イーフェと奇妙な館 作:イーフェの手記
ロウリィの話はこうだった。
ナギの上司……説明の際、便宜上Uとロウリィが呼んだその人物。
その者はあらゆる能力を持ち、しかも他人に与える事が出来る。
まさしく神というにふさわしい能力の持ち主であり、本人自身の戦闘力も高いらしい。
だが、そんなUでも実現できない事があった。
それは、自分の運命を変える事だという。
どういった運命なのかはロウリィも聞かせてもらえなかった。
しかし、Uは運命を変える為、世界の始まりを変えなくてはいけないと考えたようなのだ。
「つまりそれは……。
世界の始まりである絶対悪が無かったことになれば、全く別の歴史になって運命が変わるという理論ですか?」
「まぁ、間違ってはないな」
絶対悪の無かった世界にする。
それは、ゾディアーク3章の終わり方そのものだ。
なら、Uの正体はゾディアーク世界の住人。
と、一瞬思ったが、それだとおかしい。
“自分の”運命を変えたいというのが引っかかる。
シュガーもヨハンもベロニカもコノハも誰もが。
味方側の主要キャラは全員、自分の為に命を懸ける事をしないのだ。
なのに、”自分の”運命を変える為というのが引っかかる。
「その顔、イーフェは察したな。
そう、Uはここから遠い世界から来た。
アースガルドを起源としない遠い世界からな」
「えっ?
じゃあ起源変えても、Uの運命は変わんないんじゃ?」
「まぁ、そう結論を焦るな。
奴が自身の住んでいた世界の下部に、我々の世界を置けるとした場合どうだ?」
「すまん、お嬢。
全く意味が分からないんだが」
俺は分かった。
そうか。
Uは、「ゆうしゃのはなみち」でシュガーがやったみたいな事が出来るのか。
「ジークにも分かるように言おう。
まず、ディライが消滅した場合の事を考えろ。
初めから無かったかの様に消滅した場合をな。
そうなるとだ。
アースガルドから枝分かれした世界に住む我々は、歴史の変化により、存在ごと消滅する。
これは、この世界がアースガルドを母体としているからだ。
では母体を、Uの居た世界へと切り替える事が出来たとしたらどうなる?
そうアースガルドの起源が変わったとて、我々の世界は消えないのだよ」
「!
奴はアースガルドに代わって、この世界の親になろうとしているのか!」
「その通りだジーク。
正確には、奴が元いた世界を親世界にだがな?」
「なんてやつなんだ……。
でも、それがUの運命を変えるのとどう繋がるんだ?」
そこで口を挟んだのは意外にも、これまで黙って話を聞いていたツヴァイだった。
「アホか。
ここまで来れば分かるだろうが。
奴は自分の支配下の世界を増やす事が目的だ。
それで、運命とやらを変えるつもりなんだろうよ」
そう、それとしか考えられない。
「ツヴァイのくせにやるな。
その通り。
奴はディライを消す。絶対悪の消滅自体は咎められる行為ではない。
しかし、それは下部世界の崩壊を意味する。
私達を含む下部世界の存在は消えたくないよな?
だから、世界存続の為にはUの味方にならざるおえん。
こうやって子世界を増やし、運命を変えようとしているらしい」
アースガルドの下部世界……。
なるほど。ナギが奴の部下だった事にも納得がいった。
大方各ゴリッチュ作品の世界から説得しやすそうな奴を選び、味方にしてるんだろう。
だが、だとするとだ。
「当然、下部世界にはUの目論見を止めようとする奴もいますよね?
全てはディライが消滅する事が前提の計画。
絶対悪の味方になろうとも、世界の為にディライを守ろうとするものもいるでしょう」
「うむ。
そして、その露払いを任されたのが私という訳だ。
ダイナマイトもその一環よ。
トーシュエンの正体がよもやシルバの亡霊とは私も知らなかったがな。
なんであんな普通の奴に、特殊なダイナマイトを作る必要が? とも思っていたが、納得したよ。
最もハイブリッドの怨霊を飲み込んだのを見た時から、おかしいとは思っていたがな」
ロウリィはそれで良いのか?
世界崩壊を逃れる為とはいえ、Uの下部に付くのは?
「お嬢! なんでそんな事を!
世界が訳の分からん奴の下に置かれて良いのか!?」
喰ってかからんばかりのニトス。
だが、ロウリィは冷静にこういった。
「ジーク、先に協力者と言ったのを忘れたか?
