イーフェと奇妙な館 作:イーフェの手記
明らかに事後であろう疲れた様子のトーシュエンに二度寝を伝えられた俺。
ポイントで出したレトルト食品を朝食として食べ、1人虚しくゲームで過ごす……と行きたかったが、そうはいかない。
なにせ、ツヴァイがこの屋敷に来たのだから。
部屋の場所は、トーシュエンから聞いている。
「もしもし〜ツヴァイさんですか?」
開きっぱなしのドアの外から、俺はボロボロのツヴァイに声をかけた。
俺がツヴァイに会いに行った理由。
それは無論、彼が持つであろう加護について調べたいからだ。
ゴース家の繋がるイヤホンはオンにしてある。
というか、そうでもしないと交渉が始まりそうにないしな。
「あ? 誰だてめぇ?」
『久しいな……ツヴァイよ』
そう、今回の交渉はロンドにやってもらう事にした。
一応、同じ十字八剣だ。
多少は話が通じるかもしれない。
「ポケットに通信機か?
そして、その声。聞き覚えがある様な」
『俺だ……十字八剣が一、ロンドだ』
「おいおい、声が老けたんじゃねぇのか?
ロンドさんよぉ?
それに通信機で遠くからとは、この最強の俺がそんなに怖いかよ?」
『そうではない……。
貴様が死して、こちらでは20年の時が経ち、事情が変わったのだ』
「へぇ、20年ねぇ?
つまり、テメェはもうおいぼれって訳だ。
万に1つも俺に勝ち目はなくなっちまったなぁ!」
なんで、こいつはこんなに自信満々なんだろう。
ケインツェルと言い、なんでこいつらは大して強くもないのに自分を最強だと思ってるんだ。
まぁ、俺より強いのは確実だが……。
『それでも良い……。
かつての同胞ツヴァイ。
貴様に折り入って頼みがある』
「はっ!
無口で大して話した事もないテメェが、今更この俺の力に頼ろうってのか?
雑魚の分際で都合が良すぎやしねぇかい?」
『…………』
無言だ。この間は怖いな。
だが、ロンドがこの程度で怒るような性格ではないのは知っている。
おおよそ、どう切り出したものか考えているのだろう。
『……貴様を気絶させた者の正体は、我ら十字八剣の長 シルバの亡霊 名をトーシュエンという』
おっと、その情報をもう出すのかよ。
「なに!? あのどこにでもいる様な男がシルバの亡霊だと!?」
『俺は元々、奴はシルバに似た何かがあると思っていた……。
よもやシルバの亡霊とはな』
「シルバの亡霊がB.B.ライダーとつるんでいやがるのか?
おい! テメェ!
ロンドじゃなくて、突っ立ってるテメェだ!」
あぁ、俺か。
呼ばれた以上は部屋に入り、ドアを閉めつつ返事をする。
「なんですか?」
「雑魚、テメェもB.B.ライダーとつるんでるのか?」
「ニトスさんの事ですか?
まぁ、同じ屋敷に今は住んでますが」
「へぇ、そうかい?
なら、話が変わったぜ。
シルバの亡霊相手じゃ、さすがの俺も少しは手こずるだろう」
手こずるというか、完敗だったのでは……?
「正体を知った今、慢心はしねぇし遅れを取るつもりもねぇが……。
雑魚のテメェを使って、B.B.ライダーを呼んだ方が話が早ぇよなぁ?」
『イーフェ! 来るぞ!』
来る!? は?
え? 戦闘ですか!?
俺がツヴァイに勝てる訳無いじゃんムリムリ!
「…………オーケー、ロンドさん」
(※ムリじゃなかった!?)
……と、どこかの百合ラノベのタイトルみたいな展開にしてくれよう。
「オラァ!」
ツヴァイから、溢れんばかりの闘気が放出される。
ニトスを牢屋に捉えた時のあの技だろう。
あの時点のニトスすら気絶したのだから、俺が喰らえばひとたまりもない。
「雑魚は寝てな……んだと!?」
「少し甘く見過ぎじゃないか?」
痛くないねえ! ハーハッハッハ!
そう思いつつ、イヤホンを耳に着け、ロンドの声をツヴァイに聞かれないようにする。
『…………上手くいったようだな』
「えぇ」
『それで、ここからどう勝つつもりだ?』
「俺の攻撃だけで行けます」
『分かった……では俺は引き続き、援護に徹しよう』
ロンドンとの会話は、そこそこにツヴァイと再び向かい合う。
「ちぃ! ふざけやがって!
