イーフェと奇妙な館 作:ゴールデン・フルスタ・ドミネイト
「イーフェ、機械に反応があったわよぉ」
「助かる!」
さっきから、俺はちょくちょくバイトを抜けて、異世界人に話を聞きに行っている。
だが、教えてくれるのはハイブリッドばかりだ。
トーシュエンに反応なし。
なぜだ?
……と、思っていたが。
それに関しては、異世界から来たクガミという探偵への聞き込みで分かった。
「お嬢に対して、裏で備えをしているのか」
元の世界にて爆破で殺されたという事を考えると、妥当だろう。
しかし、おかしいな。
あの爆弾を作ったのがお嬢だといつ知った?
知ってるのは、俺とツヴァイ、後、ニトス。
妥当なのはツヴァイかな。
「だが、これはまずいな」
U勢力から守ってもらう為にお嬢の力は不可欠。
出来るだけ敵対行動は避けておきたい。
まぁ……今くらいの規模なら見過ごしても問題ないか。
店の地下やアークスの裏路地にアイテムを隠しているだけだし。
そう思いながら、俺は異世界人達に話を聞いていった。
「うーん」
当たり前といえば当たり前だが、俺の知ってる創作物のキャラは居なかった。
いや、なんか似た様なパチモンは居るんだが、本人は居ない。
例えばさっき会った探偵のクガミ。
あの人は龍が如くシリーズ外伝の主人公 八神隆之に少し似ていたが、その実、神室町も東城会も知らないようなパチモンである。
そして何より。
1日聞いたのに、カロスの代わりになる人材は居なかった。
だが。
「情報は集まったな。
……役に立たないことを祈るが」
◇
それから、俺はしばらくの間。
スキルを取ったりステータスを上げたりして、備える日々を過ごした。
勿論、ギャンブルをしながら。
ポイントについては、ゴース家の使用人に俺製の使い魔を使用してもらう事で爆発的に溜まるのが早くなった。
ギャンブルで負けても、多少は問題ないくらいには。
そんな事もあって、ロウリィ達には結構恩も感じている。
「へっへっへ、今日はロンドさんの高い絵をまとめ買いしてやるぜ。
このギャンブルで買った金でなぁ!」
「探したぜ、ゴース家のイーフェ」
ん?
あの黒いジャケットは前会った異世界の探偵か。
「異世界から来たクガミだったか? なんだ?」
「話がある。
トーシュエンが戦力を大幅に拡大してる」
なに? アレからまた備えを増したのか。
「どの程度だ?」
「どれだけ少なくとも、この街の機能を一瞬で半壊させられる程度に。
しかも、犯人を特定出来ない状態で」
「なに!?」
トーシュエンの力なら、そもそもアークスを半壊など容易い。
だが、足が付かない状態でとなると話は変わる。
どれだけの準備をしたんだ?
「しかもどれだけ少なくとも、だ。
ロウリィ・ゴースだけでなく、第3勢力全てを相手取ろうとしているなら、その程度の備えの訳がない」
そんなに備えが? いや、しかし第一に。
「さすがに信じられないな。
あんた普通の人間だろ。
トーシュエンが足を付かないように準備したのに、なぜ一介の人間のアンタには分かるんだ?」
ロウリィ直々に戦闘力はない扱いされた人間。
特定は不可能だ。
「俺にそんな事分かる訳ないだろ。
だが、確かな情報だ」
「……どこかに情報源があるな?」
「その通り。
そこで……商売の時間だ」
なるほどそう来たか。
「どこから仕入れたか聞きたくはないか?」
「いや、予想は出来る。
Uとロウリィが呼んでる奴がやったんだろう?」
「違うな」
「なら、ロウリィ本人やその配下だろ」
「外れ」
「えーと。じゃあ、Uの配下のカズヤやナギとか」
「それも外れだ」
「となるともう、第3勢力のシュガーレッドやヨハンしかいないな」
「全部外れだ」
「ふざけてるのか?」
他にいる訳がないだろう。
もし居たら、第4勢力が存在する事になる。
そして仮にそんなモノがあれば、今まで動かなかった訳がない。
「第4勢力が存在するとでも?」
「いいや、しない」
「は?」
全く意味が分からん。
「情報代は……500万Sだ」
「ふざけすぎだ。
戯言に500万払うやつがどこに居る?」
「さぁ?
戯言かどうか、試す価値はあるぜ」
ふざけてる。
……いや、待て。
こいつなんで、第3勢力の事を人物名まで知ってる?
いやいや、それっぽい反応してるだけだ。
「これを聞くとアンタの未来は変わる」
「聞く訳ないだろ」
俺はクガミに背を向けた。
アホらしすぎる。話にならん。
「気が向いたら、また戻ってこい」
向くわけないだろ、損したわ。
◇
「だから!!
