬきは箱に足をかけ、中身をよいしょよいしょと引きずり出そうとした。なんかこれ重いなぁ、なんて思いながら。

 

箱が、すうっと消えた。

 

あれ?

と思った刹那。

口の中は空っぽ。

代わりに背中に、なにかが触れた感覚。

少し重いものがおぶさったような、そんな感じの感覚。

 

ぴしり。

たぬきは固まった。

 

そして。

 

取れません!取れません!

これ取って!これ取って!

たぬきになにか貼り付いてます!!

助けてぇ!!

 

相変わらずのビビりっぷりである。

 

地面をぐるぐる転がり、背中を木にこすりつけ、しっぽを振り回して大騒ぎするたぬき。

 

だが、取れない。

 

いくら暴れても、びくともしない。

女将や貴族さんが近づき、よく見てみると、

背中についていたのは風呂敷だった。

 

緑色の地に、ぐるぐるとした唐草模様。

いかにも昔ながらの、物を包むための布である。こそ泥チックなデザインがたぬきによく似合っている。

世が世ならたぬかわでバズりまくりであった。

 

ただし普通の風呂敷ではない。

たぬきの首元に、まるで最初からそうだったかのように結びついている。

どんなにたぬきが引っ張っても、解ける気配すらない。

 

たぬきは涙目で叫ぶ。

 

取れませんってばぁ!!

これ絶対呪いのやつです!

たぬき呪われました!!

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐたぬきをよそに、飼い主さんは、その風呂敷をじっと観察してから、ぽつりと呟いた。

どう見ても、便利アイテムだよねこれ。

どうやらフロアボスの報酬は、背負うタイプのアイテムボックスだったらしい。

ほかのドロップ品もこのアイテムボックスの中に入っていたために、宝箱がすぐ消えてしまったようである。

 

なお、当のたぬきは、まだ自分が新しい装備を手に入れたことに気づいていない。

 

呪われたんだぁ!たぬきはもうおしまいですぅ!

 

背中の風呂敷を見ようと、ぐるぐるその場で回りながら叫んでいたたぬきは、やがて力尽きたようにその場にぺたりと座り込んだ。

しばらくのあいだ、後ろ足で背中を掻いたり、尻尾でぺしぺし叩いたり、地面に背中を擦りつけたりと必死の抵抗を試みていたのだが、どれもこれも効果はなかったのである。

 

最後にもう一度、うんうんと力を込めて体をねじってみる。

当然、取れない。

 

たぬきは静かに空を見上げた。

終わりました。

たぬきの人生、ここまでです。

 

ぽつりとそんなことを呟き、やがて観念したようにその場で丸くなる。

しっぽを体に巻きつけ、ぺたりと耳を伏せる。

 

これはもう、だめなやつです。

呪われたやつです。

このあときっと石になったり、爆発したり、あるいは風呂敷に包まれてどこかへ飛んでいくに違いありません。

 

そう考えると、急にいろいろどうでもよくなってきた。

たぬきは、完全に諦めてしまった。

背中の風呂敷はそのままに、ころんと横向きになり、しっぽで顔を隠す。

もう好きにしてくださいという態度である。

 

その様子をしばらく眺めていた飼い主さんは、やれやれとため息をついた。

 

そして、ひょいと。

丸まったたぬきを持ち上げた。

 

思っていたよりも軽い。

スライムを食べ続けてやたらと硬いくせに、体重は普通のたぬきと大差ないのである。

 

たぬきは持ち上げられても抵抗しない。

されるがまま、ぐったりしている。

 

もうどうでもいいです。

どうせ呪いです。

完全に諦めきった顔で、だらんと前足を垂らしている。

飼い主さんはそのまま、たぬきを小脇に抱えて歩き出した。

向かう先は温泉旅館の浴場である。

 

泥だらけ、血だらけ、煤だらけ。

戦闘のあとにそのまま放っておくには、あまりにもひどい状態だった。

とりあえず洗いましょう。

そんなわけで、たぬきはずるずると風呂場へ運ばれていくことになった。

 

その後ろを、小さな影がてちてちと追いかけてくる。

 

さっきまで象ほどもあったいぬさんである。

戦いが終わると同時に、いつものサイズまで小さくなっていた。

今は中型犬くらいの大きさで、ふさふさの尻尾を振りながら歩いている。

先ほど大暴れしたとは思えないほど、機嫌がよさそうだった。

 

途中、ぺしゃんこになったゴブリンの残骸を避けながら、てくてく歩く。

そして飼い主の足元まで来ると、ぴょこんと顔を上げた。

 

一緒にお風呂に入りたいらしい。

 

さらにその後ろから、もう一人。

魔界貴族さんも、のんびりと歩いてついてきていた。

戦いの最中に振り回していた農業用の鎌は、いつの間にかコートの内側へ戻されている。

 

周囲の惨状をゆっくり見回す。

 

倒れた木々。

割れた岩。

炭になったゴブリン。

穴だらけの地面。

 

うんうん、と何度かうなずく。

いやあ、今日はなかなか派手でしたねえ。

そんなことをのんきに言いながら、ゆっくり歩いていく。

 

前では、飼い主さんがたぬきを抱えて歩いている。

腕の中のたぬきは、まだ完全に諦めきった顔をしていた。

 

どうせこのあと呪いが発動して、爆発するかもしれません。

でもお風呂に入るなら、それもまあ悪くないです。

そんな妙な納得をしている。

背中では、唐草模様の風呂敷がぺたりと貼り付いたまま、微動だにしない。

まるで最初からそこにあったかのように、しっくりと収まっている。

 

やがて一行は、旅館の浴場へとたどり着く。

戦いの後片付けは、まだまだこれからだ。

そして何より、泥まみれのたぬきを、まず洗わなければならないのであった。




アイテム名:糸も奇妙な風呂敷(ワンダーワイド)
レアリティ:SSR
破壊不可
背中装備アイテム
アイテムボックスとして活用できる。
風呂敷に手を突っ込む必要はなく、イメージするだけで出てきてほしい位置に物が出現する。
また、初めて触れたもの以外の使用は不可。
本来ゴブリンエンペラーのドロップ品。

王が逃げるとき、すべての財宝はこの中に。
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