イーフェと奇妙な館 作:イーフェの手記
「すまんが、今から異世界のダンジョンに潜りたくなった!
作った俺の食事はお前の夕食にしてくれ!」
俺がそう言われたのは、昼食が完成してからの事だった。
「急すぎんだろ。どうした?」
「分からないのか?
レフを仲間にしたら、もっと強いドラゴンも仲間にしたくなったんだよ!」
レフとは、仲間にしたドラゴンの名前らしい。
「次の目標はワイバーン辺りだな。
昼食を食べてる場合じゃなくなった」
らしいと言えば、らしいな……。
たく、仕方ないか。
「無茶すんなよー。
後、全く同じ内容の食事2回は嫌だから、少しはアレンジでも教えろ」
「ん? それだったら、その魚にはまず――」
と、こんな感じの流れがあり、俺はトーシュエンを見送った。
それから昼食を1人で食べ、自室に帰る事にした。
さっき取れるスキルが一通り見れなかったので、改めて確認をする為だ。
「さぁて、じっくり見ますか。
あっ、そういや」
自室にてポケットのイヤホンを取り出してみる。
内側が青く光っており、ロウリィと通信可能状態になっていた。
外側のボタンを押し、通信してみる。
「もしもし。こちらイーフェ」
『……む、お嬢。イーフェから通信が』
『あぁ応答可にしていたか!
今忙しいから切……いや、事情は話す必要があるな。
ロンド、事情を話しておけ!
私は別室に移動する!」
ロンド!?
今の渋くてカッコいい声は、40代になったロンドなのか!?
『俺は話すのが苦手なのだが』
『知ってる! 頑張れ!』
『……がんばる』
相変わらずだな、なんか。
『こちら、ロンド。初めまして、だな』
「あぁ、はい。初めまして」
『俺の事は知っていると聞いた。
なら、説明は不要だろう』
「あぁ、はい。今何をしてるかは知りませんが」
『ゴース家の使用人をしながら、画家をしている』
「えぇ!?
なれたんですか? 画家に!」
昔目指してたけど、絵が下手すぎて評価も悪かったんじゃ?
『色々あってな……また機会があれば話そう。
今は重要な話がある』
「あ、よろしくお願いします」
そういう訳でロンドの口から語られたのは、とんでもない事実だった。
実はロウリィはイヤホンを飛ばしたついでに、鏡のシステムに少し割り込んだらしい。
そして、鏡からあの部屋の様子が見えるとの事。
見えた様子によると……。
「トーシュエンがハイブリットを?」
『本当だ。ハイブリットの怨霊をつつがなく掌握した。
俺も共に見ていたから間違えない。
あの男の精神力は驚嘆に値する』
さすがといった所……だが、そんな事よりも!
「トーシュエンは、ロウリィと通信してる事が分かったんですか!?」
『そう考える他あるまい……』
いや、ありえんだろ。
確かに、増えすぎたポイントに怪しんでいる様子はあった。
だが、そうなる事は予想済み。
怪しいと考えたとて、証拠は出ないはずなのだ。
何せイヤホンを取られても、音は俺以外に聞こえない。
異世界から力を借りたと想像は出来るだろうが、証拠がない。
どうして分かった?
本がこっそり鏡の前での様子を録画していて、それを見せたのか?
でも、それならロウリィが気付きそうなものだ。
すると、どうやってロウリィまで辿り着いた?
『これはお嬢の予測だが……』
「なんです?」
『恐らく根拠のない前提を元に考えを立て、たまたま上手くいっただけとの事だ。
俺が思うに、あの男は第六感に長けている』
「根拠のない前提?
…………あ」
なんとなく分かった。
「なるほど。俺とトーシュエンの2人。
2人共が知っている2次元作品のキャラが関わっていると。
そんな前提条件を根拠もなく立てていた、としたら」
普通なら、そんな前提条件立てる訳がない。
なにせランダムな世界に飛ぶので、そもそも創作の世界に飛ぶかも怪しい。
なのに、さらにお互いに知っている作品に飛ぶ?
そんなのほぼゼロだと言って良い。
そんな、ほぼゼロの確率が起こる前提での考えなんて、論外だ。
やる訳がない。
……普通はな。
でも、トーシュエンならあり得る。
そして何より、そういう考えをしたとすると納得がいくのだ。
トーシュエンの目線から考え、今回の条件に当てはまり、かつお互いに知る2次元キャラを考えると……。
確かにロウリィが残る!
「え、えぇ?
