転生先は‘地球’でしたがダンジョンがあるファンタジーアースでした!?   作:狭霧 蓮

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幼少期
0.死出の微睡で(プロローグ)


 頬に当たる冷たい雨、それに打たれながら意識が遠のく。烙印を押し付けられる様な、熱く激しい痛み。腹部からじんわりと抜けていく血潮の感覚……なんで私が、と世界を呪って逆流してきたであろう血と共に呪詛を吐く。

 その日、東京の新宿で大規模な殺傷事件が発生した。曰く、お前たちはのうのうと生きているだけに過ぎない人間なんだとか言われて腹を2度ほど刺された。突然ぶつかってきた人の顔は血走った目をしてて……視界の端で赤い傘が宙を舞うのが見えた。

 それが私の傘だと理解するよりも前に、熱さを感じた時にはもう手遅れだった。

 綺麗に肝臓と脾臓あたり、ご丁寧に肋骨を避けて突き刺された私はその場に倒れ伏した。冷たい雨に濡れるせいで体温が逃げて……走馬灯が脳裏に浮かぶ。

 決して不幸だとは言えないけど、割と平凡で平和な人生を過ごした。独り娘だからと花や蝶よと大事に育ててくれた両親の。一緒に料理を作って笑い合った母の笑顔や成人式の振袖姿に泣く父の姿が脳裏に浮かんでは消える。

 中学、高校時代から10年間付き合って、やっとお互いに素直になれたあの人と籍を入れる約束だってしていたのに……これで、終わりなのか。死は平等に訪れるものだから仕方ないよね……そう納得した──そんなの、できるわけがない! ──いやだ、死にたくない! 

 

「どうして、私が……」

 

 喉の奥から生暖かい感覚が競り上がってくる。拒絶するように吐き出したそれは口元を伝って、地に降りて行く。胃酸が混じってヒリヒリするはずなのに、味も何もわからないが、吐血したのだろう。体内の血管が派手に裂かれたのだから、逃げ場を失った血が口から出たはずで。

 

「新世界の贄に選ばれたんだ、お前は幸せ者だ」

「ふざけな……ふざけろ……っ!」

 

 もっと親孝行だってしたいのに彼と一緒に、暖かな家庭を築いて孫を見せるって約束したのに。嗚呼、無情かな。視界が霞む中で聴覚がとらえる阿鼻叫喚。周りは混乱に陥っているのだろう……私以外に犠牲者が何人いるのかはわからない、ただ、彼らの周りを徘徊する通り魔のせいで救急隊員も近付けず、警官隊が下手人を引き倒すまで私は……そのまま死に至った。

 

 西暦19XX年12月25日に起きた東京新宿区通り魔事件。後世においても最も最悪な事件と呼ばれるそれは犠牲者10名、重傷を含む怪我人15人をごく短時間の20分で出した最悪最速の事件と言われる。

 犯人確保までかかった時間は3時間……自分の殺したものたちの周りを念入りに徘徊して、警官隊の出動が要請される事態となるほどの。元レンジャー部隊所属の元自衛官が起こした事件と語られた。

 

 ▶︎ー死出の微睡で(プロローグ)ー◀︎

 

 死んだと、鮮明に思い出す腹の焼け付くような痛みの感覚。お腹をさすろうとして手を動かした気がしたが、それは空振りに終わる。はて、なんでお腹をさすれないんだ? と言うか、死んだのに。何故私の意志がこんなにはっきりしてるんだろうか? 

 

「それはな、お主が不憫だったからじゃよ」

 

 そういえば贄に選ばれたとかあの男が言ってたよーな、って誰!? ナチュラルに思考読まないでくださいますか!? いや、このシュチュエーションだと大体お約束で何番煎じか分からない展開だと思いますけど! 

 

「おお、すまんすまん。魂だけだと見えんものな、暫し待つのじゃぞ」

 

 あ、視覚を与えて下さるんですか? 正直助かります、と。すぐに見えるんですなこれって。五感の内視覚だけ戻ってきたのかな? 

