陽炎の色彩 =同級生がマリスビリーを殺すまでの話=   作:新ツキハ

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外側、もしくは内側。 =中編=

 くだらない雑談を挟みつつも、腹を満たせるだろう程度には釣る事が出来た。「これは……アユかな? それともイワナ?」などと純日本人を差し置いて魚を判別している男がいたが、魚なんぞ別に毒さえなきゃ良いと自分は思う。

 そんなマリスビリーはわざわざ焚き火スペースで焚き火を用意し、串を刺して塩焼きを開始。荷物が多いだけあって様々なものが次々出てくる。不安で荷物が増えるタイプではなく、やりたいこと多くて荷物が増えるタイプだ。

 海水浴は金銭以外手ぶらだったのに差があるやつである。

 

 そして、焼けた魚にかぶりつく。シンプルな塩焼きだが、文句無しに美味い。ふわりとこうばしい香りが鼻腔に届き、嗅覚も楽しませてくる。これはいいものだ。

 

 

「準備が大変だったからね、その分おいしいだろう」

 

「体育教師の根性論みたいだ、それは否定させろ」

 

「いわゆる『悪い記憶』と『良い記憶』を結びつけ、忘れにくくする試みというだけだよ。十年もすれば笑い話さ」

 

「それ後輩とかに話したら苦笑いされるやつだろ『昔なぁ』って必要ない苦労話聞くヤツいねーから」

 

「何故誰かと話すことを前提に考えている? 私とキミで話すんだよ」

 

「……あっそぉ。呑気だね」

 

 

 昼食後は休憩だ。

 ようやくまともな休憩だ、ずっと休んでいたいまである。釣りも待ち時間が長く、座ってこそいたが魚を逃さないように気を配る必要はあった。

 そして自分は今、マリスビリーが用意したハンモックに揺られている。昼食の片付けが終わり、その辺に座っていたらいつの間にか用意されていた。

 お前ホントどれくらいキャンプ用品とかアウトドア用品持ってきたんだ? 手品みたいに次々出てくるな?

 楽しみにし過ぎだろ。本当に『命令』がメインのキャンプか? 普通にキャンプしに来てないか?

 

 

「どうせなら楽しむべきだ。何度でも言うけれど、思い出になるようなキャンプにしたいからね」

 

「お前の分はねーの?」

 

「これは購入したものなんだけど、店舗に在庫がこれしかなくてね。私は次の準備をするからキミは休んでいてくれ」

 

「シレッと『次の準備』とかいう恐ろしい単語出すな」

 

 

 ハンモックに揺られる自分から離れ、マリスビリーは『準備』を始める。

 ……このキャンプは一泊二日の予定のはずだが、まさかその期間でアウトドアを全てコンプリートでもする気かアイツは。予定をギチギチに組まれている気がする。

 心配というか不安が脳で踊っているが、心地よい揺らぎと満腹感でウトウトと瞼が重たくなる。とはいえ、だいぶ無茶ぶりなヤツだと言うのはこの半月程で思い知っている。文句を言った所でどうにもならないだろう。今は、ただ心地よい微睡みの中にいよう。

 ──そして、三十分程してから起こされた時。爽やかな笑顔で「虫取りをしよう」と虫取り網に虫かごという虫取り少年のような装備を差し出してきたマリスビリーを目にすることになった。

 「カブトムシやクワガタ目当てなら夜のほうがいい、夜行性のはず」、と。行き場のないアドバイスのようなものが口から出たが、無論それで止まるはずもない。

 キャンプ場の一部ではあるが、少しばかり鬱蒼とした森の中に足を踏み入れる。

 

 疲れた。

 数時間虫取りもして、飯盒で米を炊いたことのない男とカレーも作って、疲れた。

 休憩もしたはずなのに休んだ気がしない。何故だろう。多分マリスビリーが虫を深追いするのを追いかけたり、明らかに毒虫といった色味の虫を素手でいこうとするのを止めたり、飯盒を持ってきた本人の癖に「よろしくね」と押し付けてきたり、「カレーには隠し味を入れると良いらしいね、全部入れてみないかい?」と隠し味全盛りカレーを作ろうとしたからかもしれない。

 おかしい、アイツは若作りしているだけで自分よりずっと年上のはずなんだが。『知識』だと2004年頃には既に子供がいる、五十歳は越えてるんじゃないかと推測されている男なんだが。『現在』に合わせればざっと三十歳以上である。