奴を召喚したのは……他でもない私だよ」
「なに!?」
「この屋敷の中だと、話の制限が緩いと言ったな。
あれは私がUのマスターだからだ。
奴は私の領地のアークスでは、上手く力を発揮できないし、私に危害を加える事も出来ない」
えっ、なら、元凶やっぱロウリィじゃん。
「私の目的、それはジーク。
お前の運命を変える事だ。それは今も変わっていない。
だがな。
研究の結果、アースガルドを母体とした今の世界体制ではジークの運命は変化しない事がわかってしまったのだ。
だから、世界を根本から変えるような存在を呼ぶ必要があった。
そこで呼んだのがUという訳だ。
奴の持つ目的とも合致して、良い協力関係が築けている」
やはり……目的はニトスか。
悲しい事に。
「俺のせいというわけか」
「違う!
お前はようやく救われるのだ!
黄泉の国にお前が居ない今、黄泉の国のバランスが少し崩れている。
世界に変革が起きそうな好機なのだ!
後、少しで上手くいくはずなのだ……」
それは……悲痛にも聞こえた。
20年間、ひたすらに。
ただひたすらに、運命を変える事に人生を捧げた者の執念の言葉にも聞こえた。
そんなロウリィの言葉を聞いたニトスは。
「お嬢、もう良いんだ」
「……ジーク?」
「確かに俺は世界の敵となり、1200年過ごした。
だが、最期にお嬢に逢えたじゃないか。
そうして、今もこうして話せている。
それだけで十分だ。
だから、世界を変えるまで大層な事をしてまで、俺の運命を変えるなんて言わないでくれ」
「だ、だが……それではお前は。
永遠にあのループのままだぞ!
何度も終わりなく、次のお前が1200年を繰り返すのだぞ!」
「それで良い。自分で選んだ道だ。
それよりもお嬢が楽しく暮らしてくれる方が俺は嬉しい」
ニトスは微笑みながらそう言った。
そんな様子を見て、ツヴァイすらもロウリィに対して声をかけた。
「へっ。
何の話かわからんし、ついてけねぇぜ。
だがよ、ロウリィ・ゴース。
アンタが元凶だとしても、そいつは許しちまうような男だぜ。
そんな最高にムカつく野郎だ、それは俺も知ってる」
そうだ。
ツヴァイはアークスの襲撃に失敗し、ニトスに殺せと言った。
しかしニトスは見逃し、それが余計にプライドを傷つけ、今程執着するに至っているのだ。
「ジークは……本当にそれで良いのか?」
「当然だ」
何の躊躇いもなくニトスは断言した。
「じ、ジークうううううう!」
ロウリィは涙を浮かべる。
これまでの、20年間の想いが……その目から溢れ出んとしてる。
「泣くなお嬢。またロリ子と呼ぶぞ」
「うっさいロリフリード!」
「だれが、ロリフリードだ! 俺はおっぱいフリードだ!」
「ふふ、それも違うだろ!」
泣き笑うロウリィ。
そうか……こんな簡単な事だったんだな。
ニトスが居るだけで、今回の騒動はそもそも起きなかったのか……。
*
「むっ、すまない。
緊急の電話だ」
ひと段落ついて、ロウリィの気持ちも落ち着いた頃。
突如、彼女の持つ端末に電話が来ていた。
「なんだルゥか? なに、それは本当か?
いや……その実はだな。
たった今、奴に付くのをやめようかと思ってた所で。
待て! 貴様裏切ろうとするな!
分かった! 超高級オイルで手を打とう!」
「なんかルゥは変わってなさそうだな」
安心した様なニトスだが、会話の内容は何やら不穏な気がする。
「あー、分かった。
カルラに連絡を」
「カルラ!? カルラはどこだ!?」
「うわぁ! ジーク黙れ!
今、重要な話なんだよ!
カルラはアドヴァンディア家に居るんだ!」
「アド……なんだそれ?」
「ニトスさん。
それ、カロスさんの実家ですよ。
確か西の大財閥の」
「…………そんな話あったか?」
カロスの事だから、忘れられてるうううう!!!
「分かった。ではこちらも今伝える」
ロウリィはそう言って電話を切った。
「重要な話がある。
冥王会が蘇り、お前らの館に襲撃を仕掛けているそうだ。
Uの力による蘇生だろうな。
だが、U本人が仕掛けたとは考え難い。もう少し慎重に動くやつだ。
大方、Uの配下の一条カズヤことドラゴニック オリジンの仕業だろう」
はぁ!? 無能宣言のラスボスのカズヤまで居るのかよ!
ゴリッチュ作品のラスボス祭りかよ!
いや、エルの居る世界を守る為だから、そりゃあカズヤはUに付くだろうけどさぁ!
「このタイミングで、か。
なるほど、やってくれるな一条カズヤ……」
まぁ、ニトスの居ない今に仕掛けるのは賢いよな。
でも、どうして今いないってわかったんだ?