イーフェ、自分は何度も言っているだろ!!」
まずい事になった。俺はそう考えていた。
トーシュエンの言う事は、道理に適っている。
適っているが、間違っているのだ。
面従腹背の理論は理解出来る。備えをする事も理解出来る。
自分が死ぬ要員を作った相手だ。
まぁ、当然だろう。
しかし、情に流され過ぎている。
少なくとも、この程度で怒り出すのでは備えがバレる事など時間の問題。
というか、理屈は分からんが一般人にもバレてた。
とっくに備えがバレていて、ロウリィが黙認している可能性もある。
逆にトーシュエンの備えを利用してやる為に。
ロウリィの事を信頼している俺ですら、その位の考えはすぐに浮かぶのだ。
しかし、奴にはそれすら浮かんでいない。
備えとやらが、確実に自分の武器になると思い込んでいる。
実際は逆の可能性もありえるのに、それが思い浮かばない時点でもう駄目だ。
奴の理屈は分かるが、頭が冷静ではない。
熱した頭で備えても、悪い方向に向かう事は目に見えている。
「それがまずいと言っているのが分からないのか!」
俺はトーシュエンに言い返す。
そもそも、ロウリィを疑う要素は薄い。
ニトスの運命を変える目的が無い以上、今のロウリィはトーシュエンを始末する意味がないのだ。
それにだ。
始末するのが目的なら、ロウリィが俺にトーシュエン達を助けるように言ったのはなんだったんだという話になる。
アレの意味がなかったというなら、さすがに俺もロウリィに怒りたくなる。
何よりB.B.ライダーの髪留めまで貸してくれた以上、その覚悟と言葉に嘘はないと俺は思っている。
それが嘘なら、ニトスに対する思いに嘘を付くのと同じだ。
しかしだ。
今、そんな事を説明しても無駄だろう。
これだけ頭に血が登っては聞く訳がない。
たとえ嫌でも、今は一旦冷静になってロウリィにつくのが賢いのだと、分かってもらえれば……。
「じゃあ!! なんだ!!
お前はあの女に言いなりになれと言うのか!!
おい!! 答えろよ!!!! イーフェ!!!!!!」
あ、うん。無理だわこれ。
「アホが!
水面下での敵対行動をやめろってのはそうじゃねぇ!
お前の取れる行動は、戦うか絶対服従かしかねぇのか!?
戦いを覚悟してる癖にそんな狭い視野になってる時点で、足元を掬われる事は確定してんだよ!
そう、今のお前は俺にすら勝てやしねぇ!
1回、冷静に頭を冷やしやがれ!」
首根っこを掴む奴の顔面に一撃を叩き込む。
そこからはもう早かった。
流れるような喧嘩。
まぁ、俺が言葉足らずだったのは認めよう。
要は今の水面下での敵対行為はやり方が駄目だから、一旦冷静になれと言いたかったのだ。
しかし、恐らく伝わってない。
だが、それを差し引いても非はほとんど奴にあるだろう。
「チェストォ!」
「粗いんだよ!」
ポイント強化のせいか、喧嘩はそれなりに良い勝負になっていた。
……始めのうちは。
喧嘩で体を動かし、徐々に冷静さを取り戻していくトーシュエン。
それに際して、動きの粗さも消えていく。
少し経つと、もはや勝負にならなかった。
俺にすら勝てないと、言うだけ言ったは良いものの。
やはりというか、何というか俺では勝てない。
そのまま建物から外に投げ飛ばされた。
……そうか、自ら破滅を望むなら別に否定はしない。
「好き勝手にやらせてもらう」
「はいはい! 好きにしやがれ!!
何が起きても助けてやらねぇからな!! イーフェ!!!」
男からそう叫ばれる。
俺は男に背を向けて、その場を立ち去るのだった。
◇
当然といえば当然の話だが、俺についてくる者は誰1人として居なかった。
男から敵対されたので、それに従うディライは俺から全てのスキルと能力を取り上げた。
つまり、全て元通りの能力となった。
これで、自他ともに認める最弱の完成だ。
B.B.ライダー1話のサルにも余裕で負ける。
やれやれ。
冷静さを持っていない奴と喧嘩したら、自分は何も持たなくなってしまうとはな。
「だが、昔とは違う」
俺が向かったのは、カロスの実家ことアドヴァンディア家の領地。
カロスの6個下の妹、セシル・アドヴァンディアによって統治されたアークスに迫る大都市である。
またメイドとして、カルラが仕えているとも聞く。
さて、俺がわざわざこんな所まで来たのにはちゃんと理由がある。
まともに考えれば、ゴース家に行った方が良かっただろう。
お嬢は味方だ。館にも行ける。
先日まで友だったあの下らない男も、狙って殺しに来る程の敵意はないと見て良い。
総じて安全な場所と言える。
「……あの街はそろそろ大きく動く」
あのチートに頼り切りで浅慮極まりない無能男が、そろそろ大きな動きを見せるはずだ。
その規模は正直読めない。
だが、初めに事が起きるのはアークスになるはず。
そうなれば、平和などない。
幸いというか何というか、愛鞭だったゴーストによる使い魔はアドバンディア家でも重宝されていた為、屋敷や町の情報はきちんと入っている。
スキルやステータスが取り上げられる事など、とうに想定済み。
初めから情報で戦うつもりだった。問題ない。
さぁ、まずは屋敷に行こう。
以前異世界人から聞いた情報と、元愛鞭ゴーストから得た情報を信じるなら、アドヴァンディアの屋敷で出来る事がある。
「どうせ2度目の人生よ。
やれるとこまでやってみようじゃないか」