 

「素直なことは良いことじゃぞ。潔いのものぉ」

「んんん、あー。あー声も出せるようにしてくださったんですね」

「お主の思念を読めるが、それだと味気なかろう?」

 

 声帯がある、と言うより。仮初の器に降ろされた感覚なのかなこれ? 声の主の女の子を探すと目の前には額に仰々しい太陽を象ったような冠を戴いた青い髪のロリっ子が。思考読めるからド失礼ですかね? 

 

「分かっておるではないか、大いに不敬ぞな?」

「も、申し訳ありません。無神教者ですが故に多少、大目に見てくださいませんか?」

「仕方ないの。ワシも鬼ではないからな、一度は赦そう」

「で、えーと。先ほど、なんか失礼な言葉が聞こえたんですよ。不憫ってどう言う事でしょうか?」

「うむ。よく聞くが良いぞ?」

 

 青髪を揺らしながらたいそう愉快そうな面持ち。と言うか直視したらヤバい、可愛すぎるんだ。くっきりぱっちりした二重瞼と、そこに納まる輝くような金の双眸。そのくせ目尻は優しそうに垂れているおっとり系の美幼女。

 トランジスタグラマーな、ぼんきゅぼんなBWH。まさに人離れした理想を詰め込んだような偶像をお待ちだ。SAN値直葬レベルの美貌なのでほんと直視できない! 

 

「人の顔を見て話せぬのかお主」

「常時発狂させるおつもりですか? 人の子には耐えれません、女神様の美貌を直視するのは!」

「む、それはそうか。お主らのいうAPP値で表すなら24じゃもんな」

「人ならざるもの確定じゃないですかヤダー」

「これ、失礼なことを申すな! 元はと言えばお主のイメージが充てられてこうなっとるんじゃぞ!?」

 

 ぷりぷりと愛らしく怒るろり女神様。え、私のイメージのせいってマ? 

 

「おのれオタク文化。擬人化とかその辺の想像力(イメージ)のせいでこんな辱めを受けることになるとは思わなんだ。日の本の八百万の神を束ねとるんだぞ一応、我は偉いんじゃぞ?!」

「どうどう、女神様。それはそれとして説明プリーズ、脱線が過ぎますよ?」

「おい諸悪の根源。もうちょっと反省せよ、真面目に。あと我は天照大御神という名があるのじゃがな」

「フリー素材の天照大御神様でしたか」

「やめよ、フリー素材扱いはやめよ! 本当に消滅させるぞ、いい加減にせねば」

 

 無言で五体投地。できてるのかは分からないが、いい加減にしないと真面目にヤりそうな雰囲気になってきたので自重しよう。死んでから深夜テンションになってるのか分からないが、なんか落ち着かない。

 にしても日本神話において最高神と名高い神格の御方とは、流石にやべーことしすぎたかも。やべ、体ないのに震えてきた。

 

「そう震えるでない、悪餓鬼の悪戯など水に流すのが大人というものじゃ」

「有り難き幸せ」

「普通に喋らんか、と言えど。お主も気がついておるかは分からんが死後故の夢見心地もそろそろ覚めよう? 黄泉路を通り抜けたのだから、狂気に取り憑かれるのも然もありなんよ。反省しておるのであらばこれ以上詰めることもせぬ、保証しよう」

 

 とりあえず反省のお口チャック。狂気に飲まれて深夜テンションになるとは、それはそれでどうなのかとも思うけど天照大御神様の言葉を素直に頂くとしますか。

 

「うむ。さて、散々話の腰を折ったことについては不問とするが。不憫というその言葉の意味を説明しておこうかのぉ。お主はなぜ殺されたか、その心当たりは?」

「はい、皆無ですね。あのクソ野郎」

「狂気に呑まれた人の子の凶行というのは度し難いモノぞ。要は、異界の悪鬼羅刹に唆されての凶行よ」

「まさか、悪魔の贄か儀式ですか? そんなクソしょうもないオカルトに付き合わされて死んだんですか、私は」

 