だが、これはどうだ! スパイラルレイザー!」
「無駄無駄!」
「スパイラルクロー!」
「貧弱貧弱ゥ!」
部屋中の物を巻き込みながら、怒り任せに俺を攻撃してくるツヴァイ。
痛くないなぁ! 無論、俺が最強だからよ!
……と、いう訳ではなくて、ロンドのおかげである。
この屋敷ではポイントで様々なスキルが取得できる。
そして、その中の1つに「ゆうしゃのはなみち」に出てくる「投影法」という技もあった。
これは簡単に言うと、自分のステータスを対象の相手に上乗せするという技だ。
まず、これを俺がポイントで習得し……後は、それを参考にロンドに見て覚えてもらった。
無茶苦茶な話だが、実際に出来てしまったのだ。
通信機越しに見ただけで出来るとは、さすがロンドとしか言いようがない。
そしてこの「投影法」はロウリィの技術をプラスする事で、射程がとんでもなく広がった。
要するに。
今、屋敷という異世界に居る俺もイヤホンを付けていれば、ロンドのステータスを発揮できるようになるのである。
だが、ステータスが凄くても使うのはしょせん俺。
頭の方が追い付かない。
例えば敏捷を借りたら、速すぎて壁に激突不可避である。
よって、俺が借りられそうのは精々ロンドの防御力だけ。
今はロンドの防御力を借りて、ツヴァイの攻撃を無力化しているが、「投影法」で出来るのはそれどまりだ。
しかし……それさえ出来れば、後は何とかなるのだ。
「ツヴァイさん!
ボロボロの体で無理は良くないですよぉ!
いや、万全でも同じ事でしたかねぇ!?」
人から借りた防御力で全力で粋がってみる。
だが、さっきからのこれはあくまで作戦の内だ。
ツヴァイを暴れさせるための、な。
「ふざけやがってぇ!」
ツヴァイの攻撃は続く。
正直早すぎて、その動きは全く見えない。
怒りで、部屋を破壊しまくってる事くらいしか分からない。
全身怪我でこの動きとか、いくら何でも強すぎる。反則だ。
作品によっては、もうラスボスになれるレベルだ。
……でも勝てる。
行くぞ!
ここから、俺が大金をはたいて手に入れたスキルの出番!
「支配の金鞭(ゴールデン・フルスタ・ドミネイト)!」
虚空から金色の鞭を取り出し、地面を叩く。
「何っ!?」
俺の立つ所以外の地面がグニャリと変質した。
それだけではない壁がベッドが、否、部屋全体が変質する!
「行けッ!」
部屋全体が生き物のように意思を持ち、ツヴァイに襲い掛かる。
その速さは俺の眼では見えず……。
気づけば変質した床とベッドの足によって、ツヴァイは拘束されていた。
「俺が壊したはずの床とベッドが!」
「まぁ一旦落ち着きましょうや」
「ふざけやがって!
こんなちんけな拘束で俺が終わるとでも思うのか!?」
「それは分かりません」
だが、ツヴァイ。
お前じゃその拘束は解けないとだけは言える。
なぜなら、その拘束のエネルギー源はお前自身の攻撃なのだからな。
俺は、ツヴァイが部屋中に放った攻撃のエネルギーを餌にして、部屋そのものを生物……。
否、使い魔へと作り替えた。
「支配の金鞭(ゴールデン・フルスタ・ドミネイト)」
それが、このスキルの名前である。
これは、「魔法少女にあこがれて」という漫画・アニメに出てくる「フルスタ・ドミネイト」という武器をベースに、俺がポイントでカスタムしたオリジナルスキルだ。
ちなみにオリジナルの「フルスタ・ドミネイト」はというと。
主人公にして、魔法少女の敵対組織エノルミータの首領マジアベーゼ(柊うてな)が持つ武器である。
この武器は、鞭を振るった無機物や植物などを魔物に変える力を持つ。
強力な能力だが、魔力あっての代物。
初級魔法しか使えない俺では、原作仕様だと大した力を発揮できないだろう。
そこで俺はポイントを追加投資し、仕様変更を行った!
その結果、魔物ではなく使い魔を生み出せる仕様に。
さらに!
