イーフェと奇妙な館   作:イーフェの手記

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第22話後編 主役は遅れて現れる

さて、こうして俺たちは屋敷に戻ってきたわけだが……。

 

「うーん、特に冥王会の気配は感じないな」

 

早速、地下から中庭に出る通路の途中でニトスがそんな事を言っていた。

 

「ちっ、なんだ俺様の出番はなしかよ」

「トーシュエンはシルバの亡霊としての記憶を取り戻して、桁外れに強くなったようだった。

冥王会は返り討ちにしたってとこだろう」

 

まぁ、おそらくニトスの言う通りだろうな。

……それだけなら良いが。

 

「ニトスさん。万が一という事で以前実験で作ってもらったあの使い魔を渡してもらえますか?」

「ん? 良いぞ?」

 

そういって、ニトスは手首と足首に着ける輪とチョーカーを渡してくれた。

 

「ありがとうございます。

行け! ゴースト!」

 

俺は、虚空から愛鞭ゴーストを取り出し、それらを一発ずつ叩く。

すると、それらは意志を持ったように動き出し、俺の体に装着された。

 

「イーフェ、なにやってんだ?」

「これにニトスさんの力を込めてもらったんです。

こうすると、一応、全身の身体能力が上がる……はず?」

「自信ねぇのかよ」

「後、この眼鏡もかけます」

「お嬢からもらってたよな。なんだそれは個性付けか?」

「違いますって。ロウリィさんと一緒にしないでください」

 

こいつは、滅茶苦茶役に立つ可能性があるんだからな?

 

「ま、まぁ、行きましょう」

 

そういっていざ中庭に出ると、そこでは元の姿に戻ったディライに……ソルファ!?

まだ争ってはいないが、なにやら険悪なムードが漂っている。

だが、まだ何とかなりそうだし、とりあえずトーシュエンとディライを早くゴース家に連れ帰ろう。

 

……と思ってたら、ニトスとソルファが下らない理由で争い始めやがったああああ!?

特にニトスなにやってんだあああああ!

さっきまでの話聞いてたのか! トーシュエンとディライをゴース家にって話だったろうが!

それだけですべての問題が終わるんだよ!

こんなあと一歩の所で、貧乳派と巨乳派の争いでガチバトル始めるんじゃねえええええ!!!

 

「だがなぁ」

 

恐らくだが、ソルファはカズヤの刺客……。

いや、単にカズヤから情報を聞いて、自分でやってきた類か。

なんにせよ、目的はディライでその味方のトーシュエンである。

そして、カズヤからこの屋敷の情報を聞いている可能性が高いので、俺たちがトーシュエンと暮らしている事を知っている可能性が高い。

なので、全員ディライの味方と思われている可能性も高い。

つまりだ。

ニトスがやられたところで終わりかというとそんな事はなく、俺達もまとめて殺される可能性が高いのである。

 

「すごく、まずいじゃないか……」

 

トーシュエンは逃げ出さず、真剣に2人の戦いの様子を見ている。

俺はどうするべきだ?

1人だけゴース家に逃げるか?

いや、そんな事をしたら、コレを預かった意味がない。

だが……ニトスが圧されているほどにソルファは強い。

こんなの勝てるのか?

 

「来いゴースト」

 

とりあえず、愛鞭を召喚する。

考えろ、今は中庭だ。俺のスキルは蓄積した力を使い魔にする。

……ダメだ。

既に蓄積された力しか変換出来ないこの力は、際限なく成長する魔人ソルファと相性最悪と言っていい。

 

「ソルファーーーーー喰らえーーーー!! 膝カックン!!!」

 

そんな事を考えている間にトーシュエンは、ソルファに攻撃を仕掛けていた。

そうだ。

こんなこと考えてるんだったら、仕掛けるべきだ。

ソルファとの最悪の相性を克服するには、ここにないものを使うしかない。

となると……。

 

「……ふ、ふふふ」

 

今、ギャンブラーとして、生前を含めて最大の賭けが始まろうとしていた。

 

*

 

ツヴァイがソルファに突き飛ばされる。

……よし、このくらいで仕掛けるか!

