イーフェと奇妙な館 作:イーフェの手記
「うわああああ!
負けたあああああ!」
中山牝馬S 2026/3/7 15:45
1着 3 エセルフリーダ
2着 2 ビヨンドザヴァレー
3着 4 パラディレーヌ
俺は結果を見て、絶望していた。
何がワイド5-10じゃああああい! 10着と13着じゃねぇか!
な゛ん゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!! 戸〇と岩〇の父さあああああん!
「くそっ!
まずは、手始めに全ポイント突っ込んだのにまた無一文じゃねぇか!」
あー、負けた。
「もはやこれまでよ! フーハッハッハッハ!」
やけくそになりながら、中庭の地下階段に突撃した。
あまりここに居続けても、本からの心証も良くない。
もうこうなれば自棄である。準備は無いが、地下に突っ込むしかねぇ!
「うおおおおお!」
俺は地下へと走り出した。
「ん?」
進んでみると、大きな鏡が無数にある部屋があった。
行き止まりでトーシュエンの姿はない。
と来ればだ。
この鏡は恐らく、異世界に繋がっている。
確定的な根拠はない。
しかし単純にトーシュエンが行って、しばらく帰ってこないとすれば、性格上異世界と考えるのが妥当だからだ。
狭間の世界なので、どこかしらに外の世界に繋がる箇所があるのは分かっていた。
それが、隠された地下部屋の鏡という可能性は非常に高い。
「トーシュエンはこのどれかの鏡の先かな」
恐らく今、トーシュエンは異世界に行っていて、何かしら今後に備えた準備をしているはずだ。
どういう結果が出るかはわからんが、何かはしているはず。
……俺の手に負えない事になってなきゃいいがな。
例えば、異世界の異国に喧嘩売ってここに逃げ帰ってくるとか。
そうなったら、ここに平和がなくなるので最悪だ。
「鏡の上に何も映ってない横長のモニターがあるなぁ」
位置からするに、飛ぶ先の世界の概要でも表示されるのか?
しかし、今は何も映っていない。
「本と一緒に来れば、表示される可能性があるな。
多分、本が飛ばす先の世界を設定しているはず。
つまり、何も映っていない今、飛ばす先の世界も何も設定していないと考えられる」
なら、転移しないただの鏡か?
いや、分からん。
設定なしの完全ランダムで異世界に飛ばされる可能性がある。
となると、相当危険だ。警戒した方が良い。
召喚位置や世界を設定していない訳だ。
なら俺がこの鏡の内のどれかに入れば、地球と大気が違う世界に飛ばされて、体が破裂して即死なんてのも余裕であり得る。
つまり、本のサポートなしでこの鏡を使うのは、自殺と同義。
しかし……何もしない場合、トーシュエンが問題を抱えてきた時、何も対応出来ずに詰む。
ひとまずは情報収集だけでもするか。
「まず試すのは、この鏡が今、機能しているかどうかだな。
生身で入るのは危険だし、鏡が割れない程度の物を投げてみよう」
手持ちで丁度手頃な物はあったかな?
「まぁこれで良いか」
ポケットから、さっき賭博部屋に行った時に入手したJRAのマークシート(4つ折り)とペグシルが出てきた。
これを使おう。
マークシートにペクシルを引っ掛けて、鏡に投げる。
ただどうせだし、このまま投げるんじゃなくて。
「うーんと。
2025年のガールズ競輪グランプリは3連単 1-5-3
2024年の有馬記念は単勝レガレイラになる」
マークシートの表裏に分けて、ペグシルでそんな事を書いた。
ちょっと通じる人がいたら面白いなという遊び心だ。
「よし行け!」
俺はマークシートを鏡に投げると……。
「消えた……」
マークシートは吸い込まれるように消えていった。
マジで異世界に繋がっているようだ。
そして、モニター非表示でも機能している。
これ滅茶苦茶危ないじゃねぇか。
何せ、「ランダム≒転移先で即死」だぞ?
本がゲート機能を切り忘れたのか?
いや、そもそも本は味方と決まった訳じゃない。
何か思惑があるのか?
だが、何にせよ。
「こっからどうするかだ」
恐らくランダムな異世界に鏡は繋がっていて、こちらから物を投げられる。
だが、当然繋がっている先の事は分からない。
…………これ以上は無理かな。
「一旦部屋に戻って休むか、賭博するポイントもないし」
トーシュエンが問題を持ってきたら、その時はその時と考えるしかないだろう。
……って、ん?
「待て、なんだあれ?」
帰ろうと思って、ある事に気がついた。
先程、マークシートを投げた鏡の前、そこに小さい無線の片耳イヤホンが出現している。
さっきまで無かった、よな?
怪しすぎる。早いとこ帰ろう。
「そこの男! 止まれ!」
「!?」
今、イヤホンから声が聞こえたか?
本とは、また違う屋敷の関係者が居たのか?
「異世界から私の屋敷にマークシートを送りつけたのは、お前で間違えないな?」
「え?」
待て待て、異世界人!? 嘘だろ!?
完全ランダムだから、そもそも生き物の居る所に落ちる可能性すら低い。
なのに、言葉の通じる人間の元にあれが転移されちゃったの!?
やばっ! 異世界人来ちゃったよ!