「ロウリィさん。
カズヤさんは、今屋敷に俺たちが居ないってわかったんですか?」
「分かりはしないが、予測は出来ただろう。
監視カメラがあっただろう。アレは私以外にもUの勢力下なら誰でも見れたからな。
既に壊されたが、映っていた時の情報から予測できる者は出来たという訳だ」
なるほど。
となると、トーシュエンがカメラを壊してたのは賢かったんだな。
「ごほん。
私も先ほどまでは、狙いはディライやトーシュエンだった。
だが、ジークの言葉で変わったよ。
私はもう彼奴らを殺したり、消したりする理由などない。
しかし、かといってカズヤを冥王会を止める理由もないのだ。
だからジーク、お前はどうしたい?」
ロウリィは、最終的な結論を全てニトスにゆだねた。
となると、結果は分かり切っている。
「決まってる。
恩人だぞ、助ける。
ディライにだって、屋敷のポイントでお世話(意味深)になった。
2人とも恩がある」
「そうか。なら行け!
其は英雄にして我が永遠の下僕! やはり下僕はお前だけで良い!
Uとの契約など断ち切る!」
ロウリィはそう言い切った。
「それとイーフェ」
「はい」
「意外とお前が鍵になるかもしれん」
「え? なんでですか?」
「お前はアースガルドに縁のない存在だ。
アースガルドに縁のない世界から飛んできた。
それはトーシュエンもそうだが、奴はシルバの亡霊で過去につながりがある。
真の意味でつながりがないのはお前だけだ。
鍵になる可能性もある」
「そんなまさか」
ロウリィはそっと手招きして、ニトスから隠れるような位置に俺を呼んだ。
そして、小声でこう言う。
「知っての通り、ジークは強く最強の英雄だ。
だが、それでも出来ないことはある。
いざとなったら、任せたぞ」
「えっ? 俺?」
まだツヴァイの方が良いだろ。
「今からやる事は1つだ。
トーシュエンとディライをこの屋敷に連れてくる。
殺さない以上、解決法はそれしかない。
このアークスで、Uは力が上手く出せない。
ディライとトーシュエンをこの世界に入れさえすれば、その時点で手が出せなくなって、目論見が破綻するのだ」
なるほど、やる事簡単じゃん!
ん? 待て、でもこのタイミングでのカズヤの襲撃があったんだよな。
それって、まさか最悪の場合は。
「察したか、最悪の場合を。
そう、最悪の場合、カズヤはお前らの不在のみならず、私の心変わりをも察している。
その場合、とてつもない苦戦を強いられるぞ。
トーシュエンとディライを、この屋敷に送るのを阻止せんと冥王会以上を差し向けてくるに違いない。
……ゆえにこの切り札を授ける」
そう言って、ロウリィは俺にあるモノを差し出した。
「いざとなったら、お前のスキルでこれを上手く使え。
どう使うかは言うまでもないだろう?」
いや、でもそのアイテムは……。
「俺が使って良いんですか?」
「駄目だと言いたいが、ジークが危機の時なら許す」
これは……本当に切り札だな。
無理だって時しか使っちゃいけない。
だが、こんなモノを託された以上、覚悟を決めなくては。
「ジークがピンチになったら、サポートして、この屋敷に連れ帰れるな?」
これは約束せざるおえまい。
「分かりました。
トーシュエンとディライさんをこの屋敷に送るという目的を、ニトスさんと共に果たします。
だから、ニトスさんの無事は……最善を尽くします」
「最善でない。確実にやれ
それを渡した以上はな」
「あとロウリィさん。
俺の使い魔のスキルにこういう装備が欲しいんですが……」
俺から1つ提案をしてみる。
「なんだ、そんな事か。
それなら眼鏡タイプのこれはどうだ? 意志で画面を切り替えれるぞ」
俺はロウリィから、眼鏡を渡された。
「意志で!? 便利すぎますね!」
「すぐに設定してやる。
元の世界に戻る頃にはもう使えるはずだ。
さっさと戻るがいい」
そう言って、ロウリィはみんなの方に戻って行った。
「皆、待たせたな!」
「お嬢、イーフェと何やってたんだ?」
「ちょっとした頼み事だ。
それよりも急ぐぞ。
ツヴァイ、お前はどうする?
戻る必要はない……というか、ここに居た方が安全だが?」
「はっ!
ずっと黙ってりゃ、最後にくだらねぇ事聞きやがって!
B.B.ライダーが行くのに、この俺が怖気付いて行かないとでも言うのかよ!」
「分かった。
なら、止めないからな。
…………ジーク、また会おう」
そうして、俺達は再び館に戻るのであった。