陽炎の色彩 =同級生がマリスビリーを殺すまでの話=   作:新ツキハ

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外側、もしくは内側。 =前編=

「おはよう、思ったより早く来たね。交通の便も踏まえて十時集合にしたんだけど」

 

「生粋の日本人なんでね、五分前行動どころか三十分前行動がクセなんだよ」

 

 

 数日後の郊外のキャンプ場、マリスビリーが指定した場所はそこだった。

 地元ではそこそこ有名というか、まぁバスが通ってる程度の施設である。というか他にないのでキャンプしたい人間はそこに集まる。珍しく現地集合なのは有り難いが、違和感があった。

 人がいない。

 自分とマリスビリー以外、人がいないのである。『無』である。そんなことある? ってくらい無人。マジで無人。聞こえるのは川のせせらぎと野鳥の鳴き声のみ。

 嫌な予感がする。コイツといて嫌な予感がしなかったことの方が少ない気もするが。

 

 

「あぁ、それは……大切な『話』をするわけだし、かといって人避けや盗聴対策の魔術を使うのも『やり過ぎ』だろう? キャンプ場の管理人を買収したりして貸し切ったんだ。管理人もいないよ」

 

「成金みてぇなゴリ押ししやがる! 両方『やり過ぎ』だ!!」

 

「あと、やっぱり『二人きり』がいいなって」

 

「前述がドン引きでときめく要素無いんだわ!?」

 

 

 確かに、確かに『知識』の中のマリスビリーが聖杯戦争に参加した理由は『資金不足』であり、特異点及びロストベルトの上書きが出来なかった世界線では娘に仕事放り投げて引きこもってるだのなんだの言われているらしいが。つまるところ『金の力を持ってして白紙化現象を引き起こした男』な訳であるが。

 だからといってそんな必要なさそうなことに『マネーイズパワー』しないでほしい。本当に、切実に。

 マリスビリーの斜め上な気配り……気配り? によって、どれだけの人間がキャンプ場の予約を突然キャンセルされたのだろうか。夏休みにキャンプを楽しみにしていた子供もいただろうに。

 

 

「キャンセル料は私持ちにしたし、なんなら対象者には『謝罪の気持ち』を渡すよう管理人にお願いした。もちろんこちらも私持ちだ」

 

「そういう問題じゃねーって」

 

「あと子供が可哀想だとか子供を優先する、なんて話をしても無意味だ。キミより幼い人間を連れて、キャンプに訪れる人間はいない」

 

「あっそ……」

 

 

 どの道、ここから更にキャンセルしたところで被害者たちの日程が戻りキャンプ場が賑わう訳でもない。眉間に出来た皺を揉んで伸ばしつつ、改めてマリスビリーに向き合う。

 別に、彼におかしなところはない。アウトドア向きのスポーティで無骨さもある服も似合っている。顔が良ければだいたい似合うというやつだ。クソダサ海の家Tシャツでも見た現象である。

 そっちはいい。しかし、だがしかしだ。

 

 

「なんかキャンプ用品本格的過ぎない?」

 

 

 まぁまぁ大きめのテントセット、設置された炊飯ベースとは別に用意された飯盒。あと他にも名前の知らないキャンプ用品らしきものがずらり。

 我々二人だけなんだが。他に人いないし手伝ってくれる人もいないっぽいんだが。

 

 

「どうせなら『しっかり』やった方が思い出になる。『苦労したこと』は記憶に残りやすいからね」

 

「二人だけなのに?」

 

「二人だけだから、だ。言ったろう、残る思い出にしたいんだ。私たちの中で」

 

「だからって無茶ぶりするなよキャンプ初めてだよ自分」

 

「説明書もあるし大丈夫さ」

 

 

 笑顔でテントの組み立て説明書らしきものを見せてくるマリスビリー。

 誰か助けてくれ、テントだけで死にそう。金具とか色々あるっぽいし設置出来るだろうか、ペグとかしっかり刺せるだろうか。結構好奇心旺盛なこの恐ろしいバカとキャンプ知識ゼロの自分で。

 おぉ、我に『知識』を与えたもうた何某よ。何故『記憶』はアウトドア派じゃなくインドア派だったのですか。役に立ちません。今は消しゴムのカス同然ですこの『知識』。

 

 生憎と『記憶』とは違い『スマートフォン』なんて便利なものはない。その場で調べる方法などないのだ。

 組み立て説明書と部品をにらめっこして、お互いにああでも無いこうでもない、いやそうか? と気の抜ける会話をしつつテントと戦闘を繰り広げる。丈夫さ故に重みもある骨組みだの、しっかり深くまで刺さないといけないペグだの、本当に体力を使う作業だ。