 

「せいっ!」

 

丁度、ソルファがハイブリッドに反撃しようとしたタイミングで。

俺はソルファの攻撃を鞭で防いだ。

そのまま、鞭をくるくると回してソルファに突きつけ、俺はディライに聞く。

 

「ディライさん! みんなの治療はどれぐらいで完了しますか!」

「10分、といった所か」

「分かりました。それ位なら、時間を稼ぎます」

 

俺が使い魔を埋め込んだ方が、回復は早いかもしれない。

しかし、これでいい。

……俺が時間を稼げる確率の方が高いからな。

 

「ディライさん、途中でスキルを取り上げるのはなしにしてくださいね」

「そんな事をこの状況でするわけがないだろう」

 

あのディライの表情。

さすが館の主、なぜ俺があんなに強かったのかが完全にバレているな。

それはともかく、ソルファの前に立ち塞がる。

 

「人間を舐めるなよ!」

 

素早くソルファに鞭を叩きこみ、後退させることに成功した。

 

「多少は使えるようだな」

 

さて、ひやひやものだなこれは。

 

「これはどうだ?」

 

縦横無尽にブリューナクが出現する。

 

「最初から全力じゃないですかぁ。ちょっとゆっくり行きませんか?」

「黙れ、貴様に用はない」

 

……来る。

シュマーリゴールドの原点たるブリューナク相手に回避という選択肢はない。

それが出来るのは、最古の魔人ネロスだけだ。

 

「ふっ!」

 

ソルファからブリューナクが放たれる。

……よっしゃあああああああああああ! 最良の札が間に合った!

 

「クレイモアタイム!」

「なにっ!

まさか、三大古代魔法を使えたとは!」

「ふっ、気づかなかったのか?」

 

よしよしよし! バレてない! 強さのからくりがバレてない!

10分行けるぞ!

 

「だが、人間の魂で長く使える技ではない。

ディライは先ほど10分といったな。

10分もその魔法を使えるのか?」

「ふふふ、さてどうだろうな?」

 

いや、本当にどうなんだろう?

俺も分からなくて困ってるんだけど。

ただ、クレイモアタイムを張ったままではジリ貧になるとだけは言える。

 

「だが、お前以外を狙えばどうなる?」

 

ソルファが、ブリューナクで後ろのトーシュエン達を狙ってくる。

 

「ゴースト!」

 

俺は足元の植物を叩き、使い魔へと変えるとトーシュエン達を覆う形まで成長させた。

 

「そんなものでブリューナクを防げると思っているのか?」

「やってみないと分からないでしょ」

 

だから頼む! 上手くいってくれ!

 

「今、全てを破壊する」

 

ソルファのブリューナクが放たれる。

刹那ッ!

 

「よし、魔法共鳴!」

 

って、あああああああ!!!

やべえええええええ!!!

 

「なに!

クレイモアタイムと植物を共鳴させて、植物にもクレイモアタイムの効果を持たせたのか!」

「そ、そうだな」

 

ま、まずいぞ。まさかこんなに消耗する技なんて。

早く次の段階に……まずは、そうソルファの興味を引くような話題!

 

「全てはこの鞭の力だ。

これは柊うてなという14歳の貧乳美少女が持っていた鞭を改変したものだ」

「なに! 14歳の貧乳美少女だと!?」

 

よし、食いついた! もっと時間を稼ぐぞ!

 

「カズヤめ! その子の情報はなかったぞ!

最優先事項だろ! なぜ教えなかった!」

 

やはりカズヤから情報を貰っていたか。

 

「カズヤの世界には居ないから、仕方ないだろう」

「そうなのかッ! くそ!

と、そういえば!」

「ん?」

「大事な事を聞き忘れていたな!」

 

ソルファはブリューナクの光を消し、真剣な表情で俺の方を見つめてきた。

 

「お前、貧乳派か?」

「は?」

「安心しろ、攻撃はしない。

クレイモアタイムを解いて良いぞ」

 

……一応、解いてみる。

本当に攻撃してこない。よし、これは良いぞ。

 

「簡単な質問だ、どっちだ?」

「いや、どっち派と言われても」

 

正直、場合によるとしか。

 

「好みの問題だ、さぁどっちだ!」

「え~。んーと、待ってくださいね」

 

マジで難しいぞ。ぶっちゃけどっちでもいいしな。

女優とかアイドルはあんまり分からんし。

とりあえず、アニメとかの好きなキャラ上げて考えてくか。

えーと、好きなキャラでしょ。

「邪心ちゃんドロップキック」のゆりねに「ストライク・ザ・ブラッド」の那月ちゃん。

後、「ゆるゆり」のりせ会長に「わたなれ」の香穂ちゃんと……ん?

 

「あれ、貧乳派じゃね?」

 

今出た4人、全員外れなしだったんだが?

 

「なんだ同志だったか。なら争う意味はないな」

「なにイーフェ! 裏切るのか!?」

 

傷だらけの状態でニトスは慟哭する。

いや待ってくれ!