 確かクリプターなる者たちのリーダーがマリスビリーの弟子で、その弟子は結構はっちゃけるタイプらしい。つまり師弟は似るというか師弟は似ていたとでもいうのか。

 おふざけというか、はっちゃけるというか、お茶目なタイプというか。「いやそれはない」と『記憶』が言っているが、こちとら経験者である。マリスビリーが自分に隠す必要があることなど無いに等しいのだ、元より『計画』がバレているからと結構赤裸々である。そんな芝居を打つ必要もないのだから、『楽しむ』ために行動する彼はあんなものなのだろう。

 

 

「お疲れ様、カレー美味しかったよ」

 

「下の方は焦げたしお前がさりげなく入れた角切りのリンゴ出てきた時はどうしてくれようかと思ったけどな」

 

「一つだけでも入れてみたかったからね」

 

「せめて擦りおろしてくれ。あれただのカレー風味の柔らかいリンゴだったぞ」

 

「あぁ、だからあまりおいしくなかったのか」

 

 

 そういうところだぞ、と冷ややかに見るがダメージを受けているようには見えない。メンタルも強いし行動力もあるし実力も伴うしこいつを止められる人間はいないのか。

 『記憶』の中の『マリスビリー・アニムスフィア』は、やることやるだけやって勝ち逃げのように自殺したらしい。犯人がいない事による完全犯罪だのなんだの言われたらしいが、問題はそこではない。マリスビリーの『計画』を防いだ人々はいたが、マリスビリー『本人』を止めた実績のある人間はいないらしい。

 今、自分の前にいるのは『マリスビリー・アニムスフィア』という人間だ。彼の『計画』ではない。

 『記憶』の中の彼のスペースは小さい。他のサーヴァントなる存在や、カルデアなる施設の職員だとか。他の魔術だのなんだのに関わる話の方が彼より大きなスペースを使っている。そう考えれば、意外にも自分の方が『プライベート』の彼に関しては詳しいのだろうか? だいぶしょーもない情報が多い気がするが。

 

 夕食の片付けも終わり、再び火のついた焚き火を囲む。ご丁寧にホットココアを用意し、マシュマロまで渡してきた。可愛らしいハート型の。本当にキャンプをエンジョイしている。むしろ楽しみすぎだろ。

 少しだけ頭が痛くなりつつ、渡されたココアに口を付ける。夏にホットココアとは、などと思いもしたが、案外悪くない。息を吹きかけて、温度を下げた。

 

 

「じゃあ、『話そう』か」

 

 

 ぴたり、と。再びマグカップに口付けようとした動きが止まる。

 マリスビリーは真っ直ぐに、ただただ真っ直ぐに、自分のマグカップをミニテーブルに置いて。いつも通りの微笑みのまま、こちらを見つめている。

 

 

「そうだな、『話す』か」

 

 

 倣うように、自分もマグカップを置いた。

 倣うようにとはいうが、マリスビリーがそうしたから合わせたわけでもない。手に何か持っていると、自分でもどう動くかわからなかった。ましてや熱々の液体だ。危ない物は持たない方がいい。

 

 

「話す──と言ってもどこから話せばいいのかね。『質問』してくれないか、自分じゃイマイチ……踏ん切りがつかない」

 

「キミがそれでいいなら、私も構わない。ちょうど、『随分前にしたけれど答えをもらえなかった』質問がある」

 

 

 なんてことないことのように。

 『いつも』のように。人の精神を逆撫でして、触れられたくないギリギリを迫るように、頼んでもいないのに勝手に『見て』、それに返答するように、くだらない『遊び』を提案する時のように、思いつきに付き合わせるような何かを言い出す時のように。

 そんな、あくまで『いつも』のような姿のままで、彼は『質問』を口にした。

 

 

「──『キミ』の名前を、教えてくれ」

 

 

 息を、吸い込む。

 理解していた。その上で目を逸らし続けた。それらの事象を、自分で認め、受け入れて。整理するために、口に出す。

 とても簡単な、その答えを。

 

 

「────名前は、ない」

 

 

 パチリ、パチリ。焚き火が小さく弾ける。

 ゆらゆらと空を舞って、消えていくそれは蛍にも似ている。

 

 

「自分は生まれてひと月足らずで、『ベース』だった人間は死んだことも知られていない。自分自身はマリスビリー以外には『認知』もされていない。──既に『マリスビリーの隣の席のクラスメイト』ではなくなった、誰でもない『誰か』だよ」

 

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