イーフェと奇妙な館   作:イーフェの手記

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第4話 ミッドナイト競輪は3連単1-2-3

「うーん。どうするべきか」

 

俺は今、自室で至って真面目に考え事をしていた。

というのも、先程の出来事が原因だ。

リビングでトーシュエンの夕食作りを少しだけ手伝いながら、話していた時の事。

話の中でこの屋敷に新しい人間が来る可能性があるので、なにかしらの用意をしておいた方が良いという話になった。

この新しい人間というのは、俺がまず言い出した事でこの屋敷の広さからするに来るのは間違えないと見て良い。

でだ。

俺はそこで……。

 

“新しく来る奴らにも賭博の素晴らしさを教えて、仲間に引き込まないとねぇとなぁ!

そこは抜かりなく頑張るつもりだぜ、トーシュエン!

安心してくれぇ!”

 

と言った。

トーシュエンは呆れた顔をしながら、料理を続けていたが俺は至って真剣である。

なにせ二次元作品では、人外の強者が人間の遊びを知って、人間の平和な世界に染まっていくのは大定番。

敵対しそうな相手が出てきた場合でも、ワンチャンこれで懐柔できる可能性があるのだ。

そしてだ。

俺が教えられそうな人間の遊びといえば、ズバリ賭博かエロ同人!

なので、まずは良さの伝わりやすい賭博を教えるのが1番になる訳だ。

そう。決して賭博部屋の利用者を増やして、買い目の参考にしたいな〜とかは思っていない。

 

「だがなぁ……」

 

そこて、俺は割とマジで悩んでいた。

公営賭博の良さを知ってもらうのは難しい。

普通であれば、まずゲームやアニメ、ドラマなどから入るのが良い。

ゲームのウマ娘やドラマのザ・ロイヤルファミリーが分かりやすい例だ。

だが、今回の目的は人外に人間の娯楽の良さを知ってもらう事。

ゲームやドラマから賭博に入るような人外は、そもそも既に人間文化が好きに違いない。なので、俺が賭博を教える意味がなくなってしまう。

そんな相手では面白くな……でなくて!

ここでは、人間の娯楽に詳しくない相手を想定する必要がある!

 

「1番良いのは現地観戦だが、それは難しいしなぁ。

せめて、何かこう4D映画みたいに映像を出せれば良いんだが」

 

こんな変わった屋敷だ。もしかしたら、何か方法があるかもしれん。

……探してみるか。

 

「ゲームだったら、夜にしか出現しないアイテムとかマップとかあるよな?

こんなゲームみたいな屋敷だ。

ここにもそんな場所があるかもしれんし、また探索に行ってみるか」

 

夜に変わりそうな場所……中庭かな。

よし、行くか。

 

「よし着いた」

 

そうして、俺は賭博部屋に着い……!?

 

「な、なにぃ!?

俺は中庭に向かっていたはずなのに、自然と足が賭博部屋に向いていた!」

 

いや待て! これは案外正解かもしれんぞ!?

だって、夜に変化するものだろ?

それは、ギャンブル中毒者の中では当然! ミッドナイト競輪の事!

車番順に競走得点の高い方から並び、基本的に配当は固いとされ、毎日23:30に最終レースが行われる!

なので、俺がここに来た事は間違いではないのだッ!

 

「この時間はミッドナイト競輪だ!

それか、山陽ミッドナイトフルスロットル、シャキーン! だ!」

 

24:30までのオートレースをやっている真のギャンブル中毒者にしか分からない事を叫びつつ、俺は賭博部屋を歩き回る。

この時間のこの部屋、変化はないか?

ぱっと見変化はない。だが、細かい所はどうだ?

 

「ミッドナイト競輪は1番車が原則1番強い。

そして、始め来た時から気になってはいたが……。

このブースには、マークシートを塗る為のペグシルが9箇所置かれている。その上、色も9色。

1番車は白だ。白色のペグシルの所に何かないか?」

 

ペグシルの箇所を探ってみる。特に何も無い。

考えすぎか?

 

「色々試してみるか」

 

時間はあるんだ。

ポイントなくて賭けられないし、無駄足でも良いからやってみよう。

 

*

 

それは、俺の腕時計の長針が半周しようかという時の事だった。

 

「おっ、おおおお!?」

 

俺は手に持つペグシルを思わず落とした。

なぜなら……。

 

「じ、自転車だぁ!?」

 

競輪のモニターが突如上へと開き!