 あとやはり二人用ではないと思う。三、四人入りそうなサイズだ。狭いよりはいいかもしれないが、選ぶ時に労力を考えなかったのだろうか。

 木々や少し離れた場所にある川のお陰で少しだけ涼しいが、それらを貫通した夏の日差しでじわじわと汗が滲み出る。自分の襟元が垂れた汗で濡れたりもしつつ、作業は続行。無事テントを『設置』出来たのは、一時間を超えた先だった。

 

 

「お前……二度とこれ使おうとするなよ……初心者向けのやつにしろ…………本当に、マジで、軽口とかじゃなく」

 

「はは、そうだね。大変だった。じゃあ次は魚を釣りに行こう」

 

「は? そこにある食材は?」

 

「あれは夕食のカレー用、一応明日の分もあるかな。でも、今日のお昼ご飯は無いよ。川魚を釣って焼こう」

 

 

 体積の減ったキャンプ用品類の山の中から取り出されるは、釣竿が二本。

 

 

「お前ホント馬鹿じゃねぇの」

 

「学生は馬鹿をするものさ」

 

「実年齢考えなよ」

 

「でも、今は高校生だ。キミと同じくね」

 

 

 手渡された釣竿。またも『知識』にないものである。マニアックではないが『知識』の主の知識の偏りというか、多趣味な人間ではなかったのだろう。

 一緒に活きのいいオキアミが入ったプラスチックケースも渡された。……イソメとかゴカイじゃないからいいか。ようするに小さいエビだし、オキアミ。

 釣りとは『待つ』ものである。テクニックだのなんだのが必要かは知らないが、ようするに魚がかからなければどうしようも無いのである。

 

 

「しかもここは川だから、海釣りのように動かさなくても流れがある。流してるだけで案外釣れるらしいよ」

 

「おう、ちゃっかり『見』ながら解説ありがとうよアウトドア大はしゃぎ男」

 

 

 待っているだけ、というのは退屈で。これまたマリスビリーが用意していた折りたたみ式の椅子に座りながら浮きを見つめる。

 川のせせらぎ、水流。一定のようで一定ではないそれが、目と耳を通して知覚できる。

 

 

「キャンプの準備が済むのに時間がかかって済まなかった。キャンプ用品の準備はともかく、貸切するに当たって色々手回ししてね。そちらに時間がかかったんだ」

 

「むしろどうやったら数日で貸切できるんだよ」

 

「日本はチップや賄賂に馴染みがなかったというのもある。そこは中々大変だった。そういった文化圏の場合、ある程度まとまった金銭があれば靡きやすいからね」

 

「わぁ日本じゃ考えられねー思考、文化の違いってすげー」

 

「だから最終的にセカンドオーナーに頼んだんだ。キミの『知識』にもある遠坂家の当主にね」

 

「なんかビックネーム出てきたな」

 

 

 本当にビックネームである。

 大物というか、『記憶』内にある歴史に深く関わっている人物の一人である。いや、既に家督を継いでいるかは知らないので、『遠坂時臣』の親にあたる魔術師かもしれないが。

 

 

「継いでいるよ、遠坂時臣氏がセカンドオーナーを務めている」

 

「そッスか……」

 

「この地で魔術がどれほど使えるか実験したい、みたいな話を少々ね。色々制限をかけられたが、ただ人気のない場所で『実験』するよりはあらかじめ人払い出来る方がいいだろう、と丸め込むことが出来たよ」

 

「哀れだ……」

 

「元より、約十年後に行うことになるだろう聖杯戦争の下見として訪れる事を許して貰えた前例もある。『あちらが理屈を飲む』なら、余程の無茶ぶりでもなければ通るだろう」

 

「本当に哀れだ……」

 

 

 聖杯戦争の下見うんぬんはともかく、仮にも時計塔の君主(ロード)を無下にも出来ず、読心術モドキと共に上手いこと狙った通りに話を進められただろう遠坂時臣氏が哀れだ。本当に。何遍でも言うが。

 仮にマリスビリーの体質がなかったとしても、年季の違いや遠坂家特有の『うっかり』で似たようなことにはなっていたかもしれない。

 ……あぁ、しかし。マリスビリーの体質がなかった場合、というのは。

 

 

「私とキミがこうして釣りをしていることもなかっただろうね」

 

「そうだな。その『体質』がなければ、おそらくお前は今の思想にならず、夢も持たない」

 

「それでも『人理保障』を成そうとする。しかし、白紙化現象が起こるかどうかは分からない。それはつまり、キミが生まれないことを意味する」

 

「一つ取ったら全部崩れるジェンガの上に立ってんな、自分」

 

 

 はぁ、と自分の立ち位置を確認しながらため息を吐く。

 くい、と竿がしなり、魚がかかった。

 

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