トーシュエンじゃなくて、俺の方が火種持ち込んだか!?
……いいや慌てるな。
来てるのはイヤホンだけ。イヤホンを鏡に戻せばまだ。
「拾って鏡にイヤホンを戻そうとしても、無駄だぞ。
私の意志でイヤホンにはバリアを張れるからな」
読まれてるか、まずいな。
「そう警戒するな。取って食おうという訳ではない」
厳かな声だ。というか、女の声だな。
声だけでは判断出来ないが、恐らく大人の女性だろう。
「まぁ、聞け。
お前に害を成そうという訳ではない。
取引がしたいのだ」
「取引だと?」
俺なんかと異世界人が取引?
「私は14歳の時に起きた出来事がきっかけで、かれこれ20年間、次元にまつわる研究を続けているのだ」
年上か。って、そこはどうでも良い。
「その研究成果からマークシート1つで、お前の居る世界まで突き止める事が出来た。
更には、見ての通りイヤホンを飛ばす事にも成功している。
ここまでは良いか?」
マジか。研究成果でだと? この女性、何者だ?
34歳という事は神ではなさそうだが、相当な上位存在と見た。
「あぁ、大丈夫だ」
「私がここまでした目的は1つ。
更なる研究の為だ。
私はあらゆる次元の情報を集めているが、貴様が飛ばしたマークシート。
あれが存在する次元は、これまでに見たことがない」
そりゃそうだ。世界の狭間のここ専用のマークシートだからな。
「そして、書かれている内容も初めて見た」
ん? そりゃレガレイラが勝ったりするのも知らなかったって事か?
という事は、日本語を喋っているように聞こえるが、日本とは遠い世界の住人なのかな。
「調べていく内に貴様の今いる空間が特殊な場という事が分かった。
加えて貴様自身が、私の知らない次元の知識を持っているという事も。
だから、研究の為に今いる空間に同行させてくれないか?
その空間に関する情報が研究の為に欲しいのだ。
貴様はイヤホンを持っているだけで良い」
うーん。いきなりそんな事言われてもな。
「何が目的なんだ?」
「次元を研究し、定まった運命を覆す事。
それが人生を賭した私の目的だ」
「はぁ……」
ふわっとした回答だな。あんまり答える気はないのか?
「無論、これは取引だ。
お前、マークシートから察するに賭博好きだろう?
私なら、超高性能AI予想ができるぞ。
試しに私のアンドロイドに使わせてみたが、1000回やって回収率350%だ」
「すごっ!?」
1000回も遊んで元手の3.5倍!?
本当ならかなり信用できるぞ?
「それに今いる空間に謎が有れば、私が解くのに協力してやろう。
付きっきりとは行かんが、そのイヤホンの内側にあるランプが青く光っている時は、応答しよう。
それが、私が差し出す対価だ。
お前はイヤホンを耳に着けるだけでいいのだから楽だろう?」
「このイヤホンのエネルギーは?」
「空気だ。そのイヤホンが切れる事はまずない。
私との会話を切りたい時は、外側のボタンを押せ」
「さすが異世界。なんでもアリだな……」
でも、そういう事なら断る理由はない。
なにせギャンブルで勝てる上、屋敷の探索が進むなんて良い事しかない!
まぁ、相手の目的が見えないのは不安だがな。
「そういう事なら協力はさせてもらう。
俺の名前は、イーフェ。あんたは?」
「私か? 私は」
そこで、出てきたのは俺の予想していない名前だった。
「ロウリィ、ロウリィ・ゴースという」
「はああああ!?」
嘘だろ!?
待て待て、別人か?
「アークスのゴース家のロウリィ・ゴースじゃないよな?」
「なっ! 知っているのか!?」
「ひょっとして、さっき言っていた定まった運命を覆す為の研究とは、ニトス・ジークフリードの為のものか!?」
「ジークを知っているだと!? 貴様何者だ!」
えええええ!? マジかよ!
2006年の名作フリーゲーム「B.B.ライダー」のヒロイン ロウリィ!?
しかも、情報から察するに、本編のEDから20年は経った世界から話しかけて来てる。
この場所の情報知りたいとか言ってたが、むしろ俺の方が色々と知りたいんだが!?
45歳のカロスとか今何やってんだ!?
ま、まぁ、それは追々聞くとして……。
「端的に話します。ロウリィさん」
「急に敬語になったな。言うてみい」
俺は元の世界のゲームで知った事。
どの程度知っているかはざっと話した。
「まさか異世界では、ジークが主役のゲームがあるとはな」
「マイナーな隠れた名作扱いですけどね」
「ふっ、あいつらしい」
「それより、そういう事なら俺も喜んで協力しますよ」
素性が分からない時、目的が見えなくて不安だったが、もはや不安要素はない。
まさか、ロウリィに協力する事になるなんて。
ゲームで言うなら、トーシュエンに関するメインミッションを進めていたつもりが、とんでもない大規模サブミッションが急に始まってしまった気分である。
「では、イヤホンを装着して今いる空間を回ってみせてくれ。
そして、そちらの現状も説明してもらおうか」
「あぁはい。
まず、今居るのは世界の狭間にある屋敷でして、トーシュエンって奴と来たんですが、そいつは今恐らく異世界に……」
俺はそうして、地下部屋を出るのであった。