何事かと思ったら、モニターの先には真っ暗な道が続いていた。

しかも、いつの間にか俺の近くには1台の自転車が出現している。

 

「まさか、3連単1-2-3を1を白、2を黒、3を赤のペグシルで塗ったらこうなるなんて」

 

3連単 1-2-3 通称イノキ。

これは競艇でありがちな出目とされるが、ミッドナイト競輪でも同様なのである。もしかしたらと思い、やってみたが……マジかよ。

そもそもこんなんで本当に何かが起きるなんて、心の底では思ってなかったのに。

 

「これ乗れるかな?」

 

競輪関係で出たとは思えない程、オーソドックスなロードバイクである。サドルはやや低いが、乗りやすそうだ。

 

「トーシュエンも呼んで一緒に進むか?

いやでもなぁ……」

 

部屋に居ない可能性があるし、そもそも夜に行くのも悪い。

後俺が、こんな異常事態を呼び寄せているって事は向こうも何かしらの事態が起きている可能性は高い。

その辺はまぁ……。

 

「明日の朝、一応聞くとして俺1人で行くか!」

 

ヤバかったら戻ろう。

そう思いながら、俺は暗闇へと自転車で進んだ。

ライトが自動でついて、特に危険はなさそうだ。

そうして、しばらく進んでいくと……。

 

「な、なにぃ! ここは!」

 

まさか、こんな事になってるとはな。

 

「ここ、川崎競輪場のバンク内じゃねぇか……」

 

俺は今、バックスタンドの敢闘門から出てきた形になっている。

時間は夜だ。

そして、もう1つ分かる事がある。

 

「ここは生前の世界じゃねぇな」

 

根拠は……ない。だが、実際に生きていた感覚で分かる。

強いて言えば、仮想現実の様な空間なのだと。

 

「俺が死んだ後、あの世界はどうなったんだろう?

って、俺が死んでもどうなるわけでもないか」

 

多分、普通に続いてるんだろうなぁ。

ただあの後、ゴリッチュさんの神の目のアイオーンが完結したかだけ気になる。

 

「だが、何にせよ。

モニターの先の競輪場って事は、あるいはここで生観戦できるんじゃねぇか?」

 

俺はバンクから出て、自転車を端に止めると西スタンドのベランダに向かった。

ミッドナイト競輪は無観客なので、観客は俺しかいない。

 

「おっ! やっぱり!」

 

ベランダから様子を見ていると、選手達が入場してきた!

こりゃ生で見れそうだ!

 

「投票も実際の券売機で出来そうだな。

今は無一文だから使えんが」

 

レースが始まる。

そうして結果は……1-2-3。これぞミッドナイトだった。

だがそれは良い。

この会場、布教に使える。問題は1つ。

無観客で寂しいミッドナイト競輪に行く方法しか、今の所は分からないって事だな。

他の時間に行く方法も分かれば……。

それに多分、競馬場に行く方法もあるはずだ。

東京競馬場なんて行けたら、大盛り上がり間違えなし。

何としてでも行く方法を見つけたいな。

 

「さて、今日の収穫はこんな所かな」

 

俺は、記念に無観客レースで本来取れないはずの場内の写真を1枚撮り、そのまま敢闘門から賭博部屋に帰った。

 

「ふぅ、面白かった。

って、うわぁ!?」

 

俺が自転車から降りた瞬間、消滅した。

また次の機会という訳か? まぁ、良いだろう。

方法が変わってなければ、また来れる。

 

「ミッドナイト競輪だけなのが、難点だけど。ま、楽しいからよし!

これで取れる選択肢は増えた!

クク、トーシュエンにこの屋敷で大幅リードしてしまったなぁ!

まぁ、一応奴にも今日夕食の後、何が起きたか聞いてみるか!

どうせ俺に比べれば、大した事は起きてないだろうが!」

 

意気揚々と俺は部屋に戻り、そのまま寝る支度をした。

実際にはトーシュエンの方がとんでも能力を入手して、大幅リードしていたという事実をこの時の俺はまだ知らない。

知らずに就寝し、そのまま朝を迎えるのであった……。

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