でも、そんなに根拠無さすぎな前提条件を立てるなんて、まさか」
『俺は詳しい事は分からん。
だが、1つ言える事がある。
奴の第六感と精神力。少なくともこの2つは類稀だという事だ』
ロンドが言うなら相当なものだろうな。
『んと、じゃあそういう事にしておいて。
そもそも、なんでハイブリットが居たんですか?』
『……すまない。
話すのが苦手で話す順番を間違えてしまった。
1から話そう』
そういって、ロンドは起きたことを話し始めた。
まず、本……映像によると「ナビ」と呼ばれていたらしい本とトーシュエン。
この1人と1冊は、黄泉の国に行ったらしい。
理由はニトスの救出。まぁ、予想できる範囲だ。
そして、それに必要な死者の目を手に入れる為にハイブリットを召喚した。
ってことは、今地下にハイブリットが居る訳だな?
まぁ、それは一旦おいとこう。
で、魔物の怨霊をすべて自分の眼に移したトーシュエンは、黄泉の国に向かったらしい。
黄泉の国は、カロスすらも逃げ帰るような場所だという。
「1つ良いですか?」
『なんだろう』
「ロウリィさんの目的は、ニトスの運命を変える事じゃないんですか?
死んだ後のニトスをどうこうするのが目的なんですか?」
定まった運命を覆す事。目的はそうだと確かにそう言っていた。
という事は1200年のループを解いて、ニトスを運命を変える事が目的のはずだ。
黄泉の国でニトスを救ったとて、運命は何も変わらない。それに何の意味がある?
『黄泉の国など知らぬ頃はそうだった。
しかし……今は黄泉の国を知り、お嬢も揺れているのだ。
信念と、思いの狭間で』
「……なるほど」
ニトスの為、人生を賭し、彼のループを変えるという思いを持つ一方。
黄泉の国でニトスが生活している事を知り、そんな信念も投げ捨て……。
ただ会いたいと、そう思ってしまった。
多分、そんな所だろう。
だとしたら、その気持ちは間違えの訳がない。
「じゃあ、トーシュエンがニトスを連れて帰れば大丈夫ですね」
『そう簡単ではない。
お嬢の話では、黄泉の国でも真なる魔王の力が宿っているらしい。
つまり連れ帰ったとて、再び世界に黒き風が降臨するのみ……」
「なるほど。
ただトーシュエンも無策じゃないでしょう」
何かしら考えがあって、そこまで行ってるはずだ。
『……俺もそう思う』
「ロンドさんもですか?」
『あぁ……』
そういって、ロンドは黙り込んでしまった。
説明を終えたからだろうか。
『お嬢は』
「うわ、びっくりした。なんですか?」
『お嬢は近いうちにその屋敷にたどり着くかもしれん』
「えっと?」
『俺の考えでは、ニトスの救出は成功する。
すると、お嬢は何が何でもそこに行こうとするはずだ……」
まぁ、それはそうだろうな。
『まだ、生物をそちらに飛ばす為の装置は出来ていないようだ……。
しかし、近いうちに恐らく」
やるに違いない。なにせあのロウリィ・ゴースなのだから。
『そして、俺個人としてもその屋敷には興味がある』
「え、ロンドさんもですか?」
『正確には、トーシュエンにだ。
俺が唯一認めた男、ダブルガンズ・オブ・シルバに近いものを感じる』
シルバに? まぁ戦い好きなところは近そうだな。
「なら、ロンドさんも屋敷に?」
『いや、俺は画家の仕事と家庭があるので……』
「家庭!?」
結婚してんの!?
いや今40代な上、ロンドのスペックだしむしろしてない方がおかしいけど! 相手誰!?
フラグ立ってるなんかキャラいた!?
女装姿に興奮してたカロスくらいしか、思いつかねぇよ!
「意外か?」
「いや意外じゃないですけど。また聞きたいです」
『時がきたらな。ともかく、俺はその屋敷には行けない。
だが様子は気になる。
お嬢が屋敷に行くことになったら、イヤホンで通信させてもらう。
今の物はお嬢用だが、俺用の物も送ってもらう事にする』
「あーなるほど。分りました」
ロンドと通信出来て、ロウリィが来てくれるのか~。
いや、助かるな~。
……え、ロウリィと配置逆の方が良くね?
「む、お嬢の手伝いに呼ばれた。俺はここまでだ。
では、機会があればまた話そう」
そう言って、通話は切れた。
うーん、いずれロンドとコンビを組む未来も見えてきたか。
面白くなりそ……なりそうか?
まぁ、今はトーシュエンが無事に帰るのを祈るだけだな。
*
「!?」
『どうしたイーフェ!? 驚きすぎて変顔になっとるぞ!』
自室にて、イヤホンを机に置いた状態で俺は某三国志ゲームの陶濬の顔グラみたいな表情で固まっていた。
嘘だろ、そんな、そんな事が!?
「ろ、ロロロ、ロウリィさん。そりゃマジですか?」
ロンドから話を聞いた後。
俺はスキル一覧などを見てから、適当にポイントでゲームを出し、寛いでいた。
こんな暢気にしているのは、どうせトーシュエンなら何とかするだろうと思っているからだ。
そして、しばらく寛いでいるとイヤホンが青く光り、ロウリィとの通信が始まったのだが……。
「いや、ロンドさんから確かに途中までは聞いてましたよ? ええ!