 流石に笑って流せる動機じゃないぞと荒ぶる魂を鎮めながら、落ち着け私。Be Cool、Be Cool、だ。

 

「そんなちゃちな物ではないぞよ? 要は異世界の邪神が贄を求め、洗脳された憐れな人の子の起こした事案なのじゃよ」

「えっ、じゃあ私が死んだのは単純に寿命と言うことですか?」

 

 寿命ならば諦めるしかない。でも、天照様の言う不憫と言う言葉がどうにも引っかかる。

 

「寿命で死んだので有れば、我がこうも介入せぬよ。お主は本来幸せに大往生。正確には110歳くらいまで元気に生きておる予定だったわけだが」

「なっ、そんな長生きできる予定だったんですか!?」

「うむ。子も孫も結構生まれる予定の帳尻が狂ってしまうくらいに、此度はえげつない影響が出てある」

「あー、だから天照大御神様が君臨なされる状況に?」

 

 本来長生きできる筈の私が予定外に死んで、連なる子孫たちが生まれなかったことになると言うことだし、そりゃぁ大変なことに。

 

「似たようなものじゃな。寿命を横取りするために異界の悪鬼が事を起こさせたともいうべきか。なんにせよ、溢れた人の子の魂で唯一取り戻せたのはお主じゃ」

「わ、ラッキーですね。じゃあこのまま蘇生してくださるんですか? 予定外にの死だったんですよね?」

「すまぬがそれは無理じゃ。すでに配下の者たちが帳尻を合わせて調整を終わらせておるからな」

 

 無慈悲な通達をありがとうございます、有能な配下の方々ですねぇ。やりますねぇ!! 

 

「……アンラッキー! ふ○っく!」

「本音と建前が沸点突破したせいで反転しとるぞ。いい加減処す、処すぞ?」

「図に乗りました申し訳ございません」

 

 くっ、これも全てあのクソヤロウのせいだ。黄泉路を通り抜ける際の汚染のせいでこうなってるんだ。ステロイドかな、狂気って? 

 

「お主の言い分も分かるが、このまま蘇生は無理でな。葬式も終わって49日も過ぎておるし、肉体はすでに遺灰になっておる。入れ物がなければ降ろしてやることも出来ん」

「それはそうですけど。なら、私はどうすれば良いのですか? はっ、まさかその寿命の分だけ天国で過ごす事になるんじゃ」

「話が早いの。うむ、提案としては無間地獄の天国で83年くらい過ごしてもらってそこから漸く輪廻の処理に入れる」

「ちょっと待ってください、無間地獄の天国ってなんてパワーワードですかそれ、流石にジョークですよね、ゴッドジョーク的な?」

 

 そんな夢のないパワーワードは聴きとうない! と耳を塞ぐが、無慈悲なお言葉を頂くことになる。

 

「なぜ我にこの場面で冗談を抜かす理由がある。俗に言う地獄などと言うものはこの世に無いのだがな、そもそも人の子たちの創作話よ。その上で天国とは、極楽とは延々と娯楽もなく天道様の光に当たって身も心も真っさらになるまで浄化する場所ぞ?」

「え、じゃあ徳を積む意味ってなんなんですか!?」

「次の輪廻が多少速くなる程度じゃ」

「なんて理不尽! いい事するのってあんまり効率よくないんですね!」

 

 天照様もこれには苦笑を返してくれる。違うそうじゃない、労って! 慈しみの微笑をください、発狂しそうなんで見れませんけど! 

 

「のぅ、お主の方が理不尽じゃと思うんじゃが気のせいかの?」

「多分気のせいだと思います。メイビー、きっと、多分」

「まぁよい。して、このままあの世に送るぞ」

「ちょ、ちょーい!? いやほんとに無慈悲ィ!?」

 

 いや、この流れはアレですよね? その、アレじゃないんですか!? チート的な何かを得て転生するとか!! 