 

「待て、ほら巨乳で好きなキャラとかもいるから、えーと」

 

……ぱっとは思いつかんな。

 

「イーフェ、そういえばお前ロンドに興奮してたし、ホモでもあるだろ!

そっち側じゃないか!」

「待て、ニトスさん!

色々と待ってくれえええええ!!!」

 

イケオジに興奮して、何が悪いんですか!?

確かに好きなおっさんキャラの方がすんなり出てきますけど!

 

「分かるぞ同志。

俺も昔は自分の事を巨乳派だと思っていた。

だが、ある時イッシキに言われて気づいたんだ。

自分は、貧乳派だったんだとね」

「やめろ、そんな回想聞きたくないわ!」

 

なんか最悪な事になってるが、時間稼ぎとしては成功しているのが皮肉だ。

このまま10分しのいでやる。

 

「ちなみに、お前の好きな貧乳の子について教えてくれないか?」

「えっと、アニメキャラで言うなら、最近は香穂ちゃんですね。

明るい性格なんですけど、実はそれはコスプレした性格でコンタクトを外すと素の性格が」

 

なんか、唐突に好きなキャラについて語る場が出来てしまった。

途中、ヨハンはおぉ、とか。

その場面を見せろ! とか言ってきて面白かったが、そんなこんなしてる内にもう10分近く経っていた。

あれ? 時間稼ぎってこんなんで良いの?

 

「さすがは同志……話が分かる」

 

なんか距離感めっちゃ近くなってる気がするんですが、気のせい?

 

「同志よ、俺のもとに来ないか。

手始めにトーシュエンを殺せば良い。簡単な話だろう」

 

おぉ、唐突に真面目な話になってビックリした。

 

「ヨハンさんはディライが消滅すると、自分が消えるのは分かってるんですか?」

「そうはならないはずだ。

実際、既に1度、絶対悪の居ない世界は作られている。

シュガーの活躍でな」

 

確かに。

下部世界ならともかく、ゾディアーク世界そのものなら本編のように多少変わった形の世界になるだけで。

別に、ヨハン自体が居なくなるわけじゃないのか。

 

「それは良い事ですね。

ちなみに、そちらに付けばどういう特典があるんですか?」

「特典と言えるものは特にないが、こっちは平和だぞ。

少なくともここにいる以上、あんたは1度死んだんだろう?

次は平和に生きられる。それだけで価値があると思うが?」

「なるほど。それは良いですね。

凄く魅力的な提案です」

「だろう!

なら、同志! 俺と一緒に」

「だが断る。

このイーフェが好きな事は、自分を優位と思っている奴にNOと言ってやることだ」

 

それを聞いたヨハンは、こちらをにらみつけてきた。

 

「後悔するぞ」

「そちらこそ。

言っておくが、俺は巨乳派ですので」

「……それはさすがに嘘だよな?」

 

なんで急に素のヨハンの時の喋り方になったの?

 

「興が削がれた。今日の所は退いてやる。

だが、次は覚悟しておけ」

 

そういって、ソルファは去っていった。

 

「ミッションクリア!」

 

俺は思わず、座り込んだ。

ふっ、ヨハンよ甘いな。

ここでゴース家に戻れば、もう万事解決なのだよ!

 

「こちら、回復完了した」

 

ディライがそう話しかけてくる。ナイスタイミングだ。

俺はディライ達を覆っている植物の使い魔を退け、出られる様にすると、全員普段通りの様子でこちらにやってきた。

本当に治ってるみたいだな。

 

「貴様、強さの為、あの局面であれをやるとは、正気ではないな」

「ディライ、イーフェのあの強さの秘密を知っているのか?」

 

ニトスが聞く。うん、話しておいた方が良いな。

 

「あぁ、知っているとも。

あれは、この屋敷に住む住民なら誰もが出来る。

そして同時に誰もがやろうとしない行動をとったのだ」

「なに?」

 

よし、説明しよう。

 

「使い魔スキルで、昨日の内に屋敷の中にたくさんの使い魔を置いておきました。

理由はわかりますか?」

「まさか戦いを予期して」

「そんなわけありません。

答えはポイント稼ぎです。この屋敷では、掃除をするとポイントがもらえる。

という事は、使い魔にやらせてもポイントがもらえます。

今の俺は自動的にポイントが少しずつ入ってる状態なわけです。

ただ、初めに700万も払ってるので、それに比べれば微々たるものですけどね」

 

そう、単に強いスキルではなく、使い魔のスキルを取った理由の1つがそこにあった。

これなら生活の役に立つし、ポイントも稼げるので、戦闘がなくても、投資分が回収できると見込めたのだ。

 

「そして、この眼鏡。

これは俺の設置した使い魔と視覚を共有させる事が出来、詳しく命令する事が出来ます。

はい! じゃあ、ここで何が出来るようになると思いますか?」

「まさかとは思うが……イーフェ」

 

そこで、気づいたのはトーシュエンだった。

 

「さっき戦いながら使い魔を使って、ギャンブルをしていたとでもいうつもりじゃないだろうな?」

「正解!」

「「「ええええええええ!?」」」

 

ディライとトーシュエン以外が同時に驚いた。

そう、それこそが俺の成長する魔人に対抗する作戦。

戦力を戦いながら増やすには、戦いながらこちらも戦力を増やすしかない。

そしてこちらの戦力はポイント!