使い魔を生み出す際のエネルギー源は自身の魔力だけでなく、エネルギーであれば種類を問わない仕様へと変更した!
仕様変更だけでかなりポイントを使ったが、その価値は十二分にあった。
なにせ、物体に使い魔を生み出すだけのエネルギーが籠っていれば、魔力ゼロでも使い魔を生み出せるんだ。
つまり、今回の場合。
ツヴァイが怒りに任せて部屋中を攻撃したので、部屋全体にエネルギーが込もった。
なので地面を鞭で叩く事で、部屋そのものが俺の使い魔と化したのだ!
散々あおって攻撃させたのも、全てはより強力な使い魔にする為。
ツヴァイの攻撃で生まれた使い魔だからこそ、ツヴァイに拘束は解けない!
初めにわざわざ部屋のドアを閉めたのも、全てこの為の布石よ!
「ツヴァイさん。
俺程度に苦戦していたら、B.B.ライダーには絶対に勝てませんよ」
「!」
「まぁ、さっきのは俺も調子に乗りすぎましたので、反省します。
ですが、一旦ロンドさんの話を聞いてください」
「……ちっ、分かった。
俺の負けだ。ただし、次は万全の状態でやらせろ」
え? なんで当然のように次戦があるの?
「お前もB.B.ライダーの後に倒す。
だが、この怪我じゃ無理だ。
こんな怪我さえなきゃ、お前もB.B.ライダーも瞬殺できたのによ」
いや俺は分からんが、ニトスは絶対無理だろ。
「俺、一応回復魔法使えますけど」
「なに!? 治せ!」
「良いですよ……あっ」
1つ、良い使い魔の使い方を思いついたぞ。
よし、今後の為にこれで……。
「どうですか? 良くなってきたでしょ?」
「やるじゃねぇか。体が軽いぜ!
なら、景気付けにテメェからあの世に送っ、ヌオ!?」
ツヴァイは、その場に突如座り込んだ。
「はい、そう来ると思いました」
「何しやがった!」
「回復魔法を使えるけど、回復魔法で治すとは言ってないですよね?
体に使い魔を埋め込んで、傷を塞がせてもらいました。
使い魔の主人である俺に攻撃しようとすると、ツヴァイさんの体は止まります」
俺は部屋全体を使い魔に変えた。それ即ち、部屋の大気すらも使い魔に変えたという事である。
呼吸をする以上、ツヴァイの体内には部屋の大気が入っている。
つまり、既に体内に俺の使い魔が侵入している状態なのだ。
そこから体をいじって、傷を塞ぐ事もセーフティをかける事も可能!
ふっ、我ながら完璧な考えだ。
ちなみに、この考えが上手くいく確信は……当然なかった!
つまり賭け! あぶねええええ!
もし上手く行ってなかったら、ツヴァイに不意打ちされて死ぬ所だったぜ!
はい、そう来ると思いました(←でも、速すぎて対応出来ない)
ってなる所だったあああああ! あぶねええええ!?
幸運にもステータス振っといて良かったああああ!
やっぱ、ツヴァイ強すぎるだろ!
「ちっ! 厄介な事しやがったな。
まぁ良い。テメェなんざいつでも消せる。
それより、今は傷を治した事を感謝してやるよ。
……今すぐにB.B.ライダーを連れてこい。
それで俺の体に小細工をした事には目を瞑ってやる」
「勿論、良いですよ」
「B.B.ライダーが俺にビビって逃げようとしても、連れてこいよ?」
逆じゃないのかよ。
「ちなみに良ければ、俺から聞きたい事があるんです」
「なんだ?」
「あなたを黄泉の国に送ったモノについて」
「あー、いいぜ?
俺、あいつ気にくわねぇから別に話しても。
ただ、第1にB.B.ライダーな。話はそれからだ」
なんかニトス連れてきたら、話してくれそう?
あれ? これロンドいらなかったんじゃね?
まさか、加護を授けた相手の事をそんなに悪く思ってたとは。
『俺は……必要だったか?』
思わず、ロンド本人も言ってしまっていた。
「た、助かりましたから」
『慰めはよせ……お前が交渉していれば戦闘などなかった』
それはない……とも言い切れないけど!
でも終わった事は仕方ない!
俺はまずこの場にニトスを連れてくる事にした。