ハイブリットの魔物の怨霊を移したとかまではねぇ!」
まぁ、そこまでならまだやりかねないで済んだ。
だが、しかし。
「真なる魔王の力を浄化って何!? いやB.B.ライダー世界の話終わるわ!
なにしてるのアイツ!?」
もう人間やめすぎだろ!
は? どういう事? 未だに理解が追いつかんのだけど?
「後、なにそのハイブリットの様子!? 惚れすぎだろ!」
『まぁ、そう嫉むな』
「嫉んでないが!?」
やべぇ……途中まで聞いてたから、今回は驚く事はないと思ってたのに。
予想を嘲笑うかのように超えてきやがった!
『で、どうするイーフェよ。
私の存在は既に知れている。しかし、私は本、もといナビの事は警戒したい』
「まぁそうだろうな」
『分かると思うが、ジークが来た以上、私もその屋敷に行きたい。
しかし、その屋敷の情報がまだ足りん。
イーフェ、協力を頼む。再びイヤホンを――」
「いや、ニトスにイヤホンつけてもらえば良いんじゃないですか?
2人で屋敷の調査できますよ?」
明らかにその方がお互いにとっていいだろう。
「う、む。その、それもそうなのだが……。
その、久しぶりだし、あとその、年も取ったしな……」
「はぁ……」
よし、決めた。
絶対にこのイヤホンをニトスに着けさせよう。
ふふ、楽しみになってきたぜ。
「まぁ、確かに自信ないならしょうがないですね。
でも、音を俺にだけ聞こえるようにする設定は解除しても良くないですか?」
『それは確かに。もはや意味のない設定だしな。
解除するとしよう』
よし、後はニトスの耳に入れればいい。
でも、このイヤホンはカメラ付いてるんだよな。
入れようとしたら絶対バレる。後、ニトスに入れるってそもそもどうやるんだよ。
まぁひとまず。
「俺達もトーシュエン達と合流しましょうか」
『あ、あぁそうだな』
さっき映像でニトスを見たらしいのに、ロウリィは緊張している。
へへ、こりゃあ面白い。
さぁて、どうしてやるかなぁなんて思いながら、俺は自室を出た。
大方、リビングに3人居るんじゃないかと思い、向かってみる。
「おっ、来たかイーフェ!」
リビングのキッチンにトーシュエンが立っている。
片目が赤黒くなっており、明らかに尋常でない。
そして、そんなものより尋常でない奴が隣に1人。
「こいつが言ってたイーフェか」
トーシュエンよりも、10cm以上高い背丈をした筋骨隆々の金髪男。
間違えない。ニトス・ジークフリードだ。
特に間違えないと思った理由は……。
「なんで、パンツ一丁でキッチンに立ってるんですか!?」
「これしかなかったんだ!」
ほぼ裸だからである。
うん、ニトスといえば裸だからな。
そして、そんな2人から離れた椅子で座っている女性もいる。ハイブリットだ。
不機嫌そうな目でこちらを見てきている。
「ちょっとぉ。せっかく私のトーシュエンさんを見てたのに邪魔しないでくれる?」
「はぁ……」
あの、聞いてた話より惚れてそうなんですけど!?
『中々面白い事になりそうだな、イーフェ?』
余裕そうな声で俺にそう言ってくるロウリィ。
今この声は、俺以外にも聞こえる設定だがイヤホンなので普通は聞こえない。
さて……どうやってニトスと会話させようか。
トーシュエン経由でニトスに渡したら、割と自然にイヤホンをはめてもらえるか?
いや待てよ? 確かこのイヤホン、自分の意志でバリアを張れるとか言ってたな?
なら、はめようとした瞬間、バリアとかもあり得るか。
「トーシュエン! ちょっと良いか!」
「どうしたイーフェ?
まずは、あった事を話したいんだけど」
「大体聞いた! それよりもだ!」
俺はトーシュエンを引き連れて、廊下に出る。
そして、1回イヤホンの電源を切る。
「お疲れのところ悪いんだが、簡単に言おう。
このイヤホンは20年後のB.B.ライダー世界と繋がってて、今は先にロウリィが居る。
という訳で、ニトスと会話させたい」
「おぉ、良いじゃないか」
「そうなんだが、本人が久々すぎて、恥ずかしがって会話したがらない。
という訳で何とかして、ニトスにこの片耳イヤホンをはめさせてくれ!
後、このイヤホン、結界とか張って抵抗するかもしれん。
それと、ロンドの龍曲で壊れない素材で出来てるらしい。
下手すれば、結界もその位の強度があるはずだ」
「どんなイヤホンだよ! お嬢だからありえるけど!」
一旦、俺はトーシュエンにイヤホンを渡すことにした。
電源を切りはしたものの、今の会話を聞かれていた可能性はある。
さぁ、どうなるかな!