つまり! 戦いながらギャンブルして勝てば完璧という作戦だ!

 

「さすがの私も呆れたぞイーフェ。

スキルを用意したのは私だが、まさかあの状況でこんな使い方をするとは」

 

ディライに呆れられたが……別に呼吸とギャンブルは一緒だからな。

戦いの最中にギャンブルして、何がおかしいんだ?

 

「俺はギャンブルで勝ったポイントで短時間だけステータスを増強するスキルなどを取った。

この腕輪の力にそれが加わって、ソルファを一時的に後退させた。

クレイモアタイムは、ブリューナクが来る直前にギリギリでバカラで勝って習得出来た。

負けたら、他のスキルとも考えたが……いやーあれは脳汁出たわ~」

 

あれ? なんかみんな呆れてね?

おかしいな、俺はみんなを救ったはずなんですが?

 

「一応聞くね。賭けに負けたらどうするつもりだったの?」

 

トーシュエンがそう聞いてくる。だが、それは単純な話だ。

 

「それはお前、島津家の示現流と同じよ。

外したらそれまでってな」

「……」

 

納得できたようなそうでもないような表情をされてしまった。

 

「クレイモアタイムの維持で予想以上にポイントを消費した時は、本当に焦ったぜ。

いやー、何とかなってよかった」

「へぇ、何がなんとかなったって?」

 

……嘘だろ。

 

「ソルファの奴は使えないな。途中で投げ出して帰るなんて」

 

そこには、一条カズヤがいた。

それだけでない。

 

「ねぇ、そうは思わないかい。麻男さん」

 

正義の味方ギガトラストのラスボス御剣麻男がその隣にいる。

ラスボス2人。

 

「あぁ、そうだなオリジンさん」

 

まずい、が、まだ希望はある!

なにせ、貧乳キャラ談義のおかげで既に回復は終わっているのだ!

麻男の方は、今のトーシュエンなら1体1で行ける可能性あるだろ?

んで、後はカズヤの方を全員でかかれば……。

よし、ロウリィから貰った切り札を使おう。

 

俺はポケットから髪飾りを取り出し、それを軽くゴーストで叩いた。

そして、こういう。

 

「俺は強い俺は強い」

「!

それは!」

 

俺の体を青い鎧が纏っていく。

 

「なんだあれは? インフェルノフレームか?」

「いいえ、麻男さんの世界のそれとは違います。

何か別の力がありそうです」

 

「とう! 行くぞ!

B.B.ライダーを名乗るのは烏滸がましいので、俺の名はパチモンゴールド!」

 

これは、本来はただの変装でしかない。

しかし……ニトスの力とロウリィの技術力が籠ったこの服は、とてつもないパワーがある。

これを使い魔にしてから着れば、おそらく一時的に人間時代のニトスと同格の力が出せる。

動きに脳がついていかない問題も全身を覆っているから、脳も強化され、問題ないという訳である。

 

「ニトスさん。見てくださいパチモンゴールドです!」

「ださ! 名前も格好もださ!」

「ですが、強いはずですよ。

トーシュエン、ディライさん。

詳しい話はまた後で話すが、奴らの目的は2人をゴース家に行かせない事。

2人が屋敷に到達すれば、世界は救われるんだ」

 

ディライはなにか事情を分かったようだが、トーシュエンはピンと来てないようだ。

というか、ロウリィを疑ってそうに見える。

まぁ実際ついさっきまで敵だったんだし、間違えじゃないけど。

 

「ひとまず、逃げる事を目標に戦いましょう!」

 

やれば行けるはず!

オリジンの強さが見えないが、ニトスとニトスのパチモン1人で負ける事はないだろう。

後は、トーシュエンに麻男を仕留めてもらうだけだ。

 

「おいおい、あいつ何帰ってんだよ」

 

……そんな俺の甘い予測は

 

「遅いですよ……シュガーレッドさん」

 

簡単に失敗に終わるのだった。

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