 

「なんじゃ、お主異世界転生したいのじゃ?」

「できればそうさせて頂きたいです!」

「欲望に忠実じゃのぉ」

 

 呆れ眼で天照様はこちらを見つめてるが、無間地獄にレディゴー! といわれてはいそうですか、喜んでとはならないと思うんです。多分、きっと、メイジェイ。

 

「お主のような物好きはおらなんて。あい分かった、お主を特別に輪廻に組み込んでやろう。余剰の寿命である83年を糧にランダムビルドでお主に次の生を授けてやろうではないか」

「言ってみるもんですね?」

「まぁ一応、提案する前にお主がフライングしただけじゃからな?」

「ところで、次の輪廻の先ってどこになるんですか?」

 

 一応聞こう、聞いておきたい。ネタバレプリーズ! 

 

「同じ日ノ本じゃ。まぁどんな日ノ本かは我も知らぬ」

「ランダムな日本に転生ですねわかりました!」

「与えられるのはこれじゃな、出てこいピックアップ!」

 

 カッ! と光ってそこに出現したのは……! 

 

「福引のガラガラが出てきたんですが?」

「うむ、お主の余剰の寿命をこれにぶち込んでランダムにアビリティを獲得できるガラガラのアビリティ福引じゃ」

「一気に俗っぽくなったんですが?」

 

 福引のアレこと新井式廻轉抽籤器(あらいしきかいてんちゅうせんき)だった。なんだなんだとみているとそこには「83」の文字が。この回数、抽選できると言う事だろうか? 

 

「言うな、言うでない。お主の記憶から抽出した最適なもので簡単なのがこれじゃっただけじゃし、ソシャゲのガチャは悪い文明なんじゃろ?」

「あ、え、はい。ワルイブンメイデス」

「お察しの通りこれを83回抽選してもらうのじゃ」

「1年につき1回ってことですか、その心は?」

「人の子はいくらでも成長できるからの。老いてなお、才能を磨きその先に行く猛者も稀有ではあれ居ることに違いなし。それを可能性の獣(ニンゲン)というのじゃ」

 

 いい言葉な気もするが適当咬ましてるのかもしれない。よくわからないと言う事でヨシ! 私はむんずと取っ手を掴み、ドワォと回す。ガラガラと中で戯れる玉のこすれ合う音と共に過去の、前世の記憶が薄れていく気がする。

 

「そりゃ、新生する以上、元の家族との思い出も色褪せるものじゃ。無情と言うなれ、それが摂理よ」

「ははぁ、そういうモノでしょうね。神からすれば」

 

 ぽとり、ぽとりと受け皿に色取り取りの玉が零れ落ち。その色彩を無意識に楽しんでる私がいる。ちらほら視界の端でキラリと何度か光ったような? 

 

「そこまでじゃな」

「無心で回しましたが結果や如何に?」

「金、特級5つ。銀、1級10の。銅、2級20。赤、3級20。青、4級28とな」

「順当な数字ですか?」

「まぁそうじゃな。いい感じに順当なのじゃろう」

「その能力詳細はどうなるんでしょうか!?」

 

 気になって昼も眠れない、というテンションに天照様はどうどうと。

 

「その辺は後でキッチリ知らせてやる。我も暇ではないからの」

「そ、そうでした」

「うむ、さて忘れ物はなかろう。いよいよ先立ってもらおうかの」

 

 意識が溶け消えるように視界が暗転していく。ああ、始まった。私が消えていく感覚、抗えない睡魔。

 

「次の生はほう? なんとも、苦労する星に生まれそうだな」

 

 その不吉な言葉を最後に、天照様の声はぶつりと途切れ。私は暗黒に染まった視界の中を漂うように、意識を。その魂は活動を終えた。

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